82 / 160
第六章 ギルド
第二話 いい女
しおりを挟むナナは、俺とミルの話を黙って聞いてくれた。
冷え切った飲み物で、喉を潤す。
俺とミルの話が終わったと思ったのか、ナナは閉じていた目を開けて、俺を見つめてくる。
「リン君。いくつか、質問をしてもいい?」
「あぁ」
「まず、マヤちゃんは生きているのよね?」
「ミルと一つになったが、生きている。今は、神殿に居る。妖精になってしまっているから、連れてくるのは問題があると考えた」
「そう、わかった。マヤちゃんの本当の姿?なのよね?」
「マヤは、そう言っている。俺もよくわからないが、マヤは困らないから大丈夫だと言っている」
「ワタシが神殿に行けば、マヤちゃんに会えるの?」
「会える」
「わかった。わからないことが解って、マヤちゃんに会えるとわかっただけで十分」
「他には?」
「まず、ポルタ村長が、アゾレムに脅されていたという証拠は?」
「ない」
「ポルタ村の現状は?」
「俺の眷属たちが出入りを監視している。外から見たら、魔物に支配されたと見えるだろう」
「これから、どうするの?」
「まずは、ミヤナック家のハーレイに話をする」
「ハーコムレイ?」
「そうだ。アゾレム。宰相派閥に楔を打ち込めるから、乗ってくるだろう」
「そうね。ポルタ村は、要所ではないけど、アゾレムの喉仏にあたるから、欲しがるでしょうね」
「あぁアゾレムが兵を動かせば、領都に向けて眷属を動かす。アイツらは、俺の敵だ」
「ニノサとサビニを殺したのも?」
「直接手を下したヤツはわからないけど、アゾレムが裏に居る」
ナナは、喉を潤すように、カップに注がれた液体を一気に流し込む。
それから、また目を閉じて、考え始める。
どのくらい時間が流れたかわからない。
ナナが目を開けて、ミルを見つめてから、俺に視線を戻した。
「リン君」
「ん?」
「神殿には、ワタシも行けるの?」
「行ける。神殿のことで、ナナへの頼み事もある」
「頼み事?」
「無理なら断ってくれてもいい。でも、俺が考えている内容を聞いた上で、計画に協力して欲しい」
「なに?」
俺は、ナナに、メロナにあるミヤナックか協力的な貴族が所有する館からマガラ渓谷に入る門を設置する。そして、アロイを抜けた先の街道のお受け直轄領に、門を作って、マガラ渓谷を経由した方法での通路を作成する計画を説明する。
「リン君。そんなことが可能なの?」
「神殿の準備は、マヤがしている。理論的には、可能だ。ミヤナック家は、ハーコムレイの妹と繋がりがある。ローザスに貸しがあるから、王家直轄領に小さな村を作るのは可能だと思うけど・・・。どうだ?」
「リン君。ニノサに似なくていいのに・・・。そうね。ミヤナック家・・・。ハーコムレイとローザスに貸しがあるのなら、成功する可能性が高いわね。それだけ?」
「いや・・・。ナナ。マガラ神殿の街を治める人物が必要だ」
「そうね。リン君やマヤちゃんじゃダメ?」
「マヤはダメだ。マヤも俺も、”やる”ことがある。ニノサとサビニと、マヤの復讐だ。それだけじゃなくて・・・。諸々の、因果を断ち切る」
日本での因果や白い部屋の話はしていない。でも、俺の言葉で、ナナが納得してくれたようだ。
「・・・。そうね」
「ナナ。マガラ神殿を任せたい。通路の街だけでいい。ダメか?」
ナナは、また目を閉じる。
考えているようには見えない。葛藤している・・・。と思えるが、なにか違う。何かを思い出しているようだ。
1-2分だろうが、俺には1時間にも感じられた。
ナナが目を開けて、俺を愛しむように見てくれた。
「門が開通したら、引き受けましょう。本当は、すぐにでも現役に復帰して、アゾレム領に殴り込みに行きたいけど、リン君とマヤちゃんとミトナルちゃんに任せるわ。ワタシの代わりに、しっかりとアゾレムを殴るのよ?」
「あぁもう二度と俺たちに絡みたくないと思わせるくらいに、叩き潰す」
「わかったわ。神殿で、宿屋兼食事処でもオープンするわ。四月兎の名前で、新規オープンするわ」
「わかった。一等地を用意するようにマヤに伝えておくよ」
「ふふふ。いいわね。他にも、この街に居る、アゾレム側ではない人間たちは誘っていい?」
「できれば、王家直轄領での営業をしてくれる人も欲しい。あと、旧ポルタ村も人が必要になる」
「そうね。そっちも人手が必要になるのね」
「あぁ護衛は、俺の眷属にある程度は任せられるけど、村の中は無理だ」
「それは、ローザスに頑張ってもらいましょう」
ナナの笑い声で、神殿の話は終わった。
魔道具を切ると、ナナがミルの武器を見つめる。
「ミトナルちゃん」
「はい?」
「双剣使い?」
「はい。属性魔法もありますが、剣でも戦えるようにしたいと思っています」
「そう。ねぇリン君。これから、王都に行くみたいだけど、2-3日ならアロイに逗留しても大丈夫?」
ミルを見るとうなずくから、問題はない。
それに、急いで入るが、2-3日で変わるような状況ではない。
「アロイの現状も知りたい。そのくらいなら問題はない」
「ミトナルちゃん。ワタシと模擬戦をしない?」
「え?」
「ミトナルちゃんの歩き方を見ると、王家直属か貴族に仕えるような騎士に剣を習っているわよね?」
「え?あっそうです」
前に、ミルに聞いた時には、スキルで覚えただけで、実際に訓練をしたわけではないと言っていた。ナナは、歩き方を見ただけで、ミルの実力を見抜いたのか?そんなことが出来るとは思えないが、ナナが言っている話は、俺がミルから聞いた話と変わらない。
ミヤナック家の護衛と、ローザスの護衛や騎士から吸収した技が、ミルの基本になっている。貴族に仕える騎士の剣だと言われれば、そうなるのだろう。
「綺麗だとは思うけど、リン君がこれからやろうとしている事には、向かないわよ」
「え?」
綺麗な剣とでも言いたいのだろうか?
「騎士の剣は、主君を守る為の剣で、誰かを倒す剣じゃないわよ」
そういう事か・・・。主君を守り続ける為の剣で、主君と一緒に状況をひっくり返す剣ではない。
「それは・・・」
「だから、模擬戦をしましょう。ワタシとの模擬戦で、ミトナルちゃんがなにかを吸収ができれば、これからリン君と一緒に戦える。でも、吸収が出来なければ・・・」
「できなければ?」
「リン君を守るためにしか剣が振るえない」
「違うの?」
「違うわよ!リン君は、これから強くなる。それこそ、ミトナルちゃんが守らなくてもいいくらいにね。そのときに、ミトナルちゃんの後ろにリン君が居てくれる?ミトナルちゃんも望まないわよね。なら、リン君の横に立たないとダメよ。女は守るよりも、一緒に戦うほうが、いい女になれるのよ!」
「・・・。っ!お願いします」
「うん。いい返事。ミトナルちゃんは、いい女に、一歩だけだけど、近づいたわ」
ナナは、すごくいい笑顔で、ミルを見つめる。
「ナナさん。ナナさんが、言う”いい女”って?」
「サビニよ。リン君とマヤちゃんのお母さん!悔しいけど、サビニの横には、ニノサが似合っていた。サビニも、ニノサに守られる女じゃなかった。ニノサの横で、ニノサと一緒に戦うことを選んだ」
ナナの表情は、どこか遠くを見ている。
その場に居ない。もうこの世にもいない。ニノサとサビニを思い出している。
3日間。
俺とミルは同じ部屋で寝起きした。
ミルは、起きるとすぐに身支度を整えて、ナナの所に行く、俺もナナの手伝いを申し出た。宿屋の業務を押し付けられたが、アロイ自体の人が少ないのか常連客だけなので、困った状況にはならなかった。
ナナは、宿屋の業務を俺に押し付けると、ミルを連れて、アロイの外に向かう。
最初は草原での模擬戦をおこなった。初日は、ミルがボコボコにされて帰ってきた。ミルは、すごく嬉しそうに新しいスキルを覚えて、戦い方も解ってきたと話してくれた。二日目は、ミルの属性を剣に纏わせる方法を教えてもらって、模擬戦を繰り返した。ミルは、ナナからすごい勢いで吸収している。
三日目には、二人で近くの森に出かけて、魔物との戦闘を行って帰ってきた。
四日目は休暇として、五日目の早い時間帯に、俺とミルは三月兎を出て、マガラ渓谷の関所に向かった。
ナナから渡されたチケットを持って・・・。
0
お気に入りに追加
49
あなたにおすすめの小説
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
魔境に捨てられたけどめげずに生きていきます
ツバキ
ファンタジー
貴族の子供として産まれた主人公、五歳の時の魔力属性検査で魔力属性が無属性だと判明したそれを知った父親は主人公を魔境へ捨ててしまう
どんどん更新していきます。
ちょっと、恨み描写などがあるので、R15にしました。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!
「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります
古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。
一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。
一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。
どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。
※他サイト様でも掲載しております。
巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!
あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!?
資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。
そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。
どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。
「私、ガンバる!」
だったら私は帰してもらえない?ダメ?
聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。
スローライフまでは到達しなかったよ……。
緩いざまああり。
注意
いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる