上 下
80 / 161
第五章 マヤとミル

第二十話 王都へ

しおりを挟む

 神殿の拡張と、運営をマヤとロルフに任せて、俺とミルは、ギルドとの交渉を行うために、王都に向かうことにした。

「ロルフ。マヤ。神殿を頼むな」

「うん!」『かしこまりました』

 マヤは、妖精の姿をしている。ブロッホの肩に乗って、元気に承諾をした。

 マヤとミルは、二人で一人なのだ。ミルと一緒に王都に向かうと決めてから、いろいろと確認をしなければならなかった。

 最初に確認したのは、”マヤとミルが離れても大丈夫なのか”だったが、距離は、問題にはならない。
 マヤを乗せた、アウレイアとアイルが、王都を超える距離まで移動したが、マヤもミルも問題はなかった。距離で問題になったのは、マヤとミルの”念話”だ。俺との”念話”よりも遠距離での会話が可能なのだが、距離が離れると会話が途切れてしまう。らしい。検証を行った結果では、遮蔽物で感度が違ってくる。らしい。二人の申告なので、俺にはわからない。それでも、王都くらいの距離なら問題ではないようだ。

 ”妖精体の魔力の供給”の確認も、問題はなかった。
 マヤとミルの両者が、交互に妖精体になって検証を行ったが、神殿に居る限りは、魔力が不足してしまう状況は避けられそうだ。外に出ている場合には、若干注意が必要だけど、俺の眷属が近くに居れば、魔力の譲渡が可能になるようだ。
 本体は、魔力ではなく、食事でエネルギーを確保するので、問題にはならないようだ。

 他にも、マヤとミルの安全を確認するために、検証を行った。かなり妖精体の知見も増えて、神殿に居れば大丈夫だと判断した。

「ロルフ。ブロッホ。マヤのことを頼む」

「はっ!この身に替えましても!」

『もちろんです。マスター。にゃ』

 マヤが何か、文句を言っている。スルーして、ロルフとブロッホに、俺とミルの日程を説明する。マヤが心配と言うよりも、マヤが余計なことをするのが心配になっている。

『わかりました。マスター。にゃ』

「門を開く場所は、最低でも2箇所。出来るようなら、3箇所は作りたい」

『準備を進めます。にゃ。2箇所は解るのですが、もう一箇所はどこに作成します。にゃ?』

「ギルドのメンバーに聞いてからだけど、神殿の中に作るギルド本部に直接繋がる門が必要になる可能性がある」

『わかった。にゃ』

 ミルが、マヤのところに移動して、何やら話をしている。
 俺をチラチラみているが、内緒にしたい話なら、身体の中に入って話をすればいいのに・・・。と、思ったが口に出してはいない。俺が口を突っ込んでいい話ではないように思える。蛇が居るのが解っている藪をわざわざ突く必要はない。

 肩から、マヤが居なくなったブロッホが俺の側にやってきた。

「マスター。私が側にお仕えしたく思います」

 眷属たちからは、誰かが一緒に付いていきたいと懇願されている。すべて拒否している。
 皆がネームドになっていて、目立つことが理由だ。

「今回は、俺とミルだけで行ってくる。馬車や移動手段が準備できたら、ブロッホに頼むことになると思う」

「・・・」

「ブロッホ。確認して欲しいことがある」

「はい。なんでしょうか?」

 ブロッホだけではなく、眷属たちは俺やマヤからの命令を喜ぶ。

「明確な敵対は”まだ”な状態だけど、確実に敵対する奴らの中に、テイマーというジョブを持っている奴がいる。俺とミルの記憶から、厄介な奴が持っている。ブロッホやロルフは大丈夫だと思うし、群れのトップたちは、テイムをされるような状態にはならないと思うが、危険が無いか確認を頼みたい。もし、危険が少しでもあるのなら、戦略を練り直す必要が出てくる。意識がない魔物を従えるスキルなら、チートの力で、増幅していることを考慮して、対応策を考えてくれ」

「かしこまりました。ロルフ殿と相談して、対応を考えてみます」

「ロルフも面倒だろうけど、頼む」

『はい。にゃ。あ!にゃ!マスター。誰かに、テイマーになってもらって、確認してもいい。にゃ?』

「出来るのなら、試してみてくれ、あと、ミルを通して、敵対する奴らのジョブやスキルが解ったら連絡する。ブロッホには手間だろうけど、確認と対処方法を考察してくれ」

「はっ!」

 指示出しが終わったところで、ミルがマヤと一緒に戻ってきた。

「ミル。相談は終わった?」

「うん。マヤも納得してくれた」

「ん?納得?」

「うん。リンは気にしなくていい。僕とマヤの話」

 何か、繋がりとかの話なのだろう。二人が納得しているのなら、任せておけばいい。

「マヤ。行ってくる」

「うん。いってらっしゃい。2ヶ月くらいで戻ってくるのだよね?」

「そうだ、でも、2ヶ月は最大で・・・。だ。話が早く終われば、すぐにミルから連絡を入れる」

「うん!わかった」

 外に繋がる。門は、まだヒューマの里にしかない。

 マヤとロルフとブロッホに見送られながら、ヒューマが守っている門を出て、地上にたどり着いた。
 久しぶりの地上の感じがするが、それほど感動はしなかった。別に、どこに居ても、俺は俺だ。

 久しぶりに、二人だけになった。
 ミルの表情が若干だが嬉しそうに見える。

「リン。どうするの?」

「ん?」

「王都への移動」

「マガラ渓谷を通ればいいとおもうぞ?」

「うん。でも、今のリンや僕のステータスなら、マガラ渓谷を、わざわざお金を払って通過しなくても、飛び越えられると思うよ?」

 ミルの方法は、俺も考えた。アゾレムの収入になるのに、わざわざマガラ渓谷を通らなくても、突破は出来るだろう。でも、あえて、マガラ渓谷を通過するつもりだ。

「いや、マガラ渓谷を越えよう」

「いいの?立花のところの儲けになるよ?」

「そうだね。でも、今回はそれを飲み込む」

「なぜ?」

「マガラ渓谷の関所は、マガラ渓谷に落ちたと思われる者や、片方だけを通過した者を、1年間は探すために懸賞金を賭けて提示することになっている」

「え?でも、僕。そんなことを言われなかったよ?」

「関所の奴らは、面倒になって説明をしていない。特に、アゾレム側のアロイでは、完全に無視している。でも、メルナ側は事情が違っている」

「ん?」

「王家の直轄だから、書類はしっかりと整っていると思う」

「なんで?」

「書類がなかったら、給料が貰えないからね。俺も、さっきまで忘れていたけど、ハーコムレイの話を思い出した時に、一緒に思い出した」

「そう・・・。でも、リンとマヤは、メルナからアロイに向かうときに、落とされたのだよね?」

「そうだよ。数日に一度、符丁の交換があるから、そこで判明するよ。符丁は、俺の分と、マヤの分と、ウーレンとサラナの4枚が手元にある。ロルフが保管してくれていた。これを、メルナ側で提出して、ミヤナック家に俺の名前で連絡を入れてもらう」

「うん。僕は、よくわからないけど、リンのやりたい様にして!僕は、リンと一緒に居る」

「よし、まずは、アロイにある三月兎亭マーチラビットを目指そう。ナナにも報告しておかないと・・・」

 遅くなってしまったが、自分の力を確認して、神殿の把握が終わるまでは、ナナに会いに行けなかった。ナナは、信頼ができるが、ナナの周りに、どんな”目”があるのかわからない。それに、ナナが暴走してしまったら、誰が止められると言うのだ。今は、ニノサもサビニも居ない。俺では、ナナを止められるとは思えない。主に、精神的な意味で・・・。

 イリメリたちの返答次第では、ナナとナナが信頼する者に、神殿の通路を任せてもいいかと思っている。
 ミヤナック家に話を持っていけば、乗ってくるのは、ほぼ確実だ。だけど、ミヤナック家に管理を任せるのは、何か違うように感じる。事情が有ったにせよ、ニノサとサビニは王家から距離を取っていた。だから、俺も必要以上に王家や王家派閥に連なる者たちに近づこうとは思っていない。
 ギルドを挟んでの関係くらいがちょうどいい距離だと思っている。イリメリやタシアナやフェムには悪いけど、俺とマヤとミルの防波堤になってもらおうと考えている。そのためにも、神殿の通路を提供して、運営をギルドに任せたい。フレットやタシアナに、孤児たちの就職場所として提供してもいいかもしれない。

「ミル」

「ん?」

「まずは、アロイにある三月兎亭マーチラビットに行こう。一泊して・・・。一泊で、ナナが納得してくれたら、マガラ渓谷を越えてメルナに向かう」

「わかった!」

 ミルは、嬉しそうに、腕を絡ませてくる。柔らかい物が肘にふれるが気にしなければ大丈夫だ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

