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第二十二章 結婚
第二百二十六話
しおりを挟む何気なく思ったのだが、ロックハンドが完全に隠れ家になっていないか?
イサーク達を含めて一度話し合ったほうがいいかもしれない。
対魔物の対応は大丈夫だとは思うけど、一人で行くと怒りそうな面々がいるからな。誰かを連れて行きたいとは思うけど、誰にしようか?
カイとウミは、眷属達の訓練をしているから、ホームの中に居てもらったほうがいい。
護衛として考えると、クローン・コアでは駄目だろう。
「旦那様!!」
オリヴィエが戻ってきていたか・・・。
「ちょうどよかった。オリヴィエ。ロックハンドに行こうかと思うけど、一緒に行ってもらえるか?」
「はい。それでですが、ロックハンドのナーシャ殿から緊急を告げる連絡が来ています」
「なに!?なにか有ったのか?」
「いえ、わかりません。緊急とだけ連絡が入りました」
「わかった!オリヴィエ!行くぞ!」
「はい」
『・・・』
念話をシロに繋げようとしたが繋がらない
『カイ!』
『はい!』
『今、どこにいる?』
『訓練所です』
『ロックハンドでなにか有ったようだ。訓練を切り上げて、いつでも出られるようにしてくれ』
『かしこまりました。先にアズリを向かわせます』
『わかった。アズリと合流してから、ロックハンドに向かう』
2分位して、アズリが合流した。
「主様?」
「・・・アズリなのか?」
防具が変わったわけではなさそうだ。俺が知っているアズリと雰囲気が違う。
風格が出てきたと言っても差し支えないだろう。
「主様?」
「すまん。かっこよくなったからびっくりしただけだ」
「ありがとうございます」
「それに、かなり流暢に喋れるようになったな」
「はい!」
アズリが言うには、カイとウミの特訓でかなりスキルが強化されて、それに伴い姿も変わったという事だ。
鑑定で見ても、種族はエルダーリッチのままなのが不思議な位だ。”王”の風格をまとっていると思えてくる。
「あっそうだ。アズリ。今から、ロックハンドに行くが、最悪は新種がいる可能性がある。そのときには、速やかにカイとウミを呼び出してくれ。俺は、シロの安全確保を優先する」
「承りました」
少しだけ不満な表情を浮かべる、エルダーリッチとしてもアズリは表情も動作もかなり洗練されてきているし豊かになっている。
俺とオリヴィエとアズリという珍しい組み合わせで、ロックハンドに移動した。
洞窟を出て、海岸線が見える場所まで移動したが、戦闘音が聞こえない。
最悪な状況が頭をよぎる。
見る限り、戦闘が有ったようには見えない。建物も壊されていない。
イサークたちが戦闘を回避するとは考えられない。
奴らなら、建物への被害を気にして打って出た可能性だってある。
『シロ!』
『え?カズトさん?なんで?え?』
シロに念話がつながった。
『シロ。何があった!』
『え?何も・・・あっナーシャですか?』
『そうだ。ナーシャから緊急事態だと知らせが入った』
『すぐに行きます。今、どこですか?』
『ロックハンドの洞窟を出た所だ』
『え?』
シロが慌てているのがわかる。
『わかった。ここで待っている。シロ。大丈夫なのだよな?』
『はい。僕も、ナーシャも大丈夫です』
『それならいい』
後ろに控えていた、オリヴィエとアズリを見る。
二人には念話は通していない。
「オリヴィエ。シロもナーシャも無事で、何事もなかったようだ」
「そうなのですか?」
「あぁ。アズリ。カイとウミに問題なかったと連絡してくれ、あと、ホームの中からロックハンドに念話が通じなかった理由も調べてくれ」
「わかりました」
アズリが洞窟を戻っていく。念話が通じなかった事以外は大きな問題はなさそうで少しだけ安心した。
俺とオリヴィエが残る事になったのだが、すぐにシロが駆けつけた。
「カズトさん!」
「シロ!」
シロの普段と変わらない様子を見て、やっと安心する事ができた。
「ご主人様」
「あぁわかっている」
丁度、アズリが洞窟から戻ってきた
「主様」
「アズリ。どうだった?」
「はい。皆様には、問題がなかった事をお伝えしました。それから、念話の件ですが、ダンジョン・コアの方々が調べる事になりました」
「わかったありがとう」
「はい。それで?」
どうやら、アズリ気がついたようだ。
「シロ。ナーシャは?」
「ガーラント殿が抑えています」
「そうか・・・。それで何が有った?」
シロに説明を迫るが、答えが出てこない。
「ナーシャの件はおいておくとして、なぜ、魔物が増えている?」
「それも、僕からは・・・」
「わかった、ナーシャに聞く事にしよう」
シロに案内させて、ナーシャを確保している場所に移動する事にした。
「アズリ。魔物の数を減らしてきてくれ、それから、結界が張られているから、解除できそうならしてくれ、念話の通じなかったのは結界が原因だろう。コア達を呼んで調査してもらってくれ」
「かしこまりました」
アズリがもう一度洞窟に入っていく、一度に指示を出してあげればよかったかと思ったが、時間的にも余裕があるから大丈夫だろう。
魔物が濃いようだけど、強さはそれほどでもなさそうだ。
「アズリだけで大丈夫か?」
「旦那様。アズリだけで大丈夫だと思いますが、ご心配なら私も一緒に行きます」
「そうか、ナーシャの所に行けば、イサークも居るだろうし、そうしてくれるか?」
「かしこまりました」
シロが、俺たちを見て少しだけ不安そうな表情を浮かべる。
ナーシャたちが”何”をやったのか理解しているけど、自分の口からは言えないから、どうなるのか不安でしょうがないのだろう。
別に何をやっていても、報告さえしてくれたら怒るような事は無いのだけど・・・。
シロの先導で暫く歩くと、工房に使っていると思われる場所に着いた。
「ここか?」
「はい。カズトさん。あの・・・。ナーシャを叱らないでください。僕がナーシャに見せたのがダメだったのだと・・・」
「大丈夫だとは言えないけど、安心していい。まずは話を聞いてからだな」
「はい」
部屋に入ると、ちょっとだけ異様な雰囲気だ。いろいろな魔物の素材が山積みになっている。
どうやら何かを作っていたのは間違いないようだ。
「ピム!」
「はい!」
「説明してくれ」
「はい。それは・・・。その・・・。あの・・・」
「イサークは?」
イサークの姿が見えない。
常にナーシャと一緒に居るわけではないが、近くに居る事が多いから、側に居ると思っていた。
ピムが森の方を見る。
『アズリ。近くに、イサークは居るか?』
『はい。近くではありませんが、大量の魔物と戦っています』
『助けた後で連れてきてくれ』
『かしこまりました』
「イサークは、確保できそうだ。アズリが向かっている。それで、なんでこんな事になっている?」
ナーシャは、逃げようとしたのでは無いようだ。
イサークの救援に向かおうとした所を、ガーラントとピムに止められそうになった。すきを見つけて、洞窟に入ってオリヴィエにヘルプを出したようだ。
「ピム。それで、なんで、イサークが一人で行くような事になっている?」
「それは・・・」
些細な口喧嘩から始まったようだ。
シロが、俺への贈り物を作るために、魔物を狩ってきて、ガーラントに手伝ってもらいながら、腕輪を作った。
それを見た、ナーシャが自分も欲しいと、イサークに強請った。
ここまでなら良かったのだが、イサークが狩ってきた魔物が、シロが狩ってきた魔物よりも劣っていたのだ。それを、ナーシャが少しだけ貶すような口調で言ってしまったのだ。
売り言葉に買い言葉、もっと上位の魔物を狩るためにイサークは単独で森に入っていった。
そして、イサークには俺が持たせた結界があり、その結界の装置を全力で使った為に、ロックハンド全体に強力な結界が張られた。
イサークの心境としては、自分が居ない時に魔物がロックハンドを襲うような事にはなってほしくなかったのだろう。
ピムとガーラントは、すぐに救援に向かおうとしたのだが、イサークが奥地に入って魔物を狩ったために、それに押し出されるように、ロックハンドに魔物が集まって来てしまって、打って出る事が難しくなってしまった。
数匹ならなんとかなったかもしれないが、二人で対応するのには数が多かった。
それで、救援を要請しようにも、ロックハンドからすぐに救援を依頼できる場所は、俺の所しか存在しない。
そのために、ピムとガーラントは、シロに頼む事にしたのだが、ピムがシロに事情を説明している最中に、ナーシャが洞窟に入ってしまったのだ。
そして、すぐに救援が来ない事で焦ったナーシャは飛び出そうとして、ガーラントに確保されて現在に至るようだ。
「それでナーシャは?」
「奥に閉じ込めています」
「そうか、イサークが帰ってくれば落ち着くよな?」
「はい」
ピムが現状を認識してくれているので助かる。
「それでこの状態は何日続いている?」
「まだ二日目です」
「そうか、結界のテストができたから良かったとするかな」
『主様』
『どうした?』
『イサークとの合流は成功しました』
『ん?どうした?救助できたのなら、魔物を掃討しながらロックハンドに来てくれ』
『いえ、退治している魔物が簡単に逃がしてくれそうにないのです』
『魔物?』
『はい。スリーアイズフォレストベアーです』
『何頭だ?』
『群れです』
『無理しないで、逃げる事を前提に対処してくれ』
『わかりました』
「シロ。作った腕輪の素材は?」
「え・・・とぉ・・・」
「シロ?」
「はい。素材は、ブルーフォレストベアーです。多分、亜種だったと思います。全体的に白かったので、アルビノだったと思います」
「そうか・・・。ガーラント、ブルーフォレストベアーの亜種と、スリーアイズフォレストベアーなら、単純比較は難しいだろうけど、後者の方が素材としての価値は高いよな?」
ナーシャの拘束を解いた。ガーラントも話に加わる。
「そうですな」
「亜種の時点で価値は跳ね上がるが、単純な素材と考えると、スリーアイズの方が素材として使い所が多いのは間違いない」
「わかった」
『アズリ!』
『はい』
『戦況はどうだ?』
『大丈夫です。引き離しに成功しました』
『そうか、2頭くらい倒せるか?』
『追ってきているのが、二頭ですので可能です』
『イサークに倒させる事はできそうか?』
『両方は無理だと思います』
『一頭は、アズリが倒せ、もう一頭はイサークに狩らせろ』
『かしこまりました』
「ナーシャ!それから、ガーラントもピムも、安心していい。アズリがイサークと合流して、今こっちに向かっている」
部屋から様子を伺っていた、ナーシャが顔を出して俺たちの話を聞いていたようだ。
「本当ですか?」
ピムが部屋から出てきたナーシャを見る。
申し訳なさそうにしているナーシャをシロが慰めるように寄り添う。
30分位経ってから、イサークとアズリが戻ってきた。
「イサーク!」
ナーシャが駆け寄って抱きついた。泣きながら謝っている。
少し落ち着いた所で、アズリに森の様子を聞く事にした。
上位種や亜種が産まれていると言う事で、一度調査を兼ねて森の中で魔物の間引きを行うのがいいだろうと提案された。
イサークも同じ意見のようで、今度は一人で出ていくような事をしないと、片腕でしっかりとナーシャを抱きしめながら宣言していた。
イサークが構築した結界の有効性も確認できた。イサークがほぼ全力とか言っていたのでかなりの強度にはなっていただろうが、新種に有効かわからないが、通常の魔物には有効のようだし、対処できるようだ。
全員が揃った事で、説明をしてもらう事になったのだが、全然わからない。
わからないが、わかった事がある。
森には定期的に狩りに入らないとダメだという事だ。今回は、アズリとアズリの眷属に任せる事にしたのだが、なにか施策を考えないとダメだろう。
チアル大陸全体で考えるとダンジョンからの恵みが多くなって、輸送もできるようになっているから、森に入って素材を得ようとする者が減ったのも理由の1つだろう。
ロックハンドに連なる森では、反対側を壁で囲ってしまっているから余計に魔物を間引く事ができていなかったのかもしれない。
俺の後ろに控える形になっているオリヴィエが居るのを確認してから話しかける。
「なにか方法はないか?」
「魔物の間引きの方法ですか?」
「そうだ」
オリヴィエが考えをまとめるまでそれほど時間がかからなかった。
「旦那様。執事とメイドを派遣しましょう」
「ん?あっそうか、ブルーフォレストと同じようにするのだな」
「はい。それが一番だと思います。後は、ビーナやアントやスパイダーの幼体を付けて派遣すれば安全度も上がりますし、戦力の底上げにもなります」
確かに、それがいいように思える。
アズリが一人で勝てるようだから、なんとかパーティーで挑めば勝てるだろう。素材は、そのままロックハンドに持ってきておけばガーラントが勝手に使うだろうし、商船に渡せばスキルカードも入手できるようになるだろう。
「イサーク!」
「なんでしょうか?」
「そんなに緊張するなよ。別にナーシャに罰を与えようとか思っていないから安心しろ」
明らかに安堵の表情を浮かべる。
それに、今回はナーシャが悪いというよりも、連絡が足りなかったのが原因のように思えるし、きっかけはシロから始まっている。
シロには罰として暫くロックハンドで魔物の間引きを手伝ってもらう事にした。
もちろん、護衛はしっかりと付けた上で、安全マージンはしっかりと考える事にする。
これらの連絡をしてから、シロを一度抱きしめてから、ホームに戻る事にした。
ロックハンドを放置した俺への罰でもあるので、ここは後ろ髪を引かれるが、シロを置いて移動する事にした。
結婚式の準備が本格化するまで、ロックハンドで生活をしてもらう事にして、フラビアとリカルダにもロックハンドでそれまでシロに着いていてもらう。
そして、ナーシャを除く3人にはフラビアとリカルダからそれとなく結婚式の事を伝えてもらう事にした。
さて、結婚式の準備を始めても問題なさそうだな。
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