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第三十章 新種
第三百二話
しおりを挟む魔法陣が歪んだ。魔法陣が消えてしまえば、脱出が難しくなってしまう。
ダメなのか?
「ライ!」
『カズ兄。終わった』
ライからの返事が聞こえてきたと同時に、魔法陣が正常に戻った。
それだけではなく、壁が崩れ始めていたのも止まった。
コアの吸収が終わったのか?
チアルが作り出したコアと融合したのか?
ライからの呼びかけに従って、コアが置かれているはずの、コアルームに移動する。
一つのコアが明滅している。
コアの横には、ライがいつもの姿で待っていた。
「ライ」
『カズ兄。新しいダンジョン・コアに、名付けをお願い』
コアを見ると、明滅の間隔が早くなっている。待っているようだ。
「そうだな・・・。お前の名前は、ダゾレだ」
名付けを行うと、ダンジョン・コアと繋がった。
以前は解らなかったが、眷属が増えてきたことで、同時に行うことができるようになり、繋がる感覚が掴めるようになってきた。
『ありがとうございます。マスター』
会話が成立する。
楽が出来そうだ。ライ経由での設定だと、手間が二重になってしまう。
鉱山の設定を行わなければならない。それに、チアル大陸と違って、俺たちが近くには居ない。攻略を禁止するのも難しい。中層程度で止まっているから、攻略は不可能だとは思うが、深層部分は攻略が不可能な状況にしておきたい。
全部を俺が設定するのは少しだけ面倒だな。
その前に・・・
「ダゾレ。お前には、このダンジョンの管理を頼むことになる」
『わかりました』
役割をはっきりさせる必要がある。
サブ・コアの役割は作らない。ダゾレ・コアに管理と運営を行わせる。
そして、チアルたちに管理と運営の手伝いを行わせたい。
「ライ。ここから、チアルに連絡ができるか?」
『できる』
チアルに繋がるのなら、運営段階になったら手伝わせれば楽になりそうだ。
デ・ゼーウに任せる方法もあるが、良くも悪くもアイツは、自分の街のことが中心になってしまって、ダンジョンを資源として考えるだろう。それでもいいが、何か問題が発生した時に対応が出来なければ意味がない。
「ダゾレも、チアルやペネムやティリノとの連絡ができるようにしてくれ」
『はい。情報共有は終了しております』
情報共有が終わっているのなら、運用に関するデータも貰っているのだろう。
チアルとか、考えていなかったが、ダゾレなら・・・。
「そうか・・・。ダゾレは、ダゾレになる前の記憶はあるのか?」
『あります。意思があるのかと問われたら不明です』
そうか、ダンジョン・コアには記憶があるのだな。もしかしたら、”ログ”的な物なのかもしれないが、意識はないのか・・・。
「わかった。このダンジョンの方向性は決めてあったのか?」
『設定はされていません』
「方向性の指定は誰がしていた?」
『禁則事項です』
やはりダメか?
神の領分なのか?それとも、もっと別の”何か”か?
新種の情報が得られるかと思ったが、難しそうだな。ダンジョンの中には、新種は居なかった。居たかもしれないが、気が付かなかった。
ダンジョンの謎はゆっくり考えて行こう。
まずは、ゼーウ・・・。デ・ゼーウからの要望を叶えないと・・・。
「中階層は現状維持。深層は、チアルのサポートを得て堅牢にしてくれ、攻略が不可能な状態でも構わない」
『わかりました』
「低階層は、鉱山階層に変更。できるか?」
鉱山も種類が必要になるだろう。
それに、鉱山だがダンジョンでは、採掘ができるようになるだけで、”山”が配置されるわけではない。ドロップの設定が可能になるだけだ。
マップの生成と魔物はダゾレ・コアが決めればいいと思っているが・・・。
『可能です。中層のリソースを割り振る必要があります。中層では、ドロップがなくなります』
「中層では、ドロップを皆無に設定。採取は、採取されてしまったら終わりだ」
リソースの不足は、しょうがない。
中層のドロップがなくなるのは都合がいい。どうせ、攻略が不可能な状況にするのだから、ドロップがなくなれば、美味しくないと判断して、潜る連中が減る可能性もある。
低階層で、必要な鉱石の採掘が出来れば、中層以降には潜らなくなるだろう。
『わかりました』
「鉱石の種類は?」
『銅・銀・金・鉄鉱・岩塩・鉛・白金・石炭・ミスリル』
「ミスリルと金は必要ない。岩塩・石炭・鉄鉱・銅・銀の順番で構成してくれ」
『3階層で構成します』
三階層で構成というのは・・・。
1-3階層は、岩塩
4-6階層は、石炭
と、構成するのだな。
別に、俺が潜るわけじゃないから、初期設定としては十分だろう。あとは、ドワーフたちと話し合ってデ・ゼーウがどの階層を目的として潜るのか決めればいい。金とミスリルは、いろいろな意味でダンジョンに価値が出来てしまう。価値が上がるのは避けた方がいいだろう。
どうせ、デ・ゼーウの事だから、占有はしないだろうけど、それに近い状況には持っていくだろう。
「頼む。あと、このダンジョンの攻略完了を証明する方法は、魔法陣で帰る必要があるのか?」
攻略の証明を考えないと・・・。
俺たちが攻略したと宣伝してもいいが、面倒なことにもなりそうだから、デ・ゼーウに雇われた者が攻略した。証拠は”これだ”とか出来れば嬉しい。無ければ、最下層のボスの素材を渡せばいいのか?
『ダミー・コアをお持ちください』
何か、方法があるようだ。
「ダミー・コア?それは、何ができる?」
『はい。私に繋がるコアです。ダンジョンの生成は行いません。ダンジョンの状況が把握できるコアです。ダンジョンに潜っている人数が解ります。魔物の数が増えすぎた場合に警告が発せられます』
魔物の数も、ダンジョン・コアが制御できるから、実質ダンジョンの状況が解るだけのコアか?
デ・ゼーウに渡して問題がない物か?
ダミーと言ってもコアだ。俺以外が持っていて問題になるようなら、見せるだけになってしまう。
「俺以外が、ダミー・コアを持っていて問題はあるか?」
『ありません。私のマスターは、”カズト・ツクモ”だけです。攻略されて、破壊されるまで、マスターにお仕えいたします』
「わかった。ダミー・コアの準備を頼む。二つ準備できるか?」
これで、問題はない。
帰るだけだ。
何か、忘れている感じがする・・・。気のせいか?
『可能です。”ダミー・コアの生成を始めます。13分35秒必要です”』
13分?
「たのむ」
『開始しました。低階層の変更の準備が整いました。マップは自動生成しますか?』
そうだ。低階層のマップと魔物の配置を忘れていた。
「そうだな。複雑なマップは必要ない。魔物の配置も自動で頼む」
『マップを自動生成します。反映には、19時間47分23秒。魔物の再配置が発生します。人の有無で時間は前後します』
そうか、人が居れば、マップの再配置が出来ない。
魔物の配置もリセットしなければならないな。
大きな問題にはならないが、俺が外に出てから、デ・ゼーウと話をしている時に、再配置するのが理想だな。
ダミー・コアから、連絡が出来れば・・・。ダメだな。出来てしまうと、いろいろ設定が崩れてしまう。
まずは、再配置に時間差が作られるかを確認してからだ。
「わかった。俺たちが、ダンジョンから出てから、6時間後からの開始は可能か?」
『可能です』
「6時間後から、低階層の再構成を実行。その後、チアル・コア。ティリノ・コア。ペネム・コアと、相談して、深層を強化。リソースが足りなくなった場合に、チアルからの支援は可能なのか?」
深層の強化は必須だ。
リソースが足りなくなったら、チアルから回したい。チアルと繋がっているのなら可能だと思う。
『チアル・コアの許可が必要です』
「ライ。チアルに指示してくれ」
『わかった』
『ありがとうございます』
チアルから了承が伝わったのだろう。
チアル大陸からでも、ダゾレに繋がることも解ったから、チアルを通しての連絡にはなるが、中央大陸の情報もある程度は仕入れられることになった。
ダンジョン・コアの解析やダンジョンのことを考えてみるのも必要になってきそうだな。
でもまずは・・・。
「よし。帰るか!」
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