スキルイータ

北きつね

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第七章 暗雲

第七十六話

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/*** カズト・ツクモ Side ***/

 蕎麦を得るために、寄道をしてしまった。寄道に一切の後悔はない。

 時間も遅くなってしまったために、村長宅で一泊する事になった。

 村長宅で、村の生い立ちを聞かされた。
 もともと村は、アンクラムの領主主体で作られていて、アンクラムに食料を提供する目的があったのだと言っていた。今の村長で、3代目だという事だが、二代目の途中くらいから、麦が取れなくなってしまって、細々と作っていた”蕎麦”に切り替えたのだと説明された。

 ミュルダの異端認定騒ぎがあって、もともとアトフィア教の教会が無い村だったのでアンクラムからの風当たりがさらに強くなった。アトフィア教の教会がないこともあって、真っ先に取引中止が言い渡されたのだ。
 作っていたものも主食ではないので、アンクラムとしても切りやすかったのだろう。

 そんな村として立ち行かなくなりそうな時に、リールが大量に”蕎麦”を買いに来た。村長たちは、子供の引取をお願いしたという流れらしい。

 近くの村の事を村長に確認したら、同じ様な状況の村は多いと話してた。
 しかし、アトフィア教の教会がある村がほとんどだという事だ。この辺りで、アトフィア教の信者が居ないのは、この村くらいだという話だ。俺としては、食指が動かない。特産と言えるような物も無いことから、この村で行ったような子供の売買は必要ないだろう。

 翌日、村を出る時には、孤児の6名と親に問題があった子供6名がリールとルアーと一緒に商業区に向かう事になった。
 問題があった親は、子供を売って、得たスキルカードで、アンクラムに移住するといい出した親だ。

 そんな親からは、子供を取り上げる。規定のスキルカードを渡して、家をレベル3のスキルカード数枚で引き取った。そのバカ親の目の前で、カイとウミとライに家を破壊した(ように見せかけた)。親を村から追い出した後で、家は復活させた。
 親の魔力は覚えさせたので、俺が関連する施設には入ることができないようになる。

 気分が悪いので、できるだけ遠くで幸せになってくれる事を祈る事にした。

 村を出たのは、昼過ぎになってしまった。

 カイ上で、エリンが気持ちよさそうに寝ている。
 ライが、そんなエリンを支えている。
 俺は、ウミの上に乗って、ミュルダへ急いだ。

 ミュルダに到着したのは、夕方を越えてしまったので、明日の朝にミュルダに入る事にした。

---

 ミュルダの門で、審査待ちをしていると、前に並んでいた、女性に話しかけられた、日本の某所だと、服で猛獣を飼っていても不思議ではない様な人だ。

「坊や1人で来たの?」

 俺の事か?

「いえ、妹と一緒です」

 女性おばちゃんは、エリンを一目見ると

「可愛い妹だね。お父さんかお母さんは?」
「はい。自慢の妹です。父も母もいません」

 はっした顔をして
「そう・・・それは辛い事を聞いちゃったね。ミュルダには何をしに?」
「いえ、ミュルダから、父と母が居ると教えられた村に行ってきたのです・・・が・・・」

 察して話を切ってくれる事を祈ろう。

「そう、頑張ったのね。それで村は?」

 あぁダメだったか・・・。

「村は有りましたが・・・すでに父と母は・・・」

 これでどうだ?必殺泣き真似!

 ダメだった・・・。
「そう、偉いのね。ミュルダは急に住みやすくなったわよね」

 急に話を変えるようだ。
 でも、話は続けるのですね。

「えぇそうですね。急に、いろんな物が買えるようになりましたよね?」
「そうよね」
「なにか、ご存知なのですか?」
「ご存知なんて・・・なんか、サイレントヒルの先ある獣人族の街と取引を始めたらしいわよ」
「そうなのですか?お姉さんは、獣人族の街に行った事があるのですか?」

「あら、やだ、お姉さんなんて、行こうと思っていたけど、途中の”えすえー”とかいう場所で帰ってきちゃった」

 ミュルダからだと、最初はSAにしていたはずだな。
 そこで折り返してきたって事か?

「何も無かったのですか?」
「違うわよ。逆よ。逆!私は、サラトガから娘たちを頼ってミュルダに来たのだけど、獣人族の街の話を聞いて、どんな場所なのか気になって、訪ねようと思ったのよ。それで、”えすえー”って所で宿泊したら、すごかったわよ。安い上に料理も美味しい、沢山物が売っていて、買い物したら荷物が沢山になっちゃったから帰ってきちゃったのよ。甘い物が食べられるなんて思わなかったわよ」

 ほぉ・・・もう1番近いSAまで菓子が出回っているのだな。
 予想よりもだいぶ早いな。

「そうだったのですね」
「えぇまたしばらく、ミュルダで頑張らないとね。次は、獣人族の街まで行って、”おんせん”とかいう場所にいかないとね!」
「温泉?」
「知らないの?!」

 おばちゃんは、嬉しそうに、温泉の説明をしてくれた。
 確か、温泉施設を作ったのは、自由区だったな。ダンジョン区に移動しようかな?

 それと、おばちゃんの話を聞いていると、買い物ができるのはいいが、荷物が多くなって、結局そこで帰らなければならなくなってしまうようだ。宅急便の様な事ができないか、ミュルダ老に相談丸投げしよう。

 おばちゃんの順番になるまで、おばちゃんの商業区と自由区の自慢話は続いた。
 思いつきで作った場所だけど、思った以上に好意的に受け入れられていそうだ。

 俺の順番が来た。
 身分証を提示する。カイも、ウミも、エリンも、持っている身分証を提示した。

 門番達が騒がしくなっている。
 周囲の人たちが何があったのかと不審に思っていると、俺たちは門番達が居る部屋ではなく、来賓用の部屋に連れて行かれた。そこで待っていて欲しいという事だ。

 座って待つこと20分。

「カズト・ツクモ様!お初にお目にかかる、シュイス・ヒュンメルです」
「え?あぁそうか、ミュルダ老から連絡が入ったのですか?」
「いえ・・・ミュルダ殿からは何も、門番から、ツクモ様が来られたと連絡が入って、ご挨拶をしなければと思ってまいりました」
「え?申し訳ない。先に連絡しておけばよかったですね。ご迷惑をおかけしてしまいました」

 頭を下げる。
 なんとなく、俺が無闇に来てしまった事が問題のような気がしたからだ

「いえ、いえ、ツクモ様は、ミュルダの救世主です。公にするなと、ミュルダ殿から言われていますので、街の上層部でしか話されていませんが、ツクモ殿のおかげで、ミュルダは救われたのです」
「え?私は、別に・・・あっそうだ!ミュルダ老から、手紙を預かっています。お収め下さい」

 手紙を、ヒュンメル殿にわたす。
 これで、ミュルダに来た公的な用事は終わった。

「ありがとうございます」

 すぐに確認するようだ。

 手紙を呼んで、すぐに一緒に来ていた執事に何やら耳打ちをした。執事は、俺の方をチラッと見てから、会釈して一言断りを入れて、部屋から出ていった。

「ミュルダ老はなんと?」
「あっ今後のミュルダと獣人街の関係に関してと、私に対する忠告ですね」
「忠告?」

 ヒュンメル殿は、笑いながら手紙を俺に見せた。

 手紙には、俺がミュルダに到着した事を知ったヒュンメル殿は、上層部を集めて感謝のパーティーを開いて、そこで、同じくらいの年齢の女性を集めるつもりだろうと予告していた。そして、悪いことは言わないから、パーティーそのものを中止して、数名の上層部とだけの会食にしたほうが俺の受けはいいだろう・・・と書かれていた。
 まさにその通りだけど・・・まぁ事前に回避できたのなら良かったと思う事にしておこう。

 夕方に、領主の館に来て欲しいと言われた。
 食事会の用意をして待っているという事だ。食事会なら問題はないので、受けると返事をして、その場はお開きになった。

 まだ昼前。宿を探すことにした。
 前に来た時に借りた宿があると思うから、同じ所に一部屋借りる事にした。

 街を歩いてみる。前よりも、活気がある・・・ように思える。

 冒険者風な奴らも増えている。
 少し裏路地を歩いてみたが、襲われるような事は無かった。徐々にだが経済が周りだしているのだろう。

 表通りでは、屋台が多く出ている。縁日を思い出すくらいだ。
 昼ごはんも食べていなかったので、カイとウミとエリンと買い食いそしながら街の中を散策する事にした。

「おっちゃん。俺と妹に2本で、コイツラに食べさせたいけどいい?」
「おっいいぞ。ほら、6本で、レベル3が5枚だ」
「いいの?」

 店の看板には、1本レベル3が一枚となっている。

「あぁいい。小僧が気にするな」
「ありがとう」

 レベル3を5枚渡す。

「お!気にったらまた食べに来いよ」
「うん!」

 子供らしく返事しておくことにする。

「パパ。エリン。一本でいいよ?」

 エリンが、自分の事を、エリンと呼ぶようになった。
 このほうが子供っぽいからいいのだけど・・・まぁ気にしなくていいことだよな。

「あぁ一本はライにあげてくれ」
「ライ兄?」
「さすがに、ライをここで出せないだろう?」
「うん。わかった!」

 もう少しだけ歩いてから、宿に戻った。
 宿で、ライを起こして、エリンが確保していた食べ物を渡した。

 さて、新領主との話はどうなるかわからないから、バッグにライだけを入れて一緒に行く事にする。
 どうせ、屋敷は眷属達が入り込んでいるのだろう。俺の安全さえ確保されていれば、カイは何も言わない。

 夕方の時間も近くなってきたので、着替えて待っていると、領主の館から使いの者が来たという事だ。部屋まで通してもらうと、カイとウミとエリンも是非一緒にという事だ。どうやら、ミュルダ老の手紙には俺だけではなく連れているフォレスト・キャット一匹でもミュルダくらいなら簡単に滅ぼせると説明されていたようだ。
 カイもウミもライもエリンもそんな事をしない・・・よな?

 何にせよ。
 急遽エリンも正装に着替えた。着替えは、連絡に来てくれた執事がメイドを連れてきて、着替えて髪の毛をすいてくれたようだ。

「パパ。かわいい?」
「あぁかわいいぞ」

「ツクモ様。よろしいですか?」

 執事がドアを開けながら問いかけてくる。

「あぁ頼む」
「はい。表に馬車を待たせています」
「ありがとう」

 街の中では執事は有名なのだろう。
 新領主の執事が礼を持って迎える子供。シュールに見えるだろうが、それをわざわざ口に出していうバカは少数派だ。

 馬車に乗り込んだ、引くのは馬の魔物だが隷属化されているのか暴れる心配はない・・・らしい。馬車を数名の冒険者風の男たちが護衛しているようだ。こちらの様子を伺っているのが解る。

 ほどなくして、領主の館に到着した。
 派手な出迎えが無かったのは良かった。そのまま、控室に通された。皆が揃ってから、案内の者が来てくれるらしい。

 このくらいの事は承諾する事にしよう。俺が先に来て待っているのもおかしな話だからな。

 待ち時間もそれほど長くは無かった。控室に入って、5分程度でメイドが1人やってきて、案内してくれるらしい。

 通された部屋は、それほど広くは無い。10畳ほどだろうか?
 真ん中に、丸いテーブルがあり、上座の部分が2つ空けられていた。どうやら、俺とエリンはそこに座る事になるようだ。椅子に座って、俺がウミを、エリンがカイを膝の上に乗せる。カイとウミは、食事の時には、床でいいと念話で言っている。

 もうすでに全員揃っていたのだろう。
 俺が席に座ると、ヒュンメル殿がメイドに指示を出している。一品一品出てくる形式ではなく、まとめて”ドン”と出てくるようだ。

 食事が並べられると、ヒュンメル殿が立ち上がった

「カズト・ツクモ様。本日はありがとうございます」

 その口上から、人の紹介に入った。
 商店と商隊を取りまとめている人物と、ヒュンメル殿のあとのギルド長。職人を取りまとめている人物・・・。

 順番に挨拶されるが、覚えきれない。名刺が欲しいと思ってしまう。

 難しい話は、食事の後でという事で、食事を始めた。
 正直、それほど美味しいとは思えなかったが、贅沢品を使ってくれているのだろう。俺とエリン以外には好評だ、エリンも空気が読める子になったので、”美味しくない”とは言わないでくれた。後で、お菓子を食べさせる約束を下だけで、黙って食べていてくれる。

 カイとウミは口に合わなかったのだろう。もう食べていないで、丸くなってしまっている。
 こっそり出てきたライが残った物を全部食べていた。

 食事が終わり、紅茶が出てきた。

 食後の話は、それほど難しい事ではない。一部を除いてだ。

 商業や商隊は、これからも獣人ペネム街との交易を行いたいという事だ。こちらとしても問題はない。街の呼称に関しても、ペネム街で統一するようにお願いする。
 商売をしている者として、SAやPAで売られている物を”他で売っていいか”と聞かれた。正直に何が売られているのかわからないので、聞いてみたら、食料品や加工品が売られ始めているようだ。それは問題ない。あと、料理に関しても、真似したければしても良いと伝えた。

 こちらからのお願いとして、他の地域に行く商隊には、別の地域で使われている調味料や食材を仕入れてきて欲しいとお願いした。これは、商業区を通さないで俺が直接買い取る旨を伝えた。

 他の人たちも概ね同じ様な事だ。

 問題になったのが、ギルド長の話だけだ。
 新しくギルド長になった、プロイス・パウマンだけが苦情の様な愚痴の様な言い方をしてきた。

 ダンジョンに入られない事に不満を持った一部の冒険者から突き上げを食らっているようだ。それなら、獣人ペネム街のギルドに文句を言えばいいのだが、そちらはまだ受付を開始していない。
 そもそも、まだペネム・ダンジョンは公表していない。居住区のチアル・ダンジョンは存在を否定している。今、公にしているのはサラトガにあったダンジョンだけだ。商業区で売られている物がダンジョン由来の物だからと言って、商業区や自由区にダンジョンがあると思うのがおかしいのだ。まぁ実際には、今作っているのだけどな。

 文句を言いに来た者だけならさほど問題にはならなかったが、獣人ペネム街で暴れたり、獣人族だからと文句を言った冒険者を、獣人ペネム街は"出禁"にした。これに対する苦情が、パウマン殿の所に集中しているようだ。

 経緯や成り立ちを知らない者は、獣人ペネム街はミュルダの街が作ってと思っているようだ。
 商人や職人たちは、いち早く動くために情報を探っていたし、まとめ役から情報が降りていたらしい。俺の事は秘匿されていたが、獣人族の長たちと、竜族を支配に置いた者が、獣人ペネム街を作って運営をミュルダ老にまかせているだけで、実質はブルーフォレストに住んでいた獣人族の集合体だという事になっている。
 その上で、長達の上にすべての獣人と竜族を支配した者が居る街だという事になっている。

 冒険者たちは、それらの情報は噂程度には聞いていたらしいが、真実ではないと思っているようだ。
 それで、今まで下に見ていた獣人族だから、強気に出ればなんとかなるだろうと思っての行動のようだ。数名は、獣人ペネム街はもちろん、SAやPAにも立ち寄れなくなっている。
 これらの処置の解除を求めてきたのだ。

 もちろん、却下した。

 そんな奴らには、俺の周りをウロウロしてほしくない。今の話を聞いて、ブルーフォレスト内への侵入も禁止する。魔力を登録して、パターンが一致した者は、魔蟲に捕らえさせる事にする。今決めた。もう決めた。

 警告の意味もあるので、パウマン殿に伝えておく。

「し、しかし、ツクモ殿。冒険者が居なくて困るのは、獣人ペネム街ではないのか?」
「え?困りませんよ?」
「商隊の護衛はどうするのですか?」

 何言い出すのこの人?
 落とし所を考えての発言には思えない。

「それは、商隊を率いている人たちが考えればいいだけですよね?私たちが考える事ではありません」

 俺は、商隊の代表と言っていた人を見る。俺の発言ではなく、パウマン殿を睨んでいる。

「しかし、行商が行われないと」
「困るのは、ミュルダではないですか?私たちは、一切困りませんよ?今、ミュルダに遠慮して穀物を作っていないだけです。作ろうと思えば、アンクラムから来ている農家も居ますし、獣人族の方々に覚えてもらえば済むだけです。違いますか?穀物が買えなければ、しばらくは、果物もありますし、魔物の肉もあります。さて、困るのはどちらでしょうか?」

 俺個人で言えば、エントやドリュアス達がログハウスの周りで作っている物で十分食べていける。

「なっ冒険者が居なければ、ダンジョン・・・そう、ダンジョンに入る者もいなくなってしまいますよ」

 脅せばなんとかなると思っていたのでしょうかね。
 どんどん、悪い方向に進んでいるのがわからないのでしょうか?

 ミュルダの現在の執行部も一枚岩では無いのは解っていましたが、誰も冒険者ギルドを止めないのなら同じ考えだと思っていいのでしょうかね?

「え?居ますよ?改めていうのも馬鹿らしいのですが、私たちは、ミュルダやサラトガやアンクラムがなくても生活できます。多少人数が増えたので、主食になる物が足りなくなるかもしれませんが、それを補う準備はできています。いいですよ?それがミュルダの総意なら、SA及びPAは撤収しますし、獣人ペネム街もすでに住民登録が終わって居る者だけの街にします」

 場が静寂に包まれる。

「何も無いようですね。では、私はこれで失礼します。あぁ即座に撤収作業を行わせます。短い間でしたが、ありがとうございました。移民は受け付けていますので、遠慮なさらずにどうぞお越しください。審査は少し厳しくしますが、冒険者ギルドに関わっていない人は基本受け付ける様にします。それでは!エリン。カイ。ウミ。帰るぞ。くだらない時間を過ごしてしまった」

 呆然とする。パウマンと、何が起こったのかわからないで呆然とする面々。
 商隊を率いている代表と、商人の代表は、即座に対応しなければという表情になっているが、ミュルダというよりも、自分たちの存在を守る動きに入るだろう。

「あぁそうだ。いい忘れました。パウマン殿。子供に言い負かされたからって、待機している奴らを突入させるような愚行はしないでくださいね。命の保証ができなくなります。パウマン殿個人的なご意見/お考えだとしても私としては”ミュルダの総意”として考えてしまいますからね」
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