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第五章 マヤとミル
第二十話 王都へ
しおりを挟む神殿の拡張と、運営をマヤとロルフに任せて、俺とミルは、ギルドとの交渉を行うために、王都に向かうことにした。
「ロルフ。マヤ。神殿を頼むな」
「うん!」『かしこまりました』
マヤは、妖精の姿をしている。ブロッホの肩に乗って、元気に承諾をした。
マヤとミルは、二人で一人なのだ。ミルと一緒に王都に向かうと決めてから、いろいろと確認をしなければならなかった。
最初に確認したのは、”マヤとミルが離れても大丈夫なのか”だったが、距離は、問題にはならない。
マヤを乗せた、アウレイアとアイルが、王都を超える距離まで移動したが、マヤもミルも問題はなかった。距離で問題になったのは、マヤとミルの”念話”だ。俺との”念話”よりも遠距離での会話が可能なのだが、距離が離れると会話が途切れてしまう。らしい。検証を行った結果では、遮蔽物で感度が違ってくる。らしい。二人の申告なので、俺にはわからない。それでも、王都くらいの距離なら問題ではないようだ。
”妖精体の魔力の供給”の確認も、問題はなかった。
マヤとミルの両者が、交互に妖精体になって検証を行ったが、神殿に居る限りは、魔力が不足してしまう状況は避けられそうだ。外に出ている場合には、若干注意が必要だけど、俺の眷属が近くに居れば、魔力の譲渡が可能になるようだ。
本体は、魔力ではなく、食事でエネルギーを確保するので、問題にはならないようだ。
他にも、マヤとミルの安全を確認するために、検証を行った。かなり妖精体の知見も増えて、神殿に居れば大丈夫だと判断した。
「ロルフ。ブロッホ。マヤのことを頼む」
「はっ!この身に替えましても!」
『もちろんです。マスター。にゃ』
マヤが何か、文句を言っている。スルーして、ロルフとブロッホに、俺とミルの日程を説明する。マヤが心配と言うよりも、マヤが余計なことをするのが心配になっている。
『わかりました。マスター。にゃ』
「門を開く場所は、最低でも2箇所。出来るようなら、3箇所は作りたい」
『準備を進めます。にゃ。2箇所は解るのですが、もう一箇所はどこに作成します。にゃ?』
「ギルドのメンバーに聞いてからだけど、神殿の中に作るギルド本部に直接繋がる門が必要になる可能性がある」
『わかった。にゃ』
ミルが、マヤのところに移動して、何やら話をしている。
俺をチラチラみているが、内緒にしたい話なら、身体の中に入って話をすればいいのに・・・。と、思ったが口に出してはいない。俺が口を突っ込んでいい話ではないように思える。蛇が居るのが解っている藪をわざわざ突く必要はない。
肩から、マヤが居なくなったブロッホが俺の側にやってきた。
「マスター。私が側にお仕えしたく思います」
眷属たちからは、誰かが一緒に付いていきたいと懇願されている。すべて拒否している。
皆がネームドになっていて、目立つことが理由だ。
「今回は、俺とミルだけで行ってくる。馬車や移動手段が準備できたら、ブロッホに頼むことになると思う」
「・・・」
「ブロッホ。確認して欲しいことがある」
「はい。なんでしょうか?」
ブロッホだけではなく、眷属たちは俺やマヤからの命令を喜ぶ。
「明確な敵対は”まだ”な状態だけど、確実に敵対する奴らの中に、テイマーというジョブを持っている奴がいる。俺とミルの記憶から、厄介な奴が持っている。ブロッホやロルフは大丈夫だと思うし、群れのトップたちは、テイムをされるような状態にはならないと思うが、危険が無いか確認を頼みたい。もし、危険が少しでもあるのなら、戦略を練り直す必要が出てくる。意識がない魔物を従えるスキルなら、チートの力で、増幅していることを考慮して、対応策を考えてくれ」
「かしこまりました。ロルフ殿と相談して、対応を考えてみます」
「ロルフも面倒だろうけど、頼む」
『はい。にゃ。あ!にゃ!マスター。誰かに、テイマーになってもらって、確認してもいい。にゃ?』
「出来るのなら、試してみてくれ、あと、ミルを通して、敵対する奴らのジョブやスキルが解ったら連絡する。ブロッホには手間だろうけど、確認と対処方法を考察してくれ」
「はっ!」
指示出しが終わったところで、ミルがマヤと一緒に戻ってきた。
「ミル。相談は終わった?」
「うん。マヤも納得してくれた」
「ん?納得?」
「うん。リンは気にしなくていい。僕とマヤの話」
何か、繋がりとかの話なのだろう。二人が納得しているのなら、任せておけばいい。
「マヤ。行ってくる」
「うん。いってらっしゃい。2ヶ月くらいで戻ってくるのだよね?」
「そうだ、でも、2ヶ月は最大で・・・。だ。話が早く終われば、すぐにミルから連絡を入れる」
「うん!わかった」
外に繋がる。門は、まだヒューマの里にしかない。
マヤとロルフとブロッホに見送られながら、ヒューマが守っている門を出て、地上にたどり着いた。
久しぶりの地上の感じがするが、それほど感動はしなかった。別に、どこに居ても、俺は俺だ。
久しぶりに、二人だけになった。
ミルの表情が若干だが嬉しそうに見える。
「リン。どうするの?」
「ん?」
「王都への移動」
「マガラ渓谷を通ればいいとおもうぞ?」
「うん。でも、今のリンや僕のステータスなら、マガラ渓谷を、わざわざお金を払って通過しなくても、飛び越えられると思うよ?」
ミルの方法は、俺も考えた。アゾレムの収入になるのに、わざわざマガラ渓谷を通らなくても、突破は出来るだろう。でも、あえて、マガラ渓谷を通過するつもりだ。
「いや、マガラ渓谷を越えよう」
「いいの?立花のところの儲けになるよ?」
「そうだね。でも、今回はそれを飲み込む」
「なぜ?」
「マガラ渓谷の関所は、マガラ渓谷に落ちたと思われる者や、片方だけを通過した者を、1年間は探すために懸賞金を賭けて提示することになっている」
「え?でも、僕。そんなことを言われなかったよ?」
「関所の奴らは、面倒になって説明をしていない。特に、アゾレム側のアロイでは、完全に無視している。でも、メルナ側は事情が違っている」
「ん?」
「王家の直轄だから、書類はしっかりと整っていると思う」
「なんで?」
「書類がなかったら、給料が貰えないからね。俺も、さっきまで忘れていたけど、ハーコムレイの話を思い出した時に、一緒に思い出した」
「そう・・・。でも、リンとマヤは、メルナからアロイに向かうときに、落とされたのだよね?」
「そうだよ。数日に一度、符丁の交換があるから、そこで判明するよ。符丁は、俺の分と、マヤの分と、ウーレンとサラナの4枚が手元にある。ロルフが保管してくれていた。これを、メルナ側で提出して、ミヤナック家に俺の名前で連絡を入れてもらう」
「うん。僕は、よくわからないけど、リンのやりたい様にして!僕は、リンと一緒に居る」
「よし、まずは、アロイにある三月兎亭を目指そう。ナナにも報告しておかないと・・・」
遅くなってしまったが、自分の力を確認して、神殿の把握が終わるまでは、ナナに会いに行けなかった。ナナは、信頼ができるが、ナナの周りに、どんな”目”があるのかわからない。それに、ナナが暴走してしまったら、誰が止められると言うのだ。今は、ニノサもサビニも居ない。俺では、ナナを止められるとは思えない。主に、精神的な意味で・・・。
イリメリたちの返答次第では、ナナとナナが信頼する者に、神殿の通路を任せてもいいかと思っている。
ミヤナック家に話を持っていけば、乗ってくるのは、ほぼ確実だ。だけど、ミヤナック家に管理を任せるのは、何か違うように感じる。事情が有ったにせよ、ニノサとサビニは王家から距離を取っていた。だから、俺も必要以上に王家や王家派閥に連なる者たちに近づこうとは思っていない。
ギルドを挟んでの関係くらいがちょうどいい距離だと思っている。イリメリやタシアナやフェムには悪いけど、俺とマヤとミルの防波堤になってもらおうと考えている。そのためにも、神殿の通路を提供して、運営をギルドに任せたい。フレットやタシアナに、孤児たちの就職場所として提供してもいいかもしれない。
「ミル」
「ん?」
「まずは、アロイにある三月兎亭に行こう。一泊して・・・。一泊で、ナナが納得してくれたら、マガラ渓谷を越えてメルナに向かう」
「わかった!」
ミルは、嬉しそうに、腕を絡ませてくる。柔らかい物が肘にふれるが気にしなければ大丈夫だ。
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