4 / 57
消された証
しおりを挟む
俺は、消防士をしている。
よくある話だが、この職業をしていると、”バカ”に遭遇する事が多い。
今日も、高校生の”ガキ”が、公園で花火をしていると連絡が入った。”警察に言えよ”とも思うが、公園の遊具が燃えていると言われたら、緊急出動しなければならない。
俺は、大木の様にはなれないだろう。
やつは、中学生の時に、学校で自殺騒ぎがあり、それが後に事故だと言われて、最終的には、いじめの延長で殺されたと知った。その殺人がきっかけで、同窓会で数名が殺されるという事件があった。やつは、それがきっかけで、今でも収監されている犯人の所に、月イチで通っている。そして、独居老人が増えている田舎町で、独居老人をボランティアで休みの時に訪ね歩いている。
本人は、罪滅ぼしだと言っている。やつの同級生も何人か紹介されたが、心に傷を持つのか、少し考え方が”普通”じゃなかった。
今日、警察に引き渡した、”ガキ”も普通ではなかった。3人だったが、3人とも有名市立で、親や親族が、地元ならではの有名人だ。
「所長!」
「おぉおつかれ。引き渡しは終わったか?」
「えぇいつもどおりですよ。警察も受け取りを拒否していますからね」
「まぁそうだろうな。それで?」
「いつもどおりですよ」
「わかった。こちらの義務は果たしたのだから問題ない」
「お願いしますよ」
どうせ所長の所にも金が流れてきているのだろう。所長もクズだが、それを良しとしている時点で俺も同類なんだろうな。
「佐伯!」
消防署を出た所で、呼び止められた。
振り向いた所に居たのは、幼馴染と言っていいだろう。近藤だった
「なんだ。近藤。迎えに来てくれたのか?」
「あぁ高橋に連絡したら、少し遅れると言っていたからな。お前を拾ってから、高橋を拾えばいいだろうからな」
高橋も、同級生だ。3人でよくつるんでいろんな事をやった。
だが、俺たちも今年で30になる。この前集まった時に、誰がいい出したかわからないが、”あの場所”に、行ってみようという事になった。
「わかった。それで足は?俺が出すか?」
「お前の乗れるか?」
「乗れるとは思うけど、近藤が車で来ているのなら、そっちがいいよな?俺なら、消防署に停めておいても大丈夫だからな」
地方都市の消防署だけあって、職員は全員車で出勤してきている。ただ、夜勤明けで車の運転が怪しい場合は、消防署に車を置いたまま帰宅する事がよくある。土地だけは余っているので、職員なら駐車は無料だ。
「そうするか?」
「どこに停めている?」
「その先のコンビニ」
「了解。少し何か買ってから、高橋の所に行くか?」
「そうだな」
高橋が勤めている会社は、市内にある。車で15分くらいだ。国道を通るか、バイバスを通るか、地元の連中が使う。北街道を通るかだが、近藤はバイバスを通らないで、北街道を行くようだ。時間的に、丁度いいのだろう。
コンビニで買った、サンドイッチをつまみながら、近況報告をお互いに行う。
それほど頻繁に会っているわけではないが、社会人になってから、1年くらい会わなくても報告しあう近況報告は少なくなる。
ネットもある。そのために、自然と話は昔話になっていく。
俺と高橋は同じ中学で、近藤が隣の中学。高校が、俺と近藤が同じで、高橋が違う高校。小学校が同じとかではなく、小学校の時の塾の合宿に参加したときに仲良くなった。
3泊4日で、目的地の寂れた港町にある、山?にある”野外センター”で勉強をするというものだった。そこで、出会って意気投合した。
小学生らしく、かわいい悪戯も沢山やった。
そんな昔話しに花を咲かせていた。
それは、高橋を拾ってからも変わらない。
高橋は、約束の時間に間に合いそうに無いと言って、奴が働いている会社の入っているビルの地下にある。カフェで待っていて欲しいと言われた。
30分程度待っていると、高橋が現れた。小腹も空いていたので、3人で軽く食事を摂ってから、目的地に向かう事にした。
今から向かいのは、寂れた港町。
俺たちも、なんで向っているのか、正直わからない。俺たちが、小学生や中学生の時の、話に花を咲かせているのには、理由がある。
高校の時にも、学校は違ったが、よくつるんでいた。3人とも何か部活をやっていたわけではない。バイト先を同じにして、待ち合わせをして遊びに行ったりしていた。
高校3年生。夏の終わり。
---
「佐伯。進路どうする?」
「俺は、消防士になるよ。子供の時からの夢だから」
「へぇそんな事言っていたな」
子供の時からの夢と言っているが実際には違う。
爺さんから言われ続けて、爺さんが死んでしまった事で、他に選ぶ事ができなくなってしまった”呪い”の様な物だ。
「それにしても、佐伯が消防士とは笑えるな」
「なんだよ。そういうお前はどうする?」
近藤は、家業を継ぐのだろう。長男だったはずだし、妹だけだったはずだ。
「俺か?多分、高校卒業したら、水産加工会社に就職して、しばらくしたら、修行に出るだろうな」
おでん屋をやっている近藤としては、それが決められた道なのだろう。
それに反発する気持ちも有ったのだろう、俺たちと一緒にいる時間が多くなっている。
「そういや、高橋はどうする?」
「俺か?多分、学校の求人に適当に応募すると思うぞ」
「へぇそうなのか?」
「あぁ工業だからな。求人は多いし、殆どが就職だぞ。お前たちみたいなエリート様とは違うからな」
そんな事を言っているが、俺たちの高校よりも、高橋の入った”科”のほうが偏差値が高い。工業は、”科”ごとの偏差値の開きが大きい。
「あ!そう言えば、佐伯も高橋も、免許取ったよな?」
俺も、高橋も、5月産まれ。12月生まれの近藤と違って、夏休み中に免許が取得できる。
就職組として免許の取得が学校から認められるのだ。
「おぉ」「あぁ」
「!!それなら、遊びに行かないか?」
「いいけど、どこへ?」
「どこでもいい。車で出かけようぜ!」
「はぁ車?持ってないのだけど?」
「あぁ大丈夫。俺が免許取ったとき様に、爺さんが乗っていた車もらってある。おやじが言うには、保険も入っている・・・らしい」
近藤の爺さんの車は、Kカーだ。俺たちは、初めてのドライブで気分が高揚していた。
目的地はなく、なんとなく車を走らせている。今までは、親父やお袋の車に乗らないと行けない場所にも、行ってみた。
いつの間にか、辺りは暗くなってきていた。
時間には、21時近くになっていた。3人とも普段から遊び歩いているので、親たちは何も言わなくなっている。
「そうだ!」
「なんだ、近藤!」
「あぁワリぃワリぃ。クラスの女子共が話していた事を思い出した」
「誰だよ?」
「誰でもいいだろう」「どうせ、飯塚さんだろう?」「っ違う。確かに、飯塚さんの友達らしいけど・・・な」
「そんな事じゃなくて、ほら、飯塚さんたちの町」
「あぁバイバスを行った所にある港町だろう?」
「そうそう、その町の話って聞いたこと無いか?」
あの町には、いろいろな話しがある。
野外センターの仏舎利塔に出る火の玉。誰も使っていないのに、水浸しになるトイレ。港の儀式で死んだ男が海に現れる話。元武家屋敷だった場所で夜中に聞こえるうめき声。夜中にプールに佇む子供。中学校の男子更衣室の老婆。いじめを苦に自殺した女子生徒が現れる沢。一度入ったら出られない消波ブロック。
それぞれに逸話があり、心霊スポットになっている。
新しくここに、廃業した焼却炉が、夜中に使われている。と、言うものだ。市内なら浮浪者でも居るのだろうという結論になるが、その焼却炉がある場所が、山の中でトンネルを抜けた先にあり、車がなければいけない場所にある。そして、トンネルが車一台が通れるくらいで、もちろん灯りなどない。人が住める場所もない上に、焼却炉も壊れて居るし、事務所だった建物も、土砂崩れで埋まってしまっている。
その焼却炉で”何か”を燃やしているらしい。煙を目撃した人も居る。その上、土砂で事務所が埋まったときに死んでしまった。夫妻を見たという証言もある。この山を流れる沢が、いじめに苦しんだ女子生が自殺した沢の上流で、女子生徒とその両親では無いかとも言われている。
そんな話を、車の中で近藤がした。
「それじゃ俺たちでその心霊スポットの真贋を鑑定してやろう」
「はぁバカじゃないのか?」
しかし、高橋が運転する車は、バイバスに入っている。港町に向かう進路を取っているのだ。
バイパスに入ってしまうと、あの町まで一直線だ。20分くらいはかかるだろうが。近藤が、愛しの飯塚さんたちが話していた内容を披露した。
目的地はなかなか見つからなかったが、港町だが、すぐに山がある。狭い町だ。
話では、港から煙が見える山となっている。この町には、港は二箇所あり、一箇所は小さな港で、地元の人間も殆ど行かないらしい。もうひとつは、灯台があり船も係留してある。バイバスから側道に入る。上り坂になっている側道を上がって、左に曲がる。そして、すぐに右に曲がる。駅方面に向かう。駅で一休みする事にした。地図を広げて確認すると、目的地がわかった。
焼却炉は書かれていなかったが、港から近くて、山道があり、道幅が狭く、トンネルがある。その先が行き止まりになっている。途中に、プールがあり、さらに奥に行くと、お墓がある場所は、そこだけのようだ。
車を走らせる。
トンネルを抜ける。”何も”なかった。
「ほら、何も無い。学校が始まったら、飯塚さんたちに言ってやろう!」
近藤がこんな話を大声でしだす。普段よりも、大きな声は、何か意図があるのだろう。実際、俺たちの話し声は、普段よりも大きくなっている。怖いわけではない。何も無いのはわかっている。
「なんだデマか?」
「焼却炉なんて無いぞ!」
ゆっくり走っている車の中から周りを見るが、焼却炉は見当たらない。
5分くらい車を走らせたら、少し広場の様になっている所が見つかった。
一旦車を止めて、皆外に出る。
「Uターンして帰るか?」
「そうだな」
皆同じ気分なのだろう。
なんとなく気持ち悪い。怖いわけではない。気持ち悪いのだ。車のラジオもさっきから入らない。ライトを付けているのに薄暗く感じるのだ。この町で、霧が出るとはあまり聞かない。
3人が車に乗り込んで、一気にUターンしようとして、アクセルを踏み込む。
レーサがやるように、アクセルターンをしようとしたのだろ
「おぃ高橋。車がぁぁぁ」
横滑りを起こしている。
「わかっている!」
”ドン!”
「・・・」「え?」「・・・」
車が止まった。
”バン!バン!”
”ギャァァァァァ!!”
「なに?」「え?」
皆、あわてて車から飛び出た。
「何も無いよな?」
高橋が震える声で聞いてくる。
車の周りを見るが、砂利の上に、車が横滑りした後が残されているだけだ。
夜の街灯がない場所。周りを照らすのは、車のヘッドライトと室内灯だけだ。暗い。上を見上げると、星や月が出ているが、光が差し込んでいないかのように、辺りは真っ暗。漆黒の闇だ。
「確かに、人の声だったよな?」
「違う!そんな事はない!どこに、人なんていない!」
車の後部座席の窓に、”人の手”の跡がある。徐々に赤くなっている。
「高橋。近藤!後ろ!」
二人が後ろを振り向く。俺には、そこに”誰か”が居たように感じた。
「脅かすなよ」
「まったく、何も居ないよな・・・佐伯・・・どうした?」
俺は、左腕に激痛を感じる。何かに握られて居るようだ。すごい力で、上腕を掴まれている。
掴まれているところを、触るが何も無い。上腕が間違いなく締め上げられている。
引っ張られる。俺だけじゃなく、皆も、同じ上腕を抑えている。車からどんどん離れていく。
引きずられている。崖なのか、暗闇の方に、そこになにがあるのかわからないが引きずられる。
「やめろ!!!!」
ふっと上腕を握る力が弱まる。
高橋と近藤の腕を掴んで、車に戻る。
運転席に座って、エンジンをかける。
アクセルを踏み込むが車が前に進んでいる感覚が無い。
フロントガラスや窓ガラスに、手形が浮かび上がる。赤く、赤い手形が無数に出ている。
「どけぇぇぇ!!!」
前輪が空転していたのが、急激に地面をとらえて、車が急発進する。
どこを走ったのかわからないが、トンネルを抜ける。周りの音が戻ってくる感覚になる。
そうだ、トンネルを抜けてから、音が、虫の鳴き声が、エンジン音が、何も聞こえなかった。
音が聞こえるようになると、ガラスを覆っていた手形が綺麗に消えている。何もなかったかのように・・・。
山道をゆっくりと走りながら旧国道に戻る。街灯の下に車を止めた。
何もいわないで、車から出て、確認する。傷どころか、車には、なんの跡も残っていなかった。
高橋も近藤も、不思議そうに、気持ち悪そうに、車を確認している。
そうだ、上腕は?
掴まれていた場所を確認すると、4本の線が入っている。ただそれだけだ。太めの鉛筆で引いたような線だ。長さは、5cmくらいだろうか。高橋と今度にも、同じ跡が残されていた。左上腕に、4本の線ができている。どこかで、できた線なのだろう。そう考えるしかなかった。
それから、どうやって帰ったのか覚えていないが、てっぺん近い時間になってしまったが、お互いの家の前で別れた。
---
あれから12年。
運転は、近藤から高橋に変わった。
この辺りは、12年くらいじゃさほど変わらないのだろう。コンビニができたり、パチンコが潰れたり、その程度の変化はあるが、山道に入ってしまうと、何も変わっていないように思える。
「そういやぁ高橋。焼却炉ってあるのだろう?」
「あぁ調べた」
あれから、俺もしばらく新聞を読むようになった。2日が経過して、4日が経過して、1週間が経過したくらいでやっと落ち着いた。
高橋も気になって調べたようだ。焼却炉だけではなく、トンネル事やいろいろだ。
焼却炉が有ったのは事実だったらしいが、事務所とかはなく、近くの農家がゴミをまとめて燃やす場所になっていたようで、実際に、12年前にはすでに使うのを禁止されていたようだ。あの広場は、ゴム集積所になっていて、月に数回。あそこまで、ゴミ集積車が上がっていって、回収する事になっているらしい。焼却炉は、広場の下に有ったらしい。
そして、あの山のトンネルの先は、東京の物好きが購入しているらしい。トンネルの先は、私有地となって立ち入りが禁止されている。
そんな話をしていると、トンネルが見えてきた。
街灯が切れている状態では暗くて確認できないが、確かに、記憶にあるのと同じトンネルが目の前に見えてきている。
トンネルの中に入る。高橋がハイビームにする。そのまま、車が暗闇を照らしながら進んでいく。狭いトンネルを抜ける。記憶している場所はもっと上のハズだ。
「どうする?」
「せっかくここまで来たから歩くか?」
「そうだな」
車を、柵の前で止め、懐中電灯を手に持って外に出た。
こんなに、空が近かったか?
虫の鳴き声や、草木が揺れる音がしている。星や月明かりで十分明るい。柵を超えて、悪くなってしまっている道路を進む。
10分くらい進んだのだろうか?
広場になっている所が見えてきた。目的地だ。
広場の真ん中まで歩を進める。やっぱりなにもない。
「佐伯!!」
「あぁ?」
痛い。左上腕がすごく痛む。
なんだ?どうした?
横を歩いていたはずの近藤を見る。近藤は居た。近藤も左上腕を抑えている。
「近藤!?高橋は?」
高橋は、俺の左隣に居たはずだ。
懐中電灯で、地面を照らすが、足跡もなにもない。もともと、そこに存在していなかったかの様だ。
「近藤!高橋は、ど・・こ?え?こ・・・ん・・・ど・・・う??」
さっきまで近藤は居た、腕を抑えて、うずくまりそうになっていた。確かに居た、近藤も高橋もいなくなっている。
左上腕に激痛が走る。
『ボクハオマエダケハユルサナイ!』
誰だ!
『ボクヲワスレタヨウダネ。オモイダスマデタノシンデアゲルヨ』
指が!俺の指が!
『ユビゴトキデ!!ボクハオマエニハネトバサレタ!!』
はぁ誰でだよ。
俺の指・・・ぎゃぁぁぁ今度はなんだ!近藤!高橋!助けろよ!
『フタリハコナイヨ。セイカクニハコラレナイヨ。モウシンデイルヨ』
嘘だ!そんな・・・いてぇぇぇ何する。お前、出てこい!
『ホラショウコダヨ』
近藤と高橋。おまえた・・・ち?
えぇぇ??タぁもぉしちのいみにみちエぇピぃかいにすな??
『アァァコワレチャッタ。ナオセナイカナ?』
---
「大木。悪いな」
「いえ、大丈夫です。佐伯が無断欠勤ならしょうがないですよ」
「わるい。そのかわり、佐伯が見つかったら、休み交代させるからな」
「いえ、いいですよ。どこかで、抜けさせてもらえれば十分ですよ」
「そう言われてもな・・・そうか、そろそろ命日か・・・」
「え?あっその日だけは申し訳ないです」
「大丈夫わかっている。それに、昨日も、ムショに行ってきたのだろう?」
「え?あっはい。変わりないことだけ確認してきました」
「そうか・・・それにしても、お前の同級生ってよりも、同郷でクラスも同じなのだろう?」
「えぇそうですね」
「キャラクター豊かだよな」
「そうですね」
「刑事と、殺人犯と協力者?に、弁護士、お前も、普通なら濃い方なのだろう消防士なんてな。ITで有名になった奴も居るのだろう?医者と看護師や自衛官も居るよな?」
「えぇそうですね。あと、料理人と学校の先生ですかね」
「すごいって言葉が悪いけど、すごいな」
「えぇそうですね」
「それらが全員集まるのだろう?」
「いえ、二人はまだ来られませんからね。あと15年くらいですかね」
「そうだったな。お前たちは、許しているのか?」
「わかりません。少なくても、俺は桜と朝日の味方ですよ。もちろん、桜が許しているのなら、安城も飯塚も、やった事は最低だけど・・・」
「そうか・・・」
消防署の電話がなった。
出動要請ではなく、事務所の電話だ。
所長が電話に出る。小さい消防署だからそうなってしまうのだろう。
「大木。お前にだ!森下桜と名乗っている」
「桜?珍しいな」
大木は、やっていた書類作成を一旦止めて、電話に出る。
「桜?珍しいなどうした?」
『悪いな。靖。仕事中に・・・お前の家にかけたけど出なかったからな』
「いや。別にいいけどなんだ?」
『正式には、うちの上から連絡が行くと思うけど、佐伯が死体で見つかった。それも、少しだけまずい状況だ』
「え?どういう事だ?」
『さっきのは所長か?』
「あぁ」
『10分後くらいに少し出られるか?』
「大丈夫だ」
『ありがたい。美和も呼んでいる。あと、克己と沙菜もだ』
「そんな事なのか?」
『わからん・・・だから、お前たちの意見を聞きたい』
「わかった。それでどこにいけばいい?」
『10分後に、克己と沙菜が迎えに行く』
「わかった。都合を付けておく」
『たのむ』
大木は、電話を切った。
「所長。少し出てきていいですか?桜がなにか、個人的に相談したいって事ですので、連絡はつくようにしておきます」
「あぁいいぞ。本当なら、今日お前は休みだからな」
「ありがとうございます」
着替えた所で、克己が運転する車が、消防署の敷地内に入ってきた。
「悪いな。克己。沙菜も久しぶり」
3人は、簡単に挨拶を交わした。
実際には、沙菜と大木は、3年ぶりくらいの再開だが、そんな感じはしない。
車は、5分くらい走って、国道沿いにある漫画喫茶に入った。
克己が手続きをして、カラオケルームに通された。克己や桜がよく使う方法だ。内緒の話をするのに丁度良いのだと言っていた。
すでに全員揃っていた。
「それで桜どういう事だ?佐伯が死んだ事は、まぁ良くはないが、正直どうでもいい。少しだけまずいってどういう事だ」
桜は、全員を見回すようにしてから
「大木以外には、ちらっと言ったが、佐伯消防士が見つかった場所が、あの場所で、真一に頼んで買ってもらった土地だ」
「桜?大丈夫なのか?」
「あぁ真一には連絡した。そっちに警察が行くかもしれないってな」
「そうか、でも奴なら大丈夫だろう?どうせ、デスマ中だろ?克己!」
「真一の奴は、桜の連絡をいい事に、俺に仕事を振ってきやがった」
「受けるのか?」
「あぁ」
「すまん。桜。それで?」
「”まずい”のはこれからだ、あの場所では無いが、あの場所から下がった場所の広場があるだろう?」
皆がうなずく
「あそこで、死体が4つ。一つは白骨化していた。見つかった」
「その中の一人が、佐伯って事だな。あぁそして、残りの二人は、克己と真一の知り合いだ」
皆が沈黙する。
「白骨化した死体は、12年前に行方不明になった、克己と真一の学校の者だ」
「桜。12年前って、行方不明事件か?」
話は皆知っている。克己と美和に関しては、警察に何度も尋ねられている。
今回死体で発見された、佐伯/近藤/高橋からいじめられていた。一人の生徒が夏休み明けに居なくなったのだ。佐伯たちが何か知っていると思っていたが、3人は知らないと言っていた。確たる証拠がないまま、行方不明で処理されてしまっていた。
彼らが大切にしている。昔、寺が有った場所の近くを、流れている沢までは、距離があるために、今回はそこまで警察の手が入ったり、マスコミが入る事は無いだろうが、どこからか嗅ぎつける者が居ないとも限らない。
それに、彼らとあの山の関係を知られたら、興味本位で取材と称した暴力行為を受けるかもしれない。
「桜。それほどなのか?」
「そうだな。早ければ、今日の夕方のニュースで取り上げられるだろうな」
死んだ二人は、左腕が切り落とされていた。致命傷は、首を深く切られた事らしい。
そして白骨は、一部、高橋の車の荷台から発見された。掘り起こされた場所も特定している。そこには、車で轢かれた跡が残る衣服も見つかっている。佐伯は、自分の腹に切断に使ったと思われるボロボロの包丁を指していた。近くには、のこぎりも見つかっている。土の着いたスコップも一緒に見つかっている。
警察は、佐伯が高橋と近藤を殺した後で、自殺したと見ている。
12年前の行方不明事案に関係した3人が、それを確認しようとして、仲間割れをしたのではないか?
奇妙だが、それで説明ができる。
奇妙と言えば、3人の左上腕の同じ位置に、一つの黒い線が残されていた。
fin
よくある話だが、この職業をしていると、”バカ”に遭遇する事が多い。
今日も、高校生の”ガキ”が、公園で花火をしていると連絡が入った。”警察に言えよ”とも思うが、公園の遊具が燃えていると言われたら、緊急出動しなければならない。
俺は、大木の様にはなれないだろう。
やつは、中学生の時に、学校で自殺騒ぎがあり、それが後に事故だと言われて、最終的には、いじめの延長で殺されたと知った。その殺人がきっかけで、同窓会で数名が殺されるという事件があった。やつは、それがきっかけで、今でも収監されている犯人の所に、月イチで通っている。そして、独居老人が増えている田舎町で、独居老人をボランティアで休みの時に訪ね歩いている。
本人は、罪滅ぼしだと言っている。やつの同級生も何人か紹介されたが、心に傷を持つのか、少し考え方が”普通”じゃなかった。
今日、警察に引き渡した、”ガキ”も普通ではなかった。3人だったが、3人とも有名市立で、親や親族が、地元ならではの有名人だ。
「所長!」
「おぉおつかれ。引き渡しは終わったか?」
「えぇいつもどおりですよ。警察も受け取りを拒否していますからね」
「まぁそうだろうな。それで?」
「いつもどおりですよ」
「わかった。こちらの義務は果たしたのだから問題ない」
「お願いしますよ」
どうせ所長の所にも金が流れてきているのだろう。所長もクズだが、それを良しとしている時点で俺も同類なんだろうな。
「佐伯!」
消防署を出た所で、呼び止められた。
振り向いた所に居たのは、幼馴染と言っていいだろう。近藤だった
「なんだ。近藤。迎えに来てくれたのか?」
「あぁ高橋に連絡したら、少し遅れると言っていたからな。お前を拾ってから、高橋を拾えばいいだろうからな」
高橋も、同級生だ。3人でよくつるんでいろんな事をやった。
だが、俺たちも今年で30になる。この前集まった時に、誰がいい出したかわからないが、”あの場所”に、行ってみようという事になった。
「わかった。それで足は?俺が出すか?」
「お前の乗れるか?」
「乗れるとは思うけど、近藤が車で来ているのなら、そっちがいいよな?俺なら、消防署に停めておいても大丈夫だからな」
地方都市の消防署だけあって、職員は全員車で出勤してきている。ただ、夜勤明けで車の運転が怪しい場合は、消防署に車を置いたまま帰宅する事がよくある。土地だけは余っているので、職員なら駐車は無料だ。
「そうするか?」
「どこに停めている?」
「その先のコンビニ」
「了解。少し何か買ってから、高橋の所に行くか?」
「そうだな」
高橋が勤めている会社は、市内にある。車で15分くらいだ。国道を通るか、バイバスを通るか、地元の連中が使う。北街道を通るかだが、近藤はバイバスを通らないで、北街道を行くようだ。時間的に、丁度いいのだろう。
コンビニで買った、サンドイッチをつまみながら、近況報告をお互いに行う。
それほど頻繁に会っているわけではないが、社会人になってから、1年くらい会わなくても報告しあう近況報告は少なくなる。
ネットもある。そのために、自然と話は昔話になっていく。
俺と高橋は同じ中学で、近藤が隣の中学。高校が、俺と近藤が同じで、高橋が違う高校。小学校が同じとかではなく、小学校の時の塾の合宿に参加したときに仲良くなった。
3泊4日で、目的地の寂れた港町にある、山?にある”野外センター”で勉強をするというものだった。そこで、出会って意気投合した。
小学生らしく、かわいい悪戯も沢山やった。
そんな昔話しに花を咲かせていた。
それは、高橋を拾ってからも変わらない。
高橋は、約束の時間に間に合いそうに無いと言って、奴が働いている会社の入っているビルの地下にある。カフェで待っていて欲しいと言われた。
30分程度待っていると、高橋が現れた。小腹も空いていたので、3人で軽く食事を摂ってから、目的地に向かう事にした。
今から向かいのは、寂れた港町。
俺たちも、なんで向っているのか、正直わからない。俺たちが、小学生や中学生の時の、話に花を咲かせているのには、理由がある。
高校の時にも、学校は違ったが、よくつるんでいた。3人とも何か部活をやっていたわけではない。バイト先を同じにして、待ち合わせをして遊びに行ったりしていた。
高校3年生。夏の終わり。
---
「佐伯。進路どうする?」
「俺は、消防士になるよ。子供の時からの夢だから」
「へぇそんな事言っていたな」
子供の時からの夢と言っているが実際には違う。
爺さんから言われ続けて、爺さんが死んでしまった事で、他に選ぶ事ができなくなってしまった”呪い”の様な物だ。
「それにしても、佐伯が消防士とは笑えるな」
「なんだよ。そういうお前はどうする?」
近藤は、家業を継ぐのだろう。長男だったはずだし、妹だけだったはずだ。
「俺か?多分、高校卒業したら、水産加工会社に就職して、しばらくしたら、修行に出るだろうな」
おでん屋をやっている近藤としては、それが決められた道なのだろう。
それに反発する気持ちも有ったのだろう、俺たちと一緒にいる時間が多くなっている。
「そういや、高橋はどうする?」
「俺か?多分、学校の求人に適当に応募すると思うぞ」
「へぇそうなのか?」
「あぁ工業だからな。求人は多いし、殆どが就職だぞ。お前たちみたいなエリート様とは違うからな」
そんな事を言っているが、俺たちの高校よりも、高橋の入った”科”のほうが偏差値が高い。工業は、”科”ごとの偏差値の開きが大きい。
「あ!そう言えば、佐伯も高橋も、免許取ったよな?」
俺も、高橋も、5月産まれ。12月生まれの近藤と違って、夏休み中に免許が取得できる。
就職組として免許の取得が学校から認められるのだ。
「おぉ」「あぁ」
「!!それなら、遊びに行かないか?」
「いいけど、どこへ?」
「どこでもいい。車で出かけようぜ!」
「はぁ車?持ってないのだけど?」
「あぁ大丈夫。俺が免許取ったとき様に、爺さんが乗っていた車もらってある。おやじが言うには、保険も入っている・・・らしい」
近藤の爺さんの車は、Kカーだ。俺たちは、初めてのドライブで気分が高揚していた。
目的地はなく、なんとなく車を走らせている。今までは、親父やお袋の車に乗らないと行けない場所にも、行ってみた。
いつの間にか、辺りは暗くなってきていた。
時間には、21時近くになっていた。3人とも普段から遊び歩いているので、親たちは何も言わなくなっている。
「そうだ!」
「なんだ、近藤!」
「あぁワリぃワリぃ。クラスの女子共が話していた事を思い出した」
「誰だよ?」
「誰でもいいだろう」「どうせ、飯塚さんだろう?」「っ違う。確かに、飯塚さんの友達らしいけど・・・な」
「そんな事じゃなくて、ほら、飯塚さんたちの町」
「あぁバイバスを行った所にある港町だろう?」
「そうそう、その町の話って聞いたこと無いか?」
あの町には、いろいろな話しがある。
野外センターの仏舎利塔に出る火の玉。誰も使っていないのに、水浸しになるトイレ。港の儀式で死んだ男が海に現れる話。元武家屋敷だった場所で夜中に聞こえるうめき声。夜中にプールに佇む子供。中学校の男子更衣室の老婆。いじめを苦に自殺した女子生徒が現れる沢。一度入ったら出られない消波ブロック。
それぞれに逸話があり、心霊スポットになっている。
新しくここに、廃業した焼却炉が、夜中に使われている。と、言うものだ。市内なら浮浪者でも居るのだろうという結論になるが、その焼却炉がある場所が、山の中でトンネルを抜けた先にあり、車がなければいけない場所にある。そして、トンネルが車一台が通れるくらいで、もちろん灯りなどない。人が住める場所もない上に、焼却炉も壊れて居るし、事務所だった建物も、土砂崩れで埋まってしまっている。
その焼却炉で”何か”を燃やしているらしい。煙を目撃した人も居る。その上、土砂で事務所が埋まったときに死んでしまった。夫妻を見たという証言もある。この山を流れる沢が、いじめに苦しんだ女子生が自殺した沢の上流で、女子生徒とその両親では無いかとも言われている。
そんな話を、車の中で近藤がした。
「それじゃ俺たちでその心霊スポットの真贋を鑑定してやろう」
「はぁバカじゃないのか?」
しかし、高橋が運転する車は、バイバスに入っている。港町に向かう進路を取っているのだ。
バイパスに入ってしまうと、あの町まで一直線だ。20分くらいはかかるだろうが。近藤が、愛しの飯塚さんたちが話していた内容を披露した。
目的地はなかなか見つからなかったが、港町だが、すぐに山がある。狭い町だ。
話では、港から煙が見える山となっている。この町には、港は二箇所あり、一箇所は小さな港で、地元の人間も殆ど行かないらしい。もうひとつは、灯台があり船も係留してある。バイバスから側道に入る。上り坂になっている側道を上がって、左に曲がる。そして、すぐに右に曲がる。駅方面に向かう。駅で一休みする事にした。地図を広げて確認すると、目的地がわかった。
焼却炉は書かれていなかったが、港から近くて、山道があり、道幅が狭く、トンネルがある。その先が行き止まりになっている。途中に、プールがあり、さらに奥に行くと、お墓がある場所は、そこだけのようだ。
車を走らせる。
トンネルを抜ける。”何も”なかった。
「ほら、何も無い。学校が始まったら、飯塚さんたちに言ってやろう!」
近藤がこんな話を大声でしだす。普段よりも、大きな声は、何か意図があるのだろう。実際、俺たちの話し声は、普段よりも大きくなっている。怖いわけではない。何も無いのはわかっている。
「なんだデマか?」
「焼却炉なんて無いぞ!」
ゆっくり走っている車の中から周りを見るが、焼却炉は見当たらない。
5分くらい車を走らせたら、少し広場の様になっている所が見つかった。
一旦車を止めて、皆外に出る。
「Uターンして帰るか?」
「そうだな」
皆同じ気分なのだろう。
なんとなく気持ち悪い。怖いわけではない。気持ち悪いのだ。車のラジオもさっきから入らない。ライトを付けているのに薄暗く感じるのだ。この町で、霧が出るとはあまり聞かない。
3人が車に乗り込んで、一気にUターンしようとして、アクセルを踏み込む。
レーサがやるように、アクセルターンをしようとしたのだろ
「おぃ高橋。車がぁぁぁ」
横滑りを起こしている。
「わかっている!」
”ドン!”
「・・・」「え?」「・・・」
車が止まった。
”バン!バン!”
”ギャァァァァァ!!”
「なに?」「え?」
皆、あわてて車から飛び出た。
「何も無いよな?」
高橋が震える声で聞いてくる。
車の周りを見るが、砂利の上に、車が横滑りした後が残されているだけだ。
夜の街灯がない場所。周りを照らすのは、車のヘッドライトと室内灯だけだ。暗い。上を見上げると、星や月が出ているが、光が差し込んでいないかのように、辺りは真っ暗。漆黒の闇だ。
「確かに、人の声だったよな?」
「違う!そんな事はない!どこに、人なんていない!」
車の後部座席の窓に、”人の手”の跡がある。徐々に赤くなっている。
「高橋。近藤!後ろ!」
二人が後ろを振り向く。俺には、そこに”誰か”が居たように感じた。
「脅かすなよ」
「まったく、何も居ないよな・・・佐伯・・・どうした?」
俺は、左腕に激痛を感じる。何かに握られて居るようだ。すごい力で、上腕を掴まれている。
掴まれているところを、触るが何も無い。上腕が間違いなく締め上げられている。
引っ張られる。俺だけじゃなく、皆も、同じ上腕を抑えている。車からどんどん離れていく。
引きずられている。崖なのか、暗闇の方に、そこになにがあるのかわからないが引きずられる。
「やめろ!!!!」
ふっと上腕を握る力が弱まる。
高橋と近藤の腕を掴んで、車に戻る。
運転席に座って、エンジンをかける。
アクセルを踏み込むが車が前に進んでいる感覚が無い。
フロントガラスや窓ガラスに、手形が浮かび上がる。赤く、赤い手形が無数に出ている。
「どけぇぇぇ!!!」
前輪が空転していたのが、急激に地面をとらえて、車が急発進する。
どこを走ったのかわからないが、トンネルを抜ける。周りの音が戻ってくる感覚になる。
そうだ、トンネルを抜けてから、音が、虫の鳴き声が、エンジン音が、何も聞こえなかった。
音が聞こえるようになると、ガラスを覆っていた手形が綺麗に消えている。何もなかったかのように・・・。
山道をゆっくりと走りながら旧国道に戻る。街灯の下に車を止めた。
何もいわないで、車から出て、確認する。傷どころか、車には、なんの跡も残っていなかった。
高橋も近藤も、不思議そうに、気持ち悪そうに、車を確認している。
そうだ、上腕は?
掴まれていた場所を確認すると、4本の線が入っている。ただそれだけだ。太めの鉛筆で引いたような線だ。長さは、5cmくらいだろうか。高橋と今度にも、同じ跡が残されていた。左上腕に、4本の線ができている。どこかで、できた線なのだろう。そう考えるしかなかった。
それから、どうやって帰ったのか覚えていないが、てっぺん近い時間になってしまったが、お互いの家の前で別れた。
---
あれから12年。
運転は、近藤から高橋に変わった。
この辺りは、12年くらいじゃさほど変わらないのだろう。コンビニができたり、パチンコが潰れたり、その程度の変化はあるが、山道に入ってしまうと、何も変わっていないように思える。
「そういやぁ高橋。焼却炉ってあるのだろう?」
「あぁ調べた」
あれから、俺もしばらく新聞を読むようになった。2日が経過して、4日が経過して、1週間が経過したくらいでやっと落ち着いた。
高橋も気になって調べたようだ。焼却炉だけではなく、トンネル事やいろいろだ。
焼却炉が有ったのは事実だったらしいが、事務所とかはなく、近くの農家がゴミをまとめて燃やす場所になっていたようで、実際に、12年前にはすでに使うのを禁止されていたようだ。あの広場は、ゴム集積所になっていて、月に数回。あそこまで、ゴミ集積車が上がっていって、回収する事になっているらしい。焼却炉は、広場の下に有ったらしい。
そして、あの山のトンネルの先は、東京の物好きが購入しているらしい。トンネルの先は、私有地となって立ち入りが禁止されている。
そんな話をしていると、トンネルが見えてきた。
街灯が切れている状態では暗くて確認できないが、確かに、記憶にあるのと同じトンネルが目の前に見えてきている。
トンネルの中に入る。高橋がハイビームにする。そのまま、車が暗闇を照らしながら進んでいく。狭いトンネルを抜ける。記憶している場所はもっと上のハズだ。
「どうする?」
「せっかくここまで来たから歩くか?」
「そうだな」
車を、柵の前で止め、懐中電灯を手に持って外に出た。
こんなに、空が近かったか?
虫の鳴き声や、草木が揺れる音がしている。星や月明かりで十分明るい。柵を超えて、悪くなってしまっている道路を進む。
10分くらい進んだのだろうか?
広場になっている所が見えてきた。目的地だ。
広場の真ん中まで歩を進める。やっぱりなにもない。
「佐伯!!」
「あぁ?」
痛い。左上腕がすごく痛む。
なんだ?どうした?
横を歩いていたはずの近藤を見る。近藤は居た。近藤も左上腕を抑えている。
「近藤!?高橋は?」
高橋は、俺の左隣に居たはずだ。
懐中電灯で、地面を照らすが、足跡もなにもない。もともと、そこに存在していなかったかの様だ。
「近藤!高橋は、ど・・こ?え?こ・・・ん・・・ど・・・う??」
さっきまで近藤は居た、腕を抑えて、うずくまりそうになっていた。確かに居た、近藤も高橋もいなくなっている。
左上腕に激痛が走る。
『ボクハオマエダケハユルサナイ!』
誰だ!
『ボクヲワスレタヨウダネ。オモイダスマデタノシンデアゲルヨ』
指が!俺の指が!
『ユビゴトキデ!!ボクハオマエニハネトバサレタ!!』
はぁ誰でだよ。
俺の指・・・ぎゃぁぁぁ今度はなんだ!近藤!高橋!助けろよ!
『フタリハコナイヨ。セイカクニハコラレナイヨ。モウシンデイルヨ』
嘘だ!そんな・・・いてぇぇぇ何する。お前、出てこい!
『ホラショウコダヨ』
近藤と高橋。おまえた・・・ち?
えぇぇ??タぁもぉしちのいみにみちエぇピぃかいにすな??
『アァァコワレチャッタ。ナオセナイカナ?』
---
「大木。悪いな」
「いえ、大丈夫です。佐伯が無断欠勤ならしょうがないですよ」
「わるい。そのかわり、佐伯が見つかったら、休み交代させるからな」
「いえ、いいですよ。どこかで、抜けさせてもらえれば十分ですよ」
「そう言われてもな・・・そうか、そろそろ命日か・・・」
「え?あっその日だけは申し訳ないです」
「大丈夫わかっている。それに、昨日も、ムショに行ってきたのだろう?」
「え?あっはい。変わりないことだけ確認してきました」
「そうか・・・それにしても、お前の同級生ってよりも、同郷でクラスも同じなのだろう?」
「えぇそうですね」
「キャラクター豊かだよな」
「そうですね」
「刑事と、殺人犯と協力者?に、弁護士、お前も、普通なら濃い方なのだろう消防士なんてな。ITで有名になった奴も居るのだろう?医者と看護師や自衛官も居るよな?」
「えぇそうですね。あと、料理人と学校の先生ですかね」
「すごいって言葉が悪いけど、すごいな」
「えぇそうですね」
「それらが全員集まるのだろう?」
「いえ、二人はまだ来られませんからね。あと15年くらいですかね」
「そうだったな。お前たちは、許しているのか?」
「わかりません。少なくても、俺は桜と朝日の味方ですよ。もちろん、桜が許しているのなら、安城も飯塚も、やった事は最低だけど・・・」
「そうか・・・」
消防署の電話がなった。
出動要請ではなく、事務所の電話だ。
所長が電話に出る。小さい消防署だからそうなってしまうのだろう。
「大木。お前にだ!森下桜と名乗っている」
「桜?珍しいな」
大木は、やっていた書類作成を一旦止めて、電話に出る。
「桜?珍しいなどうした?」
『悪いな。靖。仕事中に・・・お前の家にかけたけど出なかったからな』
「いや。別にいいけどなんだ?」
『正式には、うちの上から連絡が行くと思うけど、佐伯が死体で見つかった。それも、少しだけまずい状況だ』
「え?どういう事だ?」
『さっきのは所長か?』
「あぁ」
『10分後くらいに少し出られるか?』
「大丈夫だ」
『ありがたい。美和も呼んでいる。あと、克己と沙菜もだ』
「そんな事なのか?」
『わからん・・・だから、お前たちの意見を聞きたい』
「わかった。それでどこにいけばいい?」
『10分後に、克己と沙菜が迎えに行く』
「わかった。都合を付けておく」
『たのむ』
大木は、電話を切った。
「所長。少し出てきていいですか?桜がなにか、個人的に相談したいって事ですので、連絡はつくようにしておきます」
「あぁいいぞ。本当なら、今日お前は休みだからな」
「ありがとうございます」
着替えた所で、克己が運転する車が、消防署の敷地内に入ってきた。
「悪いな。克己。沙菜も久しぶり」
3人は、簡単に挨拶を交わした。
実際には、沙菜と大木は、3年ぶりくらいの再開だが、そんな感じはしない。
車は、5分くらい走って、国道沿いにある漫画喫茶に入った。
克己が手続きをして、カラオケルームに通された。克己や桜がよく使う方法だ。内緒の話をするのに丁度良いのだと言っていた。
すでに全員揃っていた。
「それで桜どういう事だ?佐伯が死んだ事は、まぁ良くはないが、正直どうでもいい。少しだけまずいってどういう事だ」
桜は、全員を見回すようにしてから
「大木以外には、ちらっと言ったが、佐伯消防士が見つかった場所が、あの場所で、真一に頼んで買ってもらった土地だ」
「桜?大丈夫なのか?」
「あぁ真一には連絡した。そっちに警察が行くかもしれないってな」
「そうか、でも奴なら大丈夫だろう?どうせ、デスマ中だろ?克己!」
「真一の奴は、桜の連絡をいい事に、俺に仕事を振ってきやがった」
「受けるのか?」
「あぁ」
「すまん。桜。それで?」
「”まずい”のはこれからだ、あの場所では無いが、あの場所から下がった場所の広場があるだろう?」
皆がうなずく
「あそこで、死体が4つ。一つは白骨化していた。見つかった」
「その中の一人が、佐伯って事だな。あぁそして、残りの二人は、克己と真一の知り合いだ」
皆が沈黙する。
「白骨化した死体は、12年前に行方不明になった、克己と真一の学校の者だ」
「桜。12年前って、行方不明事件か?」
話は皆知っている。克己と美和に関しては、警察に何度も尋ねられている。
今回死体で発見された、佐伯/近藤/高橋からいじめられていた。一人の生徒が夏休み明けに居なくなったのだ。佐伯たちが何か知っていると思っていたが、3人は知らないと言っていた。確たる証拠がないまま、行方不明で処理されてしまっていた。
彼らが大切にしている。昔、寺が有った場所の近くを、流れている沢までは、距離があるために、今回はそこまで警察の手が入ったり、マスコミが入る事は無いだろうが、どこからか嗅ぎつける者が居ないとも限らない。
それに、彼らとあの山の関係を知られたら、興味本位で取材と称した暴力行為を受けるかもしれない。
「桜。それほどなのか?」
「そうだな。早ければ、今日の夕方のニュースで取り上げられるだろうな」
死んだ二人は、左腕が切り落とされていた。致命傷は、首を深く切られた事らしい。
そして白骨は、一部、高橋の車の荷台から発見された。掘り起こされた場所も特定している。そこには、車で轢かれた跡が残る衣服も見つかっている。佐伯は、自分の腹に切断に使ったと思われるボロボロの包丁を指していた。近くには、のこぎりも見つかっている。土の着いたスコップも一緒に見つかっている。
警察は、佐伯が高橋と近藤を殺した後で、自殺したと見ている。
12年前の行方不明事案に関係した3人が、それを確認しようとして、仲間割れをしたのではないか?
奇妙だが、それで説明ができる。
奇妙と言えば、3人の左上腕の同じ位置に、一つの黒い線が残されていた。
fin
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。
でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。
けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。
同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。
そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる