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第十二章 準備
第百二十九話
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アンクラム経由で行政区に戻った。
エリンが少しだけユーバシャール区を見て回りたかったと言っていたが、ゼーウ街対策もある事から、予定を切り上げて帰る事にした。俺とシロはエリンに乗って帰ると宣言すると機嫌も良くなった。もちろん、カイとウミとライも一緒だけどな。
リーリアたちはメリエーラ老とイサークたちと馬車で向かっている。
「カズト様!!」
「ん?シロ。何か言ったか?」
結界や障壁を張っていても、風切り音で会話が難しい状況になってしまっている。
『すみません。念話にすればよかったですね』
『あぁそうだな。それで?』
『はい。エルフ大陸には行かないのですか?』
『カイとウミが行きたいのなら考えるけど、今はゼーウ対策が先かな?』
『わかりました。それから・・・』
後ろから抱きついているシロの腕に力がはいる。
緊張しているのがわかる。言いたい事も想像できる。
『なんだ?正妻候補の事なら、シロが嫌じゃなければ、このままにしておくぞ?』
『え!?』
『嫌なのか?』
『ちっ違います。驚いただけです。カズト様。僕でいいのですか?』
『うーん。こう言ったら何だけど、嫌なら洞窟に入れない。それに、シロ』
『はっはい』
『フラビアとリカルダに正妻の様な立ち位置で居るように言われていたのだろう?』
『ぼっ僕・・・』
『シロ。怒っていない。それに、フラビアやリカルダだけじゃなくて、スーン・・・は無いか・・・ミュルダ老やシュナイダー老やリヒャルトからも言われたのだろう?』
『いえ・・・違います。皆、僕の立ち位置・・・だと、正妻に勘違いされる・・・と、カズト様から怒られ・・・そんな事を言っていました』
『わかった、わかった、シロ。泣くな。俺は、クリスやリーリアより、シロに側に居て欲しいと思っている』
『え?』
『なんだ嫌なのか?』
『ちっ違う。驚いた・・・だけです』
『いいのか?』
さらに腕に力がはいる。
苦しくはないが、一部が押し付けられるようになってきている。
『・・・はい。カズト様』
『なんだ』
『よろしくお願いします』
『あぁシロ。これからも頼むな。それに、俺はお前を変えてしまったかも知れないからな』
『え?』
『種族が人族ではなくなっているだろう?』
『そっそうでした・・・忘れていました』
『お前な・・・暫く俺は悩んでいたのだぞ?』
『・・・だって、僕・・・カズト様と一緒にいられると・・・それしか考えていなかった』
『そうだな。これから、どうなるかわからないけど、シロ。頼むな』
『はい!』
シロの事が好きか?と面と向かって聞かれると困ってしまう。嫌いでは無いことは間違いない。
まぁいい。この話は、ゼーウ街の件が片付いていから、シロと話せばいいだろう。
1年間の猶予があるとはいえ、ここは日本ではない。
移動にも時間がかかる。竜族のおかげである程度は解決しているが、それでも完璧に移動が保証されているわけではない。情報の伝達にも問題がある。すくなくても、ペネム街での情報伝達は簡単に行えるようにしなければならないだろう。
『パパ。どこに降りる?ログハウスでいい?』
『行政区に入ってくれ』
『わかった!あっシロお姉ちゃん。エリンも、シロお姉ちゃんがパパのお嫁さんになるの賛成だよ!そうしたら、一緒にいられるよね!』
エリンの背中を優しく撫でる。
後ろから抱きついているシロの体温が少しだけ上がるのがわかる。顔が見えないのが残念だ。
エリンが、行政区の隣に用意している竜族の発着場に降り立つ。
既に話が通っているのだろう、ミュルダ老とシュナイダー老の行政官が集まっている。
「ツクモ様。お帰りなさいませ」
「ミュルダ老か、すまない。緊急で決めなければならない事ができた、皆を迎賓館に集めてくれ、できれば・・・ロングケープに居るライマン老を含めてだ」
「SAやPAや道の駅の代官はどういたしましょうか?」
「来られる者だけでいい」
「かしこまりました。竜族にお願いしても」
「大丈夫だ。いいよな。エリン」
「うん。パパ。ミュルダ爺も好きに命令して、皆お願いね」
控えている竜族が一斉にエリンに頭を下げる。
カイとウミが先頭になって、俺とシロとエリンが続く、ライはエリンに抱きかかえられている。
行政区に入って、ダンジョンを使って居住区に移動してから洞窟に入る。
「シロ。エリン。俺は、今日は休むけど、お前たちはどうする?」
「私は、カズト様の側に控えます」
「うーん。カイ兄とウミ姉が良ければ、ダンジョンに行きたいかな?ライ兄も一緒に!」
「いいけど・・・カイどうする?」
『主様。この前、スーンが言っていた事も気になりますので、許可頂けますか?』
『この前?あぁレベル6以降のスキルカードの偏り?』
『はい』
『そうだな。頼んでいいか?近々会議が開かれると思うから、あまりダンジョンに潜っているなよ』
『はい』『わかった!』『エリンと一緒に行きます』
『そうだな3日後には一度戻ってきてくれ』
『はい』
さて、風呂入って寝よう。
「シロ。どうした?」
「・・・カズト様。フラビアとリカルダに報告してきていいですか?」
「そうだな・・・あっログハウスから行くなよ!」
「え?あっ・・・わかりました」
居住区から、一旦ダンジョン区に入ってから、宿区に行くようにさせる。
ゼーウ街の手の者がどこに居るのかわからないからだ。メリエーラ老の情報から、ある程度の所までゼーウ街の者が入り込んでいる事は解っている。居住区の事が書かれていなかった事から、もしかしたら、商業区や自由区辺りで聴き込んだだけかも知れないが、用心しておいたほうがいいだろう。
シロが洞窟から居住区に抜けていく・・・久しぶりに1人になった事になる。
考える事が多すぎて一度リセットする事にしよう。
「大主様。お風呂の準備ができました」
そうか、メイドと執事が隣室に控えているのだったな。
「ありがとう。今日は、もういいぞ。後は、自分でやる。シロが帰ってくるまで休んでいてくれ」
「かしこまりました。交代の時間なので、引き継いでおきます」
「そうか。頼む」
「はい!」
執事とメイドが引き上げていくのがわかる。
ふぅ・・・寝るか・・・。疲れた。
---
あぁそうか、シロはフラビアとリカルダの所に行くと言っていたし、エリンはカイとウミとライでダンジョンに入っていったのだったな。
こっちに来てから1人で居るのは初めてじゃないのか?
執事とメイドも下がらせているからな。
『大主様』
『スーンか?どうした?』
『はい。ミュルダ殿が面会を求めております。どうされますか?』
『わかった・・・時間は、昼に迎賓館の執務室に来るように言ってくれ』
『かしこまりました』
洞窟の中には細い光が差し込むように調整してあり、大まかな時間がわかるようにしてある。
日時計の応用だが、この世界は・・・違うな、俺的にはこれで十分なのだ。待たせても怒られないし、待つことも別に苦にならない。1分遅れただけで腰を曲げて謝罪する事がなくなっただけでも心の余裕ができる。
さて、プラプラ移動を開始すれば、時間前には迎賓館につけるだろう。
居住区に出ると、皆が足を止めて挨拶してくれる。
仲良くやっているようだし、来た時よりも笑顔が増えている。そして、子供が増えている印象がある。まだ母親に抱かれている状態だが、今までは見なかったが乳幼児が増えているように思える。
子供を産んでも大丈夫な状況になっているのだろう。正直、それだけでもすごく嬉しい。
着ているものや食べ物もだいぶ変わってきている。話し声だけではなく、明日の事を・・・未来の事を考えてくれるようになってきている。
挨拶を受けながら居住区を抜けて、少し歩いた所にある転移門に向かう。
「ツクモ様!」
「ブリット。あれ?行政区に行かなくていいのか?」
豹族のブリットは頭をかきながら
「どうも、ああいう堅苦しいのは苦手で・・・若手を行かせています」
「そうか?それで、ブリットが案内をしているのか?」
「そうなのです。見たことがない奴を止めることもできますからな」
「居るのか?」
ブリットは少し考えてから・・・
「今まではいませんね。でも、スーン殿の話で、ネズミが入り込んでいる可能性があると聞いたので、族長経験者が番をする事にしたのです」
「そうか、悪いな」
「いえ、ツクモ様の近辺を騒がせている奴らが居ることが許せないのです」
「ありがとう。でも、まずは自分の家族で、次は種族の事を考えろよ。俺は、自分を守るからな」
「はっはい」
「それじゃ行ってくるな。帰りは、宿区を経由するつもりだ」
「いってらっしゃい!」
普段は、シロやエリンが一緒だから遠慮しているのだろうか?
気にしなくていいのにとは思うけど、彼らなりの考えが有るのだろう。
ダンジョン区に出る。
ここから、地上に出て迎賓館に向かおう。定期的に馬車を走らせているけど、今日は歩いていってもいいだろう。
神殿区に居た子どもたちや”精神が大丈夫だと思われる”成人している男女の働き口が、行政区や商業区やダンジョン区の中を走らせている乗合馬車の御者だ。リヒャルトや信頼できる商隊には、気に入った奴は引き抜いて良いと言ってある。既に、数名は商隊にスカウトされていると聞いている。ここで腕を磨いて、商隊で活躍して欲しいものだ。
バトルホースや馬系の魔物を与えている者も居る。その場合には、馬ごと商隊に連れて行っていいと伝えてある。慣れ親しんだ馬と離れたくない場合が多いと聞いたので、スカウトするときの移籍代に含める事でOKとした。
迎賓館には、昼前には到着した。
当番執事が慌てて出てくるが、気にしなくてよいとだけ伝えて、執務室に向かう。
当番メイドが飲み物を持ってきてくれる。
暫く留守にしていたが、決裁は溜まっていないようだ。それとも、ログハウスの方に届けられているのか?
緊急的な要件は、ゼーウ街に関する事だけだろう。
二杯のお茶と数枚のクッキーが消費されたときに、ミュルダ老が面会を求めて迎賓館に到着したと知らせが入った。
「ツクモ様。ユーバシャール区での事を聞きました。本当に、メリエーラ殿が・・・・」
まずはそこを突っ込むのね。
「あぁ俺が買いに行かせた奴隷商の主人だと言って面会を求めてきた。そこでスカウトした」
「・・・そうですか・・・・」
「老。メリエーラ老の事を知っているのか?」
「あのバ・・失礼。あの御方は、ワシがミュルダの領主になるときには、既に奴隷を扱っていて、父や祖父の事を顎で使える人物でした」
「あぁそれで、坊や・・・か・・・」
「え?あっそうです。奴隷商としては異質で、ライマン殿も・・・メリエーラ殿のやり方を参考にしておりました」
「そうか・・・それで、老は、反対なのか?」
ミュルダ老が黙ってしまう。
大きくため息を付いてから絞り出すような声で
「賛成です。メリエーラ殿の情報網は、ペネム街のためになります」
「そう言ってもらって嬉しいよ。俺も同じ意見だ。それで?」
「そうでした。主要な代官と代表者は、5日後に迎賓館に集まります」
「そうか、予想よりも早いな」
「いえ、SAやPAで来られない者も居ますがご容赦ください」
「それは別に構わない。あとで情報の共有を頼むな」
「解っております」
「5日か・・・」
「遅いですか?」
「いや、メリエーラ老も今こっちに向かっているからな。予定では、7日後だったからな」
露骨に喜ぶな。
「どうしましょうか?」
一応意見を聞いてくれるのだな。
「そうだな。イサーク達が一緒に付いているから、ワイバーン便でも飛ばして、急がせるか?」
「いやいやツクモ様。メリエーラ殿もご高齢ですから無理をされないほうが・・・」
「老。それを、メリエーラ老の前で言えるか?」
「・・・勘弁してください」
「だろう?日数がわかっている状態で知らせなかったら、どうなるか考えてみるといい」
「・・・わかりました、ワイバーンを飛ばしましょう。行政区からの伝達でいいですか?」
「大丈夫だ。なんなら、ユーバシャール区から竜族で来るのだろう?それに便乗・・・は、ユーバシャールの代官が嫌がるか?」
「はい。それに、ユーバシャール区の代官は、サラトガに立ち寄ってから来ます。逆方向になります」
「そうか、わかった。5日後だな」
「はい」
「場所は、迎賓館でいいよな?」
「問題ありません。皆そのつもりで居ます」
「概要は伝わっているよな?」
「はい。ゼーウ街対策だと伝えてあります」
「それなら問題はない」
「はっ!」
ミュルダ老が執務室から出ていく、入れ替わりに、ルートガーが面会を申し込んできた。
「どうした?新婚生活に疲れたか?」
「ツクモ様・・・。まぁそれは・・・置いておくとして・・・申し訳ありませんでした」
「どうした?急に?」
深々と頭を下げて謝罪の言葉を口にする。
「俺たち・・・いや、俺の掃除が不十分だったために、ツクモ様やシロ殿を危険にさらしてしまいました」
「そうだな。しかし、それをいうために来たのか?」
「いえ、違います。クリスティーネとも話をして、クリスティーネの今の役職から外れて、俺と二人でパレスケープに赴いて掃除を完遂したいと考えています。ご許可を頂けますか?」
「ダメだ」
「え?なぜですか?俺の不始末を・・・オレ一人でいけということですか?」
「それはもっとダメだ。クリスが不安定になる。そんな事を許すわけにはいかない」
「それでは・・・?」
「ルート。お前は、よくやったよ。確かに詰めが甘かったけどな。十分な成果だ」
「・・・しかし・・・」
「誰でもミスはある」
「・・・・そのミスで、ツクモ様を危険にさらしてしまいました・・・」
「うーん。俺や、シロやエリンだからな。危険でもなかったからな。それよりもだ。これを見ろ」
メリエーラ老から渡された羊皮紙の最後の一枚を見せる。
ルートガーの表情が変わっていくのがわかる。
「状況が理解できたか?」
「・・・はい。裏切り者・・・がいるとは思えませんので、目や耳が入り込んでいるのでしょうか?」
「あぁ俺もそう考えている。先日の事がなければ、ルートを疑っていたけどな。お前ではなさそうだな」
「はい!俺なら、こんな中途半端な報告はしません」
「だろうな。それに、俺とシロの関係もわかっているだろう?」
「それに関しては、黙秘させていただきます。でも、ここに書かれている通り、俺はシロ殿が正妻になるのに反対いたしません。妻も・・・クリスティーネも同じ考えです」
「なんだかなぁ・・・。まぁその件は、別途相談するとして、丁度よかった。ルートとクリスに頼みたい事がある。ヴィマやイェレラたちにも手伝って欲しいことだけどな」
「はい。なんでしょうか?」
5日後に代官と代表者を集めて迎賓館で会議を行う。そこで、ゼーウ街への対応を取り決める事になる事を説明する。会議の席上で不穏な動きをする奴が居ないか見張って欲しい。もし、その様な者がいたら背後関係の洗い出しと排除を行う。
その上で、宿区・神殿区・迎賓館・ミュルダ区・アンクラム区・サラトガ区からゼーウ街関連だけではなく、諜報員の排除を行う。
シロとフラビアとリカルダにも頼もうとは思っていたが、それよりも適任者が目の前に居る。
「どうだ?無理なら無理と言っていいぞ?」
「ツクモ様。そのお役目、俺に・・・いや、俺たちにやらせてください」
「何年かかってもいい。諜報活動を取り締まれ」
「はっ!」
エリンが少しだけユーバシャール区を見て回りたかったと言っていたが、ゼーウ街対策もある事から、予定を切り上げて帰る事にした。俺とシロはエリンに乗って帰ると宣言すると機嫌も良くなった。もちろん、カイとウミとライも一緒だけどな。
リーリアたちはメリエーラ老とイサークたちと馬車で向かっている。
「カズト様!!」
「ん?シロ。何か言ったか?」
結界や障壁を張っていても、風切り音で会話が難しい状況になってしまっている。
『すみません。念話にすればよかったですね』
『あぁそうだな。それで?』
『はい。エルフ大陸には行かないのですか?』
『カイとウミが行きたいのなら考えるけど、今はゼーウ対策が先かな?』
『わかりました。それから・・・』
後ろから抱きついているシロの腕に力がはいる。
緊張しているのがわかる。言いたい事も想像できる。
『なんだ?正妻候補の事なら、シロが嫌じゃなければ、このままにしておくぞ?』
『え!?』
『嫌なのか?』
『ちっ違います。驚いただけです。カズト様。僕でいいのですか?』
『うーん。こう言ったら何だけど、嫌なら洞窟に入れない。それに、シロ』
『はっはい』
『フラビアとリカルダに正妻の様な立ち位置で居るように言われていたのだろう?』
『ぼっ僕・・・』
『シロ。怒っていない。それに、フラビアやリカルダだけじゃなくて、スーン・・・は無いか・・・ミュルダ老やシュナイダー老やリヒャルトからも言われたのだろう?』
『いえ・・・違います。皆、僕の立ち位置・・・だと、正妻に勘違いされる・・・と、カズト様から怒られ・・・そんな事を言っていました』
『わかった、わかった、シロ。泣くな。俺は、クリスやリーリアより、シロに側に居て欲しいと思っている』
『え?』
『なんだ嫌なのか?』
『ちっ違う。驚いた・・・だけです』
『いいのか?』
さらに腕に力がはいる。
苦しくはないが、一部が押し付けられるようになってきている。
『・・・はい。カズト様』
『なんだ』
『よろしくお願いします』
『あぁシロ。これからも頼むな。それに、俺はお前を変えてしまったかも知れないからな』
『え?』
『種族が人族ではなくなっているだろう?』
『そっそうでした・・・忘れていました』
『お前な・・・暫く俺は悩んでいたのだぞ?』
『・・・だって、僕・・・カズト様と一緒にいられると・・・それしか考えていなかった』
『そうだな。これから、どうなるかわからないけど、シロ。頼むな』
『はい!』
シロの事が好きか?と面と向かって聞かれると困ってしまう。嫌いでは無いことは間違いない。
まぁいい。この話は、ゼーウ街の件が片付いていから、シロと話せばいいだろう。
1年間の猶予があるとはいえ、ここは日本ではない。
移動にも時間がかかる。竜族のおかげである程度は解決しているが、それでも完璧に移動が保証されているわけではない。情報の伝達にも問題がある。すくなくても、ペネム街での情報伝達は簡単に行えるようにしなければならないだろう。
『パパ。どこに降りる?ログハウスでいい?』
『行政区に入ってくれ』
『わかった!あっシロお姉ちゃん。エリンも、シロお姉ちゃんがパパのお嫁さんになるの賛成だよ!そうしたら、一緒にいられるよね!』
エリンの背中を優しく撫でる。
後ろから抱きついているシロの体温が少しだけ上がるのがわかる。顔が見えないのが残念だ。
エリンが、行政区の隣に用意している竜族の発着場に降り立つ。
既に話が通っているのだろう、ミュルダ老とシュナイダー老の行政官が集まっている。
「ツクモ様。お帰りなさいませ」
「ミュルダ老か、すまない。緊急で決めなければならない事ができた、皆を迎賓館に集めてくれ、できれば・・・ロングケープに居るライマン老を含めてだ」
「SAやPAや道の駅の代官はどういたしましょうか?」
「来られる者だけでいい」
「かしこまりました。竜族にお願いしても」
「大丈夫だ。いいよな。エリン」
「うん。パパ。ミュルダ爺も好きに命令して、皆お願いね」
控えている竜族が一斉にエリンに頭を下げる。
カイとウミが先頭になって、俺とシロとエリンが続く、ライはエリンに抱きかかえられている。
行政区に入って、ダンジョンを使って居住区に移動してから洞窟に入る。
「シロ。エリン。俺は、今日は休むけど、お前たちはどうする?」
「私は、カズト様の側に控えます」
「うーん。カイ兄とウミ姉が良ければ、ダンジョンに行きたいかな?ライ兄も一緒に!」
「いいけど・・・カイどうする?」
『主様。この前、スーンが言っていた事も気になりますので、許可頂けますか?』
『この前?あぁレベル6以降のスキルカードの偏り?』
『はい』
『そうだな。頼んでいいか?近々会議が開かれると思うから、あまりダンジョンに潜っているなよ』
『はい』『わかった!』『エリンと一緒に行きます』
『そうだな3日後には一度戻ってきてくれ』
『はい』
さて、風呂入って寝よう。
「シロ。どうした?」
「・・・カズト様。フラビアとリカルダに報告してきていいですか?」
「そうだな・・・あっログハウスから行くなよ!」
「え?あっ・・・わかりました」
居住区から、一旦ダンジョン区に入ってから、宿区に行くようにさせる。
ゼーウ街の手の者がどこに居るのかわからないからだ。メリエーラ老の情報から、ある程度の所までゼーウ街の者が入り込んでいる事は解っている。居住区の事が書かれていなかった事から、もしかしたら、商業区や自由区辺りで聴き込んだだけかも知れないが、用心しておいたほうがいいだろう。
シロが洞窟から居住区に抜けていく・・・久しぶりに1人になった事になる。
考える事が多すぎて一度リセットする事にしよう。
「大主様。お風呂の準備ができました」
そうか、メイドと執事が隣室に控えているのだったな。
「ありがとう。今日は、もういいぞ。後は、自分でやる。シロが帰ってくるまで休んでいてくれ」
「かしこまりました。交代の時間なので、引き継いでおきます」
「そうか。頼む」
「はい!」
執事とメイドが引き上げていくのがわかる。
ふぅ・・・寝るか・・・。疲れた。
---
あぁそうか、シロはフラビアとリカルダの所に行くと言っていたし、エリンはカイとウミとライでダンジョンに入っていったのだったな。
こっちに来てから1人で居るのは初めてじゃないのか?
執事とメイドも下がらせているからな。
『大主様』
『スーンか?どうした?』
『はい。ミュルダ殿が面会を求めております。どうされますか?』
『わかった・・・時間は、昼に迎賓館の執務室に来るように言ってくれ』
『かしこまりました』
洞窟の中には細い光が差し込むように調整してあり、大まかな時間がわかるようにしてある。
日時計の応用だが、この世界は・・・違うな、俺的にはこれで十分なのだ。待たせても怒られないし、待つことも別に苦にならない。1分遅れただけで腰を曲げて謝罪する事がなくなっただけでも心の余裕ができる。
さて、プラプラ移動を開始すれば、時間前には迎賓館につけるだろう。
居住区に出ると、皆が足を止めて挨拶してくれる。
仲良くやっているようだし、来た時よりも笑顔が増えている。そして、子供が増えている印象がある。まだ母親に抱かれている状態だが、今までは見なかったが乳幼児が増えているように思える。
子供を産んでも大丈夫な状況になっているのだろう。正直、それだけでもすごく嬉しい。
着ているものや食べ物もだいぶ変わってきている。話し声だけではなく、明日の事を・・・未来の事を考えてくれるようになってきている。
挨拶を受けながら居住区を抜けて、少し歩いた所にある転移門に向かう。
「ツクモ様!」
「ブリット。あれ?行政区に行かなくていいのか?」
豹族のブリットは頭をかきながら
「どうも、ああいう堅苦しいのは苦手で・・・若手を行かせています」
「そうか?それで、ブリットが案内をしているのか?」
「そうなのです。見たことがない奴を止めることもできますからな」
「居るのか?」
ブリットは少し考えてから・・・
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「それじゃ行ってくるな。帰りは、宿区を経由するつもりだ」
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バトルホースや馬系の魔物を与えている者も居る。その場合には、馬ごと商隊に連れて行っていいと伝えてある。慣れ親しんだ馬と離れたくない場合が多いと聞いたので、スカウトするときの移籍代に含める事でOKとした。
迎賓館には、昼前には到着した。
当番執事が慌てて出てくるが、気にしなくてよいとだけ伝えて、執務室に向かう。
当番メイドが飲み物を持ってきてくれる。
暫く留守にしていたが、決裁は溜まっていないようだ。それとも、ログハウスの方に届けられているのか?
緊急的な要件は、ゼーウ街に関する事だけだろう。
二杯のお茶と数枚のクッキーが消費されたときに、ミュルダ老が面会を求めて迎賓館に到着したと知らせが入った。
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「あぁ俺が買いに行かせた奴隷商の主人だと言って面会を求めてきた。そこでスカウトした」
「・・・そうですか・・・・」
「老。メリエーラ老の事を知っているのか?」
「あのバ・・失礼。あの御方は、ワシがミュルダの領主になるときには、既に奴隷を扱っていて、父や祖父の事を顎で使える人物でした」
「あぁそれで、坊や・・・か・・・」
「え?あっそうです。奴隷商としては異質で、ライマン殿も・・・メリエーラ殿のやり方を参考にしておりました」
「そうか・・・それで、老は、反対なのか?」
ミュルダ老が黙ってしまう。
大きくため息を付いてから絞り出すような声で
「賛成です。メリエーラ殿の情報網は、ペネム街のためになります」
「そう言ってもらって嬉しいよ。俺も同じ意見だ。それで?」
「そうでした。主要な代官と代表者は、5日後に迎賓館に集まります」
「そうか、予想よりも早いな」
「いえ、SAやPAで来られない者も居ますがご容赦ください」
「それは別に構わない。あとで情報の共有を頼むな」
「解っております」
「5日か・・・」
「遅いですか?」
「いや、メリエーラ老も今こっちに向かっているからな。予定では、7日後だったからな」
露骨に喜ぶな。
「どうしましょうか?」
一応意見を聞いてくれるのだな。
「そうだな。イサーク達が一緒に付いているから、ワイバーン便でも飛ばして、急がせるか?」
「いやいやツクモ様。メリエーラ殿もご高齢ですから無理をされないほうが・・・」
「老。それを、メリエーラ老の前で言えるか?」
「・・・勘弁してください」
「だろう?日数がわかっている状態で知らせなかったら、どうなるか考えてみるといい」
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「そうか、わかった。5日後だな」
「はい」
「場所は、迎賓館でいいよな?」
「問題ありません。皆そのつもりで居ます」
「概要は伝わっているよな?」
「はい。ゼーウ街対策だと伝えてあります」
「それなら問題はない」
「はっ!」
ミュルダ老が執務室から出ていく、入れ替わりに、ルートガーが面会を申し込んできた。
「どうした?新婚生活に疲れたか?」
「ツクモ様・・・。まぁそれは・・・置いておくとして・・・申し訳ありませんでした」
「どうした?急に?」
深々と頭を下げて謝罪の言葉を口にする。
「俺たち・・・いや、俺の掃除が不十分だったために、ツクモ様やシロ殿を危険にさらしてしまいました」
「そうだな。しかし、それをいうために来たのか?」
「いえ、違います。クリスティーネとも話をして、クリスティーネの今の役職から外れて、俺と二人でパレスケープに赴いて掃除を完遂したいと考えています。ご許可を頂けますか?」
「ダメだ」
「え?なぜですか?俺の不始末を・・・オレ一人でいけということですか?」
「それはもっとダメだ。クリスが不安定になる。そんな事を許すわけにはいかない」
「それでは・・・?」
「ルート。お前は、よくやったよ。確かに詰めが甘かったけどな。十分な成果だ」
「・・・しかし・・・」
「誰でもミスはある」
「・・・・そのミスで、ツクモ様を危険にさらしてしまいました・・・」
「うーん。俺や、シロやエリンだからな。危険でもなかったからな。それよりもだ。これを見ろ」
メリエーラ老から渡された羊皮紙の最後の一枚を見せる。
ルートガーの表情が変わっていくのがわかる。
「状況が理解できたか?」
「・・・はい。裏切り者・・・がいるとは思えませんので、目や耳が入り込んでいるのでしょうか?」
「あぁ俺もそう考えている。先日の事がなければ、ルートを疑っていたけどな。お前ではなさそうだな」
「はい!俺なら、こんな中途半端な報告はしません」
「だろうな。それに、俺とシロの関係もわかっているだろう?」
「それに関しては、黙秘させていただきます。でも、ここに書かれている通り、俺はシロ殿が正妻になるのに反対いたしません。妻も・・・クリスティーネも同じ考えです」
「なんだかなぁ・・・。まぁその件は、別途相談するとして、丁度よかった。ルートとクリスに頼みたい事がある。ヴィマやイェレラたちにも手伝って欲しいことだけどな」
「はい。なんでしょうか?」
5日後に代官と代表者を集めて迎賓館で会議を行う。そこで、ゼーウ街への対応を取り決める事になる事を説明する。会議の席上で不穏な動きをする奴が居ないか見張って欲しい。もし、その様な者がいたら背後関係の洗い出しと排除を行う。
その上で、宿区・神殿区・迎賓館・ミュルダ区・アンクラム区・サラトガ区からゼーウ街関連だけではなく、諜報員の排除を行う。
シロとフラビアとリカルダにも頼もうとは思っていたが、それよりも適任者が目の前に居る。
「どうだ?無理なら無理と言っていいぞ?」
「ツクモ様。そのお役目、俺に・・・いや、俺たちにやらせてください」
「何年かかってもいい。諜報活動を取り締まれ」
「はっ!」
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五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は
「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」
この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。
剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。
そんな中、この五歳児が得たスキルは
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もはや文字ですら無かった
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本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。
本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
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ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
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【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
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かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。
元勇者パーティーの雑用係だけど、実は最強だった〜無能と罵られ追放されたので、真の実力を隠してスローライフします〜
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7個のチート能力は貰いますが、6個は別に必要ありません
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この言葉の意味を説明され、結果皐月は7個の能力を手に入れた。
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人気ランキング2位に載っていました。
hotランキング1位に載っていました。
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