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第十二章 準備
第百二十一話
しおりを挟む明日、パレスケープに代官代理として行っていたリヒャルトと、代官代理の代理として行っていたルートガーが帰ってくる。
なんだかんだで、”誕生祭”から3ヶ月位行っていた事になる。
その間ペネム街では大掃除が行われた。
主に、自由区の外に構築されつつ有った外周部分だ。
この部分は、無法地帯になりそうだったので、自由区を広げる事で、飲み込ませた。それだけでは問題は解決しない事も解っていたので、外周部に居た連中を面談した。
想像以上だった。ほとんどが、SAやPAに入る事ができない者たちだ。中には、勘違いしている者も存在したが、数的には犯罪者や商隊崩れや、冒険者くずれがほとんどだった。
勘違いしている者は、SAやPAだけではなく、自由区に入るのにスキルカードが必要だと思っていたようだ。
誰かから”そう”教えられたと言っていた。全ての区で調査を行った結果・・・5箇所で入場時にスキルカードを要求していた守衛や商隊がいた事が発覚した。そのもの達はヒルマウンテンの採掘場送りにした。10年間採掘をしっかり行ってもらう事になった。
港区(ロングケープ/パレスケープ/パレスキャッスル)に向けての街道整備と街道沿いの街の配置も完了した。
ミュルダ-ロングケープ街道、サラトガ-パレスケープ街道、ユーバシャール-パレスキャッスル街道。おまけで、アンクラム-ユーバシャール街道とサラトガ-ユーバシャール街道が完成した。
街は、16キロおきにPAを設置して、32キロおきにSAを配置して、64キロおきに”道の駅”を配置した
SAとPAは今までどおりで休憩所と宿泊施設の役割をもたせた場所だ
道の駅は、SAとPAの役割に付随して、街としての機能をもたせる事にしているまだ作っては居ないが、別の街道に伸びる街道も設置する予定だ。ユーバシャール-パレスキャッスル街道から、サラトガ-パレスケープ街道に繋がってさらにそこから、ミュルダ-ロングケープ街道の道の駅に繋がる。まだ人口も多くないので、それほど各区が爆発しているわけではないので、現状は必要ないとは思っているが、人口が増えてきたら作っていく事にする。
近くにある集落からなるべく人を集める事にした。集落ではなく、PAやSAや道の駅の方が安全な事は確かだからだ。
それでも、集落を捨てられない人たちも居るので、集落のために街道から道の整備もおこなっている。
建築速度だけは、地球を凌駕している。数年単位で作る物が数日で完成してしまう。
そうそう、元吸血族の洞窟はあれから拡張されて、囚人やその家族が住む場所へと変化した。新しく囚人や家族が入るときに、何もない洞窟を作って渡す事にした。もちろん、アンクラム-ユーバシャール街道と繋がる場所は石壁が設置されている。中で一生過ごしてもらう事になっている。中での自由は保証している。食事は自給自足になっている。
”誕生祭”のときに、街を襲撃してきたアトフィア教の残党や既得権益の奪還を目標とした奴らに雇われた者たちは、結局10日後に素直になった。囚われている者の半数は、既に”殺してくれ”と懇願するようになっていた。膝の高さまでローションに浸かっている、一歩も動けない状況だ。辛うじて座る事はできるだろう。寝られない状況には違いない。餌は不定期に与えられる、それもギリギリ手がとどかない場所に投下されるのだ。上手く受け取らなければ、ローションまみれになる。動けば、バランスを崩して転んでしまう。そうなれば、他の奴に取られてしまう可能性まである。本来なら、一箇所に固まって互いを支え合えば多少は楽になるのだろうけど、バラバラに散らばって居る。
それでも10日は持ったほうだと思う。
”殺してくれ”と言ってきていない者も、心は既に折れている。聞きたかった事もほぼノータイムで答えてくれる。
そんなアトフィア教の連中や既得権益を侵されたと思っている奴らが雇った者たちから、いろいろな事が判明した。
まずは、アトフィア教の事だ。ここに居る連中がこの大陸に残されている最後の敵対集団だと思って良さそうだ。
彼らの言葉を信じれば、彼らを支援していた団体が居るのだが、そこを潰せば自然と活動が終息するだろうという事だ。成功を信じて待っているようだ。スーンたちに命じて、団体が使っている場所を急襲させた。そこから芋づる式に支援団体や関係者を捕らえていった。
支援していた者たちは、ロングケープに移送して大陸からの退去を言い渡した。少ない人数だったが”殺し”や”誘拐”を行っていた者は、実験区送りにした。
面倒だったのは、既得権益を持っていた奴らだ。
大きく二つに分かれていて、奴隷商はアトフィア教に繋がっている者が多く、大陸からの退去か、鉱山区送りになった。
問題は、そうではなく、サラトガのダンジョン素材を得て商売をしていた者たちだ。ダンジョンの恵みからの利益は自分たちが得るのが当然だと思っている。
そのために、憶測からペネムのダンジョンは、サラトガに有ったダンジョンが移動したもので、あの権利は自分たちにあると思っているのだ。
そして、その者たちの一部が、ルートガーに俺を暗殺させようとした者たちにも繋がっていた。
裏では、大陸にある”ゼーウ街”が絡んでいるのは間違いない。デ・ゼーウが領主の名前になるらしい。
パレスケープの領主は、このデ・ゼーウと繋がっている。繋がっていると思っているというのが正しいようだ。詳しい事情は、結局わからなかった。
ここまでの報告を読み終えた。
適時スーンが補足をくれている。シロはラフな格好でソファーに座ってお茶をのみながらお菓子を食べている。
それは大きな問題ではない。
「それで・・・なんで、カトリナが居る?」
テーブルの上に置かれた菓子を食べながら、俺たちの話を聞いているのは、リヒャルトの娘だ。確かに、父親がパレスケープの代官代理で居なくて動かせる商隊が少ないのもわかる。
明日、帰ってくるとの情報を俺の所に届けてくれたのも、カトリナだ。リヒャルトからの報告書とは別に商隊に送っていた報告も持ってきてくれている。
「ツクモ様。私は、シロ殿に意見を聞きに来ただけです。それが、たまたまツクモ様の執務室だったというだけです」
「まぁいい。お前に聞かれて困るような話では無いからな。話を聞いたからには、お前の意見も聞きたい」
なぜか・・・でも無いけど、俺の周りには武闘派が多くなってしまっている。
最初は違うと思っていたが、クリスもかなりの武闘派だ。ルートガーの話を聞いて、パレスケープだけではなく、大陸にあるゼーウ街を滅ぼすといい出したものクリスが一番最初だ。その他の者も、滅ぼすか乗っ取るのがいいといい出している。ヨーンたち獣人は、大陸のデ・ゼーウの事は知っているが、気に食わない奴らだと話している。根本的に合わないと言っていて、”俺が潰せと命令してくれるのを待っている”と宣言して居る。
最終的には、それも有りだとは思っているが、果たしてこれ以上手を広げて対応できるかわからない。相手の事もわからない。まずは情報収集と、相手がこちらをどう見て、どう考えているのかを知ってからだな。
「私?」
「そうだ、リヒャルトの娘というよりも、小さいながらも商隊を任されているのだろう?商隊のトップとしての意見を聞きたい」
「うーん。ツクモ様。他の大陸で、この街の事が”どう”言われているか知っていますか?」
「さぁな。噂なんで気にしてもしょうがないだろう?」
「そうだろうと思いますが、商売人としては、本拠地としている街の噂は大事なのですよ」
「あぁなんか、前に言っていたな、魔物の王だとか、獣人の庇護者とか・・・竜族を使って脅しているとか・・・だったよな」
「そうそう、もう一つ”アトフィア教を撃退した強者”が、加わっていますよ」
「そうなのか?それは、商売にプラスなのか、マイナスなのか?」
「難しい所だけど、私達はプラスに考えていますよ。元々、獣人やハーフが多い商隊ですからね。アトフィア教の集落とは商売を避けていましたからね」
「そう言えば、そんな事を言っていたな。それで?」
「え?あっだから、ツクモ様は、”獣人の守護者”だと思われています。だから、ゼーウの奴らも調子に乗ったのでは無いでしょうかね?」
「どういう事だ?」
なぜか、カトリナは大きくため息をついた
「カトリナ。ため息一つで幸せが一つ逃げていくぞ!」
「そんな言い伝え知りません。ツクモ様の創作ですか?」
「違う!俺の住んでいた場所でよく言われていた事だ」
「へぇ・・・興味深いですね」
あっ何か考えているのか?
「それで?どういう事なのだ?」
「・・・今後またゆっくりと聞かせてくださいね」
「わかった。気が向いたらな」
「・・・それでいいですよ。あっそれでですね。ゼーウ街は、獣人が作った街なのです」
「へぇそうなの?」
「はい。領主は、代々”デ・ゼーウ”の名前を受け継ぎます」
「世襲というわけじゃないのだな?」
「はい。世襲ではなく、皆から指名されて任命されます」
へぇ選挙のような制度が有るのだな。
「そうなのか」
「はい。今代は、いろいろ問題がありますが、ゼーウ街を大きくしたという意味では皆から支持されています。アトフィア教とも距離を保ちながら付き合っていける程度の知恵は持っています」
それは面倒だな。
裏から話をしたり、しっかりとした対策が取れる奴は面倒なのだよな。
嫌がらせのような事をにしてくるだろうからな。面倒にならなければいいのだけどな。
「それで、ゼーウ街にとって、パレスケープは大事な相手なのか?」
知りたいのはパレスケープ一つを失った位で財政基盤が傾くかどうかだ。
それに寄って、相手の本気度を測る事ができる。
「どうでしょう。流石に、それはわかりませんが、パレスケープというよりも、サラトガのダンジョンに依存していた部分はあると思います」
「ん?どういう事だ?距離から考えても、なかなか難しいのではないか?」
カトリナが、”あっ”という顔をする。
「そうでした。ツクモ様は、大陸間の情勢をご存じないですよね?」
「あぁこの辺りの事も怪しい位だからな」
カトリナが教えてくれたのは、初歩的な事だと断りが入るが、大陸間の情勢だ。
俺たちの住んでいる場所は、最近ペネム大陸と呼ばれているようだ。
前は、ヒルマウンテン大陸と呼んでいたようだが長い上にわかりにくいという事で、ペネム大陸が通称として使われるようになっているようだ。この星では”大陸”と言えば中央にある一番大きな大陸の事を指す。
大陸は、海に面している部分以外の開拓はできていない未開な部分が多数存在している。年中霧で覆われている場所や、魔の森以上の森だったり、海かと思うくらいの川が流れていたりするようだ。
その大陸には、今の行政区と商業区と自由区を合わせた位の街が多数存在していて、争っているという事だ。争っている理由は様々だ。ゼーウ街は武器や防具を提供する街となっている。その他にも、攻撃系のスキルカードを提供している。
その街としては、”魔の森”からの魔物の素材や、サラトガダンジョンからの素材は命綱になっているようだ。
食材とかではなく、武器の素材として使っていたのだ。大陸にももちろんダンジョンはあるが、それらは他の街が手中におさめているので、ゼーウ街の好きにできるものではない。そして、そういう街では武器や防具の素材は高値で取引されている。その点、サラトガダンジョンはスキルカードの産出が主な目的であったために、産出される魔物は食料になるほかは武器や防具用の素材もなっていたが、大陸よりも安く取引されていた。サラトガからパレスケープ経由で入手したとしても十分元が取れる値で取引されていた・・・らしい。
「そうか、それで、俺が邪魔になったという事か?」
「そうですね。ツクモ様が邪魔というわけではないと思います。ただ、単純に、自分たちに都合がいいトップになってほしいだけでしょうね」
「同じこと・・・じゃないな。ルートガーが失敗しても、それをネタにすればよかったのだな」
「えぇツクモ様が妥協すると思ったのでしょうね」
「愚かだな」
カトリナには、無言で肯定の意思を伝えられてしまった。
搦め手がダメだったから今度は正面から来る事はなさそうだな。
最初から・・・違うな。ゼーウ街としては、既得権益だと思っていたものが全然違ったのだろうな。
「なぁカトリナ。素材の値段とか変わっていないと思ったけど?」
「え?あっそういう意味では変わっていません。ただ、”誰でも”買えるようになってしまっていますよね?」
「ん?あぁそうだな。サラトガと違って、一部の商隊にだけ売るような事はしていないな。基本セリが行われるからな」
難儀な事だな。
全体量としては数倍になっているのだから、独占したいと思わなければ、ある程度は安価で買っていけるのに、自分からその可能性を排除しておいて、既得権益の回復を考えるのか?
「スーン!」
「はい」
「商業区に、パレスケープ経由で大陸に行く商隊がどの程度居るのか調べておいてくれ」
「かしこまりました」
カトリナが不思議な表情をする。
意味がわからないと言った表情だろう。
「どうした?」
「え?あっツクモ様がどうされるのかと思っただけですよ」
「うーん。別に、ちょっかいかけられなければ、今までどおりのつもりだけどな」
「・・・」
「カトリナが考えているような、いきなり、パレスケープを絞るなんて事はしないよ」
「それならいいのですが・・・」
「なんだよ」
「いえ、ツクモ様・・・敵対した者には容赦しないですからね」
「俺だけの話なら別に気にしないけどな。街や住民に手を出されたら気分が悪くなるだろう?」
「えぇまぁ」
「それも、終わってしまった権益を復活させろとかいう馬鹿げた理由だぞ?」
「そうですね。それで?」
「それで?」
「パレスケープには新しい代官が就任しましたよね?」
「あぁ掃除も終わったようだからな」
「パレスケープは、区となるけど、今までどおりという事ですか?」
「大陸への港のままだと考えているけど?」
「そうですか・・・」
「なんだよ歯切れが悪いな」
「いえ・・・・正直、商隊と考えると、あのルートは魅力が無いのですよね?」
「そうなのか?」
「はい。確かに売上が見込めますが、ゼーウ街が自分の所の商隊以外に税金をかけますからね」
「へぇ」
「ですので、パレスケープ街まで運んでおしまいとなる場合が多いのですよね」
「そうなのか?」
「はい。よほどの物で無い限り、そうしてしまいますね」
「あぁそういう事から・・・今回の問題を起こした商隊だな」
「そうです。それで、代官がどうするのかと思っただけです」
「確かに、それは・・・でも、向こうの街まで運ぶのなら手配できるのではないのか?」
「どうでしょうね。条件がよくても私は受けませんね」
「美味しくないか?」
「はい。リスクが有る上に・・・パレスキャッスルやロングケープからアトフィア教の穏健派に流したほうが利益が大きいですからね」
「パレスケープ路線は衰退するか?」
「今のままでは・・・・」
リヒャルトとルートガーが帰ってきたら、聞こうと思っていた事の半分が、カトリナから聞くことができた。
そして、どうやら・・・デ・ゼーウは俺たちに敵対するしか手がないと思っているようだ。カトリナの話しを全面的に信じるなら、ゼーウ街を集中に治めるか、デ・ゼーウが考え方を変えない限り、緩やかな衰退になっていくだろうな。
アトフィア教の問題が少しだけいい方向に向かったら、今度は違う街が現れるのか・・・この大陸だけでも距離の問題や人口の問題がまだ解決していないからな。こればっかりは、スキルカードがいくら有っても解決はできないだろうな。
明日リヒャルトが帰ってくるから、奴の意見を聞いて最後の調整を行えばいいか・・・。
ゼーウ街に大陸への橋頭堡としての役目をもたせる方法を考えなければならないかも知れないな。そうなると、以前から宿題になっている”認証”も本気で考えないとならないな。
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