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第二十七章 玩具
第二百七十三話
しおりを挟むモデストとステファナが戻ってくるのを待って、エルフ大陸から離れた。
「旦那様」
ステファナが、シロの世話を終えたのか、モデストと二人で戻ってきた。
「少しだけ、待ってくれ、リヒャルトが持ってきた資料に目を通しておきたい」
「はい。何か、お持ちしましょうか?」
「そうだな。カイかウミが、果実を持っていたと思う。適当に貰って、絞ってくれ」
「かしこまりました」
ステファナが、部屋から出ていく、俺は出港する前からなぜか船長室を占拠して書類に目を通している。
ルートから渡された書類らしい。決済をしなければならない書類の情報が書かれている。
決済は、戻ってから行えば大丈夫だと書かれているが、情報が無ければ、一枚の書類を読み込むのには時間が必要になってしまう。そのために、ルートは二度手間になるのがわかったうえで、情報をまとめた書類を作らせたようだ。
小さな問題は多発しているけど、長老やルートたちが対応してくれている。
まだまだ行政区も立ち上げたばかりで、人材が不足しているのは理解している。
書類の殆どが、人材が居ないことに起因している問題だ。
ふぅ・・・。
「旦那様。休憩を取られてはどうでしょうか?」
ステファナが果実を絞って持ってきてくれた。色からは、何か解らない。何種類か混ぜた可能性もある。味見はしているのだろう。それに、よほどでなければ、飲めない状況にはならない。
カップを受け取って、口に含むと、甘味を感じる。柑橘系のさわやかな甘さだ。そのあとで、舌の上に残るのは、ベリー系の味だろう。やはりミックスしているようだ。冷やしたのはスキルを利用したのだろう。俺は持っていないけど、シロが持っていたかもしれない。
無くなったら、ダンジョンに潜ればあるだろうし、レベル3のスキルなら、誰かが持っているだろう。
ルートの報告書にもあるが人材の育成は急務だな。
拠点の成り立ちを考えれば、人材が不足するのは当然だよな。いくつかの町や村を吸収したけど、その時には、”人族主義”な者たちを粛清したり、追放したり、排除してしまった。居てもらっても困るという側面があった。実際に、徴用するかと聞かれると、”NO”だから、間違った対応ではない。
元々は、獣人たちが中心となっている。脳筋が多くなってしまうのは、種族的にしょうがない。それに、教育を受けていないのだから、文官としての能力が開花していないのは当然だ。
ルートからも悲鳴に似た説明が書かれている。
無視し続けると、クリス当たりからも文句がきそうだ。なんとかしてやりたいが、現状でできることは少ない。
迂遠な方法だけど、商人を誘致して、商人の中から文官候補を募るか?
方向性としては間違っていないとは思うが・・・。
商人連中を信じるのも怖いな。利益誘導とか平気でやるだろう。ルートの負担が増えるだけだと、こっちにくる文句の質が変わりそうで面倒だ。
文官を二つに分けるか?
ルートの報告書では、商取引の文官が不足していて死にそうだと書かれている。
商業部門を大きくして、行政の下に置けば、ルートたちは管理に集中すればよくなる。今でも似たような体制だけど、今後はもっと商業部門の権限を大きくすれば、商人からも”利権”目当てで傘下に加わる者が増えるだろう。
リヒャルトとカトリナは別枠で考えた方がいいかもしれない。
二人を加えてしまうと、現状で”利権”と言える物を持ちすぎていて、今からくる商人たちから見たら、一段も二段も上の存在になってしまう。
カトリナは、商業でも、食や娯楽を任せている。
俺の直轄には・・・。面倒だから、ルートの直轄にして、実験的にいろいろ開発と売り出しを行って、それを商業部門で取り扱うようにすればいいかな?
