異世界でもプログラム

北きつね

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第六章 約束

第一話 皆?

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 ここは?

 だるい。
 ん?草の匂い?

 あぁ・・・。
 眩しい。ダメだ。俺は、天を空を感じていいのか?

 俺は・・・。
 生き残ってしまったのか?

 手が動く、腕も動く・・・。

 天を・・・。”天”なぞいらない。俺を庇って死んだ・・・。アルバン、カルラ・・・。アーシャを・・・。

「アル!」

 誰だ?
 俺の手を握るのは?

「アル!?」

 また、違う奴か?

 頭が痛い。
 思考に靄がかかっているようだ。考えたくない。起きるのも・・・。

「アルノルト・フォン・ライムバッハ!」

 誰だ?
 そうだ。
 俺は、”アルノルト”。

 違う。
 俺は・・・。

「いい加減に起きろ!アル!」

 アル?
 アルバン?

「お前!勝手に死ぬのは許さん!俺との・・・」

 煩い。
 疲れた。黙れ!俺に命令をするな!

 煩い奴だ。お前、誰だよ?

 死ぬ?
 誰が?

 俺か?

 俺は、死なない。

 アーシャに言われた。
 俺の本懐を・・・。

 そうだ、俺は、やらなければ、ルグリダを、ラウラを、カウラを、アルバンを、アーシャを・・・。そして、父さん。母さん・・・。ユリアンネを!

 クラーラ!
 そうだ、クラーラを・・・。その為に、力を求めた。
 求めた結果・・・。アルバンを、アーシャを、俺は愚かだ。

 愚かだからこそ、止まることは許されない。誰が許しても、俺が許せない。

「アルノルト・フォン・ライムバッハ!いい加減にしろ!」

 煩い奴だ。
 起きているよ。

 少しは休ませろ。

 煩いのは一人ではないのか?
 俺を呼んでいるのか?

 叫ばなくても聞こえている。

 大丈夫だ。
 俺は、俺だ。

 わかっている。やるべきことはわかっている。

 疲れている。
 休息が必要だとはおもわないのか?

「アルノルト様。エヴァとの約束はどうするのですか?」

「アル!いい加減に起きろ!」

 エヴァ?
 エヴァンジェリーナ・スカットーラ

 そうだ。
 迎えに行くと・・・。

 眩しい。これは、俺を照らして・・・。皆を、照らしているのか?

 皆?
 俺は、アルノルト・フォン・ライムバッハ。

 皆?
 エヴァ?エヴァンジェリーナ・スカットーラ。エヴァは、元気にしているか?俺の・・・。俺が、愛した女性だ。俺を必要だと言ってくれた女性だ。待っていてくれると・・・。

 皆?
 ユリウス?リウス・ホルトハウス・フォン・アーベントロート。皇太孫。ユリウス。クリス?
 クリス?クリスティーネ・フォン・フォイルゲン。ユリウスの婚約者で、フォイルゲン辺境伯の娘。

 皆?
 ギードとハンス?
 ユリウスの護衛でついてきたのか?
 ギルは?ギルベルトは?居るのか?

 皆。
 そんな顔をするなよ。
 俺は、生きる。生きている。生き残ってしまった。

「アル!アル!」

「ギル?煩い」

「アル!!」

 ギルベルトが俺に抱き着いてくる。
 煩いよ。
 生きているよ。

「アルノルト!」

「ギードとハンス?我儘な皇太孫の護衛か?」

 ハンスが、俺の手を握って身体を引っ張り上げる。
 立つのは無理だな。身体を起こすのがやっとだ。

「我儘を言い出した殿下についてきた」

「そうか、ご苦労なことだ。ギード。どうした?」

「ザシャに命令された」

 ザシャ?ザシャ・オストヴァルト
 エルフ族の女性だ。

「命令?」

「お前を連れてこいと言われた。連れてこなければ、別れると言われた。俺の為にも、お前を連れて帰る」

「ははは。それは、大変だな」

「あぁ大変だ。だから、協力しろ」

「わかった」

 ギードが差し出した手を握る。
 剣だこが出来ている素晴らしい手だ。ギードも修練を積んだのだろう。

「アル。イレーネが、エヴァを抑えている。俺の為に、早く帰るぞ」

 イレーネ?イレーネ・フォン・モルトケ。
 モルトケ男爵の娘だ。そつなくこなすバランサー的な女性だ。
 エヴァを抑えている?
 そうか、イレーネに迷惑をかけたのか?

「ハンス。悪いな。お礼は、精神的に返すことにするよ」

「わかった。今は、思いつかないから、貸しとく」

「そうか、取り立ては、手加減してくれ・・・。借りを返すのは、俺の目的を果たした後でいいか?」

「あぁ・・・。わかった。それでいい。いいか、俺の取り立ては激しいぞ!だから、一緒に帰るぞ」

 ハンスが手を出してきた。
 しっかりと握る。そのあとで、拳を合わせる。

 ハンスも、護衛として力をつけたのだろう。
 拳が硬くなっている。

「アル。ディアナが、アクセサリーの量産を希望している。頼めるか?」

 ディアナ?ディアナ・タールベルク。
 ドワーフ族の女性だ。魔法力がドワーフ族にしては高かった。
 アクセサリー?
 エヴァに渡した奴か?違うよな?

「量産?」

「そうだ。地金は用意する。ディアナが、叩いて不純物を取り除いた物だ。それで、チェーンを作って欲しい。らしい。俺には、解らない。だから、アル。お前をディアナの前に連れて行くのが俺にできる最善な方法だ」

「わかった。ディアナと会って話をする」

「作った物は、俺が扱うからな」

 ギルベルトが手を出してくる。
 しっかりと握る。慣れない剣でも握ったのか?やけに汚れている。

 手を広げる。
 俺の前に手をだしてきた。手のひらを勢いよく合わせる。

 乾燥した心に、心地よい音が響いてくる。

 俺は・・・。生きている。守られた。アルバンに、アーシャに・・・。皆に会う事が出来た。
 エヴァに会う事ができる。

「アル。随分、遅い目覚めだな」

 ユリウスが来ていたのか?
 ”来ない”という選択肢は無いのだろう。逆か?ユリウスが来たから、これだけ大げさな陣容になっているのだろう。

「あぁ。それよりも、ユリウス。カールは大丈夫なのか?」

「安心しろ。ヒルダが相手をしている」

 ヒルダ?ヒルデガルド・ローゼンハイム・フォン・アーベントロート。
 ユリウスの妹だったか?

「殿下。報告は正確に行いましょう。アルノルト様。ヒルデガルド様だけではなく、お屋敷の皆が、お帰りを待っております」

 クリスの言葉で納得した。
 カールは、家の者に預けてきたのだろう。イレーネとディアナが居るのなら安心できる。ザシャは、王都か?エヴァは、王都にいるはずだ。
 違うのか?ライムバッハの領都に来ているのか?

 エヴァが居るのなら、カールも安心だ。

「クリス。カルラは・・・」

「わかっている。あの子を褒めてあげて」

「褒める?」

「あの子は、貴方のアルノルト様の護衛になる為に、カルラ衆を私に預けてきたわ」

「え?」

「詳しい話は、領都で話しましょう」

「わかった」

「アル。立てるか?」

「大丈夫だ。魔力も回復している。もう・・・。大丈夫だ」

 立ち上がる。
 ふらつくが、ここで無様に倒れない。倒れたら、アルバンとアーシャに笑われてしまう。

 両足で踏ん張って、大地を掴む。
 もう大丈夫だ。

 立ち上がって、天を見る。

「(アーシャ。アルバン。見ていてくれ!無様な姿はこれで最後だ)」

 二人の声が聞こえた気がした。

「アルノルト様」

「事情の説明か?」

「はい。ある程度は、クォート殿から聞きましたが・・・」

「クォート。シャープ。ありがとう」

 二人が綺麗に頭を下げる。
 エイダが俺の所に何かを持ってきた。

『報告書です。襲撃者の記憶を再構築した物です。マスターの記憶を含めてあります』

 エイダから報告書を受け取って、読んでから、クリスティーネに渡す。

 クリスティーネは、報告書を読んでからユリウスに渡す。

「アル!」

 好戦的な視線で、ユリウスが襲撃者たちを睨みつける。

「・・・。アルノルト様」

「どうした?」

「この者たちは、アルノルト様を襲ったのでしょうか?それとも、王国のウーレンフートにあるマナベ商会を襲ったのでしょうか?」

「ウーレンフートのマナベ商会が襲われた。アルバンとアーシャ。カルラを襲った時には、俺は名乗りを挙げている。クラーラが居たからな」

「え?クラーラ?あの?」

「そうだ」

 クリスティーネがユリウスを制する。
 今は、クラーラを追うのは不可能だ。力が足りない。追跡も不可能だろう。帝国に行ければ足蹠程度はわかるかもしれないが・・・。

「アルノルト様。この件は、ライムバッハ領で預かっていいですか?」

「もちろんだ。ウーレンフートは、ライムバッハ領にある都市だ。そして、マナベ商会はウーレンフートに拠点を構える商会です。ライムバッハ辺境伯にお預けいたします」

 言葉遣いがごちゃごちゃになってしまった。
 クリスティーネは、”いい”笑顔で笑っている。

「アル。共和国に報復を行う。ライムバッハを一時的に預かっている身としては、ウーレンフートの商会に対する攻撃は看過できない。これより、少数による報告を開始する。アルトワと最初の宿場までは確保するぞ!」

 ユリウスの宣言で、侵攻が決定した。
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