292 / 323
第二十九章 鉱山
第二百九十二話
しおりを挟むファビアンの話を聞いても、よく解っていないことだけが解った。
「本当か?」
ファビアンが知っている限りだという前提だが、中央大陸にはドワーフ”だけ”が住む街や村は存在しない。エルフの様に、大陸を支配しているわけではない。
「はい。過去には、一つの大陸をドワーフ族が支配していましたが・・・」
「どうした?」
「いえ、ご存じだと・・・」
「いや。俺は、歴史に詳しくない。説明してくれると助かる」
「わかりました」
ファビアンが知っている。
中央大陸とドワーフ族の関わりと、ドワーフ族の公になっている歴史を教えてもらった。
「なぁドワーフは馬鹿なのか?」
「え?」
「やつらは、鍛冶をしなければ、タダの酒飲みだろう?」
「え?あっ・・・。はい」
ドワーフ族への評価は、認めるべきではないが、認めるしかないのだろう。
酒飲みなのは、皆が知っていることだ。ノービスのガーラントも、酒を飲んでいない時は、鍛冶をしている。どちらかだろう?ナーシャが甘味絶対主義なのと同じで、ガーラントは酒:鍛冶だと辛うじて鍛冶が勝つが、鍛冶が出来なければ、酒100%になる。間違いない。誰が保証しなくても、俺が保証する。
「ふぅ・・・。現状が理解できた。それで、その元ドワーフ大陸は、今はどうなっている?誰も居ないのか?」
「え・・・。わかりません。居ないと・・・・」
「調べないとダメだな。鉱石が残っていないのなら、ドワーフは居ないだろうけど、アトフィア教が隠れ家に使っていたら厄介だ」
ファビアンもそこまで考えていなかったようだ。
ドワーフ大陸が放棄されてから、既に数百年が経過している。現状は・・・。ガーラントに聞いても解らないだろう。ノービスの連中に依頼として、確認してきてもらうか?ナーシャが反対するか?面倒なことになった。
そして、元ドワーフ大陸にあった鉱山から鉱石が出なくなると、ドワーフ族は各地に散らばって、鉱山を漁った。枯渇すると、他の鉱山に移動する。
ドワーフたちは、各地を荒らして回った。
俺たちの大陸には?
もちろん、ドワーフ族はチアル大陸にも上陸していた。
しかし、当時は鉱山が見つからずに無用な大陸だと切り捨てたようだ。同じ理由で、エルフ大陸にもドワーフ族は上陸して、すぐに出て行った。
それが今になって、チアル大陸に上陸を求めてきた。
ファビアンの話では、ドワーフ族の集団は勝手にチアル大陸に上陸を試みた。
しかし、入国は審査をしている状況だ。
ドワーフ族は、正直に・・・。
『鉱山を支配するため』だと言い切った。そして、『鉱山はドワーフ族が神から与えられた物だ。長といえ、人族が管理すべきではない。ドワーフ族で優秀な我たち一族に管理をさせろ』と言ってきたようだ。
もちろん、上陸は許さずにそのまま帰している。
ドワーフ族は、チアル大陸にある鉱山がダンジョン由来の物だと知って、他の大陸にあるダンジョンを探したようだが、鉱石が効率よく出るのは、チアル大陸だけだと”勝手に”結論付けている。
確かに、チアル大陸にあるダンジョンなら鉱石は枯渇しない。
それだけではなく、産出する量の調整ができる。
だからこそ、ドワーフ族に管理を任せられない。
「ファビアン。それで、どうしたらいい?」
「え?あの・・・。ツクモ様?」
そうだよな。
ファビアンは、対応に困って、俺の所に来た。
チアル大陸を追い出されたドワーフ族は、チアル大陸と繋がりがあるデ・ゼーウ街に行ったのだろう。
迷惑な話だ。後で、補填と保証の話をするように、ルートガーに言っておこう。
俺が、屋敷に籠っている間に、ルートガーには外遊で出てもらおう。
次いでに、ドワーフの問題も解決してもらおう。
ダメだ。
ルートガーは、文句を言いながら受けてくれるが・・・。
ドワーフ族の件は、後で考えよう。
まずは、中央大陸というよりも、デ・ゼーウ街との関係だ。
「ファビアン。デ・ゼーウ街は、何を望んでいる?」
「え?」
「ドワーフ族の問題だけなら、書簡で済む。貴殿が来て、わざわざ俺に面会を求めてきた。チアル大陸の情報は持っているのだろう?腹の探り合いも、たまにはいいけど、毎回だと胃もたれの原因になる。それに、面倒だ」
ファビアンは、態度は変えていないが、目線が動いている。
直球で問いかけられるとは思っていなかったのだろう。
「ツクモ様」
「まとまった量の鉱石を・・・」
「支払いができるほどのスキルカードはあるのか?ドワーフ族が作る武器や防具ならいらない」
国ではないが、大陸と街との取引だ。
情で動けない。それに、俺が認めると、それで動いてしまう。商人たちがチアル大陸で買い付けて、デ・ゼーウ街に持っていけばいい。そうしない理由が何かあるのだろう。検討は付いている。割に合わないのだろう。
鉱石は、そのままでは使えない。不純物が多すぎる。ダンジョン産の鉱石でも同じだ。
ガーラントに確認したときには、不純物だけなら”マシ”だと言われた。どうやら、チアル大陸から産出される鉱石は、一部を除いて、混じった状態になっているようだ。鉄と銀が混じっている。二つ以上が混じり合っている。だから、他の大陸に持っていくにしても費用の計算が難しい。
黙って、俯いているファビアンを見つめる。
部屋には、俺の指がカップを弾く音だけが規則正しく響いている。
考え事をしている時にやってしまう。昔からの癖だ。転移しても、癖は変わらないのだな。
「ツクモ様。デ・ゼーウには・・・」
「支払えるだけのスキルカードは無いのだろう?だったらどうする?」
「・・・」
「そもそも、デ・ゼーウが鉱石を必要としている理由は?」
カップを叩く指を止めて、ファビアンを見つめる。
黙って俯いてしまった。
通常の街が鉱石を求めるのは、いくつかの理由が考えられる。鉱石を取引として求められる場合。街で武器や防具や日用品を作成するための材料が枯渇している場合。
他にも、考えられることはあるが、全てが必要な物は加工品で、鉱石を求める必要はない。
取引として求められている場合には、デ・ゼーウが”鉱石を持っている”ことが前提になってしまう。
鉱石が産出する場所は近くに無いのは、周知なことで、取引を持ちかける方に問題がある。
「ツクモ様。デ・ゼーウ街は・・・」
そこまで話して黙ってしまった。
「どこかに侵略を考えているのか?」
「ち、違います!前デ・ゼーウとは違います!そのようなことは・・・」
「それなら、言えるよな?もしかして、森か?それでも、武器や防具を買い求めればいいだけだ?違うか?」
「・・・。違いません。しかし・・・」
「なんだよ?はっきりしないな」
少しだけイライラしてきた。
「ツクモ様。我ら、デ・ゼーウ街が求めているのは・・・」
そりゃぁ無理だ。
鉱石を求めるのは意味が解らないが、作られた物を買い付けて持っていくのは無理だ。そもそも、デ・ゼーウが求める物は、もう作っていない。と、思う。
それに、今ならドワーフが滞在している。鉱石を融通すれば、作らせる事ができると考えたのだろう。
種族の問題でなく・・・。
地域差からくる価値の違いが、ここまで大きくなっているとは思わなかった。
チアル大陸では、武器や防具は大量に出回っている。
それらを、買い付けようとしても、他大陸の人には難しい問題がある。輸送の問題を解決したとして、売れ筋が違いすぎて、数が出回っていない。武器や防具だけではなく、日用品も同じで、既にチアル大陸では作られていない物もあるようだ。
そのために、チアル大陸の鍛冶職に注文を出すのなら、鉱石を仕入れて街に居る者たちに作らせる方がいいだろうと考えたようだ。
0
お気に入りに追加
1,656
あなたにおすすめの小説
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!
どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入!
舐めた奴らに、真実が牙を剥く!
何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ?
しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない?
訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、
なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト!
そして…わかってくる、この異世界の異常性。
出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。
主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。
相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。
ハーレム要素は、不明とします。
復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。
追記
2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。
8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。
2024/02/23
アルファポリスオンリーを解除しました。
俺は善人にはなれない
気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。
はぁ?とりあえず寝てていい?
夕凪
ファンタジー
嫌いな両親と同級生から逃げて、アメリカ留学をした帰り道。帰国中の飛行機が事故を起こし、日本の女子高生だった私は墜落死した。特に未練もなかったが、強いて言えば、大好きなもふもふと一緒に暮らしたかった。しかし何故か、剣と魔法の異世界で、貴族の子として転生していた。しかも男の子で。今世の両親はとてもやさしくいい人たちで、さらには前世にはいなかった兄弟がいた。せっかくだから思いっきり、もふもふと戯れたい!惰眠を貪りたい!のんびり自由に生きたい!そう思っていたが、5歳の時に行われる判定の儀という、魔法属性を調べた日を境に、幸せな日常が崩れ去っていった・・・。その後、名を変え別の人物として、相棒のもふもふと共に旅に出る。相棒のもふもふであるズィーリオスの為の旅が、次第に自分自身の未来に深く関わっていき、仲間と共に逃れられない運命の荒波に飲み込まれていく。
※第二章は全体的に説明回が多いです。
<<<小説家になろうにて先行投稿しています>>>
元勇者パーティーの雑用係だけど、実は最強だった〜無能と罵られ追放されたので、真の実力を隠してスローライフします〜
一ノ瀬 彩音
ファンタジー
元勇者パーティーで雑用係をしていたが、追放されてしまった。
しかし彼は本当は最強でしかも、真の実力を隠していた!
今は辺境の小さな村でひっそりと暮らしている。
そうしていると……?
※第3回HJ小説大賞一次通過作品です!
『特別』を願った僕の転生先は放置された第7皇子!?
mio
ファンタジー
特別になることを望む『平凡』な大学生・弥登陽斗はある日突然亡くなる。
神様に『特別』になりたい願いを叶えてやると言われ、生まれ変わった先は異世界の第7皇子!? しかも母親はなんだかさびれた離宮に追いやられているし、騎士団に入っている兄はなかなか会うことができない。それでも穏やかな日々。
そんな生活も母の死を境に変わっていく。なぜか絡んでくる異母兄弟をあしらいつつ、兄の元で剣に魔法に、いろいろと学んでいくことに。兄と兄の部下との新たな日常に、以前とはまた違った幸せを感じていた。
日常を壊し、強制的に終わらせたとある不幸が起こるまでは。
神様、一つ言わせてください。僕が言っていた特別はこういうことではないと思うんですけど!?
他サイトでも投稿しております。
ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い
平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。
かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる