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第二章 転生者

第十六話 鑑定と隠蔽

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/*** ミトナル=セラミレラ・アカマース(鵜木和葉) ***/

 宿屋は、朝早くに出た。
 そして、フェムの店によって、今日一日用事があると告げてから、門に急いだ。僕が遅れるわけには行かない。凛くんを待たせる訳にはいかない。

 よかった。
 まだ来ていない。来ないかも知れない。でも、このアドラの”ゲーム”の意味がわからないとは思えない。21人のサバイバルではない。凛くんの奪い合いになるのは間違いない。茂手木くんというジョーカーが居る。でも、僕が知っている事実。これが多分重要な意味を持ってくる。

 重久さんや中里さんの言葉が正しければ、これは凛くんが中心になるように考えられている。

 二人が覚えていた、男子の名前を聞いたときに、全身の血が沸騰するかと思った。凛くんに仇なす者と思っていたが、本当に”仇”だとは思わなかった。

 立花肇/山崎徹/西沢祐太/冴木武夫/川島茂/橋本芳雄/加藤恵一/三塚浩市/細田博行/森中定和

 美和さんの報告書を呼んでから、頭から離れない名前だ。
 偶然にしては出来すぎている。立花と山崎が混じっていたのは認識していた。全員が、凛くんの弟さんの”事件”の関係者だとは思わなかった。そして、凛くんの両親と、僕の両親の”死の原因”を作った奴ら。

 まだ、僕はこの事実を、凛くんに告げる勇気がない。告げていいのかわからない。


 マヤさん?
 向こうから歩いてきているのは、確かに、凛くんと一緒に居た女の子。妹と言っていた。

 僕をまっすぐ見ている。凛くんが、女の子だけで、危ない可能性がある所に送り出すわけがない。でも、間違いなく、僕を見ている。綺麗な目で、まっすぐと・・・。

「ミトナルさん?」

 やはり、僕が目的で間違いなかった

「はい。そうです」
「これを見て!」

 そう言って出されたのは、僕が凛くんを呼び出すのに使った、羊皮紙だ。
 僕の署名の下に、”神埼凛”と書かれていた。涙が出そうだ。

「内容は僕には読めなかった、読んでもらって、全部説明してもらった。カズハさん。貴女は、リンの敵ですか?味方ですか?」

 そう言って、マヤさんは後ろに飛んで、腰の短剣に手をかける。
 僕は慌てて、両手を上げる。

「僕は、味方・・・ううん。違う。僕は、僕の全部は、彼の物。僕は、彼の役に立ちたい。ただそれだけ、彼の事が好き。でも、彼を求めているわけじゃない」
「そう・・・嘘じゃないよね?」
「うん。僕は、彼のためなら何だってやる。死ねと言われたら、この場で死んでもいい。だから、お願い」

 ダメ。涙が出てくる。こらえないと、僕は、泣いていい立場じゃない。

「今は信じる。でも、裏切ったら殺す。どんな些細な事でも傷つけたら殺す」
「それでいい。僕の命を彼に預ける」

 マヤさんから急に、握手を求められた。
 ステータスの確認をしたいのだろうか?僕は、迷わず、マヤさんから差し出された手をにぎる。僕は、ステータスの確認はしない。マヤさんからしてもいいと言われるまで・・・。

 マヤさんから手を離してくれた。合格だったのだろうか?
 すごく可愛い笑顔を向けられた。

「わかった。ついてきて、待っている」

 マヤさんは、僕の少し前を歩く、僕は、それに着いていく状態だ。

「ミトナルさん。そう言えば、僕の名前言っていなかったね」
「えぇ」
「僕は、マヤ。マヤ=フリークス・テルメン。リン=フリークス・テルメンの義理の妹」

 え?義理?

「義理?」

 マヤさんが、横に並んでくる。

「そ、だから、結婚もできるし、子供作れる!」

 あっそうか、僕の事を・・・。

「大丈夫。僕は、彼の彼女じゃない。彼が僕を求めたら従う。でも、僕から、彼を求める事はない。してはダメ」

 緊張している。

「・・・そう・・・わかった。こっちだよ。あっ僕の事は、マヤって呼んでね。呼び捨てにして」
「うん。僕の事は、ミルと呼んで。親しい人は、そう呼んでいた」
「わか・・・ん。”呼んでいた”?」
「うん。両親・・・だけじゃなくて、僕を除く、村人全員。貴族のバカ息子の遊びで殺された。僕は、偶然村に居なくて助かった」
「え?あっごめんなさい」
「ううん。もう・・終わった・・・こと」
「違うの・・・僕・・・なんでもない。でも、ごめんなさい。ミル」
「ありがとう。マヤ」

 宿屋にたどり着いた。
 凛くんの部屋は知っている。そこまでまっすぐに向かった。

「リン。連れてきたよ」
「え?あっありがとう。入って」

 部屋に入った。
 そこには、何も変わらない笑顔でこちらを見ている。僕の初恋の人。

 僕の両親が、彼の両親を奪った。

 ダメ。泣いちゃダメ。でも、意識とは別に、涙が溢れてくる。

/*** リン=フリークス・マノーラ ***/

 マヤがいい出した事だ。
 自分が、和葉。ミトナルを連れてくるから、宿屋で待っていて欲しいと・・・。

 マヤが部屋から出ていって、20分くらいが経った頃だろうか?

「リン。連れてきたよ」

 すごく緊張してしまっている。
 声が上ずっていないといい。

「え?あっありがとう。入って」

 それだけは言えた。
 ドアが開けられて、先に、マヤが入ってくる。身長は、マヤより少し低いだろうか。青い髪の毛をすごく綺麗にまとめている。綺麗な黒目が僕を捕らえている。マヤは、可愛いという表現がぴったりだが、和葉・・・ミトナルは、綺麗で、美人という表現が合っている。

 僕を見て、目をそらさない。
 左目から、一筋の涙が流れている。それから、右目からも決壊するように涙が流れ出ている。

「和葉さん?」
「あっごめん。凛くん。鵜木和葉。こちらでは、ミトナル=セラミレラ・アカマース。ミルと呼んで欲しい」
「そうだね。僕は、リン=フリークス・テルメン。神崎凛です」

 次の言葉が出てこない。

「リンも、ミルも、とりあえず座ったら?」
「そうだね。ミル。よかったらベッドに座って」
「いいの?」

 ミルは、なぜかマヤを見る。マヤもどうぞという動作をする。ミルが、ベッドに座って、僕は、備え付けの椅子に腰を下ろす。マヤは、ミルの近くに座るようだ。

「ミル。情報交換したいけど問題ない?」
「ない。なんでも聞いて」
「え?いいの?」
「もちろん。知っている事は何でも話す。僕は、そのために来た、リンくんに会いたかった」
「あぁそうか、まずは、リンと呼んで、”くん”付けされるの好きじゃない」
「ごめん。”リン”でいい?」
「うん。ありがとう」

 さて、まずはどうしよう?
 そうだマヤの事を聞かないと・・・

「ミル。マヤが一緒でもいい?」
「僕は問題ない。リンが一緒の方がいいと判断するのなら、一緒でいい」
「わかった。マヤ。悪いけど、下で、飲み物を3つ買ってきて、その後は話に加わってほしい」
「わかった」

 マヤにお金を渡した。マヤが部屋から出ていくのを確認してから、ミルに問いかけた

「ミル。白い部屋で、僕に話しかけたよね?なんで?」
「僕は、リンに報いなければならない。だから・・・」
「そう・・・理由は、いずれ教えてくれる?」
「うん。ごめん」
「いいよ。それよりも、アドラがゲート開いてすぐに入ったよね?なんで?」

 これが一番疑問だった。
 僕に対してなにかあるのなら、安全を確認してから入るべきだったのではないか?行動が矛盾しているように感じていた。

「あの時は、説明できなかった。アドラが言っていた、1秒が1440倍になっている世界だって」
「そうだね」
「僕は、少し考えた。白い部屋が、地球の時間感覚なのか、こっちの世界なのかわからないけど、1秒で1日進む世界に飛び込む」
「うん」
「あの場所で、誰かが先に飛び込んで、それから6分程度躊躇していたら」
「あっそうか!それだけで、一年無駄に過ごしてしまう事になるのだね」
「うん。実際に、僕たちが飛び込んだ、後で、躊躇している皆に、アドラが似たような事を言ったらしい」
「そうか、ありがとう。これで、ミルの事を信用できる」
「え?」
「あと、ミルに聞きたい。きみは、日本に帰りたい?」

 少しの沈黙

「僕は、リンが望むのなら、喜んで死ぬ」
「え?」
「あっごめん。今のは忘れて」
「あぁわかった。なぁミル。僕の両親の事故」

 表情で解ってしまった。
 噂話程度で聞いていた。間違いないだろう。僕は、あの事故は別のなにかが隠されていると思っている。おかしなことだらけなのだ。もしかしたら、ミルが知っているのかも知れない。

「リン。これでよかった?」

 マヤが部屋に戻ってきた。

「あっうん。ありがとう。足りた?」
「うん。あれ?何も話していなかったの?」

 マヤがなんでそう思ったのかわからないけど、ちょうどよかった。
 話を変える丁度いいタイミングだ。

「そうだな。ミル。他の連中は?フェムは、重久だろう?」
「あ・・・うん。僕が、知っているのは、松田さん以外の女子だけ。昨日の段階で、8人揃った。それにリンが加わって9人になる」
「そうか・・・茂手木だけは、早く見つけたいのだけどな」
「え?なんで?茂手木くん?」

 僕の考えを述べる。
 僕は、地球に、日本に帰るつもりはない。心残りがないとは言えないけど、こっちに残る。マヤがすごく嬉しそうにしているのが印象的だ。

「立花たちは、10人揃うだろうけど、どうせ、数年もしたら、仲間割れしだすだろう?そのときに、女子がまとまっていれば、女子の誰かがトップになれる可能性がある。そうしたときに、僕をこっちの世界に残してほしいとお願いする事ができる。立花たちにはできない。3人選ぶよりも、2人選ぶ方が、心理的な負担は少ないだろう?気休めだろうけどね」
「そうだね。3人選ぶよりも、を選ぶほうがいいだろうね」
「ミル?」
「うん。僕も、こっちに残るつもり。あっちの世界に未練は・・・ない」

「そうか・・・それで、重久たちは何をしようとしているの?」
「え?”ギルド”を作ると言っていた」
「へぇギルドかぁ・・確かに、すぐには無理だろうけど、じわじわと効いてくるだろうな。ギルドの代表になれば、名声も得られるだろうからな」
「うん。フェムもそう言っていた。ギルドの代表に”リン”を考えてるみたい」

 はぁ?僕を?なんで?

「なんで?僕が?重久や瞳がやればいいのに?」
「うん。でも、”リン”が適任だと言っていた。それよりも・・・いくつか聞きたいけどいい?」
「僕に、答えられる事なら」
「まず、なんで、茂手木くんを見つけ出す必要がある?」

 茂手木の能力は過小評価すべきではない。

「一言では難しいし、ひとみや、重久たちは知らないかも知れないけど、茂手木が、多分このサバイバルのジョーカーだと思うよ」
「なんで?」
「ギルドを思いつく重久は、多分、異世界転生者とかが好きかもしれない。茂手木は、生粋のオタクで、知識が豊富というのはもちろん、中二病を患っていて、自分が異世界転生した時のために、余計な知識を大量に詰め込んでいる」
「は?」
「そうなるよね。多分、あいつ以上に、異世界に来て喜んでいる奴はいないと思うよ」
「・・・それで?」
「あぁミルは、砂糖の作り方や、塩・・・海水や塩湖からの作り方や、にがりのとり方、メイプルシロップの作り方や、味噌/醤油/日本酒やどぶろくの作り方知っている?ビールやウィスキーや他の蒸留酒の作り方は?小麦粉や薄力粉の作り方は?重久や瞳がいれば料理をするだろうけど、そのための包丁や調味料の調達は?あと、定番物とか言っていたけど、ポンプや馬車改良のためのサスペンションとか、できるかわからないけど、ボールペアリングとか、キャスターとか、水車の作り方とかも書いていたな」
「・・・それを、全部、茂手木くんが?」
「そうだよ。立花たちに見つかる前に確保すべきだと思わない?」
「たしかに・・・」
「でも、見つける事ができれば、釣るのはそれほど難しくはないと思うよ」
「どうして?」
「エルフや猫耳・犬耳の獣人族をあてがえば、縛れると思うからね」
「・・・わかった。もう一つ、リンは真命が違うのはなぜ?」

 僕もそれは気になっていた。
 みんなはなぜ真命を変えていないのか?
 最初は、皆と合流するためだと思っていたが、そうでもなさそうだ。

「ミルの”隠蔽”ではできないの?」
「うん。昨日やってみたけど、できなかった」
「そう・・・そうだ。ミル。僕を鑑定してみて、僕のステータスやスキルは覚えているよね?それと、僕が”神崎凛”だってわかったのはなぜ?」
「まずは、リンが凛くんだってわかったのは、ジョブとステータスの値、スキルを僕が覚えていたから、真命は違っていたけど、間違いないと思った」

 なぜか、マヤがうなずいている。
 いつ仲良くなったの?

「え?なんで?」

 鑑定したみたいだな。

「鑑定してみてくれた?」
「うん。ジョブも違うし、それに、スキルが?鑑定では見えるはず。たしかに、前は見えた。リンのスキルには、鑑定系と会話というスキルがあった」
「ミル。鑑定していい?」
「もちろん」

真命:鵜木和葉(1)
ジョブ:魔法剣士
体力:240
魔力:320
腕力:180
敏捷性:190
魅力:100
魔法:青(3)・赤(3)・黄(1)・灰(1)・黒(2)
スキル:隠蔽、(隠蔽)魔法の吸収、(隠蔽)剣技の吸収
ユニークスキル:(隠蔽)鑑定

 隠蔽されているスキルを見る事ができる。

「ミル。マヤに鑑定させてもいい?」
「いいです。マヤは、リンと同じ」
「マヤ。ミルを鑑定して、スキルとユニークスキルの数を教えて」
「わかった」

 マヤがミルを見ている。
 正直美少女二人が並んでいる眼福である。

「リン。3つと1つだよね」
「うん。ありがとう。今度は、ミルがマヤを鑑定してみて同じ事を教えて」

 さて、マヤの隠蔽されているエクストラスキルが見えるのか?

「スキルはないの?え?鑑定が有るはずだよね?」

 これで確実になった。
 僕の隠蔽と鑑定は、少なくても、ミルが持っている隠蔽と鑑定とは違うのだろう。鑑定は、なんとなくそう思っていたが、隠蔽まで別物だとは思わなかった。

 さて、これで、重久たちに協力する事ができるな。
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