88 / 323
第八章 進展
第八十八話
しおりを挟む
/*** カズト・ツクモ Side ***/
リーリアの報告を聞く限り、本当に敗走という言葉が適当なのだろう。
殿もおいていない。来た道を戻るだけしかできていない。
当然、ブリットからは突撃指示が出る。
今度は、俺への確認は必要ないと言ってある。現場の判断だ。
聖騎士を各個撃破している。
本来なら、聖騎士は強いのだろう。ブリットたちがこんなにあっさり勝てる相手ではないのだろう。
さて、そろそろ本当に一度寝ることにしよう。
念話を切る。
--- 朝・・・
そろそろだろう。
エリンとウミとカイを起こす。
朝食も準備ができている。簡単な物で申し訳ないと言われるが十分だ。
さて、今日のスケジュールの確認をしておこう。
タイミングは、領主が”アトフィア教”への協力を宣言するときだな。エリンに乗って、港を急襲する。
アトフィア教の船をウミとエリンで潰す。
逃がすときの為に二隻だけ残そうと思う。もちろん、残す船でも拿捕して中の人間は捕らえるか殺すかする。
潜入しているエントとドリュアスが、獣人やハーフや協力的な人族を逃がす。
ここまでできれば上出来だろう。
その上で、領主邸の確保と聖騎士の隊長格の確保ができればもっと良いだろう。
『あるじ。スーンからお願いがあるって?』
『おっわかった。スーンにつなげる』
『うん!』
ライからの念話だったけどスーンがこのタイミングでって事は、ロングケープでの作戦に関してなのだろう。
『なんだ?スーン。俺に話って?』
『大主様。申し訳ありません。ロングケープでの作戦なのですが』
やっぱりだな
『あぁ』
『ゼーロ殿やヌル殿やヌラ殿の眷属でイリーガル種に進化した者で護衛させていただけませんか?』
『ん?どうしてだ?』
『聖騎士の戦闘力を見ていますと、1人1人が本来の力を発揮しましたら、40階層相当の力がありそうです』
『・・・そうか、そのくらいと見るか?』
『はい。そして、そこには隊長格が居るというお話ですので、階層主程度だと思います』
『そうだな』
『そうなると、エントやドリュアスでは1対1で対峙するのは難しいと思います。イリーガル種を護衛に付けていただければと思います』
『わかった。あとは、ライと相談して決めてくれ。それから、俺の方にも少し眷属を回しておいてくれ』
『かしこまりました』
イリーガルまで進化した者なら大丈夫だろうが、気にかけておくことにしよう。
内部に潜入しているドリュアスから念話が入る。
『大主様。あと1時間程度で宣言がなされるようです』
『わかった。無理しないで離脱しろよ』
『はい』
潜入している者から聖騎士の位置が報告される。
どうやら、議会場近くの高級宿屋に泊まっているようだ。
魔蟲の護衛が付いたエントとドリュアスに指示を出して、議会場と高級宿屋を監視させる。
続々と情報が入ってくる。
エントとドリュアスたちは、”ペネム街・ミュルダ区”や”ペネム街・サラトガ区”や”ペネム街・アンクラム区”の商人や商隊を名乗って、獣人やハーフに接触をおこなっている。隷属されている獣人の主人にスキルカードでの交渉を持ちかけたりしている。
奴隷商には戦闘が始まった時に突入して、捕らえられている者たちを開放する予定にしている。犯罪奴隷も居ると思われるので、一度中に入って確認はしておくように言っておいた。
下準備が全部終わったと報告が上がってきた。
それと同時に、高級宿屋から聖騎士の隊長と20名のお付き?が議会場に向かったと知らせが入った。
どうやら、宣言は聖騎士にも聞かせるようだ。
『大主様』
『どうした?問題か?』
『いえ、そうでは無いのですが?』
『ん?なにかあるのなら、報告しろ』
『はい。聖騎士たちは、アーティファクトを持っているようです。スパイダー殿が中で話を聞いていた感じだと、聖騎士が持つ声を大きくするアーティファクトを使って、宣言を街中に伝えると言うことです』
『わかった。そのアーティファクトは奪えそうか?』
『現状は無理そうです』
『わかった。宿屋を監視していた者も、議会場に回す。聖騎士以外、外に出すな』
『はっ!』
聖騎士に聞かせるのではなくて、聖騎士が持つアーティファクトで宣言を街中に知らせるのが目的だったのだな。
アトフィア教を支持するという宣言も、聖騎士からいい出したのか、それとも領主から言い出したのか気になるけど、アトフィア教を支持するまではいい。宗教の自由だろう。その後の、獣人からの財産没収は意味がわからない。隷属化など論外だ。
「エリン。カイ。ウミ。準備をしてくれ、そろそろ俺たちのパーティーが始まるぞ」
「うん!」
『はい』『わかった!』
エリンが竜になって、俺とカイとウミを乗せる。
一度羽ばたいて、港を目指す。
耳をすませば、議会場での声がかすかに聞こえてくる。
このアーティファクト欲しいな。どんなスキルが使われているのかが気になる。声の増幅だけなら、できそうだけど遠くまで届かせるとなると、いろいろ考えなくてはならないかもしれない。
『エリン。ブレスの準備!俺の合図で、一発かませ!』
『パパ。わかった!』
議長が、領主を議場に呼び込んだ。
くだらない前置きなしにやってくれるのか・・・それとも、前置きがあるのか?
前置きがあった・・・歴史的な云々などとくだらない前口上を述べている。アトフィア教の聖騎士を紹介している。早くしろよ!
やっとその時が来た。
”われはここに宣言する。ロングケープ街は、アトフィア教を支持し従うと・・・。したがって、人族以外が持つ財産権は街に帰属する事になり、人族以外の者は明日までに退去ないしは隷属スキルを受ける事とする。従わない場合には、聖騎士による解放を行う。また、ミュルダ/アンクラム/サラトガの各街は獣人族により侵略を受け多数の同胞が苦しんでいる。これを解放する事が、この大陸に住む人族の長であるロングケープに与えられた使命である。アトフィア教の協力により、各街は明日には解放されるだろう。その時こそ、我らロングケープ街がこの大陸を導く街となる!”
この瞬間、ロングケープ街は俺の敵となった。
『エリン!ブレスをロングケープ街の上空に向けて発射。その後、港に行くぞ!』
『うん!』
巨大な超巨大なブレスが発射された。
街の上を一本の閃光が走った。音も凄まじく、多重に結界や防壁を張っていた俺たちも耳が痛くなるほどだ。
『ウミ。エリン。1番豪華な船と1番貧素な船・・・ってないか、豪華なのは、真ん中だな。真ん中の船と1番左端の船以外を沈めてしまえ!カイ。悪いけど俺の護衛を頼む』
エリンは、そのまま竜のまま港に降り立つ。
港はパニック状態になっていく、そりゃぁ当然だろうな。竜族なぞロングケープに来る事は殆ど無い。それも敵意をむき出しにした状態でだ。
抵抗を試みる者たちも居るが、急に現れたビーナ種やアント種と対峙している間にスパイダー種の糸に捕まってしまう。
俺には、続々と街の中の状況が伝わってくる。的確なのかわからないが、指示を出していく。
街にあった奴隷商6つ潰した。
護衛の人族は全員死亡。どうやら、一部は、アンクラムの獣人狩りに参加していたようだ。奴隷商の屋敷から、その時のやり取りが見つかる。これでこの奴隷商は実験区行きが決定した。
犯罪奴隷たちも一箇所に集められる。
解放してもらえると思っているが、コイツらにはコイツらで使いみちがある。今回の件の証人として、アトフィア教の総本山に行ってもらう。多分、大量のお土産を持ってだ。
隷属されていた獣人やハーフ・・・中には、エルフやドワーフまで居た。いろいろな種族が居る。どうやら話を総合すると、ロングケープは奴隷の取引で大きくなった街のようだ。他の大陸で捕らえられた者も多くいるらしい。
『大主様。聖騎士が、港に向かうようです』
『わかった。聖騎士様はそのままお通り頂いて構わない。聖騎士が居なくなったら、議会場を制圧しろ』
『はっ中の者たちは?』
『一人ひとり意見を聞いてやる義理はないな。抵抗したら、捕らえて実験区送り、抵抗しなかったら拘束して、一箇所に集めておけ』
『はっ!』
街中はまだ混乱の坩堝だ。
暴れている者や盗みを働いた者は、拘束して議会場に放り込んでおく。獣人族でも同じだ。犯罪者に区別は付けない。
ロングケープには、3万を超える人が居る事は確認している。
タイミングも、領主からの言葉があった瞬間だ。当初は、人族が獣人たちの財産を奪いに行ったのだと思われていた。時間が進むに連れて違っている事も広がっていく。
そして、アトフィア教の教会が襲撃されて、跡形もなく破壊された。
ここで、聖騎士達はアトフィア教を狙った戦闘行為だと考えたようだ。聖騎士に船が燃えていると情報が入る。ここに至って、隊長は自分たちが狙われたのだと気がついた。気がついたときには、既に遅かった。
俺たちは、二隻の船を残して沈めた。
聖騎士の隊長達の到着を待っている。
30分くらい経っただろうか?
目の前に、21名の武装した聖騎士が並んでいる。
「貴公らが船を沈め、ロングケープに災いを振りまいた者たちか?」
「違う。俺たちが安心して暮らしていた街に攻め込んできた愚か者たちの街に同じことをしに来ただけだ」
隊長は女のようだ。
その隊長に、お付きの聖騎士が話しかける。鑑定持ちなのだろうか?
今日、俺の名前は偽装している。”ノーネーム”としている。
「ふっふざけるな!獣人が?人族を追い出していいわけがあるか!それに、お主は人族ではないか?なぜ、汚れた存在の獣人族やハーフなぞの味方をする!」
「なぜ?人族が獣人を追い出して良い理由が有るわけがない。貴方こそ、”アトフィア教”なぞに居るのですか?」
ポカーンとした顔をしている。
おっやっと意味がわかったようだ
「貴様!私を愚弄するのか!」
「いえ、愚弄なぞしておりません。貴方が私に言ったことをそのまま言い返しただけです。それを愚弄と感じるのなら、貴方は私を愚弄していたのですか?」
まただんまりですか?
「きっ貴様!獣人やハーフは、神が汚れた存在だとお認めになったのだぞ?人族こそが、神に認められた唯一の存在だ!」
「だから?」
「え?」
「だから、それがどうした?汚れた存在?俺には、お前たちアトフィア教のほうが汚く醜く思う。神に認められた?誰が、その神とやらに問うて答えを貰った?お前自身が聞いたのか?」
おぉ言われたことを考える程度の知恵は持っているのか?
「なっなっなっなっ我らが汚く醜いだとぉぉぉぉ!!!神に・・・聖騎士である我らがか!許さぬ!許さぬ!絶対に許さない!!貴様。神を愚弄し我らを愚弄する愚か者を捕らえよ!」
「おいおいここまで来て部下にやらせるのか?卑怯者の愚か者の所業だな。ふざけた教えをばらまいて、人類を汚染するアトフィア教の聖騎士様はさすがですね。子供二人にフォレストキャット二匹に20名の聖騎士様が挑むのですからね」
プルプル震えている。
「貴様ごとき私だけで十分だ!!私のぉ!神の正しさを証明してやる!」
「お待ち下さいヴェネッサ様。御身になにか有りましたら、教皇様がお悲しみになります。あの様な愚か者は我らで始末いたします」
聖騎士の1人が剣を持って俺の前に出てくる。
『カイ。ウミ。エリン。悪いけど、俺に任せてもらえないか?まずそうなら援護を頼む』
『・・・主様が望むのでしたら・・・』『えぇ・・・わかった。カズ兄に任せる』『パパ。無理しないでね』
優しい子たちだ。
コイツらには心底呆れているし、怒りでどうにかなりそうだ。
こうしている間にも、リーリアや派遣したエントやドリュアスから、情報が挙げられている。気分が悪いとかの話ではない。俺の手がもっと長ければ、もっとうまくできたのではないか?もっと考えていれば・・・もっと、救えたかもしれない。
違う、違う、違う。俺は、俺ができる最善の手を打った。俺たちが悪いわけじゃない。実行したクズ共が居る。目の前で、俺に神の偉大さを喋っていた奴らの仲間だ。
男が、無造作に突っ込んでくる。
スクルドからもらった剣を取り出す。
// スキル:火種
// スロット:空き2
だった物を
// 命名:聖剣
// スキル:炎
// スキル:雷
// スキル:氷
にした物と
// 命名:魔剣
// スキル:毒
// スキル:麻痺
// スキル:速度低下
を付けた二本のショートソードだ。
二刀流を気取るわけではないが、なんとなくやっていたらできたからやっているスタイルだ。
体力レベルが上がったおかげだとは思うが二本を振っていてもつかれる事はない。イサーク程度では相手にならない事は確認しているし竜族でも人間形態ならこちらもスキルでブーストをしなくても負ける事はない。
カイ並の速度で動かれたり、ライ並の耐性を持たれたら逃げるしか無いが、目の前の聖騎士達なら負ける事は無いだろう。
持っていたスキルカードも遠慮なく使うことにはしている。これで負ける事は無いだろう。
馬鹿がなにかいいながら無造作に突っ込んでくる。
聖剣で受けて、スキル雷を発動。これでおしまい。動けなくするために、魔剣で切る時に、スキル麻痺を発動。倒れたところを、頭を軽く蹴飛ばす。
「次!」
3人目まではこんな感じだったが、4人目に取り掛かろうとした時に、
「次!」
来てくれないようだ
「来ないのならこっちから行く!5・4・3・2・1!」
身構えてさえ居なかった奴らに剣を振るっていく。隊長のヴェネッサだけは攻撃しないで、お付きの者たちから倒していく。
戦闘時間3分くらいか・・・もう少し早く終わると思ったけど、予想以上に時間がかかったな。
「ヴェネッサ様。神(笑)の正しさを証明して見せてくれよ。20名は倒された、お前たちがいう汚れた存在に味方する者の俺にな。それに俺1人にだ。どうする?まだやるか?この20名は今なら生きている。お前の言葉一つで決まるぞ!」
剣を倒れている聖騎士に向ける。
ヴェネッサは、剣を取り出して地面においた。
盾も腕から外して同じ様に地面において、兜を取ってから、両手で兜を前に差し出した。
「受け取れ・・・貴殿ノーネームに降伏を申し入れる。部下たちには寛大な処置を頼む」
差し出された兜を受け取り、エリンに渡す。
治療スキルを発動して、毒や麻痺で苦しんでいる聖騎士を治療する。
リーリアの報告を聞く限り、本当に敗走という言葉が適当なのだろう。
殿もおいていない。来た道を戻るだけしかできていない。
当然、ブリットからは突撃指示が出る。
今度は、俺への確認は必要ないと言ってある。現場の判断だ。
聖騎士を各個撃破している。
本来なら、聖騎士は強いのだろう。ブリットたちがこんなにあっさり勝てる相手ではないのだろう。
さて、そろそろ本当に一度寝ることにしよう。
念話を切る。
--- 朝・・・
そろそろだろう。
エリンとウミとカイを起こす。
朝食も準備ができている。簡単な物で申し訳ないと言われるが十分だ。
さて、今日のスケジュールの確認をしておこう。
タイミングは、領主が”アトフィア教”への協力を宣言するときだな。エリンに乗って、港を急襲する。
アトフィア教の船をウミとエリンで潰す。
逃がすときの為に二隻だけ残そうと思う。もちろん、残す船でも拿捕して中の人間は捕らえるか殺すかする。
潜入しているエントとドリュアスが、獣人やハーフや協力的な人族を逃がす。
ここまでできれば上出来だろう。
その上で、領主邸の確保と聖騎士の隊長格の確保ができればもっと良いだろう。
『あるじ。スーンからお願いがあるって?』
『おっわかった。スーンにつなげる』
『うん!』
ライからの念話だったけどスーンがこのタイミングでって事は、ロングケープでの作戦に関してなのだろう。
『なんだ?スーン。俺に話って?』
『大主様。申し訳ありません。ロングケープでの作戦なのですが』
やっぱりだな
『あぁ』
『ゼーロ殿やヌル殿やヌラ殿の眷属でイリーガル種に進化した者で護衛させていただけませんか?』
『ん?どうしてだ?』
『聖騎士の戦闘力を見ていますと、1人1人が本来の力を発揮しましたら、40階層相当の力がありそうです』
『・・・そうか、そのくらいと見るか?』
『はい。そして、そこには隊長格が居るというお話ですので、階層主程度だと思います』
『そうだな』
『そうなると、エントやドリュアスでは1対1で対峙するのは難しいと思います。イリーガル種を護衛に付けていただければと思います』
『わかった。あとは、ライと相談して決めてくれ。それから、俺の方にも少し眷属を回しておいてくれ』
『かしこまりました』
イリーガルまで進化した者なら大丈夫だろうが、気にかけておくことにしよう。
内部に潜入しているドリュアスから念話が入る。
『大主様。あと1時間程度で宣言がなされるようです』
『わかった。無理しないで離脱しろよ』
『はい』
潜入している者から聖騎士の位置が報告される。
どうやら、議会場近くの高級宿屋に泊まっているようだ。
魔蟲の護衛が付いたエントとドリュアスに指示を出して、議会場と高級宿屋を監視させる。
続々と情報が入ってくる。
エントとドリュアスたちは、”ペネム街・ミュルダ区”や”ペネム街・サラトガ区”や”ペネム街・アンクラム区”の商人や商隊を名乗って、獣人やハーフに接触をおこなっている。隷属されている獣人の主人にスキルカードでの交渉を持ちかけたりしている。
奴隷商には戦闘が始まった時に突入して、捕らえられている者たちを開放する予定にしている。犯罪奴隷も居ると思われるので、一度中に入って確認はしておくように言っておいた。
下準備が全部終わったと報告が上がってきた。
それと同時に、高級宿屋から聖騎士の隊長と20名のお付き?が議会場に向かったと知らせが入った。
どうやら、宣言は聖騎士にも聞かせるようだ。
『大主様』
『どうした?問題か?』
『いえ、そうでは無いのですが?』
『ん?なにかあるのなら、報告しろ』
『はい。聖騎士たちは、アーティファクトを持っているようです。スパイダー殿が中で話を聞いていた感じだと、聖騎士が持つ声を大きくするアーティファクトを使って、宣言を街中に伝えると言うことです』
『わかった。そのアーティファクトは奪えそうか?』
『現状は無理そうです』
『わかった。宿屋を監視していた者も、議会場に回す。聖騎士以外、外に出すな』
『はっ!』
聖騎士に聞かせるのではなくて、聖騎士が持つアーティファクトで宣言を街中に知らせるのが目的だったのだな。
アトフィア教を支持するという宣言も、聖騎士からいい出したのか、それとも領主から言い出したのか気になるけど、アトフィア教を支持するまではいい。宗教の自由だろう。その後の、獣人からの財産没収は意味がわからない。隷属化など論外だ。
「エリン。カイ。ウミ。準備をしてくれ、そろそろ俺たちのパーティーが始まるぞ」
「うん!」
『はい』『わかった!』
エリンが竜になって、俺とカイとウミを乗せる。
一度羽ばたいて、港を目指す。
耳をすませば、議会場での声がかすかに聞こえてくる。
このアーティファクト欲しいな。どんなスキルが使われているのかが気になる。声の増幅だけなら、できそうだけど遠くまで届かせるとなると、いろいろ考えなくてはならないかもしれない。
『エリン。ブレスの準備!俺の合図で、一発かませ!』
『パパ。わかった!』
議長が、領主を議場に呼び込んだ。
くだらない前置きなしにやってくれるのか・・・それとも、前置きがあるのか?
前置きがあった・・・歴史的な云々などとくだらない前口上を述べている。アトフィア教の聖騎士を紹介している。早くしろよ!
やっとその時が来た。
”われはここに宣言する。ロングケープ街は、アトフィア教を支持し従うと・・・。したがって、人族以外が持つ財産権は街に帰属する事になり、人族以外の者は明日までに退去ないしは隷属スキルを受ける事とする。従わない場合には、聖騎士による解放を行う。また、ミュルダ/アンクラム/サラトガの各街は獣人族により侵略を受け多数の同胞が苦しんでいる。これを解放する事が、この大陸に住む人族の長であるロングケープに与えられた使命である。アトフィア教の協力により、各街は明日には解放されるだろう。その時こそ、我らロングケープ街がこの大陸を導く街となる!”
この瞬間、ロングケープ街は俺の敵となった。
『エリン!ブレスをロングケープ街の上空に向けて発射。その後、港に行くぞ!』
『うん!』
巨大な超巨大なブレスが発射された。
街の上を一本の閃光が走った。音も凄まじく、多重に結界や防壁を張っていた俺たちも耳が痛くなるほどだ。
『ウミ。エリン。1番豪華な船と1番貧素な船・・・ってないか、豪華なのは、真ん中だな。真ん中の船と1番左端の船以外を沈めてしまえ!カイ。悪いけど俺の護衛を頼む』
エリンは、そのまま竜のまま港に降り立つ。
港はパニック状態になっていく、そりゃぁ当然だろうな。竜族なぞロングケープに来る事は殆ど無い。それも敵意をむき出しにした状態でだ。
抵抗を試みる者たちも居るが、急に現れたビーナ種やアント種と対峙している間にスパイダー種の糸に捕まってしまう。
俺には、続々と街の中の状況が伝わってくる。的確なのかわからないが、指示を出していく。
街にあった奴隷商6つ潰した。
護衛の人族は全員死亡。どうやら、一部は、アンクラムの獣人狩りに参加していたようだ。奴隷商の屋敷から、その時のやり取りが見つかる。これでこの奴隷商は実験区行きが決定した。
犯罪奴隷たちも一箇所に集められる。
解放してもらえると思っているが、コイツらにはコイツらで使いみちがある。今回の件の証人として、アトフィア教の総本山に行ってもらう。多分、大量のお土産を持ってだ。
隷属されていた獣人やハーフ・・・中には、エルフやドワーフまで居た。いろいろな種族が居る。どうやら話を総合すると、ロングケープは奴隷の取引で大きくなった街のようだ。他の大陸で捕らえられた者も多くいるらしい。
『大主様。聖騎士が、港に向かうようです』
『わかった。聖騎士様はそのままお通り頂いて構わない。聖騎士が居なくなったら、議会場を制圧しろ』
『はっ中の者たちは?』
『一人ひとり意見を聞いてやる義理はないな。抵抗したら、捕らえて実験区送り、抵抗しなかったら拘束して、一箇所に集めておけ』
『はっ!』
街中はまだ混乱の坩堝だ。
暴れている者や盗みを働いた者は、拘束して議会場に放り込んでおく。獣人族でも同じだ。犯罪者に区別は付けない。
ロングケープには、3万を超える人が居る事は確認している。
タイミングも、領主からの言葉があった瞬間だ。当初は、人族が獣人たちの財産を奪いに行ったのだと思われていた。時間が進むに連れて違っている事も広がっていく。
そして、アトフィア教の教会が襲撃されて、跡形もなく破壊された。
ここで、聖騎士達はアトフィア教を狙った戦闘行為だと考えたようだ。聖騎士に船が燃えていると情報が入る。ここに至って、隊長は自分たちが狙われたのだと気がついた。気がついたときには、既に遅かった。
俺たちは、二隻の船を残して沈めた。
聖騎士の隊長達の到着を待っている。
30分くらい経っただろうか?
目の前に、21名の武装した聖騎士が並んでいる。
「貴公らが船を沈め、ロングケープに災いを振りまいた者たちか?」
「違う。俺たちが安心して暮らしていた街に攻め込んできた愚か者たちの街に同じことをしに来ただけだ」
隊長は女のようだ。
その隊長に、お付きの聖騎士が話しかける。鑑定持ちなのだろうか?
今日、俺の名前は偽装している。”ノーネーム”としている。
「ふっふざけるな!獣人が?人族を追い出していいわけがあるか!それに、お主は人族ではないか?なぜ、汚れた存在の獣人族やハーフなぞの味方をする!」
「なぜ?人族が獣人を追い出して良い理由が有るわけがない。貴方こそ、”アトフィア教”なぞに居るのですか?」
ポカーンとした顔をしている。
おっやっと意味がわかったようだ
「貴様!私を愚弄するのか!」
「いえ、愚弄なぞしておりません。貴方が私に言ったことをそのまま言い返しただけです。それを愚弄と感じるのなら、貴方は私を愚弄していたのですか?」
まただんまりですか?
「きっ貴様!獣人やハーフは、神が汚れた存在だとお認めになったのだぞ?人族こそが、神に認められた唯一の存在だ!」
「だから?」
「え?」
「だから、それがどうした?汚れた存在?俺には、お前たちアトフィア教のほうが汚く醜く思う。神に認められた?誰が、その神とやらに問うて答えを貰った?お前自身が聞いたのか?」
おぉ言われたことを考える程度の知恵は持っているのか?
「なっなっなっなっ我らが汚く醜いだとぉぉぉぉ!!!神に・・・聖騎士である我らがか!許さぬ!許さぬ!絶対に許さない!!貴様。神を愚弄し我らを愚弄する愚か者を捕らえよ!」
「おいおいここまで来て部下にやらせるのか?卑怯者の愚か者の所業だな。ふざけた教えをばらまいて、人類を汚染するアトフィア教の聖騎士様はさすがですね。子供二人にフォレストキャット二匹に20名の聖騎士様が挑むのですからね」
プルプル震えている。
「貴様ごとき私だけで十分だ!!私のぉ!神の正しさを証明してやる!」
「お待ち下さいヴェネッサ様。御身になにか有りましたら、教皇様がお悲しみになります。あの様な愚か者は我らで始末いたします」
聖騎士の1人が剣を持って俺の前に出てくる。
『カイ。ウミ。エリン。悪いけど、俺に任せてもらえないか?まずそうなら援護を頼む』
『・・・主様が望むのでしたら・・・』『えぇ・・・わかった。カズ兄に任せる』『パパ。無理しないでね』
優しい子たちだ。
コイツらには心底呆れているし、怒りでどうにかなりそうだ。
こうしている間にも、リーリアや派遣したエントやドリュアスから、情報が挙げられている。気分が悪いとかの話ではない。俺の手がもっと長ければ、もっとうまくできたのではないか?もっと考えていれば・・・もっと、救えたかもしれない。
違う、違う、違う。俺は、俺ができる最善の手を打った。俺たちが悪いわけじゃない。実行したクズ共が居る。目の前で、俺に神の偉大さを喋っていた奴らの仲間だ。
男が、無造作に突っ込んでくる。
スクルドからもらった剣を取り出す。
// スキル:火種
// スロット:空き2
だった物を
// 命名:聖剣
// スキル:炎
// スキル:雷
// スキル:氷
にした物と
// 命名:魔剣
// スキル:毒
// スキル:麻痺
// スキル:速度低下
を付けた二本のショートソードだ。
二刀流を気取るわけではないが、なんとなくやっていたらできたからやっているスタイルだ。
体力レベルが上がったおかげだとは思うが二本を振っていてもつかれる事はない。イサーク程度では相手にならない事は確認しているし竜族でも人間形態ならこちらもスキルでブーストをしなくても負ける事はない。
カイ並の速度で動かれたり、ライ並の耐性を持たれたら逃げるしか無いが、目の前の聖騎士達なら負ける事は無いだろう。
持っていたスキルカードも遠慮なく使うことにはしている。これで負ける事は無いだろう。
馬鹿がなにかいいながら無造作に突っ込んでくる。
聖剣で受けて、スキル雷を発動。これでおしまい。動けなくするために、魔剣で切る時に、スキル麻痺を発動。倒れたところを、頭を軽く蹴飛ばす。
「次!」
3人目まではこんな感じだったが、4人目に取り掛かろうとした時に、
「次!」
来てくれないようだ
「来ないのならこっちから行く!5・4・3・2・1!」
身構えてさえ居なかった奴らに剣を振るっていく。隊長のヴェネッサだけは攻撃しないで、お付きの者たちから倒していく。
戦闘時間3分くらいか・・・もう少し早く終わると思ったけど、予想以上に時間がかかったな。
「ヴェネッサ様。神(笑)の正しさを証明して見せてくれよ。20名は倒された、お前たちがいう汚れた存在に味方する者の俺にな。それに俺1人にだ。どうする?まだやるか?この20名は今なら生きている。お前の言葉一つで決まるぞ!」
剣を倒れている聖騎士に向ける。
ヴェネッサは、剣を取り出して地面においた。
盾も腕から外して同じ様に地面において、兜を取ってから、両手で兜を前に差し出した。
「受け取れ・・・貴殿ノーネームに降伏を申し入れる。部下たちには寛大な処置を頼む」
差し出された兜を受け取り、エリンに渡す。
治療スキルを発動して、毒や麻痺で苦しんでいる聖騎士を治療する。
10
お気に入りに追加
1,656
あなたにおすすめの小説
フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
はぁ?とりあえず寝てていい?
夕凪
ファンタジー
嫌いな両親と同級生から逃げて、アメリカ留学をした帰り道。帰国中の飛行機が事故を起こし、日本の女子高生だった私は墜落死した。特に未練もなかったが、強いて言えば、大好きなもふもふと一緒に暮らしたかった。しかし何故か、剣と魔法の異世界で、貴族の子として転生していた。しかも男の子で。今世の両親はとてもやさしくいい人たちで、さらには前世にはいなかった兄弟がいた。せっかくだから思いっきり、もふもふと戯れたい!惰眠を貪りたい!のんびり自由に生きたい!そう思っていたが、5歳の時に行われる判定の儀という、魔法属性を調べた日を境に、幸せな日常が崩れ去っていった・・・。その後、名を変え別の人物として、相棒のもふもふと共に旅に出る。相棒のもふもふであるズィーリオスの為の旅が、次第に自分自身の未来に深く関わっていき、仲間と共に逃れられない運命の荒波に飲み込まれていく。
※第二章は全体的に説明回が多いです。
<<<小説家になろうにて先行投稿しています>>>
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
ダンマス(異端者)
AN@RCHY
ファンタジー
幼女女神に召喚で呼び出されたシュウ。
元の世界に戻れないことを知って自由気ままに過ごすことを決めた。
人の作ったレールなんかのってやらねえぞ!
地球での痕跡をすべて消されて、幼女女神に召喚された風間修。そこで突然、ダンジョンマスターになって他のダンジョンマスターたちと競えと言われた。
戻りたくても戻る事の出来ない現実を受け入れ、異世界へ旅立つ。
始めこそ異世界だとワクワクしていたが、すぐに碇石からズレおかしなことを始めた。
小説になろうで『AN@CHY』名義で投稿している、同タイトルをアルファポリスにも投稿させていただきます。
向こうの小説を多少修正して投稿しています。
修正をかけながらなので更新ペースは不明です。
レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした
桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。
[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!
どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入!
舐めた奴らに、真実が牙を剥く!
何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ?
しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない?
訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、
なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト!
そして…わかってくる、この異世界の異常性。
出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。
主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。
相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。
ハーレム要素は、不明とします。
復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。
追記
2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。
8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。
2024/02/23
アルファポリスオンリーを解除しました。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
ユニークスキルで異世界マイホーム ~俺と共に育つ家~
楠富 つかさ
ファンタジー
地震で倒壊した我が家にて絶命した俺、家入竜也は自分の死因だとしても家が好きで……。
そんな俺に転生を司る女神が提案してくれたのは、俺の成長に応じて育つ異空間を創造する力。この力で俺は生まれ育った家を再び取り戻す。
できれば引きこもりたい俺と異世界の冒険者たちが織りなすソード&ソーサリー、開幕!!
第17回ファンタジー小説大賞にエントリーしました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる