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第三十一章 本腰
第三百十七話
しおりを挟む幹部会議の当日になった。
最初は、シロも出席すると言っていたのだが、だるいようなので、幹部会議は欠席して、部屋で休むようにした。シロには、ステファナとレイニーがついていることになった。
俺には、”必要ない”と言ったのだが、シロから”フラビアとリカルダを連れて行って欲しい”と言われた。ルートガーたちが作る議事録とは別に、フラビアとリカルダがシロに報告を行う為にも、幹部会議に出席させて欲しいということだ。
「ツクモ様」
どうやら迎えが来たようだ。
幹部会議は、俺もルートガーもそれほど乗り気ではなかった。ルートガーは、必要性を感じていただけに、渋々開催を考えていた。
しかし、幹部会は大々的に開催されることになった。ルートガーではなく、クリスティーネが張り切って根回しや準備を行った。
ルートガーが、話したがらなかったから、イェレラに話を聞いた。
どうやら、クリスティーネは長老会議に出席しても、ルートガーは俺の秘書的な役割を行っているだけで積極的に発言を行っていない。ルートガーが仕切っている姿を見たいようだ。
この幹部会議は、ルートガーが主役の様な感じになっている。
俺が指示を出して、ルートガー以外の者が取り仕切ることで、ルートガーが主役になるように仕向けた。ルートガーは抵抗したのだが、クリスティーネをこちら側に引き込んだ事で、ルートガーが折れた。
俺は中央に座って、左右をフラビアとリカルダが守るようにして立つ。
俺の斜め右前方にルートガーが立って、幹部会議の進行と説明を行う。
クリスティーネは、ルートガーの横に座ることに決まった。
俺が”王”だとしたら、ルートガーは”宰相”の役割を持つことになる。
そして、宰相の役割を果たすための舞台装置として、幹部会議が用意された。
ルートガーの横に居るクリスティーネが周りを誘導して作り上げた。幹部会議の前日に、ルートガーが珍しく俺を食事に誘ってきた。ルートガーと”サシ”で食事に行くと言ったら、シロは笑いながら俺を送り出したが、他の者はいい顔をしなかった。
ルートガーが俺を殺して、”全部を手に入れる”ことを考えていた場合を考えたようだ。シロは、『”カズトさんを殺さなくても、くれ”と言えば、チアル大陸の全部をルートガーに譲渡しますよ。僕の旦那さんは?』というセリフで周りを黙らせた。
シロが言っている事は正しい。
俺が望むのは、シロと眷属たちと過ごすことで、その為に場を整えただけだ
会議はルートガーの主導で進む。
どうやら根回しは終わっているようだ。
ルートガーが”宰相”の立場で説明や質問に答えても、文句を言ってくる者は少ない。それどころか、俺に直答を求める声を諭すものまで現れた。
本当に、楽なのはいいが・・・。
暇だ。
クリスティーネの周りには、ヴィマとヴィミが立って居るだけだ。
イェレラとイェルンは、ルートガーに資料を渡している。奥の部屋に、資料が置いてあるのか、質問があると待たせて資料を取りに走る。
ラッヘルとヨナタンは、給仕をまとめているようだ。幹部会議は一つの大きなテーブルを囲むようになっている。給仕も、ぱっと見た感じで20名くらいは居る。奥に控えている者を入れれば、倍以上は居るだろう。しっかりと、指示を出さなければ、不手際に直結してしまう。
ロッホスとイェドーアの姿が見えないことから、控室に居るのだろう。資料を探す手伝いをしているのだろう。
会議は、進んだ。
皆が、新種の情報は持っていた。
新種と思われていた物が、”できそこない”で新種は進化した魔物だと知らされて、驚いている。
行商を行っている者や、大陸の外に出る事がある者たちからは、どこか納得した声が聞こえてくる。ルートガーが、その声を拾い上げて説明を求めた。
やはり、船持ちの行商や他の大陸に出ている者たちを囲っている者には、アトフィア教の連中が声を掛けていたようだ。
これは、確定かな?
肘掛を3回叩いた。
最初に気が付いたのは、クリスティーネだ。
「ツクモ様?」
「確定だ。アトフィア教の監視を強める」
「わかりました。ルート」
ルートガーが後ろを振り向いて、俺を見てから頷いている。
どうやら、ルートガーも同じ結論に至ったようだ。
アトフィア教からの依頼は、行政区を通すように指示が出される。
反発があるかと思ったが、一人の反発だけで終わった。商流として考えればアトフィア教からの仕事は多くない。そのうえ、船を使った”蟲毒”を仕掛けてくるような荷物を運ぶのは、金銭的なメリットが無ければ受ける者は居ない。
「ルートガー殿!」
質問の手が上がる。
行商人を束ねている者のようだ。座っている位置から考察しても、それほど席次は高くないだろう。中間よりも、少しだけ下だと思える。
質問の内容は、アトフィア教から直接の商流だけでよいのか?という話だ。
中間業者を挟まれたらアトフィア教だと解らないで仕事を受けてしまう事が考えられる。その場合の対処が質問内容だ。
「書類を取り交わせばいいだろう?」
「・・・」
「書類の取り交わしは、絶対の条件だ。その時に、荷がアトフィア教に関係している場合には、判明した時点で契約を破棄すると記載すればいい」
別の者が手を上げる。
破棄した場合の賠償の話だが、ルートガーは考慮の余地がないと言って、賠償はしない。
「クリス」
「なんでしょうか?」
「ルートの言っている事は正しい。賠償はしないが、アトフィア教の荷物を破棄して情報を持ってきた者には、褒賞を出すように伝えてくれ」
近くの席に座る上位者には俺の声が聞こえている。
もちろん、ルートガーにも聞こえているのだろう。
クリスティーネが俺の言葉を伝えるまで、ルートガーは” 賠償はしない”という言葉を繰り返すだけだ。
”賠償”はしないが、情報には褒賞を出す事で落ち着いた。
ただ、あとから荷を運んだことが発覚した場合には、規模に関わらずに”罰”を与えると明言した。
そこで、また別の商人から質問があがる。
知らずに荷を運んだ場合の処遇だが、”知らなかった”は通用しないというのがルートガーの見解だ。上位者は、俺に視線を送るが、俺が動かないことで、”知らない”で運んだ場合でも、同じ”罰”が適用されることに決まった。
上位者が賛成した事で、商人たちも渋々だが従った感じだ。
幹部会議と言っても、所詮はパワーバランスの上で成り立っている会議だ。
派閥の理論は通用するが、俺が”NO”と言えば、”黒い物も白”だと言い換えることができる。それが嫌なら出て行けばいい。
複数のダンジョン・コアと、自給率が100%以上になってしまっている大陸だからできる力技だ。
幹部会議は閉幕した。
クリスティーネが嬉しそうにしているので、ルートガーとしては成功なのだろう。
控室に戻った。
「ルート」
長椅子に座って、ルートガーを呼ぶ。
書類の整理は、後にしてもらおう。
「なんだ?」
「解っているのだろう?」
「だから、言葉にして、指示をだしてくれ!」
「商人の何人かは、アトフィア教に買収されている」
「あぁ・・・。質問をしてきた商人だろう?」
「他にも、何人か怪しいのが居る」
「解っている。集めた商人には、見張りを付けている」
「行政区にも入り込んでいるな」
「そうだな。面倒だが・・・。何か、方法はあるのか?」
「ある。”ある”が面倒だぞ?」
「言ってみろ」
俺の説明を聞いて、ルートガーは嫌そうな表情をする。
しかし、俺のアイディア以上の方法が思いつかないようだ。
クリスティーネが入れた飲み物を飲み干してから、俺を見て残念そうな表情を浮かべる。
「わかった。書類の精査を始めると伝える」
「そうだな。実際には、”書類の精査”を始めると言えば、自滅する奴が出てくるだろう。俺は、行政区に入り込んだことよりも、入り込んだ経緯が気になる」
「そうだな。辿れる線があればいいのだが・・・」
「そこまで、愚かではないだろう?」
ルートガーは残念そうな表情を崩して、俺の言葉を肯定するように頷いた。
さて、行政区の大掃除を行うのか・・・。
荒れるかな?
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