96 / 160
第六章 ギルド
第十六話 説明準備
しおりを挟むギルドはうまく回っているが、うまく回り始めているから、新しい問題が出始めている。子供やメンバーが狙われ始めている。
ナッセの話し方から、理解したことだ。
ナッセが目配せをする。
「そうか、それで、監視しているのだな?」
そこまでヒントを貰えれば、さすがに判るだろう。
それに、”監視”対象は、中に居る者たちではないだろう。ミルが、ギルドのメンバーと話をして、問題が無いと判明したら、監視している視線が弱まった。
「気が付きましたか?」
「入口やギルドに近づく者たちを監視しているのだな?」
テーブルの上に置かれている飲み物に手を伸ばす。
少しだけ冷めているが、コーヒーのような味わいだ。誰かが・・・。サリーカあたりが持ってきたのか?
「そうです」
「解りやすすぎないか?”監視しています”と言っているような感じだぞ?」
ミルが解るだけじゃなくて、ミアも何かを感じていたからな。
ミアを見ると、ミルと俺とナッセの顔を順番に見て何かを考えている。
「現状では、他に方法がないので・・・」
方法がない?
そうか、ギルドには貴族の息がかかった者だけではなく、ナッセの・・・。タシアナの妹や弟も居るのだったな。それだと、攻勢に出られないのだろう。人質に取られることも考えられるし、もっと言えば見せしめに殺されてしまってもおかしくない。
「そうか、孤児たちも、ここに来ているのだったな。全員、無事なのか?」
「おかげ様で、大丈夫です。外に出るときには、誰かが一緒に行くようにしていますが・・・」
無事ならよかった。
でも、合流させないで、孤児は孤児として園に居たら、それは、それで、また問題になっていたのだろう。
「そうだな。このままでは”ジリ貧”だな」
「はい。皆と話し合っては居るのですが・・・。相手の方が、組織が大きいので・・・」
結論は出ないだろう。
孤児たちは、増えることはあるだろうが、現状では減っていく未来は見えない。ナッセが受け入れを拒否すればいいのだろうけど、それは考えられない事象だ。
ナッセが、”相手”と表現しているが、明確な”敵”として認識をしているのだろう。
まだ成人の儀であるパシリカを受けたばかりの立花たちが組織の中心だとは考えにくいが、ナッセの後ろに、ローザスやハーコムレイの姿が見えている状態では、宰相派閥の奴らがギルドを注視するのは避けられない。どんな組織なのか、測りかねている所があるだろうが、立花たちが台頭したら、風向きが変わるのだろう。
「組織?あぁ宰相派と神殿の大半が向こう側か?」
「そうです。宰相派閥の分断工作はしているのですが、効果が出るか・・・」
「下手につついて、団結されたら、意味がないからな」
ナッセが頷いて、自分のカップを持ち上げて、コーヒーもどきを喉に流し込む。
「そうか・・・」
俺が話を続けようとしたら、ミルが立ち上がって、俺の話を遮る。
「あっリン!僕、皆に挨拶してくる。ね。ミアも紹介してくる」
ミアを見ると、少しだけ眠そうにしている。話が面白くないのか?それとも、安心して眠くなってしまったのか?
「そうだな。ナッセ。いいよな?」
「はい。皆が揃っていると思います。本日は、もう少ししたら、ハーコムレイ殿が、状況確認にいらっしゃると思います」
「ハーコムレイが来るのか・・・。丁度いいな」
「え?」
「なんでもない。ミル。俺やマヤのことを含めて、簡単に話してほしい」
ミルが俺を見つめる。
意味が解ったのだろう、ミルが納得して頷いてくれる。
「わかった。ミア。レオ。行くよ」
話に加わっていなかった、ミルがミアとレオを連れて部屋から出ていく、礼儀としてなのか、ナッセ・ブラウンに深々と頭を下げてから扉を閉めた。
「さて、リン君。何か、提案があるのだろう?」
「え?」
「ハハハ。君は、うまく表情を隠していたけど、ミトナルさんは、ダメだね。必死に隠しているのが表情から読み取れてしまっているよ」
「・・・。そうですか・・・」
ナッセ・ブラウンが、しっかりと俺の方を向いてくれる。
「まず、お聞きしたいのですが、”マガラ渓谷”は、この国や貴族に取って何か意味がある場所なのですか?」
「マガラ渓谷?あの?渓谷?」
「”あの”が、何を指すのか解りませんが、アゾレムの領地と王家直轄領の間にある渓谷で、アロイとメロナで経由していく渓谷です」
「あぁ当初は、共和国との国境になっていた渓谷だな。何代か前に、王国が奪った形になる」
「渓谷の調査は、行われなかったのか?」
「行われたが、何も見つけられなかった。はずだ。そのあとで、アゾレムや宰相派閥の下級貴族に領地として分割された」
「そうですか、何も見つけられなかったのですね?」
「あぁだから、アゾレムに与えられて、マガラ渓谷の関所で維持費を徴収している。それが、そのまま宰相派閥に流れている」
「わかった。ナッセは、俺とマヤがマガラ渓谷に落された話は聞いたか?」
「聞いた。未遂だったのか?」
「いや、実際に落された」
「え?しかし・・・。マガラ渓谷は、岩を落しても、攻撃魔法を放っても、すべてが飲み込まれる位に深い。落ちたら、助からない。運よく途中の岩に引っかかっても、渓谷内部には飛行型の魔物や上位種が居ると言われている。助かる可能性は皆無だ。と、思われている。実際に、落ちて生還した者は1%未満だろう」
「そうだな。でも、俺は助かった。マヤも、助かったと言える」
「?」
「ナッセの認識は、王国の認識なのか?教会や、王家には、何か違った話が伝わっていないのか?」
「聞いたことがないので、ないと言いたいが、確実を求めるのなら・・・」
「そうだな。ハーコムレイやローザスや教会からの人間にも話を聞きたい」
ナッセは、少しだけ考えてから承諾の意思を伝えてきた。
「よかった。それじゃ、歴史的な話は、その時に聞くとして・・・」
「ん?」
「ナッセ。ギルドの本部を、マガラ渓谷の深部にある、マガラ神殿に移さないか?」
「はっ?」
おっ。
その顔は初めてだな。呆れているとも違う、”何を言っているのか理解ができない”とい感じの表情だろうか?
「リン君?もう少し、もう少しでいいから、理解ができる話をして欲しい」
「・・・。うーん。実際に、見てもらうのが早いとは思うけど・・・。そうだな。発見の経緯は、皆が集まってからにしたい」
説明の手間を考えると、まずは、ミルがイリメリたちに情報を伝えて、そこから神殿の話に持っていくのがベストだろう。ハーコムレイたちに説明する前に、イリメリたちに説明をしておかないと、質問責めになって面倒に思えてしまう。
問題は、ミルがしっかりと説明ができるか?だけど、もう心配してもしょうがない。うまく説明ができると思いたい。
「わかった」
「マガラ渓谷には、旧時代の神殿が眠っていた」
「旧時代というと、古代文明?え?」
「それは、わからない。しかし、神殿が眠っていたのは、俺が生きて帰ってきたことで納得して欲しい」
「わかった。ひとまず、横に置いておこう」
ナッセは、考えるのを放棄したように見える。
実際に、神殿に来てもらわなければ、理解ができないだろう。
「ありがとう。混乱を招いて悪いが・・・。いい説明が思い浮かばない。そして、そのマガラ神殿は、今、俺とマヤが支配?している。管理者として、俺の名前が刻まれている」
「支配?」
「なんと言えばいいのか・・・。俺とマヤが、神殿の管理者だな」
「ん?それは、ギルドがこの建物をギルドの所有だというのと違うのか?」
当然の質問だけど、ギルドが所有している建物とかと、根本が違う。
説明が難しい。イリメリは無理でも、フェムやサリーカなら、”ダンジョンを支配した”で話が通りそうだ。二人から、皆に説明してもらったほうが楽かもしれない。
こういう時に、茂手木が居れば・・・。奴に丸投げして追われそうなのだけどな。
そういえば、女子の中でゲームとか誰がやるのだろう?
0
お気に入りに追加
49
あなたにおすすめの小説
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
魔境に捨てられたけどめげずに生きていきます
ツバキ
ファンタジー
貴族の子供として産まれた主人公、五歳の時の魔力属性検査で魔力属性が無属性だと判明したそれを知った父親は主人公を魔境へ捨ててしまう
どんどん更新していきます。
ちょっと、恨み描写などがあるので、R15にしました。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
魔力∞を魔力0と勘違いされて追放されました
紗南
ファンタジー
異世界に神の加護をもらって転生した。5歳で前世の記憶を取り戻して洗礼をしたら魔力が∞と記載されてた。異世界にはない記号のためか魔力0と判断され公爵家を追放される。
国2つ跨いだところで冒険者登録して成り上がっていくお話です
更新は1週間に1度くらいのペースになります。
何度か確認はしてますが誤字脱字があるかと思います。
自己満足作品ですので技量は全くありません。その辺り覚悟してお読みくださいm(*_ _)m
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!
「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります
古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。
一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。
一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。
どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。
※他サイト様でも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる