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第二十二章 結婚
第二百二十四話
しおりを挟む「ツクモ様」
「老。悪いな。結婚式の作法を聞きたいのだけど、時間あるか?」
「はい。大丈夫です」
リーリアと一緒にミュルダ老の所にやってきた。
迎賓館で作業をしていた所だったのだが、先触れを出したので、待っていてくれたようだ。
「それで、ツクモ様。何か、お聞きになりたいと?」
「あぁそうだった。リーリアから聞いたけど、結婚式のときの料理だけど主催が準備してはダメなのか?」
「え?どういう・・・?」
リーリアが俺に変わって説明してくれた。
「ツクモ様?」
「あっ言いたい事はわかるけど、俺が作って提供したいと思ったらどうしたらいい?」
「・・・」
「それに、参加者がどの位かわからないけど、かなりの人数だろう?調整も難しくないのか?」
「正直にいいまして、無理に近い状態です」
「だろう?だから、料理は俺が用意する。大体の人数を教えてくれ」
「わかりました」
「人数の確定は難しいだろう?」
ミュルダ老は少しだけ考えているようだが、難しければ、難しいで、立食形式する事も考えている。
「申し訳ない。大まかな把握はできるが、それ以上は無理です」
「大まかに解っているのなら、それでいい。それよりも、代官の全員とか聞いたけど本気か?」
「はい。全員が参加です。妻子が居る者は妻子を連れてきますし、護衛も居ますので、行政区では対応は無理かもしれません」
「わかった。リーリア」
「はい」
「結婚式はいつにするか未定だけど、代官に付いてきた護衛を含めて、ダンジョン区の1画を開放して、そこでの飲み食いを許可しようとおもうがどうだ?」
「問題ないと思います」
「老。どう思う?」
リーリアの承諾は取れたけど、老の意見も聞いておきたい。
「ツクモ様がお望みならよろしいとは思いますが、スキルカードがかなり必要になると思います。よろしいのですか?」
「大丈夫だろう?スーンに預けている物で足りなければ、まだまだ有るからな」
「そうですか?食材や酒精は?」
「それはリーリアたちの管轄だな。食材は、足りなければ、狩りに行かなければならないけどなんとかなるだろう?酒精の方は今ある物しか無いからな足りなくなると大変だな」
「旦那様。それこそ、代官たちに、酒精や飲み物を持ってこさせればいいのでは?いくら有っても困る物ではありませんし、代官たちも手ぶらで来るのは気が引けるでしょう。それに、同じ物があっても、酒精なら問題はないですよ。食事だと飽きてしまうかもしれまんが、酒精なら大丈夫だと思います」
「!老。どうだ?問題はあるか?」
「”何も持ってくるな”よりは説明がしやすいですし、代官たちの負担もすくないので、問題は無いでしょう。酒精がない地域では、果物を持ってこさせます」
「あぁ任せる。料理は、俺が用意していいよな?」
「はい。しかし・・・」
「解っている。ダメだと言っても、持ってくる代官は居るだろうけど、基本日持ちする物だろう?」
「そうなります」
「それなら、代官が持ってきた物を売る場所を作ろう」
「売るのですか?」
「あぁ俺がもらっても使いみちはなさそうだからな。それなら、代官が自ら売ればいいだろう?」
「え?あっそういうことですか?」
ミュルダ老は何か勘違いをしていたようだ。
俺がもらって、俺が売るわけではない。
代官自ら売る必要はないが、各SAやPAや区の物産展みたいな事ができればいいと考えている。
常設は難しいだろうけど、時折こうした物産展みたいな物が開けたらいいなと思うのだけど、負担がかかってしまうだろうかね?
結婚式が終わった後でカトリナにでも聞いてみればいいのかもしれないな。
「老。いろいろ大変だとは思うけど頼むな」
「いえ、大丈夫ですじゃ。儂たちではなく、婿殿たちが大変なだけですじゃ」
「そうだな。決めたら、ルートに頼んでおいてくれ」
ミュルダ老との話はそれほど難しくはなかった。
リーリアが、残って調整を手伝いと言っているので、置いていくことにした。ルートとの連絡係も必要だし、執事やメイドたちへの指示を出す意味でも必要だろう。
「そうだ、リーリア。後で構わないけど、スーンにログハウスまで来るように伝えてくれ」
「かしこまりました」
元老院を出て、ログハウスに向かうのだが、その前に商業区を見て回ろうと思っている。
町並みを眺めながら歩いていると、いろんな所から声が聞こえてくる。
いい街になったな。
自画自賛になってしまうが、商業区は静かだが熱気を帯びている。商業区では小売をしていないので、店舗から馬車が頻繁に出入りしている所を見ると、各方面に卸す業務は多いようだ。
ダンジョンからの入荷も多いようで安心した。
書類仕事をしなくなっているから、最近の状況が把握できていない。そのために少しだけ不安だったのだ。
プラプラと商業区を歩いていると、自由区で商売をしているはずと、トゥアとイレーナが駆け寄ってきた。
「どうした?」
「ツツツツツクモ様?」
かなり動揺しているが大丈夫か?
