スキルイータ

北きつね

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第二十章 攻撃

第二百五話

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 定期的に、オリヴィエかリーリアがルートガーのところで情報交換をしてくる事になっている。

「マスター。ルートガー殿も、獣人族に伝わる”詩”が何らかの関係がある物と考えているようです」
「そうか・・・。ヨーンにでも聞いたのか?」
「そのようです。マスターに知らせて欲しいと言っていましたが、マスターもナーシャ殿に聞いた旨を伝えてあります」

 ルートガーも獣人族に話を聞いたようだ。無事、情報が集まっているのがわかる。

 ローレンツにお願いして、ルートガーにも情報を流してもらう事にした。

 アトフィア教のまともな司祭からの情報提供もあり、各大陸での状況もわかってきた

 情報は徐々に集まってきているようだ。

 ルートガーが、俺と話がしたいと連絡をしてきた。

 ロックハンドでは、ルートガーが悪目立ちしてしまう。
 ホームならその心配は必要ないので、ホーム内で話をする事になった。

 朝から、オリヴィエとリーリアが、会談するための場所を作っている。
 別に、身内みたいなものだからと言ったのだが、ステファナとレイニーもオリヴィエとリーリアに賛同している。どうやら、ルートガーが俺を襲ったのがまだ尾を引いているようだ。許していないわけではないらしいが、万が一を考えての事のようだ。

 転移門がまとまっている場所を本格的な建物に改良して、そこに会談用の部屋を作るようだ。

 この部屋のパーミッションは転移門を使える者なら問題ないという事にして、建物からは外に出られない設定にしてほしいという事だ。オリヴィエたちの気持ちもわかるので、シャイベを使って建物を作成して、パーミッションを設定する。

 建物は、簡易的な宿泊施設にもして欲しいという事だ。
 そのための設備も作成した。RADがあるので、作成が楽にできる。

 建物に問題がない事を確認してから、オリヴィエがルートガーを呼びに行くようだ。

 建物の中に作った応接室で待っている事になった。

 30分ほどして、オリヴィエに連れられて、ルートガーが応接室に入ってきた。

「ツクモ様。早速ですが、これを見てください」

 いきなり本題に入る事からも状況はあまり良くないのだろう。

 渡された資料には、現状わかっている事や状況が書かれている。

「時間的な差はあると思いますが、現状チアル大陸では、ロックハンドに出た1例だけですが、他の大陸では最低でも3例・・・。多いところだと、10数例にもなっています」
「そうか」
「はい。リヒャルト殿がいらっしゃるゼーウ街では確認はされていないようですが、他では街にまで被害が出ているようです」

 資料にも書かれている事だ。

「ルート。これは?」

 最後の方に書かれている事が少しだけ不穏な感じがした。

「未確認な情報なのですが・・・」

 人型以外にも現れたという事だ。
 獣型で、大きさが様々な新種の魔物に襲われたと書かれている。

「人型以外にも居るのか・・・。小型化に成功したのか、それとも・・・」
「ツクモ様?」
「すまん。今まで見つかった新種は大きい事もあり注意していれば逃げられる可能性もあるとは思うけど、小型化されて・・・それこそ、蟲サイズにまで小さくされたら、近づくまで気が付かない可能性があるだろう?そうなったら、太刀打ちできないだろう」
「そ・・・。そんな・・・」

「ないとは言えないだろう?相手のスキルがわからないからな」
「そうですね。ツクモ様から渡された新種ですが、解析しても何もわからない現状ですし、どう対応してよいのかも定かではないです」

「すまん。ルート。これらの資料で分かる範囲で構わないから、時系列に並べ直してくれないか?」

「わかりました。大体、時系列になっていると思いますが・・・」

 ルートガーが、資料をバラバラにして、時系列に並べ直していく。
 やはりな・・・新種の色が具体的になっている。

 合金を使い始めたのだろう。

「こうですね」
「ありがとう。中央から始まったと思って間違いなさそうだな」
「そうですね。ただ、中央もどういう順番なのかはっきりしません」
「それはしょうがないだろう?リヒャルトの資料にある、未帰還者が増え始めた時期と考えると、合致するのは、このゼーウ街と離れた集落の話になるだろう?」
「そうですね」

 最初は、鉱石や金属を単体で使っている印象があるのだが、途中から関節に適した金属や武器や防具までつかい始めている。
 もしかしたら、ゼーウ街で冒険者をさらった・・・。あっ!

「ルート!そう言えば、ミュルダ老に会うために来た奴らが居たよな?」
「はい」
「彼らはどうしている?」
「ダンジョン区に居ます」
「そうか、捕まった奴らの武器や防具の情報を思い出せるだけ聞き出して欲しい」
「それなら、すでに聞いています。ここに書いてあります」

 資料の1枚を渡してきた。
 内容を読んで、時系列を考える。

「なぁルート」
「そうですね。ツクモ様に言われて・・・」

 時系列で考えるとよく分かる。
 最初の頃は、腕を振り回すだけだったのが、武器をつかい始めている。
 いろいろな武器を試しているような印象を受ける。

 なぜそんな事をするのか?
 攻勢をかける為の準備なのか?

 エルフ大陸やアトフィア教の大陸に出てきた奴らは、殺す為だけに暴れているようにも感じられるのだが、殲滅までは行っていない。
 連れ去りも発生していない。もしかしたら、発生していたのかも知れないが、情報では殺すだけ殺してから戦うだけ戦ってから帰っていく。

 クローン・クローエが見たように、何人かはどこに行くのかを確認する為にストーキングしたようだが、魔法陣が現れて”跡形もなく”消えてしまったようだ。

 クローン・クローエが持ち帰った素体が唯一の手がかり状態なのだ。
 その手がかりも、俺だけではなく、他の者も何も見つけられない状況になっている。結局わかったのは、”何もわからない”ことだけなのだ。

「ルート。引き続き情報は集めるよな?」
「もちろんです」
「商隊への情報開示はどうしている?」
「していませんが?」
「・・・。したほうが良くないか?」

 ルートガーは少しだけ考えてから
「そうですね。元老院から、商業区に情報を流してもらいます」
「そうだな。それがいいだろうな。それで、なんで情報を流していなかった?」
「え?対応方法が無いからです」
「あるだろう?」
「有るのですか?」
「・・・。逃げる。戦わない。すぐに逃げる」
「ツクモ様。それは、対応方法と言わないと思いますが?」
「立派な対応方法だろう?」
「逃げる・・・??」
「そうだ。逃げ方は伝える必要があるかも知れないけどな」
「逃げ方?」

「今まで、逃げ切った奴らも居るわけだろう?」
「そうですね。情報が出てきているという事は逃げ切っているのは間違いないですね」
「そうだな。でも、この情報を見ればわかるけど、犠牲者が必ず出ているよな?」
「そうですね」
「犠牲を出さないで逃げ切れば、こちらの勝ちでいいと思わないか?」

 ルートガーがなにか考えている。
 考えがまとまるまで待ってみるのも一興だろう。

 出されている少しぬるくなった珈琲に口をつける。

「ツクモ様。逃げ切れるのですか?」
「わからないが、情報としてあげてあるけど、イサークたちはただの1人の犠牲も出さなかったぞ?」
「それは、ツクモ様たちが参戦したからではないのですか?」
「結果的に、俺たちも参戦したけど、俺の予想では、イサーク達だけでも逃げ切れたと思うぞ」
「・・・」
「あの魔物だけどな。たいして賢くできていないと思う」
「?」
「対峙した時に、カイやウミの攻撃を受けているにもかかわらず、ガーラントだけを狙って攻撃していた」
「それだと・・・。誰かを犠牲にして逃げ切れって事ですか?」
「違う。そうすると、馬鹿な事を考える奴らが出てくるだろう?」
「でしょうね」

 奴隷じゃないけど、立場が弱い人間を犠牲にして逃げようとする奴や、自らが犠牲になって全体を逃がそうとする奴が出てくるだろう。それではダメなのだ。全員が助かる方法を提示しなければ意味がない。

「だから、そうなる前に・・・。奴らがどうやって攻撃対象を識別しているのかわからないけど、一度攻撃を始めたら、攻撃し続ける事になる」
「そう考えられますね」
「だから、見つけたら攻撃をしなければいいのではないか?」
「は?」

「だからな。攻撃と思われる行動をとらなければいいと思わないか?」
「あんた。頭がおかしくなったのではないのか?」
「なぜだ?イサークたちにも聞いたが、港から出てきて、最初に接触したのは、カトリナだったから、カトリナを攻撃してきて、カトリナが倒されてから、次に攻撃をしたのはピムだったようだぞ?」
「え?」
「だからな。もし、目に入る者を攻撃してくるのだとしたら、カトリナの後で攻撃するのはナーシャのハズなのに、接触してきたピムを攻撃対象にした。ピムが倒された次はイサークがピムを守って後退した時にガーラントが間に入って、新種に攻撃したらしいぞ」
「そうか・・・接触する事がスイッチになっていると考えたわけですね」
「正解!」
「確かに・・・」
「だから、見かけたら逃げろが正解だと思わないか?」
「えぇでも・・・」

