スキルイータ

北きつね

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第二十章 攻撃

第二百二話

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 フラビアとリカルダに、簡単にホームの説明をする。
 どうやら、アトフィア教の一部では伝説のスキルとして説明されていたようだ。

「なぁフラビア。シロ。ホームのことを知らなかったけど?」
「・・・」
「フラビア?」
「ツクモ様。申し訳ありません」
「ん?謝らなくていいけど、シロが知らないのは、当然だということで問題ないのか?」
「はい。あの子は、スキルを覚えるよりも、剣技を磨いて、父親の様になるのだと言って・・・」
「そうなのか?」

 リカルダを見ると、頷いている。
 どうやら、シロはやはり脳筋だったようだ。

「わかった。知らなくても不思議じゃなければいい。知っていて、隠していたと思ったから、少し悲しくなっただけだからな」
「それはありません!」「ツクモ様への想いは本物です!」

「わかった。わかった。元老院に行くけど、お前たちはホームでシロと話をしていて欲しい。問題が発生したようだと伝えて欲しい。扉を消せば、中から出てこられないから、丁度いいだろう?」
「はい。かしこまりました」「承ります」

 ホームの扉を開いて、フラビアとリカルダと一緒に中に入る。
 オリヴィエも一緒だ。

 クローン・チアルを連れて行くことにした。
 俺とオリヴィエとクローン・チアルで向かう事にした。

 シロに元老院でなにか有ったようだと伝えて、フラビアとリカルダと引き合わせてから、迎賓館に移動してから、元老院に向かう。

 元老院は、迎賓館の中に作ってある。

「それでオリヴィエ。何があった?」
「詳細は、まだわかっておりません。ただ、ゼーウ街からの救援要請です」

 救援要請?
 ゼーウ街の中でなにかあったのか?

 元老院に到着すると、そこにはクリスとルートガーも来ていた。

「ツクモ様!!!」
「どうした?」
「はい。ゼーウ街からきた使者のようなのですが、救援を告げると倒れ込んでしまって、クリスに治療を頼んだ所です」

 クリスの近くをみると、3人の若い男女が居る。
 表面的な怪我は見当たらないが、確かに立てそうになさそうだ。疲労困憊だと感じられる。

「クリス。どうだ?」
「はい。ここに僕が来た時には、腕の骨が折れたり、肩の骨が外れていたり、致命傷とはいいませんが、大量の怪我をしていました。治療を行って、落ち着いた所です」
「ルートガー。そもそも、なんで元老院まで来ている?」

 ルートガーが申し訳なさそうに俺を見る。
 別に怒っているわけじゃない。今回は、使者のようだから問題はなかったが、これが刺客ならどうする?

「現在、元老院で調べてもらっていますが・・・」
「なんだ、歯切れが悪いな」

「ツクモ様。ここは、ワシが説明します」
「老が?」
「はい。この者たちは、リヒャルト殿の商隊の護衛です・・・。護衛となっていると言ったほうが正しいかもしれません」
「護衛?余計に、ここまで来ている意味がわからないぞ?護衛なら、元老院じゃなくて、迎賓館の離れで待機がマニュアルだろう?」

 どうやら、いろいろな齟齬が発生していたようだ。

 怪我をしていた者たちは眠っている。
 ルートガーがスキルを使って眠らせたと説明された。1-2時間くらい眠らせれば大丈夫だろうと思っている。
 神殿区から治療が行える者に来てもらって、見てもらったが、疲労が溜まっているだけだろうということだ。睡眠の後でなにか食べれば大丈夫だということだ。

 睡眠の間に聞けることを聞いておく、主に”なぜここに”来ているのか?問題が発生する可能性が有ることなので、しっかりと確認をする。

「ルートガー。なんで、けが人がこの場所まで来られた?」
「はい。いくつかの問題が発生した結果です」
「問題?」

 そうだよな。
 まずは、迎賓館に来る方法はいくつかある。

 ブルーフォレストダンジョンを使う方法は、実質的に俺しかつかえないから考慮する必要が無い。

 ブルーフォレストを抜けてくる方法も、現状だと難しい。
 まず、宿区のギュアンとフリーゼの為に作った池が思った以上に大きくなってしまった。今では湖のサイズになってしまっている。そのために、渡ろうと思えば船が必要になる。魔物は確認されていないが、なにか住んでいるという報告も上がってきている。
 湖を大きく迂回すると、チアル街の索敵範囲になる。反対周りではヒルマウンテンがある上に神殿区がある。竜族の索敵範囲内の為に抜けるのはほぼ不可能だ。大きくヒルマウンテンを迂回してきたとしても、ユーバシャールとアンクラムの間には紛争の時に作った石壁が残されているので、突破は難しい。

 素直にパレスケープからサラトガに入って、チアル街に入って自由区を通って、商業区と行政区を抜けて、ダンジョン区に入ってダンジョン経由で迎賓館に来る方法がある。

 今回は、この手続で問題が発生した。
 まずけが人の身分が、リヒャルトの商隊の人間ではなく、商隊の人間を護衛してきた者ということだが、問い合わせてもよくわからない返答が帰ってくるだけらしい。

 身分証があれば自由区に入ることが出来る。自由区に入る事が出来るが、商業区やダンジョン区は入られないのだが、リヒャルトの商隊と一緒だった事や怪我をしているので、そのまま身分証の確認だけして通してしまった。

 自由区はそれで問題はない。多少問題はあるが修正が効く範囲だ。

 商業区には、自由区に入るときのように、身分証だけでは入られない。商業区への登録が必要になる。
 しかし、商業区への買い出しは認められる為に、申請すれば問題なく入ることが出来る。リヒャルトの商隊なので、商業区に入ることは問題ない。問題になるのは、護衛でしかない人間をそのまま入れてしまったことだ。
 完全なミスオペレーションなのだ。けが人だからと気を使ったのかもしれないが、それでは身分証や許可証の意味がなくなってしまう。
 ルートガーにその部分の徹底をお願いすることになる。人間味あふれる対応は好きだけど、さじ加減が相手に寄って違うのは間違っている。多少堅苦しくても融通がきかないくらいが丁度いいと思っている。少なくても、上の判断を待つべきだったのだ。

 そして、一番の問題は、商業区に入られた者が迎賓館まで来られたことだ。
 ミュルダ老が確認した所に寄ると、怪我をしていた者たちは、ミュルダ老への伝言を頼まれたと言っていたということだ。怪我も酷かったこともあり内容や身分の確認をしないで、迎賓館まで通してしまったということだ。
 これはミスオペレーションではなく問題点だ。確かに、結果今回に関しては、問題はなかったが、トールハンマーを主砲にしている要塞を攻略する時に後に魔術師ヤン・ウェンリーと呼ばれる准将が使った方法ができてしまう。

 身分証の確認の徹底と、ミュルダ老やシュナイダー老やメリエーラ老の名前を知っていても、奥までは絶対に通さない。
 そのために、迎賓館では安全に配慮した待合室を作っているのだ。

 偶然だったが、大きな問題になる前に、問題点を見つけることができたのは良かった。

「わかりました。ツクモ様。身分確認を徹底します」
「ルート・・・。違うよ。俺がいいたいのは、そういう事も大事だけど、門番や今回対応した者に、何を一番に守るべきなのかを考えて欲しいという事だ」
「??」
「今回の結果でなにか問題になるか?」

「いえ・・・」

 そう、今回の事で問題にはならなかった。ならないからと言って同じ事を繰り返されるのが問題なのだ。
 これでいいと思ってしまうのが問題なので、それはしっかりと訂正しておく必要がある。

 門番や対応する者は、”例外”を作ってはダメなのだ。同じ意味で”顔パス”なんてやってはならないのだ。

 街ができて職務に慣れてきたのだろう。顔なじみもできているのだろう。だが、それでは問題が起きてしまう事が考えられる。

「それでは融通が効かなくなってしまいますが?」
「それでいいと思うぞ?」
「え?」
「極端な話、馬車で俺とシロが移動している時に、俺とシロだからといって通す門番よりは、通さないで順番を守らせる門番を俺は信用するし、重用する」
「・・・。それでよろしいのですか?」
「職務に忠実な奴を罰する事はできない」
「はぁ?」
「なぁルート。お前、門番達を罰しようとしたよな?」
「はい」
「それ意味ないし辞めて欲しいかな」
「なんで・・・ですか?」
「だって、罰して、今後門番がマニュアルに従って厳しいだけになったら意味ないからな」
「??」
「うーん。そうだな。考えて欲しい・・・。けど、それがわからないよな?」
「はい」

 どう説明していいのか迷う。
 言葉が難しいのだ。

 まずは、マニュアルを守るのは当然だが、守って居るだけではなく、マニュアルの不備を考えて欲しい。

 マニュアルを守らせるだけなら、スキル道具を作って対応させればいい。
 多分出来るだろう。そうしないのは、最終的に”人の感覚”以上に優れたセンサーは無いと思っているからだ。AIやビックデータだと騒いでいるが、それらの技術を使って作った物は一流の職人にはなれるが、超一流には慣れないと思っている。所詮どこまでいってもプログラムだ。経験による成長をすると言われているが、その成長の為の経験を取捨選択プログラムしているのだ。一流の職人は、普段の何気ない事からヒントを得て新しい事が出来たり、よりよい物にブラッシュアップする。

 だから、門番はコストがかかろうが、人が行うべきなのだ。超一流の門番なんてかっこいいと思う。

 問題が発生した時に、問題だと指摘して、それを守らせる事も大事だ。
 大事だけど、何が問題だったのかだけを伝えて、解決策を考えて欲しいと思っている。

 ルートガーの顔を見ればそれが難しいのは解るのだが、難しいからやってほしいのだ。

「はぁ・・・。わかりましたよ。やってみますけど、相談には乗ってくださいね」
「わかっている。困ったら、相談に乗るよ」
「はい。はい。出来る限り、自分たちでやってみますね」
「ルート。頼むな」

「ツクモ様」

 けが人を見ていたクリスが声をかけてくる。
 どうやら目を覚ましたようだ。

 話を聞かないと対処ができない。

 俺が話を聞こうかと思ったが、ミュルダ老とメリエーラ老に止められた。
 どうやら、元老院の客だから、元老院で対処したいという事だ。最初はモデストが話を聞くようだ。

 その上で問題なければ、ルートガーとクリスと俺で話を聞くことになる。
 全体会議が終わって、街の代表はルートガーになっているのだから当然の処置だな。

 モデストが話を聞き終えたようだ。モデストがそのまま俺たちに報告する形になった。
 救援要請は間違っていなかったのだが、出してきたのがリヒャルトではなかった。

 ヨーゼフからでもリヒャルトからでもなく、こちらに来た者たちと仲間の救援要請だった。
 ヨーゼフたちが組織した。魔の森への調査隊が大打撃を受けたのだ。この街までやってきたのは、ゼーウ街の冒険者組合の者で間違いはなく、リヒャルトが雇って森の調査隊に向かわせた者だ。

 話が複雑になっているのだが、報告書に書かれていた帰還率が徐々に悪くなってきている事に関連していて、魔の森に調査に行った者が帰ってこなくなる事が目立つようになってきている。
 リヒャルトやヨーゼフが気にしていなかったのは、悪くなった数字でも一般的な冒険者ギルドの帰還率から考えると飛び抜けていいからだ。

 この者たちは、いわゆる密航なのだ。
 リヒャルトの商隊がチアル街に向かうと聞いて密航したと告白した。実際には何らかの取引が有ったのかもしれないが、それは深く聞かない事にする。そして、救援の中身なのだが、よくわからないが答えになってしまうようだ。

 3名は、6人パーティの後衛で間違い無いようだ。
 そして、ゼーウ街の元スラムの出身だと言っている。魔の森の探索を請け負って、調査をしていた。

 数回の調査で、かなりの資源を持ち帰って来たようだ。トップではないが、優秀な部類なのだと言っているようだ。

 何度目かの調査の時に、少し深くまで入ってしまって、今までに有ったことがない魔物に遭遇したという事だ。

 その魔物は、スキルが効かない上に、物理攻撃にも耐性があるようだ。

 スライムの上位種なのかと聞いても、どうやら違うようで、人型をしていたと言っている。
 ただ攻撃の時に武器を使用していなくて、手をムチのように使っているのだと言っていた・・・らしい。

 そして一番大事な事で、トップではないが上位の成績を残せる者たち6名で挑んで倒すことが出来なかっただけではなく、3名を連れさらわれたようだ。
 最初6名全員が捕まったのだが、後衛の三名はなんとか捕まった状態から逃げ出したという事だ。

 3名がそれを冒険者ギルドに報告しても動いてくれる様子はない。
 リヒャルトの噂を聞いて、ミュルダ老の名前を知っていたので、怪我をした身体のままチアル街に向かう商隊に密航した。

 3名が言っていた密航云々はリヒャルトの事だから気がついてそのままにしていた可能性もある。何らかの目的が有るのだろう。

 気になったのは、3名が捕まったと言っている魔物の事だ。
 スキルが効かないはレベルの事もあるだろう。物理攻撃無効もスキルがあるから出来るだろう。

 腕をムチの様に使って攻撃してきた。
 捕まえられた時に鉱石の様に冷たかった?
 目はあるが口が有るようには思えなかった?
 動いているが、生きているようには思えなかった?
 アンデッドには思えない。そういう理からはみ出ているように感じた。

 これが、対峙した者たちの感想なのだ。

 ゴーレムの様な物か?

『なぁチアル。ゴーレムって有るのか?』

 俺の肩で休んでいるクローン・チアルに話しかける。

『ゴーレム?』
『あぁ土や木や鉱石から作る人形だな。その人形に意識を埋め込んで、使役すると言えば解るかな?』
『うーん。操作すれば似たような事は出来ると思うけど・・・』
『そうだよな。コストが馬鹿にならないよな。話だけだけど、レベル9物理攻撃無効じゃなくても、レベル6物理攻撃半減やレベル6スキル攻撃半減を使っているだろうからな』
『はい。話だけですが、レベル7詠唱破棄なんかも持っているように思えます』
『うーん。気になるな』
『そうですか?』
『操作の新しい可能性かもしれないし、俺と同じ様な能力を持っている奴が居るかもしれないからな』
『そうですね』

「なぁルート・・・」
「ダメです」
「まだ何も言っていないのだけど・・・」
「ダメです。ゼーウ街に調査にでかけたいというのでしょ?」
「・・・」
「我が主。ルートガー殿の意見に賛成です。相手の素性がわからないのに、我が主が出向くのは反対です」

 モデストにまで、反対に回ってしまった。シロが居ない現状では、俺の味方はクローン・チアルだけだ。

『マスター。同じく反対です』
『え?チアルも反対なのか?』
『はい。相手が居るともわからない状況で行っても、何日もかかるでしょうし、マスターが危険にさらされるのは反対です』

「ツクモ様。この件は、俺と元老院が仕切ります。いいですよね?」
「いいけど、リヒャルトの意見を聞いてくれよ」
「わかっています。救援を出すにしても、相手がわからなければ出しようが無いですからね」
「そうだな。救援を出すのなら、出し渋るなよ」
「え?」
「最大の救援を出すようにしろよ。いいか、最大だぞ!」
「わかりました。まずは調査をどうするのかを、相談します」
「了解。待っているぞ」

 どうやら今回、俺は何かしてはダメなようだ。
 スーンに進化した眷属をゼーウ街に送っておくことにしよう。
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