「だからどうした?」
「ツツクモ様もどうして?」
「俺か?俺は、ちょっと散歩だな。いいから、少し落ち着け」
二人を落ち着かせて、話を聞くと自由区でいつも買っていた店で食材が手に入らなくて、商業区に来てみたという事らしい。二人は、カトリナの関係者という事で、商業区に入る事ができるので、直接買い付けに来たようだ。
「食材が少なくなっているのか?」
「え?あっ違います。食材は有るのですが、買えないのです」
「ん?どういう事だ?」
二人は、交互に説明し始めた。
全体的な物価が上がっているわけではないようだ。値段が上がっているのは、食材だけに限られているようだ。
「いつくらいからだ?」
俺の問いかけに、二人は首を振った。
カトレアもロックハンドに行ったっきりになっていて状況は把握できていない。ルートや元老院も把握していれば対策を打っただろう。
「ツクモ様。少し聞いてきます」
俺の返事を待たずに、イレーナが駆け出してしまった
「・・・」「・・・」
2分位の沈黙が続いたが、イレーナが戻ってきた。
「聞いてきました」
「それで?」
「はい。10日くらい前から徐々に上がり始めたようです」
「徐々に?」
「はい。競りの値段が徐々に上がっていったそうです」
競りの値段が上がっていったって事は、誰かが不正しているとはあまり考えられないな。職員が手を課さなければ難しいかもしれないな。
「市場に出回っている食材が以前よりも少なくなっている。わけじゃないよな?」
「はい。それはいつも以上ですが、値段が高いだけです」
「高値安定という所か・・・。小売は困っていないのか?」
「まだそこまででは無いようですが、私達のような飲食店が困り始めています。値上げを検討しないと・・・・」
「そうか・・・」
それもそうか、10日程度では全体としては、確かに値上がりしているが、大きな影響を受けるのは、同じ商品を大量に買い付けている店舗だろう。
10日前?
もしかして・・・。
「イレーナ。もしかして、誰かが大量に買い付けているのか?スキルカードに制限を付けないで?」
「・・・。はい。そのようです」
「もしかして、各SAやPAの代官たちか?」
「わかりませんが、一部ではそのように言われています」
わかった。
わかりたくないが解ってしまった。
元老院に戻った方がいいか?
それとも・・・
二人には、しばらくしたら落ち着くから、慌てないでほしいと伝えた。
できれば、他の小売店や飲食店にも噂話し程度で構わないから伝えてほしいとお願いしておいた。
『旦那様』
『スーンか、丁度良かった。今、どこに居る?』
『もうすぐ、ログハウスです。近くに、旦那様の気配を感じまして、念話させてもらいました』
『そうか、俺も少ししたら、ログハウスに戻る。執務室で待っていてくれ』
『かしこまりました』
少し急ぐので、行政区から転移門を使う事にした。
顔パス・・・にはならないので、しっかり、認証を通して使う事にした。
個人的に、顔パスとか馴染みの客が嫌いなのだ。顔パスは、セキュリティの面で、馴染みの客は、不平等な感じがしてしまうからだ。
特に、飲食店ではそれがイヤでなるべくチェーン店を使っていた。
考えが逸れてしまった。
洞窟に転移して、ログハウスに向かう。
「旦那様。スーン様がお待ちです」
「ありがとう」
「お飲み物はどうしますか?」
「何か適当に頼む。つまむ物があると嬉しい」
「かしこまりました」
勝手知ったる・・・自分の家だから当然だな。
そのまま執務室に入ると、スーンが直立で待っていた。
「待たせたな」
「いえ!それで、御用と伺いましたが?」
「あぁ最初は、俺とシロの結婚式の事で相談したかったのだが」
「はい」
「少し、調べて動いて欲しい事ができた」
「なんなりと」
商業区で聞いた話をスーンにした。
「原因を調べろと?」
「いや、原因は解っている。俺とシロの結婚式に、各代官を招待している。その時の手土産を用意しているのだろう」
「・・・。そうですね。買っていく姿をよく見ます」
「それで、物価が上がっていると考えるのが妥当だろう」
「いえ・・・。旦那様。それでしたら、彼らのスキルカードの具合と合いません」
「どういう事だ」
スーンが行った事も確かにとうなずける。
確かに、代官たちも馬鹿ではない。日持ちしない物を今から買っていってもしょうがない。
確かに、大量購入が見られるのだが、それは別の理由が有るのかもしれない。
「調べられるか?」
「お任せください。何人か、商隊に紛れ込ませていますので、すぐに情報を収集いたします」
「頼む。あまり、物価が高止まりするようなら、何か手を打たなければならない」
「かしこまりました」
スーンはそれだけ行って、部屋から出ていった。
出された紅茶とお茶菓子をつまんで居ると、スーンが戻ってきた。
「旦那様。少しよろしいですか?」
「どうした?」
「はい。先程の話ですが」
「え?もうわかったのか?」
「いえ、取っ掛かりだけですが、一部の商隊が競りで値を吊り上げているようです」
「食料か?」
「はい」
「そうか・・・。潰せるか?」
「お任せください」
「そうだ、合法的に蓄財しているのなら、値上げをやめさせる方法を考えろ」
「問題が有る手法なら?」
「手法に問題がありそうなら、ルートと元老院に話を持っていって対処させろ」
「かしこまりました」
スーンに指示を出してから3日後。
ルートとミュルダ老が俺を訪ねてログハウスにやってきた。
「老。ルート。どうした?」
「はい。先日のスーン殿から伺った話です」
ルートが話を進めてくれる。
「それじゃ問題は解決したと思っていいのか?」
「はい。不正な取引と職員の買収をしていた商隊は潰しました」
「職員は?」
「メリエーラが引き取っていきました」
「奴隷にでもするのか?」
「はい。ゼーウ街に送り込みました」
「ん?」
どうやら、今回の件は、大陸から来ている商隊が結託して行ったことのようだ
大陸の一部では食料が余剰気味になってきているらしい。それを売ろうにも、エルフたちには売れない。アトフィア教は買わない。ドワーフとハーフリングの大陸も食料は潤沢にある。獣人が多い大陸には行きたくない。そんな感じで、売れると思っていた、チアル大陸は食料の値段は安定していた。
そこで、職員と結託して一部の食料の値段を上げて、自分たちが大量に持っている食料を売ろうとしたようだ。
なんとまぁ気の長い話だなと思ったのだが、どうやら最初はゼーウ街で売ろうとしたようだが、今はゼーウ街の食料や物資の8-9割はチアル大陸から輸送している。
近いから値段や鮮度で戦えばいいのに、損切りができない状態で塩漬けにされてしまって価値がなくなって、そこに来て新種の出現が重なって逃げるようにチアル大陸に来たが、商売ができないこともありジリ貧になってしまったようだ。
「最初にそう言ってくれたら、何か対処を考えたのだけどな」
「儂たちも同じ事を言ったのですがね」
「どうした?」
「”獣人なんかを厚遇している所と取引できるか”と言われて・・・」
「そうか・・・処分は?」
「追放処分にしました。商隊の荷物は全部買い上げました」
「そうか、わかった。あっ全員、追放にしたのか?」
「いえ、残って商売をしたいという者に関しては、ロングケープに送りました」
「ロングケープ?」
「はい。今、あの街では、アトフィア大陸からの難民が多く居まして、何もかもが足りない状況です」
「ん?アトフィア教の連中か?」
「いえ、アトフィア大陸に住んでいた者たちです」
言われてみれば当然だな。
大陸全部がアトフィア教に支配されているわけではなかった。小さいながら、集落や街は有ったのだ。そこが新種に襲われたのだ。
アトフィア教の信者たちは他の信者が住む街に移動したが、そうじゃなければ、今度はもっと小さい単位でまとまらなければならなくなる。
そうなってしまった者たちが、ロングケープに流れ着いたというわけだな。
「わかった。それで物価は?」
「まだしばらくは、高い状態だとは思いますが、徐々に前の水準になっていくと思います」
「わかった。もう少し、市場を見ていて、もし下がらないようなら介入してくれ」
「かしこまりました」「わかりました」
さて、これで落ち着けばいいけどな。
なんか、結婚式の準備をしているはずなのに、横道にばかり進んでいくような気がする。
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