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第二十九章 鉱山
第二百九十七話
しおりを挟む船の中で、食事を摂って、カイとウミとライと遊んでいたら、扉がノックされた。
「ツクモ様」
ルートガーの声だ。
船長に余裕ができたのか?
「いるよ?」
「はぁ・・・」
「鍵は開けてある」
「はぁ・・・。入るぞ?」
ルートガー。ため息はないだろう、ため息は・・・。
「あぁ」
扉が開けられて、ルートガーと従者が入ってきた。
後ろには、乗船の時に挨拶をした船長ともう一人が付き従うように入ってきた。
少しだけ、本当に少しだけ狭く感じてしまう。
ルートガーを抗議の意味を込めて睨んでおく。ルートガーも意味が解るのだろう、肩をすくめて手を軽く上げる。
「ルート?」
「わかっている。まずは、顔つなぎをしてから、場所を変える。いいよな?」
「まかせる」
船長と一緒に来たのは、船専属の護衛のリーダーだと挨拶をしてきた。乗船の時に、挨拶をしなかったのは、護衛として船の立ち入り禁止の部分を監視していたためだと言われた。別に、怒っていないし、挨拶がないくらいで、機嫌が悪くなったりしない。
船長は大丈夫に見えるが、リーダーが俺を避けているように見えるのは理由が解らない。
「はぁ・・・。おい、自分が、怖がられていると自覚が無いようだな?」
避けられているのではないのか?
怖がられる要素があるとは思えない。気配は抑えている。強くは見えないと思う。乱暴な言動もしていない。
恐れられているとしたら、ルートガーが悪いに違いない。
「あ?ルート。俺が怖いか?」
「そうだな。俺は、お前を知っている。理不尽な行いはしない。それだけは褒めてやる」
「おぉぉ。ルートが・・・」
”デレた!?”
「煩い。黙れ!はぁ・・・。お前の横に居るのは誰だ?」
「横?あぁカイとウミだな。可愛いだろう?」
ウミが俺の膝の上に乗ってくる。
サイズは小さくなっているから、顎の下を撫でてやると、可愛く鳴いてくれる。
「そうだな・・・。フォレストキャットの進化体だな。進化と言っていいのか解らないが、そうだな」
そうか、”猫”という認識から変えられていなかった。
フォレストキャットから、何度か進化をしている。
「あぁ。”イリーガル”種だな」
エルフ大陸で聞いた所では、”イリーガル”種と言っておけば、大丈夫だと教えられた。正式名称は、それほど意味を持たない。らしい。”イリーガル”種だと、脅威ではすまないとか・・・。
「何度も言っているよな?」
「ん?」
「フォレストキャットは、単体でも”死”を覚悟する。その上”イリーガル”体だぞ?怖がるなというのか?」
「・・・。そうだな」
リーダの顔がひきつっている理由は理解ができた。
カイとウミとライは、船を襲ってきた魔物を倒している。感謝されるのならわかるが、恐れられる理由にはならないと思う。その間に、リーダーだけではなく、船の護衛にも怪我を負わせていない。
「はぁ・・・。まぁいい。それで、お前が聞きたい事だけど、この人数だ。ここは狭い。それに・・・」
船長が、ルートガーの言葉を引き継ぐように話を続ける。
「ツクモ様。まずは、船を守っていただいて、ありがとうございます」
船長は、俺を見てから、深々と頭を下げる。
部下の前で、頭を下げられる人物のようだ。ルートガーが選んだ船だから間違いはないと思っていたが、”当たり”なのだろう。
「それは、成り行きだ。それに、カイとウミとライの運動に丁度良かった。それで?」
「・・・。運動ですか・・・。ルートガー殿から、お話をお聞きしました。少しだけ、極秘な情報もあります。遮音と防音を施した部屋でお願いします」
「わかった」
リーダーが居るのは、船長の護衛なのだろう。
そして、ルートガーの従者たちが居るのは、ルートガーの護衛なのだろうか?
リーダーの視線が、カイとウミとライと俺を行き来している。
「そうか、わかった。カイ。ウミ。ライ。待機だ。魔物が出たら、ライ。連絡を頼む。基本は、今までと同じで殲滅だ。そうだ!船長」
カイとウミとライに指示を出す時に、抜けている情報がある。情報を聞いてから、指示を出した方がいい。船の上で無ければ、カイとウミとライが自由に動いても最悪な状況にはならない。
「はい?」
「この辺りの海域では、”海賊”に属する者たちは居るのか?」
「以前は・・・。近頃は、海賊と呼ばれる行為を行う者は皆無です」
「そうか・・・。ウミ。近づいてくる船が居ても攻撃はするな。カイとライに確認しろ。カイとライは、俺かルートガーか従者に確認をしろ」
3体から、承諾する鳴き声が聞こえる。
ウミは、渋々だが、カイとライから怒られて、了承をしてくれた。
「ありがとうございます」
船長が頭を深々と下げた。
船長が俺を案内するように先に歩いて、俺が続いた。
ルートガーとリーダも一緒に来るようだ。従者たちは、俺の部屋の前と、会議を行う部屋の前で待機をするようだ。
船長室の近くにある部屋に案内された。
護衛の一人だろうか?女性が待っていた。俺たちの姿を見ると、頭を下げて、奥に入っていった。
「飲み物は、自分で持っている。海上だと、基本はワインだろう?」
俺の言葉を受けて、奥に入っていた女性が顔を出して、リーダに確認をしていた。俺が人数分の飲み物を用意することになった。果実水だ。好みは聞いていない。ルートガーには、クリスティーネが好きな物を出してやる。船長とリーダには、俺が飲もうと思っていた果実水を思いっきり冷やして出す。
話が長くなるようなら、摘まめる物が欲しいとだけ伝えた。
女性が部屋から出てから、船長が果実水を口に含んでから、話を始めた。
新種は海域にも出現する。
陸に出る新種よりは弱いようだ。船長の話に補足を入れるように、リーダーが教えてくれた。海域で出る新種は、群れで出る場合が多いが、単体での戦闘力は陸で対峙した新種の半分程度に感じたらしい。
「船長。確認をしたい」
「なんでしょうか?」
「新種。俺たちは、”できそこない”と呼んでいるが・・・。船長たちが、新種を初めて確認をしたのは、アトフィア大陸から中央大陸に向かう途中だったのだな?」
時系列での話ではなかったが、順番に話を聞いていた感じでは、アトフィア大陸から少しだけ離れた場所で、新種に襲われた。
初めて見たとリーダが説明している。最初は、アトフィア教の連中が、実験体を逃がしたのかと考えた。
「そうです」
「時期は?」
「時期ですか?」
船長は、リーダーに確認するような視線を向ける。
リーダーが、船長の代わりに時期を覚えていた。何か、関連付けて覚えていたのだろう。
「正確な時期は、覚えていませんが、ツクモ殿が大陸をチアルと宣言される前だと思います」
ルートガーを見る。
そうか、ルートガーと戦った位の時期か?
「ルート。チアル大陸に”できそこない”が来たのは?」
「長老衆が初めて認識したのは、お前の結婚が発表されてからだ」
そうか、俺への報告の前に、長老衆への報告が入った案件だったのか?
ん?
俺が初めてでは無いのだな?別に問題はないけど・・・。
「船長」
ルートガーが、俺から視線を外して、俺の正面に座っている船長に問いかける。
「なんでしょうか?」
船長も、俺からの質問ではないのに、少しだけびっくりした表情をするが、俺と話すよりも、真剣な表情をするのはなぜなのだろう?
「中央大陸でも、他の大陸でも、新種は出ているのですね?」
俺が聞きたかった事を、ルートガーが聞いてくれた。もう黙って居てもよいかもしれない。
「はい。全ての大陸か・・・。と、聞かれると、解りません」
「十分です。撃退はしているのですか?」
「逃げられない時だけです」
新種で出会ったら、逃げるが”基本”らしい。撃退はしていない。
リーダーからの補足も入る。
”できそこない”は、海域に出る物は、動きが遅いことが多い。
進化が終わっていないのか?それとも、海域では”できそこない”が本当の、”できそこない”にしかならないのか?
船長とリーダの話は、現場で・・・。経験則だ。数をカウントしているわけでも、調査を行っているわけではない。やはり、新種の調査は必須だな。俺たちの、チアル大陸を脅かす存在になってしまうのは困る。
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