24 / 323
第二章 救出
第二十四話
しおりを挟む
/***** カズト・ツクモ Side *****/
「エーリック。戦闘場所に検討がつくのか?」
「すまん。いえ、すみません。話から、黒豹族辺りだとは思います」
「エーリック。別に、言葉遣いは、普段のままでいいぞ。それよりも、場所か・・・戦闘が行われている。そうか!」
『ライ。近くに、スーンの手の者がいるよな?』
『うん』
『逃げた獣人たちは保護しているのだよな?』
近くに居るエントから念話が届く。
『はい。大主のお言いつけ通りに』
『案内はどうしている?』
『エントとドリュアスを付けています』
『わかった、他に、森の中に逃げた者が居ないか探しながら、洞窟周辺に誘導してくれ』
『かしこまりました』
『それで、まだ見張っているエントかドリュアスが居るだろう?カイに念話で場所を知らせる様に言ってくれ、いいか、安全第一だからな。エントやドリュアス1人で敵対しないようにしろよ』
『大主。かしこまりました。カイ様を誘導するようにいたします』
『頼む』
カイが、エントからの連絡を受けているようだ。
俺たちの前に出て、誘導を開始する。
「エーリック。カイが、先導する」
「え?あっわかった」
「カイ!人族がどんな陣形になっているかわかるか?」
カイは、走りながら、エントたちに確認しているようだ。
「主様。エントたちが言うには」
カイは、人族の陣形と、今までの状況を話し始めた。
話を聞いてみたが、陣形と言うようなものではない。単純に、後方があって、戦力を逐次投入しているような形だ。
何が目的かわからないが、奴隷にするためなら、囲んで心を折ればいいのに、そうしないと、お互いに犠牲者だけが増えていくだけではないのか?
「エーリック。フォレスト・スパイダーを3匹つける。獣人族の本陣に行ってくれないか?」
「おぉ。ツクモ様は?」
「人族の本陣で捕えられている者たちを開放する。同時に、できたら人族の目的が”何か”を確認してくる」
「わかった。俺が行きたいが・・・いや、足手まといだな。すまない。お願いする」
移動しながら、方針転換を行う。
30匹連れてきた蜘蛛の中から、3匹を選んで、一番身体が大きかった者をリーダーに指名た。フォレスト・スパイダーに、先導させて、獣人族の陣地に急がせた。
エーリックと別れてから
「ウミ。フォレスト・スパイダーを3組連れて、東側から廻って、人族の本陣を急襲しろ。なるべく殺さずに、無力化しろよ」
『わかった。行くよ!』
ウミは、9匹のフォレスト・スパイダーとともに、東側から廻るように指示した。これで、人族の後方が混乱すれば、多少は、獣人族に掛かっていた、圧力を減らす事ができるだろう。
「カイ!」『主様!』
「ん?」
『僕は、主様の傍に居ます』
「そうか・・・ライ!」
『はい』
「一番難しい事を頼む。人族と獣人族が戦っている所に、割って入って、両者を無力化してくれ」
『わかった』
「フォレスト・スパイダーは、残り全部を連れて行け。俺には、カイが着いているから安心していいだろう?」
『ライ。お願いします』『わかった。カイ兄。行ってきます。殺さないほうがいいよね?』
「あぁ殺さないように頼む」
「カイ。包囲しようとしている人族を捕えていくぞ」
『わかりました』
状況が逐次伝わってくる。
『人族の後方に出た。今から、突入するよ』
『獣人族と人族の戦闘区域に着いた。配置完了。いつでも大丈夫!』
『逃げていた獣人族の数名を確保。安全な場所に移動開始』
エントからも報告が入る。
カイも、先程から、人族をスキルで無力化している。
『カズ兄。捕まっていた、獣人族が居たけど、どうする?』
『話が通じそうな奴は居たか?』
『うーん。ダメっぽい』
『そうか、ライ。エーリックに付いている、スパイダーに話が通じるか?』
『大丈夫!』
『リーダに指名した奴に、エーリックと話ができそうなら、ウミの話を投げておいてくれ』
『あるじ。ダメっぽい。リーダ・フォレスト・スパイダーにはつながったけど、エーリックにはダメみたい』
『それじゃしょうがないな。ウミ。獣人族が、逃げたり、反抗したりした場合は、スパイダーで拘束してしまえ』
『はーい』
ウミと蜘蛛が、人族を拘束したからって、獣人族の味方だと考えるのは、無理があるだろうからな。
早く、エーリックと合流して、獣人族を安全な所に逃してしまいたい。その後に、捕らえた人族から情報を聞き取ればいいだろう。
/*** エーリック Side カズトから別れてから ***/
本当に、フォレスト・スパイダーか?
数歩先を移動している、スパイダーを見る。フォレスト・スパイダーなら、俺でも対抗できると思うが、先頭を移動している、個体とは戦いになりそうもない。ツクモ様も、進化した個体と言っていた。
先頭の特殊個体以外の二体が、時折振り返って、俺が付いてきているのか確認しているようだ。
俺にもはっきりと獣人族--多分、黒豹族--の存在が認識できる。
まだ、生き残っていた。特殊個体を除いて、二体が左右に分かれる。どうやら、近くに居る人族を捕えに行くようだ。
特殊個体は、俺が、黒豹族の存在を認識したのがわかるのか、俺の肩に乗ってくる。怖くないかと聞かれたら、迷わず”とてつもなく怖い”と答えるが、今は、そんな事を考えているときではない。
見えてきた。
戦闘も今は行われていないようだ。
「今なら問題ないだろう」
独り言のつもりだったが、肩に乗っている、フォレスト・スパイダーが、片足を上げて答えてくれている。問題ないようだ。
「白狼族の族長、ヨーン=エーリックだ。無事な者は居ないか?」
「おぉぉ白狼族の、儂は、黒豹族の族長、カミーユ=ロロットじゃ。貴殿だけなのか?」
「説明は、後だ。今は、戦線を縮小して、後方に下がるぞ」
「なっそんな事をしたら、人族が攻め込んでくる」
「大丈夫だ。そちらは、別の者が、対処に向っている」
「・・・あい。わかった」
それからの行動は早かった。俺も協力して、黒豹族たちを、まとめて、移動を開始した。
「エーリック殿。あの、スパイダーは?」
「大丈夫です。味方です。今は、そう思ってください。後で、説明します」
「了解した」
けが人を連れて、戦闘区域からの撤退を行った。
生き残った者は、全部で10名を少し越えるくらいだ。黒豹族としては、500名程度の集団だったと思う。獣人族の中で、一番の集団だったはずだ。
言葉少なげに、撤退していく族長を見るのは辛い。
全滅の危機から救ったと言えば聞こえはいいが、実際には、全滅一歩手前の状態だ。
他の族はどうなった。
ブルーフォレストに、集団を作っていた獣人族は、獅子族と兎族があったはずだ。全滅したか?
複数の種族がまとまっていた場所も有ったはずだ。
肩に乗っている、フォレスト・スパイダーが、俺の頬を叩く、そして、足で方向を示す。
「そっちに逃げろというのか?」
足を上に上げる。そうだという意味だと取れる。
「ロロット殿?こっちの方角には何がある?」
「そっちには、小さな泉があるが、人族が居たはずだぞ?」
「大丈夫なのか?」
フォレスト・スパイダーは、大丈夫と言っているようだ。
「ロロット殿。泉に向かいましょう」
「大丈夫なのか?」
「わからない・・・正直、わからないが、大丈夫だと思う」
「わかった、貴殿に救われた命だ。従おう」
それから、数時間、辺りを警戒しながら、泉に向った。
近場に居住するだけあって、ロロット殿たちの案内は的確だ。
声が聞こえる。どうなっている?
「え?」
「へ?」
隣で移動していた、ロロット殿も俺と同じ様に、奇異な声を出してしまった。
そう思わせるだけの事が目の前で行われていた。
「ロロット殿。一応、訪ねるが、あんな物有ったか?」
「・・・はっ。イヤ、戦闘に入る5日前には、本当に泉があるだけの場所だ」
「やっぱりか・・・」
「なにか、知っているのか?」
「知っているわけではない。でも、もしかしたら、獣人族は助かったのかも知れない。急ぐぞ!」
「おい。エーリック殿。あれが、人族が作った物でない保証は無いのだぞ!」
「大丈夫だ。あれは、我が主が作らせた物だ!」
確信が有ったわけではない。
でも、間違いなく、カズト・ツクモ様が作られた、命じた物だろう。泉があったと思われる場所を、覆うように石壁が作られている。その周りに、柵が幾重にも作られている。
そして、石壁の周りには、水が張られている。
橋がかけられている場所には、ツクモ様の所に居たのと同じ衣装を着た者が立っている。
フォレスト・エントだ。
「エーリック殿。いろいろ尋ねたいのだが?」
「すまん。どこまで話していいのかわからない。ただ、間違いなく、あそこは安全だという事だけは、保証しよう」
「そうか、貴殿を信用しよう」
俺と、10名の黒豹族は、フォレスト・エントが守る場所に入った。
ロロット殿は、座り込んで、泣き崩れてしまった。
そこには、全滅したと思われていた獣人族の女子供が種族ごとに集まって、過ごしていたのだ。
「エーリック様とお見受けします」
フォレスト・エントが声をかけてきた。
「あぁ」
「ご無事で何よりです。大主より、”人族の8割は捕らえるか、切り伏せた。残りも、撤退している。捕えられていた、獣人族もできる限りは、確保して、泉に向かう。申し訳ないが暫く待って欲しい”との事です」
「あい。わかった。ツクモ様もこちらへ?」
「はい。カイ様とウミ様とライ様と一緒に、こちらに向かうとの事です」
「ここは、貴殿たちが?」
「はい。野ざらしで申し訳ないとは思いますが、まずは安全を確保する事を優先いたしました」
「そっそうか」
確かに、野ざらしだが、石壁に覆われて、中央に泉がある。どうやったのかわからないが、平坦な場所になっている。
人族は、1ヶ所にまとめられて、檻のような物に入れられている。その前に、獅子族だろう、獣人族の中でも戦闘に秀でた者たちと、エントが睨みをきかせている。武装は解除されている。あの様子では、スキルカードも没収しているのだろう。
俺たちに気がついて、幾人かがこちらに駆け寄ってくる。
ロロット殿と抱き合って喜んでいる。
「白狼族の族長とお見受けする」
獅子族と、熊族が声をかけてきた。
「あぁ俺は、白狼族の族長、ヨーン=エーリック。エーリックと呼んでくれ」
「失礼。儂は、獅子族。族長代理のウォーレス=ヘイズだ」
「俺は、テイセン。ロータル=テイセン。エーリック殿。お聞きしたい。父は、父は無事だったのでしょうか?」
「ロータル殿は、無事だ人族に捕えられていた、熊族も開放されている」
テイセン殿は、緊張の糸が切れたのか、その場に座り込んで、”よかった”を連呼している。
「エーリック殿。お聞きしたい事がある」
「何でしょう?」
「お主の肩に乗っている”スパイダー”は?」
「あぁ味方だと・・・しか言えない」
「わかった。それはいいのだが、どういう事なのか説明して頂けないか?」
「・・・すまな。俺も、詳細はわからないのだ」
「ヘイズ殿。俺からも聞きたい。あの人族は?」
「・・・それこそ、儂が知りたい。儂たちの集落に突然人族が攻め込んできた。最初は撃退していたのだが、徐々に押されて、崩壊しそうなときに、女子どもを逃したのだが、そうしたら、フォレスト・エントとフォレスト・ビーナが人族に襲いだして、無力化してしまった。その後で、フォレスト・エントの案内に従って、ここに来てみれば、あの状況だ。檻の前には、さっきの熊族が1人で立っていたから、儂も協力したという流れだ」
「そうか・・・ツクモ様に救われたという事だな・・・」
「エーリック殿。その”ツクモ様”は、フォレスト・エントが言っている、”大主様”なのか?」
「そうだ。そして、白狼族は、カズト・ツクモ様に忠誠を誓った」
「え?なぜ?白狼族全体の意思なのか?」
「俺は、ツクモ様に命を救われた。一族もだ。俺は、族長として判断した。ツクモ様の配下になると、長老衆の意見はまだ聞いていないので、まずは俺個人としての言葉だけだが、長老衆は説得する。カズト・ツクモ様の下に、白狼族は入る。熊族と豹族の族長も同じ意見だ」
「そうか・・・獅子族は、話を聞いていると、一番最後に襲われたようで、犠牲者は出ていない。他の氏族は酷いのだろう?」
「わからない。白狼族は、男の半数は・・・ダメだろうが、女子供は、奴隷に落とされて・・・隷属化された後で殺された者も居るが、無事な者も多い」
「本当か?」
横から、熊族のテイセンが割って入ってきた。
「あぁ今頃は、ロータル殿の所に移動していると思う」
「よかった・・・それで、その場所は?」
熊族の若者は、すぐにでも移動を開始しそうになっている。
「すまん。テイセン殿。少し待って欲しい、もうすぐ、カズト・ツクモ様が、こちらに来られる事になっている」
「え?白狼族?それは本当か?」
「あぁ」
それから、3時間程度が経過しただろうか?
フォレスト・エントたちが、石壁の入り口に移動し始めた。
「エーリック様。大主がご到着いたします。どうされますか?」
「あっありがとう。もちろん、出迎えます。ロロット殿。ヘイズ殿。テイセン殿。どうされる?」
他にも、複数の種族が見受けられる。族長や族長代理で出迎える事にした。
「エーリック。戦闘場所に検討がつくのか?」
「すまん。いえ、すみません。話から、黒豹族辺りだとは思います」
「エーリック。別に、言葉遣いは、普段のままでいいぞ。それよりも、場所か・・・戦闘が行われている。そうか!」
『ライ。近くに、スーンの手の者がいるよな?』
『うん』
『逃げた獣人たちは保護しているのだよな?』
近くに居るエントから念話が届く。
『はい。大主のお言いつけ通りに』
『案内はどうしている?』
『エントとドリュアスを付けています』
『わかった、他に、森の中に逃げた者が居ないか探しながら、洞窟周辺に誘導してくれ』
『かしこまりました』
『それで、まだ見張っているエントかドリュアスが居るだろう?カイに念話で場所を知らせる様に言ってくれ、いいか、安全第一だからな。エントやドリュアス1人で敵対しないようにしろよ』
『大主。かしこまりました。カイ様を誘導するようにいたします』
『頼む』
カイが、エントからの連絡を受けているようだ。
俺たちの前に出て、誘導を開始する。
「エーリック。カイが、先導する」
「え?あっわかった」
「カイ!人族がどんな陣形になっているかわかるか?」
カイは、走りながら、エントたちに確認しているようだ。
「主様。エントたちが言うには」
カイは、人族の陣形と、今までの状況を話し始めた。
話を聞いてみたが、陣形と言うようなものではない。単純に、後方があって、戦力を逐次投入しているような形だ。
何が目的かわからないが、奴隷にするためなら、囲んで心を折ればいいのに、そうしないと、お互いに犠牲者だけが増えていくだけではないのか?
「エーリック。フォレスト・スパイダーを3匹つける。獣人族の本陣に行ってくれないか?」
「おぉ。ツクモ様は?」
「人族の本陣で捕えられている者たちを開放する。同時に、できたら人族の目的が”何か”を確認してくる」
「わかった。俺が行きたいが・・・いや、足手まといだな。すまない。お願いする」
移動しながら、方針転換を行う。
30匹連れてきた蜘蛛の中から、3匹を選んで、一番身体が大きかった者をリーダーに指名た。フォレスト・スパイダーに、先導させて、獣人族の陣地に急がせた。
エーリックと別れてから
「ウミ。フォレスト・スパイダーを3組連れて、東側から廻って、人族の本陣を急襲しろ。なるべく殺さずに、無力化しろよ」
『わかった。行くよ!』
ウミは、9匹のフォレスト・スパイダーとともに、東側から廻るように指示した。これで、人族の後方が混乱すれば、多少は、獣人族に掛かっていた、圧力を減らす事ができるだろう。
「カイ!」『主様!』
「ん?」
『僕は、主様の傍に居ます』
「そうか・・・ライ!」
『はい』
「一番難しい事を頼む。人族と獣人族が戦っている所に、割って入って、両者を無力化してくれ」
『わかった』
「フォレスト・スパイダーは、残り全部を連れて行け。俺には、カイが着いているから安心していいだろう?」
『ライ。お願いします』『わかった。カイ兄。行ってきます。殺さないほうがいいよね?』
「あぁ殺さないように頼む」
「カイ。包囲しようとしている人族を捕えていくぞ」
『わかりました』
状況が逐次伝わってくる。
『人族の後方に出た。今から、突入するよ』
『獣人族と人族の戦闘区域に着いた。配置完了。いつでも大丈夫!』
『逃げていた獣人族の数名を確保。安全な場所に移動開始』
エントからも報告が入る。
カイも、先程から、人族をスキルで無力化している。
『カズ兄。捕まっていた、獣人族が居たけど、どうする?』
『話が通じそうな奴は居たか?』
『うーん。ダメっぽい』
『そうか、ライ。エーリックに付いている、スパイダーに話が通じるか?』
『大丈夫!』
『リーダに指名した奴に、エーリックと話ができそうなら、ウミの話を投げておいてくれ』
『あるじ。ダメっぽい。リーダ・フォレスト・スパイダーにはつながったけど、エーリックにはダメみたい』
『それじゃしょうがないな。ウミ。獣人族が、逃げたり、反抗したりした場合は、スパイダーで拘束してしまえ』
『はーい』
ウミと蜘蛛が、人族を拘束したからって、獣人族の味方だと考えるのは、無理があるだろうからな。
早く、エーリックと合流して、獣人族を安全な所に逃してしまいたい。その後に、捕らえた人族から情報を聞き取ればいいだろう。
/*** エーリック Side カズトから別れてから ***/
本当に、フォレスト・スパイダーか?
数歩先を移動している、スパイダーを見る。フォレスト・スパイダーなら、俺でも対抗できると思うが、先頭を移動している、個体とは戦いになりそうもない。ツクモ様も、進化した個体と言っていた。
先頭の特殊個体以外の二体が、時折振り返って、俺が付いてきているのか確認しているようだ。
俺にもはっきりと獣人族--多分、黒豹族--の存在が認識できる。
まだ、生き残っていた。特殊個体を除いて、二体が左右に分かれる。どうやら、近くに居る人族を捕えに行くようだ。
特殊個体は、俺が、黒豹族の存在を認識したのがわかるのか、俺の肩に乗ってくる。怖くないかと聞かれたら、迷わず”とてつもなく怖い”と答えるが、今は、そんな事を考えているときではない。
見えてきた。
戦闘も今は行われていないようだ。
「今なら問題ないだろう」
独り言のつもりだったが、肩に乗っている、フォレスト・スパイダーが、片足を上げて答えてくれている。問題ないようだ。
「白狼族の族長、ヨーン=エーリックだ。無事な者は居ないか?」
「おぉぉ白狼族の、儂は、黒豹族の族長、カミーユ=ロロットじゃ。貴殿だけなのか?」
「説明は、後だ。今は、戦線を縮小して、後方に下がるぞ」
「なっそんな事をしたら、人族が攻め込んでくる」
「大丈夫だ。そちらは、別の者が、対処に向っている」
「・・・あい。わかった」
それからの行動は早かった。俺も協力して、黒豹族たちを、まとめて、移動を開始した。
「エーリック殿。あの、スパイダーは?」
「大丈夫です。味方です。今は、そう思ってください。後で、説明します」
「了解した」
けが人を連れて、戦闘区域からの撤退を行った。
生き残った者は、全部で10名を少し越えるくらいだ。黒豹族としては、500名程度の集団だったと思う。獣人族の中で、一番の集団だったはずだ。
言葉少なげに、撤退していく族長を見るのは辛い。
全滅の危機から救ったと言えば聞こえはいいが、実際には、全滅一歩手前の状態だ。
他の族はどうなった。
ブルーフォレストに、集団を作っていた獣人族は、獅子族と兎族があったはずだ。全滅したか?
複数の種族がまとまっていた場所も有ったはずだ。
肩に乗っている、フォレスト・スパイダーが、俺の頬を叩く、そして、足で方向を示す。
「そっちに逃げろというのか?」
足を上に上げる。そうだという意味だと取れる。
「ロロット殿?こっちの方角には何がある?」
「そっちには、小さな泉があるが、人族が居たはずだぞ?」
「大丈夫なのか?」
フォレスト・スパイダーは、大丈夫と言っているようだ。
「ロロット殿。泉に向かいましょう」
「大丈夫なのか?」
「わからない・・・正直、わからないが、大丈夫だと思う」
「わかった、貴殿に救われた命だ。従おう」
それから、数時間、辺りを警戒しながら、泉に向った。
近場に居住するだけあって、ロロット殿たちの案内は的確だ。
声が聞こえる。どうなっている?
「え?」
「へ?」
隣で移動していた、ロロット殿も俺と同じ様に、奇異な声を出してしまった。
そう思わせるだけの事が目の前で行われていた。
「ロロット殿。一応、訪ねるが、あんな物有ったか?」
「・・・はっ。イヤ、戦闘に入る5日前には、本当に泉があるだけの場所だ」
「やっぱりか・・・」
「なにか、知っているのか?」
「知っているわけではない。でも、もしかしたら、獣人族は助かったのかも知れない。急ぐぞ!」
「おい。エーリック殿。あれが、人族が作った物でない保証は無いのだぞ!」
「大丈夫だ。あれは、我が主が作らせた物だ!」
確信が有ったわけではない。
でも、間違いなく、カズト・ツクモ様が作られた、命じた物だろう。泉があったと思われる場所を、覆うように石壁が作られている。その周りに、柵が幾重にも作られている。
そして、石壁の周りには、水が張られている。
橋がかけられている場所には、ツクモ様の所に居たのと同じ衣装を着た者が立っている。
フォレスト・エントだ。
「エーリック殿。いろいろ尋ねたいのだが?」
「すまん。どこまで話していいのかわからない。ただ、間違いなく、あそこは安全だという事だけは、保証しよう」
「そうか、貴殿を信用しよう」
俺と、10名の黒豹族は、フォレスト・エントが守る場所に入った。
ロロット殿は、座り込んで、泣き崩れてしまった。
そこには、全滅したと思われていた獣人族の女子供が種族ごとに集まって、過ごしていたのだ。
「エーリック様とお見受けします」
フォレスト・エントが声をかけてきた。
「あぁ」
「ご無事で何よりです。大主より、”人族の8割は捕らえるか、切り伏せた。残りも、撤退している。捕えられていた、獣人族もできる限りは、確保して、泉に向かう。申し訳ないが暫く待って欲しい”との事です」
「あい。わかった。ツクモ様もこちらへ?」
「はい。カイ様とウミ様とライ様と一緒に、こちらに向かうとの事です」
「ここは、貴殿たちが?」
「はい。野ざらしで申し訳ないとは思いますが、まずは安全を確保する事を優先いたしました」
「そっそうか」
確かに、野ざらしだが、石壁に覆われて、中央に泉がある。どうやったのかわからないが、平坦な場所になっている。
人族は、1ヶ所にまとめられて、檻のような物に入れられている。その前に、獅子族だろう、獣人族の中でも戦闘に秀でた者たちと、エントが睨みをきかせている。武装は解除されている。あの様子では、スキルカードも没収しているのだろう。
俺たちに気がついて、幾人かがこちらに駆け寄ってくる。
ロロット殿と抱き合って喜んでいる。
「白狼族の族長とお見受けする」
獅子族と、熊族が声をかけてきた。
「あぁ俺は、白狼族の族長、ヨーン=エーリック。エーリックと呼んでくれ」
「失礼。儂は、獅子族。族長代理のウォーレス=ヘイズだ」
「俺は、テイセン。ロータル=テイセン。エーリック殿。お聞きしたい。父は、父は無事だったのでしょうか?」
「ロータル殿は、無事だ人族に捕えられていた、熊族も開放されている」
テイセン殿は、緊張の糸が切れたのか、その場に座り込んで、”よかった”を連呼している。
「エーリック殿。お聞きしたい事がある」
「何でしょう?」
「お主の肩に乗っている”スパイダー”は?」
「あぁ味方だと・・・しか言えない」
「わかった。それはいいのだが、どういう事なのか説明して頂けないか?」
「・・・すまな。俺も、詳細はわからないのだ」
「ヘイズ殿。俺からも聞きたい。あの人族は?」
「・・・それこそ、儂が知りたい。儂たちの集落に突然人族が攻め込んできた。最初は撃退していたのだが、徐々に押されて、崩壊しそうなときに、女子どもを逃したのだが、そうしたら、フォレスト・エントとフォレスト・ビーナが人族に襲いだして、無力化してしまった。その後で、フォレスト・エントの案内に従って、ここに来てみれば、あの状況だ。檻の前には、さっきの熊族が1人で立っていたから、儂も協力したという流れだ」
「そうか・・・ツクモ様に救われたという事だな・・・」
「エーリック殿。その”ツクモ様”は、フォレスト・エントが言っている、”大主様”なのか?」
「そうだ。そして、白狼族は、カズト・ツクモ様に忠誠を誓った」
「え?なぜ?白狼族全体の意思なのか?」
「俺は、ツクモ様に命を救われた。一族もだ。俺は、族長として判断した。ツクモ様の配下になると、長老衆の意見はまだ聞いていないので、まずは俺個人としての言葉だけだが、長老衆は説得する。カズト・ツクモ様の下に、白狼族は入る。熊族と豹族の族長も同じ意見だ」
「そうか・・・獅子族は、話を聞いていると、一番最後に襲われたようで、犠牲者は出ていない。他の氏族は酷いのだろう?」
「わからない。白狼族は、男の半数は・・・ダメだろうが、女子供は、奴隷に落とされて・・・隷属化された後で殺された者も居るが、無事な者も多い」
「本当か?」
横から、熊族のテイセンが割って入ってきた。
「あぁ今頃は、ロータル殿の所に移動していると思う」
「よかった・・・それで、その場所は?」
熊族の若者は、すぐにでも移動を開始しそうになっている。
「すまん。テイセン殿。少し待って欲しい、もうすぐ、カズト・ツクモ様が、こちらに来られる事になっている」
「え?白狼族?それは本当か?」
「あぁ」
それから、3時間程度が経過しただろうか?
フォレスト・エントたちが、石壁の入り口に移動し始めた。
「エーリック様。大主がご到着いたします。どうされますか?」
「あっありがとう。もちろん、出迎えます。ロロット殿。ヘイズ殿。テイセン殿。どうされる?」
他にも、複数の種族が見受けられる。族長や族長代理で出迎える事にした。
10
お気に入りに追加
1,656
あなたにおすすめの小説
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
俺は善人にはなれない
気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。
[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!
どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入!
舐めた奴らに、真実が牙を剥く!
何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ?
しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない?
訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、
なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト!
そして…わかってくる、この異世界の異常性。
出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。
主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。
相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。
ハーレム要素は、不明とします。
復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。
追記
2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。
8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。
2024/02/23
アルファポリスオンリーを解除しました。
元勇者パーティーの雑用係だけど、実は最強だった〜無能と罵られ追放されたので、真の実力を隠してスローライフします〜
一ノ瀬 彩音
ファンタジー
元勇者パーティーで雑用係をしていたが、追放されてしまった。
しかし彼は本当は最強でしかも、真の実力を隠していた!
今は辺境の小さな村でひっそりと暮らしている。
そうしていると……?
※第3回HJ小説大賞一次通過作品です!
はぁ?とりあえず寝てていい?
夕凪
ファンタジー
嫌いな両親と同級生から逃げて、アメリカ留学をした帰り道。帰国中の飛行機が事故を起こし、日本の女子高生だった私は墜落死した。特に未練もなかったが、強いて言えば、大好きなもふもふと一緒に暮らしたかった。しかし何故か、剣と魔法の異世界で、貴族の子として転生していた。しかも男の子で。今世の両親はとてもやさしくいい人たちで、さらには前世にはいなかった兄弟がいた。せっかくだから思いっきり、もふもふと戯れたい!惰眠を貪りたい!のんびり自由に生きたい!そう思っていたが、5歳の時に行われる判定の儀という、魔法属性を調べた日を境に、幸せな日常が崩れ去っていった・・・。その後、名を変え別の人物として、相棒のもふもふと共に旅に出る。相棒のもふもふであるズィーリオスの為の旅が、次第に自分自身の未来に深く関わっていき、仲間と共に逃れられない運命の荒波に飲み込まれていく。
※第二章は全体的に説明回が多いです。
<<<小説家になろうにて先行投稿しています>>>
ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い
平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。
かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。
『特別』を願った僕の転生先は放置された第7皇子!?
mio
ファンタジー
特別になることを望む『平凡』な大学生・弥登陽斗はある日突然亡くなる。
神様に『特別』になりたい願いを叶えてやると言われ、生まれ変わった先は異世界の第7皇子!? しかも母親はなんだかさびれた離宮に追いやられているし、騎士団に入っている兄はなかなか会うことができない。それでも穏やかな日々。
そんな生活も母の死を境に変わっていく。なぜか絡んでくる異母兄弟をあしらいつつ、兄の元で剣に魔法に、いろいろと学んでいくことに。兄と兄の部下との新たな日常に、以前とはまた違った幸せを感じていた。
日常を壊し、強制的に終わらせたとある不幸が起こるまでは。
神様、一つ言わせてください。僕が言っていた特別はこういうことではないと思うんですけど!?
他サイトでも投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる