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第三章 裏切り

第三十三話 ここどこ?

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”リン。リン。起きて。リン。起きて”

「マヤ!!」

 ここはどこだ?

 マヤ!
 マヤはどこだ!?

 俺は死んでいないのか?
 なにか聞いたことがある声で話しかけられた感じがしているが、あたりを見回しても誰もいない。

 何もない部屋だ。
 アドラの居た白い部屋とは違って、よくある石畳の部屋で俺が使っていた部屋の広さくらいだろう・・・。多分、六畳くらいだろうか?

 壁も天井も石なのは間違いないようだ。
 触ってみても、”石”である事以外はわからない。

 不思議なのは、窓が無いのに明るいのだ。
 もしかしたら、明るいのではなくて、見えているだけなのかもしれないが、石の質感まで解る。部屋全体が明るくなっている。

 そして、どこにも出口が無い。

 俺はどうやってここに入った?

 疑問しか湧いてこない。

 マヤは無事なのか?サラナとウーレンは・・・。多分、殺されたのだろう。なんで、サラナは最後に、マヤに謝ったのだろう?
 疑問しか出てこない。おじさんがマヤを突き落とした。絶対に許さない。ここから出て、自分がしたことの報いを受けてもらおう。殺しはしない。手首を切った感覚はある。殺しては一瞬で終わってしまう。報いを受けて長い間・・・それこそ、死にたいと思うまで苦しんでもらおう。
 俺から、マヤを奪おうとしたのだ。当然の報いだ。
 村長が一人で考えてやったことだとは思えない。なにか裏が有るのだろう。アゾレムが絡んでいるのなら、アゾレム一族にもしっかりとお礼をしなければならない。

 それにしても・・・。
 本当に、ここはどこだ?

”鑑定を使って、壁を調べて”

「誰だ!」

”鑑定を使えば、出られる”

「お前は誰だ!マヤは無事なのか!マヤはどこだ!」

 少し待ってみるが、頭の中・・・。念話のように感じる言葉は、それから話しかけてこない。

 鑑定を使え・・・か・・・。

 壁を触りながら鑑定を発動させる。
 どこが正面で、どこが北なのかわからないが、一周すべてに鑑定を行えばどこかがあたるだろう。

 いきなりあたりか?

 最初に手を置いた壁を鑑定したら、”魔導石壁”と出てきた。
 さらに鑑定を行うと、”魔力を流す事で開閉する”と鑑定結果が出た。

 他の壁を鑑定しても、”石壁”とだけでる。
 一箇所だけのようだ。中央の1.5mくらいの幅だろう、上は手が届く範囲は全部”魔導石壁”となっている。

 なにがおこるかわからないが、魔力を流さない事には、何も始まらないのだろう。

 ”魔導石壁”に手を置いて魔力を流す。

”魔力を検知”

 ん?魔力を検知?

 扉が・・・ん?消えた?

 手を離してみると、少ししてから扉が現れる。
 消えていると感じたのは間違いではないようだ。石壁の一部が消えるようになっているのか。

 通路になっているようだな。真っ直ぐなのか?

 通路は下向きになっていることを考えると、俺が居た部屋は上層部に作られていたのか?

 わからないことだらけだ
 100mくらい歩いたらまた正面に石壁が現れた。
 同じ様に鑑定を行うと、”魔導石壁”のようだ。魔力を流す。

”魔力を検知。未登録魔力の為、神殿への入場は許可されません”

 ん?
 どういう事だ?

 神殿?もしかして、マヤはそこに居るのか?

”ブォーン!”

 右側の壁にパネルのようなものが表示された。

--- パネル表示
神殿名:[    ]
所有者:マヤ・アルセイド
管理者:[    ]
サポート:ロルフ・アルセイド
担当者:[    ]

 神殿名が設定されていません。
 管理者が設定されていません。
 担当者が設定されていません。
 パネルは、管理者以上の権限者により隠蔽する事ができます
---

 マヤ!”マヤ・アルセイド”は、マヤの真命だ。
 マヤが所有者?マヤの名前が消えていないから、マヤが生きている・・・。と、考えるのはあまりにもご都合主義か?でも、俺は生きている・・・と、思う。マヤが生きていても不思議ではない。俺も生きている。マヤも生きているに違いない。

 パネルを触るが、何も反応しない。
 試しに魔力を流してみる。

”魔力を検知。未登録の魔力”

 ダメか・・・。

「マヤ!どこに居る!」

”音声を認識”

「マヤなのか?マヤ・アルセイド!どこに居る!」

”所有者名を認識。魔力を検知。該当せず。ゲストとして登録”

 目の前のドアが開く。
 マヤが居るのか?

 真っ直ぐな道がまだ続いている。
 今度は短いようだ。正面から光が見えてくる。今までの不思議な光ではなく、自然光のようだ。

 広場になっている手前で止まる。
 広場に何があるのかわからないし、明るすぎてどうなっているのかが判断できない。広い事はわかる。この先が神殿なのか?

「明るいな。ここはどこだ?」

”アルセイド神殿へようこそ。アナタを歓迎します”

「え?アルセイド神殿?神殿名は決まっていなかったのでは?それよりも、マヤは、マヤ・アルセイドは!」

”マヤ様は、現在休眠状態です”

「きゅうみん?無事なのか?」

”おっしゃっている意味がわかりません。マヤ・アルセイド様はニンフで、神殿の所有者です”

「ニンフ?妖精?マヤは、俺の妹で人族だ!」

”認識が違います。数年前、力を・・・”

 どうやらこの声は、先程のパネルに名前が乗っていたサポートのロルフ・アルセイドという精霊だという事だ。実体は、猫型だという話だが、今はマヤの側に居るので出てくる事ができないと言っている。

 そして、大事なことをいろいろ説明してくれた。
 ニンフのマヤは、数年前に人族に襲われて(ロルフ曰く、旗から見ると、アゾレム領兵)瀕死の状態になってしまった。
 その時に、同じ様に瀕死の状態になった人族の身体と融合してしまった。ニンフだった頃の記憶が封印され休眠状態になって人族として生活してきた。村長によって、マガラ渓谷に突き落とされた事で、人族の身体は修復が不可能な状態のダメージを受けたが、精神は無傷だったのでニンフの姿で休眠状態になっているという事だ。
 神殿最奥部のニンフの庵で休眠しているので、力を取り戻し次第休眠状態から抜け出すという事だ。

「それでは、マヤは無事なのだな」

”言っている意味がわかりません”

「人族だったときのマヤの記憶や感情はどうなる?」

”わからない。マヤ様が望めば復活時に記憶が継承されます”

「そうか・・・。でも、生きていてくれたのなら・・・。それだけで・・・。ロルフ!地上に戻る方法は?」

”ありません”

「え?地上に戻る事ができない?」

”現在は方法がありません”

「ん?どういう事だ?」

”神殿名が決められて、管理人が定まれば、転移門を開く事ができます”

「神殿名は・・・アルセイド神殿ではないのか?転移門?」

”アルセイド神殿は仮名です。転移門は、自由に移動できます”

「どこにでも?」

”マヤ・アルセイド様がお力を取り戻されれば可能です”

「・・・。今は?」

”以前に設置されていた場所に転移します”

「それはどこだ?」

”不明です”

「そうか・・・。どうやったら、管理者になれる?」

”現在は空席の為に、神殿にて手続きを行えば可能です。適合者なら管理者に設定されます”

「適合者でない場合には?」

”消滅します”

「・・・。消滅か・・・。事前に適合者なのかわかる方法はないのか?」

”神の声を聞いた事があれば適合者です。それ以外は不明です”

「わかった。案内してくれ」

”わかりました”

 ロルフの声に従って、広場に出た。
 かなり広場の周りには、いくつかの建物?部屋?があるようだ。入ってきた場所のちょうど正面に、神殿らしい建物がある。

 あれが、マヤが眠っている場所なのだろう。
 サラナとウーレンも落とされたのだけど、ここに落ちてきていないのか?

「ロルフ。俺とマヤ以外に、二人ほど落ちてきたと思うけど知らないか?」

”存じております”

「どこに?」

”すでに、魂が抜けておりました。肉体は損傷が激しくて、マヤ様の依代には適していませんでしたが、人族のため一定期間保存します”

「マヤの依代?」

”はい。肉体を依り代にする事で力の回復が早まります”

「・・・。そうか」

”神殿に到着されましたね。扉を開けて中にお入りください。奥までお進みください。ご説明致します”

 扉を開けて中に入ると、教会のような建物になっている。
 奥に、像がある。中央の一体は、マヤを大人っぽくしたような像だ。

 これが、マヤの本当の姿なのだろうか?
 いろいろ聞きたいが、今はマヤが無事で、地上に戻って・・・。やることをやろう。
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