異世界でもプログラム

北きつね

文字の大きさ
上 下
177 / 179
第六章 約束

第十一話 共和国の闇

しおりを挟む

「殿下?」

「ん?」

「それで、調べるのですか?」

「命令だからな・・・。そんな顔をするな。私としても、調べないほうがいいような気がしている」

 ユリウスは、燃え残った紙片を見つめている。
 重要な文面は残されていない。しかし、ユリウスやハンスたちの頭には命令の形で書かれていた”共和国の闇”が残っている。

 確認しないほうがいいのは、自分たちというよりも、ライムバッハ家のためだ。

「殿下。ご命令を・・・」

 ユリウスは、天幕の中でもっとも信頼できる者を探した。しかし、ユリウスが求める者は、”約束”を守るために、王国に帰還している。
 天幕の中にいる者たちをしっかりと見つめてから、大きく息を吸い込んだ。

「共和国には協定違反の疑いがある。ハンス。5000を率いて、西門を閉鎖せよ」

「はっ」

「ギード。おまえは、ギルベルトと一緒に、東門からデュ・コロワの首都に入り、行政を抑えろ。援軍で来ている3000を預ける」

「殿下!それでは、殿下を守る兵が少なすぎます」

「大丈夫だ。俺は、ここから西にある平原までさがる。そして・・・。街道を抑える」

「・・・」

「本当に、大丈夫だ。街道の分岐は抑えたい。違うか?」

 ユリウスの案は、大きくは間違ってはいない。
 自分自身を囮に使おうとしているのが気に入らないだけだ。

「心配なら、さっさと制圧して証拠を押さえて戻ってこい」

「「御意」」

 ハンスとギードの言葉が重なった。
 二人は、深々と頭を下げてユリウスの指示を具体的な戦術に落とし込むためにはなしはじめる。

「ユリウス」

「ギル。悪いな。面倒な役割を押し付けてしまって・・・」

「かまわない。それよりも、本当に無理はするなよ?おまえに何かあったら、俺がアルに殺されてしまう」

「大丈夫だ。さすがに、俺もわかっている。無茶はしない約束する」

「本当に・・・。アルが居ればと思ったことは、何度も有ったけど・・・。今回は・・・」

「そうだな。アルが居れば、俺の代わりに街道を抑える役目か、ギードの代わりに突入部隊を任せて・・・」

 二人は、居ない者を考えても仕方がないと思っていても、二人が信頼している独りの男を思い出して考えてしまった。
 ライムバッハ領を任されるようになってから、誰も口に出しては言わないが、皆が同じ思いを持っていた。

「ギル。頼む」

「任せろ。ん?国としては、見つかったほうがいいよな?」

「そうだな。ライムバッハ家としては・・・。微妙だな」

「微妙?」

「正確には”間違いであってほしい”だな」

「え?領土が増えるのだろう?」

「あぁ最低でも、デュ・コロワ国は、ライムバッハ領になるだろう・・・。ギル。考えてみろ、国境が変わる。共和国は、国境が複雑になっている。それらの交渉をしなければならない。そして、問題は外だけではない」

「ん?」

「問題は、国内だ」

「え?」

「ギル。考えてみろ。もし、デュ・コロワ国だけを割譲できたとして・・・。今のライムバッハ家なら運営は大丈夫だろう。少し・・・。本当に少しだけ、文官が負担を強いられるだけだ」

「それはそうだが・・・。領地が増えるのだから、役職も増えるからいいのでは?」

「そうだな。ライムバッハ家としては、問題は少ない」

「なんだよ?何が問題になる」

「ギル。デュ・コロワ国の国境はライムバッハ家だけが接している」

「そうだな。辺境伯の名前は伊達じゃない」

「あぁそうなると、共和国を傘下に加えても、増えるのはライムバッハ家の領土だ。あとは、王家の直轄領とするかだが・・・」

「・・・。王国内の貴族がうるさい?」

「そうだな。それは、王家が黙らせればいいのだが・・・。デュ・コロワだけが協定違反をしていると思うか?」

 ギルベルトは、首を横に振る。

「ギル!」

 天幕の外から、ギルベルトを呼ぶ声が聞こえる。
 準備が出来たようだ。

「行ってくる」

「頼む。無理はしないでくれ」

「大丈夫だ。俺は、ユリウスやアルとは違う」

 笑いながら、ギルベルトが差し出した手をユリウスは握った。

 天幕を出ていくギルベルトを見送ってから、ユリウスは残っている兵に指示を出した。

---

 共和国は、”民衆による政治”を謳っている。

 過去には、”抑圧された民衆を解放する”という理由で、王国に攻め込んだ。その時に、共和国軍を撃退したのが、2代前のライムバッハ辺境伯だ。ライムバッハ家の意向を受けて、領土の割譲を望まなかった。領土が増えても、当時のライムバッハ家では領地の運営ができなかった。
 王国が望んだのは、”奴隷制度の撤廃”と”共和国外への食料輸出の禁止”を突き付けた。

 特にライムバッハ家が望んだのは、奴隷制度の撤廃だ。
 民衆を考えてのことではない。王国と共和国と帝国の関係は絶妙なバランスで成り立っていた。

 帝国は、王国にちょっかいを出すときに、主に”奴隷兵”を肉壁にして攻め込んできた。その奴隷兵の提供元が、共和国だ。共和国は、自国や近隣諸国から民衆を攫ってきて、”奴隷”として帝国に売っていた。帝国は、”奴隷”を隷属状態にして戦わせていた。ライムバッハ家は帝国とは国境を接していない。しかし、共和国とは国境を接している。共和国の”商人”を装った者たちが、ウーレンフートなどのライムバッハ領からも民衆を攫って、奴隷として売っていた。

 そして、帝国は自給率が低い。王国で食料の買い付けを行っているが、戦争状態になればもちろん食料の買い付けは不可能になる。そのために、帝国は共和国から食料の買い付けを行っている。

 王国は、共和国に二つの約定を呑ませた。
 共和国にもメリットが存在した。食料の輸出が禁じられたことで、共和国の人口が徐々にではあるが増えた。増えた人口が、今回は足枷になってしまっている。

 そして、増えた人口を有効に使おうと、第三国を通じて帝国に国民を売っていた。
 隠れ蓑を用意して、”奴隷制度”を復活させていた。

 ユリウスによってもたらされた情報だ。

 ユリウスたちが捕らえた共和国の要人を人質として王国内に護送した。
 ライムバッハ家で一時預かりになり、その後、王都に送られることになっていた。ライムバッハ家で調書を作成していた時に、自分が助かりたい一身で、”奴隷売買”に手を染めている議員がいる事をほのめかした。また、それらの情報と合わせて、商人からも似たような証言を得ていた。

 ”奴隷制度”を復活させていれば、まだマシだったかもしれない。
 しかし、共和国は”拉致した者たちを奴隷として販売”していた。増えた自国民だけではない。ダンジョンを訪れた王国民もターゲットになっていた。

 ユリウスたちが”見つかってほしくない証拠”と言っているのは、”王国民”を奴隷として帝国に違法に売っている証拠だ。かなり期待は薄いと思っている。共和国は商人たちが牛耳っている国だとしても、”奴隷売買”を一般商人が行える状況ではない。国家に関連している商人が主導しているのは間違いない。

 約定を取り交わすきっかけになったのが、”ライムバッハ”だ。
 メンツを保つ意味でも、約定が守られていなかった場合の対処が必要になる。最低でも、当時に割譲が可能だった領土を奪い取る必要がでてくる。そのうえで、共和国に賠償を求める必要がある。
 賠償を拒否された場合には、当時に戻って戦争の継続が必要になってしまう。

 王国のメンツを守るためにも、そしてユリウスの体面メンツのためにも必要なことだ。

 ギルベルトとギードがデュ・コロワ国の首都に突入してから、3日後。
 ユリウスの下に、ギルベルトからの書状が届く。

 望んではいなかったが、証拠が見つかったという知らせだ。
 ユリウスが考えていた”最悪”をこえる方向に状況が進んだ。教会所属のシスターを含めた女性と女児が、奴隷紋を押された状態で見つかった。それも、暴行され殺された状態で・・・。シスターの身に着けていた衣類から、王国所轄の教会所属だと判明した。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

異端の紅赤マギ

みどりのたぬき
ファンタジー
【なろう83000PV超え】 --------------------------------------------- その日、瀧田暖はいつもの様にコンビニへ夕食の調達に出掛けた。 いつもの街並みは、何故か真上から視線を感じて見上げた天上で暖を見る巨大な『眼』と視線を交わした瞬間激変した。 それまで見ていたいた街並みは巨大な『眼』を見た瞬間、全くの別物へと変貌を遂げていた。 「ここは異世界だ!!」 退屈な日常から解き放たれ、悠々自適の冒険者生活を期待した暖に襲いかかる絶望。 「冒険者なんて職業は存在しない!?」 「俺には魔力が無い!?」 これは自身の『能力』を使えばイージーモードなのに何故か超絶ヘルモードへと突き進む一人の人ならざる者の物語・・・ --------------------------------------------------------------------------- 「初投稿作品」で色々と至らない点、文章も稚拙だったりするかもしれませんが、一生懸命書いていきます。 また、時間があれば表現等見直しを行っていきたいと思っています。※特に1章辺りは大幅に表現等変更予定です、時間があれば・・・ ★次章執筆大幅に遅れています。 ★なんやかんやありまして...

私は〈元〉小石でございます! ~癒し系ゴーレムと魔物使い~

Ss侍
ファンタジー
 "私"はある時目覚めたら身体が小石になっていた。  動けない、何もできない、そもそも身体がない。  自分の運命に嘆きつつ小石として過ごしていたある日、小さな人形のような可愛らしいゴーレムがやってきた。 ひょんなことからそのゴーレムの身体をのっとってしまった"私"。  それが、全ての出会いと冒険の始まりだとは知らずに_____!!

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

『転生したら「村」だった件 〜最強の移動要塞で世界を救います〜』

ソコニ
ファンタジー
29歳の過労死サラリーマン・御影要が目覚めたのは、なんと「村」として転生した姿だった。 誰もいない村の守護者となった要は、偶然迷い込んできた少年リオを最初の住民として迎え入れ、徐々に「村」としての力を開花させていく。【村レベル:1】【住民数:0】【スキル:基本生活機能】から始まった異世界生活。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

素材採取家の異世界旅行記

木乃子増緒
ファンタジー
28歳会社員、ある日突然死にました。謎の青年にとある惑星へと転生させられ、溢れんばかりの能力を便利に使って地味に旅をするお話です。主人公最強だけど最強だと気づいていない。 可愛い女子がやたら出てくるお話ではありません。ハーレムしません。恋愛要素一切ありません。 個性的な仲間と共に素材採取をしながら旅を続ける青年の異世界暮らし。たまーに戦っています。 このお話はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。 裏話やネタバレはついったーにて。たまにぼやいております。 この度アルファポリスより書籍化致しました。 書籍化部分はレンタルしております。

処理中です...