「そうだな。その街道が使えなくなるかもって事だろうけど、それも心配しなくていいと思うぞ?」
「どうして?」
「書類を見てみて思った事だけどな。ルート。この新種は活動時間が限られているのではないのか?」
「え?」

 ルートガーが書類を見直す。
 エルフの集落は情報が錯綜しすぎていて参考にならない。それ以外の場所では、10分から長くても30分が襲われている時間だと考える事ができる。

 今後、小型化してくれば活動時間が伸びる事も考えられるが、人型の場合には今のところは10ー30分くらいが活動の限界として考えてもいいだろう。
 今後の事を考えて、1時間程度が限界点として見ておけば大丈夫な感じがする。

「言われてみれば・・・。それなら、その時間を考えれば・・・」
「確実な情報ではないと付け足す必要はあるだろうが、逃げられる事ができるのならいいだろう?」
「そうですね。わかりました。持ち帰って、元老院で話をまとめてみます」
「頼むな」
「はい」

 ルートガーがソファーから立ち上がって、応接室を出ていこうとする。

「あっそうだ。ルート!」
「なんでしょうか?」
「俺とシロを気にしなくていいからな」
「え?」
「だから、子供だよ。お前とクリスの子供の話だ」
「はぁぁぁぁぁぁ?」
「気にしているのだろう?」
「・・・。あんた。なんで・・・。そうか、ミュルダ殿だな?」
「さぁな。でも、子供ができるような事はしているのだろう?クリスにも言っておけよ。気にしなくていいと・・・な」
「・・・。わかりましたよ。クリスが、あんたが結婚して子供を作るまでは・・・とか言っていたのは本当の事だからな」
「そうだろうと思っていたよ」
「その言葉を、そのままクリスに伝えるけどいいのか?」
「なんなら、俺だけじゃなくて、シロからだと伝えてもいいからな」
「わかりましたよ」

 そう言って、いろいろ諦めた表情になって、ホームから帰っていった。
 新種の魔物対策を忘れなければいいのだけどな。

「オリヴィエ!」
「はい」
「ロックハンドに戻るけど、なにかあるか?」
「いえ、大丈夫です」

「マスター!」
「どうした?」

 クローエがパタパタと飛んできた。

「魔物の素材はどうしますか?」
「ん?素材?」
「はい。カイ兄やウミ姉たちが大量に狩り続けていて、素材が積み上げられています」
「え?」

 急いで移動したが、クローエが言っていた通りの状態になっている。

 テ○ガ装備とか好きで使っていたけどな。実際に使おうかと思ったら大変だろうな。ア○ルーもいないし、全部捨てるしか無いかな?

 剥ぎ取り回数に制限があったゲームと違って、全部が素材となるからな。
 肉に関しては、食用に回せそうにない。食用に適さないと鑑定で出ているから、ホーム内に居る動物で食べる奴らに与えればいいけど、素材は・・・。少しだけ持っていって、ガーラントに聞いてみようかな?

 あとは、シャイベたちが吸収すればいいかな?
 他のダンジョンの拡張もしなければならないから、必要になってくる事も考えられるからな。

「シャイベ!」
「はい。マスター!」
「素材だけど、少しだけもらっていくけど、あとは、お前や他のダンジョンコアで吸収していいぞ?拡張する時に必要だろう?」
「はい。吸収は嬉しいのですが・・・」
「どうした?なにか懸念事項があるのなら教えてくれ」
「はい。他のダンジョンコアに吸収させれば、ダンジョンの拡張ができるようになるとは思います」
「あぁ」
「そのかわり、これらの魔物がダンジョンに出現してしまう可能性があります。よろしいですか?」

 そうか、吸収させて情報として渡すと、モンスターをハントするゲームに出てきたようなモンスターが、魔物種として出てくるのか?

「階層主とかで設定するのなら問題ないと思うけどな?」
「わかりました。それでしたら問題ありません。吸収したいと思います」
「頼むな」
「はい」

 一通りの素材をライに格納してもらって、ロックハンドに向かう事にした。
 剣や防具の素材になればいいし、ならなければ、吸収させればいいと軽い気持ちで持っていく事にした。

 その後、ロックハンドで、ガーラントが狂喜したかのように全部の素材を持って工房に閉じこもってしまった。
 よほど素材が嬉しかったようだ。
 そう思う事にした。

 数日間、食事以外は工房にこもりっきりになるなってしまったようだ。全部の素材を持っていったから、暫くは出てこないだろう。
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