異世界の物流は俺に任せろ

北きつね
ファンタジー
 俺は、大木靖(おおきやすし)。  趣味は、”ドライブ!”だと、言っている。  隠れた趣味として、ラノベを読むが好きだ。それも、アニメやコミカライズされるような有名な物ではなく、書籍化未満の作品を読むのが好きだ。  職業は、トラックの運転手をしてる。この業界では珍しい”フリー”でやっている。電話一本で全国を飛び回っている。愛車のトラクタと、道路さえ繋がっていれば、どんな所にも出向いた。魔改造したトラクタで、トレーラを引っ張って、いろんな物を運んだ。ラッピングトレーラで、都内を走った事もある。  道?と思われる場所も走った事がある。  今後ろに積んでいる荷物は、よく見かける”グリフォン”だ。今日は生きたまま運んで欲しいと言われている。  え?”グリフォン”なんて、どこに居るのかって?  そんな事、俺が知るわけがない。俺は依頼された荷物を、依頼された場所に、依頼された日時までに運ぶのが仕事だ。  日本に居た時には、つまらない法令なんて物があったが、今では、なんでも運べる。  え?”日本”じゃないのかって?  拠点にしているのは、バッケスホーフ王国にある。ユーラットという港町だ。そこから、10kmくらい山に向かえば、俺の拠点がある。拠点に行けば、トラックの整備ができるからな。整備だけじゃなくて、改造もできる。  え?バッケスホーフ王国なんて知らない?  そう言われてもな。俺も、そういう物だと受け入れているだけだからな。  え?地球じゃないのかって?  言っていなかったか?俺が今居るのは、異世界だぞ。  俺は、異世界のトラック運転手だ!  なぜか俺が知っているトレーラを製造できる。万能工房。ガソリンが無くならない謎の状況。なぜか使えるナビシステム。そして、なぜか読める異世界の文字。何故か通じる日本語!  故障したりしても、止めて休ませれば、新品同然に直ってくる親切設計。  俺が望んだ装備が実装され続ける不思議なトラクタ。必要な備品が補充される謎設定。  ご都合主義てんこ盛りの世界だ。  そんな相棒とともに、制限速度がなく、俺以外トラックなんて持っていない。  俺は、異世界=レールテを気ままに爆走する。  レールテの物流は俺に任せろ! 注)作者が楽しむ為に書いています。   作者はトラック運転手ではありません。描写・名称などおかしな所があると思います。ご容赦下さい。   誤字脱字が多いです。誤字脱字は、見つけ次第、直していきますが、更新はまとめてになると思います。   誤字脱字、表現がおかしいなどのご指摘はすごく嬉しいです。   アルファポリスで先行(数話)で公開していきます。

貞操逆転世界に無職20歳男で転生したので自由に生きます!

やまいし
ファンタジー
自分が書きたいことを詰めこみました。掲示板あり 目覚めると20歳無職だった主人公。 転生したのは男女の貞操観念が逆転&男女比が1:100の可笑しな世界だった。 ”好きなことをしよう”と思ったは良いものの無一文。 これではまともな生活ができない。 ――そうだ!えちえち自撮りでお金を稼ごう! こうして彼の転生生活が幕を開けた。

スキル【アイテムコピー】を駆使して金貨のお風呂に入りたい

兎屋亀吉
ファンタジー
異世界転生にあたって、神様から提示されたスキルは4つ。1.【剣術】2.【火魔法】3.【アイテムボックス】4.【アイテムコピー】。これらのスキルの中から、選ぶことのできるスキルは一つだけ。さて、僕は何を選ぶべきか。タイトルで答え出てた。

異世界母さん〜母は最強(つよし)!肝っ玉母さんの異世界で世直し無双する〜

トンコツマンビックボディ
ファンタジー
馬場香澄49歳 専業主婦 ある日、香澄は買い物をしようと町まで出向いたんだが 突然現れた暴走トラック(高齢者ドライバー)から子供を助けようとして 子供の身代わりに車にはねられてしまう

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

魔王が現れたから、勇者の子孫らしい俺がちょっくら倒してくる

あさぼらけex
ファンタジー
はるか昔。ここサーイターマルドは深い闇に包まれていた。 しかしどこからともなく現れた勇者ウラワが、神から授かったと言われる幻の金水晶の力を使って、闇の魔王を討ち滅ぼし、この地に平和が訪れた。 金水晶はこの地を治める時の王、ゴハン一世の手に渡り、勇者ウラワはどこかに姿を消した。 しばらく平和の世が続く。 しかしゴハン16世の御代になり、闇の魔王を名乗る者が現れた。 闇の魔王はお城にあった金水晶を奪い、この国の王女を連れ去った。 闇の魔王を倒すため、多くの者が旅たった。 しかし、戻ってくる者はひとりもいなかった。 この地に再び平和を! 誰もがあきらめかけたその時、預言者ミツフタは預言した。 勇者ウラワの血を引く子孫が、間もなく現れる。 そして闇の魔王を倒してくれるだろうと。

転生した体のスペックがチート

モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。 目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい このサイトでは10話まで投稿しています。 続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!

幼女と執事が異世界で

天界
ファンタジー
宝くじを握り締めオレは死んだ。 当選金額は約3億。だがオレが死んだのは神の過失だった! 謝罪と称して3億分の贈り物を貰って転生したら異世界!? おまけで貰った執事と共に異世界を満喫することを決めるオレ。 オレの人生はまだ始まったばかりだ!

処理中です...