実験場も、ノービスの連中がいる場所を使えば、いいだろう。
あそこなら、情報の漏洩を可能な限り押さえられる。ロックハンドは、冒険者たちには無用な場所だ。ダンジョンの準備もしていない。中央から簡単に行ける方法は提供しているが、俺たち以外には使えない。船で回るか、森を抜ける方法しか存在していない。
考えをメモしておく、ルートとカトリナを説得しなければならない。
あとは、ノービスの連中は・・・。餌を用意すれば大丈夫だな。ナーシャは、甘い物で釣りあげて、イサークは大丈夫だろう。ガーラントは開発を中心に素材や道具を渡せば喜んでくれるだろう。ピムは・・・。いいかな。どこかで妥協してくれるだろう。
カトリナは、商売をやりたいと言っていたけど、新しく開発する物を売り出してもらおう。失敗も出てくるだろうから、全体で大きな”赤”にならなければいいとルートに説明しておこう。
考えをまとめて、メモしておく、付箋紙の開発は難しいかな・・・。もう少し、メモが簡単に取れるようになれば、ルートも楽ができるだろう。
「モデスト」
「はい」
「リヒャルトを呼んできてくれ、相談したいことがある」
「かしこまりました」
モデストが部屋から出ると、ステファナも一緒に着いて行った。
リヒャルトが来ると同時に、飲み物を用意するためだろう。
「ツクモ様」
戻ってきたのは、ステファナだけだ、先にリヒャルトが部屋に入ってきて、続いてステファナが果実を絞った物を持ってきた。
「悪いな。時間は大丈夫か?」
「大丈夫です。外海に出てしまえば、怖いのは魔物だけですが、カイ様とウミ様がいらっしゃるので、来るときよりも余裕が感じられます」
「そうか・・・。それで、ルートから書類を読み込んだ」
「あぁ・・・。それは、それは・・・」
「シュナイダーからの文句が書かれた書類もあったぞ。お前に渡そうか?」
「いえ。いりません」
「っち。まぁいい。それで、今の体制だと、人的な資源が圧倒的に足りていない」
「はい。ツクモ様とシロ様が抜けられて、判断が滞るのはしょうがないとしても、ルート殿の負担が大きすぎます」
「長老衆は?」
「ルート殿がいうには、長老衆に頼めば処理は進むだろうけど、長老衆が居なくては処理が進まない状況は好ましくないと・・・」
「まぁそうだな。伝家の宝刀は、抜かないでいた方が、強い効果が得られる」
「え?」
「”最終手段がある”と思わせておく方がいいだろう?実際に抜いてしまうと、さやに戻しても、困ったら伝家の宝刀があると思われても困るだろう?」
「そうですね」
「それで、対応を考えてみた」
メモ書きを、リヒャルトに見せて説明をする。
まずは、リヒャルトに”利権”が渡らないことを、リヒャルトに納得してもらう必要がある。
俺に近いと思われているリヒャルトが利権を受け取らないことで、他の商人たちに対する牽制に使う。ただ、リヒャルトの娘であるカトリナは、商業部門ではなく開発を主に行ってもらう事で、別種の利権を渡す。
「いくつか確認したいのですが?」
「あぁ」
「まず、行商を行う者の取り扱いですが、同じであると考えてよいのでしょうか?」
「他の件にも言えることだが、最終案ではない。最終判断はルートと長老衆にしてもらう。俺の考えでは行商は、現状と同じ扱いで良いと思っている。新しくできる商業部門は、各町やSAやPAで店舗を持つ者たちへの対応に特化させる」
「わかりました。それならば、我らの商隊は、商業部門の席は、いりません」
各町の代官の権限を越えない範囲での融通が商業部門の仕事になる。
「渡す利権は、十分だと思うか?」
「十分だと考えます。大きすぎるようにも思えます」
「そうか?全体の10%以下だぞ?」
「その半分でも十分だと思います。各場所に作られた商業特区の半分を、自由にできると言えば商人たちは人を送り込むでしょう」
「出店の許可だけだぞ?」
「はい。十分でしょう。チアル大陸に店舗を持つというのは、中央大陸でも”意味”は大きいものです」
「わかった。最終案は、ルートと長老衆に任せるが、リヒャルトの案として、補足を渡しておく」
「ありがとうございます」
「カトリナも、大丈夫か?」
リヒャルトのなんとも言えない表情から、ダメな可能性が推測できる。
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