異世界でもプログラム

北きつね

文字の大きさ
上 下
165 / 179
第五章 共和国

第六十四話 尋問

しおりを挟む

 尋問を始めようとしたが、”意味がない”と解ってしまった。

 生き残っている奴も壊れてしまっている。
 まともに会話が出来ない。苦痛を与えられても、”へらへら”と笑っている。指を切り落としても、足の骨を折っても反応がない。痛みを感じないのか?
 うめき声を上げるから、痛みは感じるのだろうけど、言葉が通じない動物や魔物を相手にしているような感覚になる。

「エイダ。死んでも構わない。記憶を抜き取ってくれ」

『了』

 クォートとシャープの後をついてきた奴らだと報告を貰った。

 俺を襲ったナイフの解析を進めている。大本は解ったのだが、まだ不明な部分も多い。
 やはり、帝国が使っていた”黒い石”が材料のようだ。鋭くはないが、スキルが付与されている。毒の様な物も付与されていた。毒は、解析中だが、俺たちが知らない毒のようだ。
 聞けなくなってしまったが、カルラが知っていなかったのだろう。知っていたら、自分にも対処を行っているはずだ。

 エイダが抜き取った記憶から襲撃の様子は大まかに解ってきた。

 俺は刺された。
 脇腹だ。いきなり刺されて、俺は倒れた。

 そして、追撃をしてきた奴らを、カルラが一掃した。

 第二撃に来た奴らを、アルバンが対応した。

 カルラは、俺を助けようと持っているポーションやワクチンを俺に使い始める。
 ここで効果があったのか解らない。

 アルバンが倒しきって戻ってきた。
 その時に、倒したと思っていた奴なのか?伏兵なのか?存在は解らないが、俺たちに襲い掛かってきて、カルラが俺を庇って刺された。カルラを刺した奴を倒そうとしたアルバンが別の奴に刺された。

 刺されながらも、アルバンは反撃をして、二人を無力化した。

 順番は理解が出来た。
 問題は、目的だ。

 ナイフを落とした時点で、こいつらの精神が壊れて、動かなくなっている。

 ”ひゃはひゃは”笑っている奴は居る。
 よく見れば、アルトワ町の町長の妻だった奴だ。他にも、俺たちを襲撃した奴らの家族だ。

 復讐なのか?

 復讐と言われれば、理由は解るが、どこからかナイフを入手した。
 本数も、27本?探せばまだあるかもしれない。全部、回収しておく必要があるだろう。こんなナイフは存在しないほうがいい。

 帝国というか、やつらクラーラの組織が作っていたのだとしたら、何か対策を考える必要がある。
 必ず、対峙する時が来る。今は、まだ対峙できない。俺には力がない。

「マスター」

 クォートが、周りの探索から帰ってきた。安全の確保は絶対だ。何度でも確認をしておこう。カルラとアルバンをこれ以上の傷をつけずに連れて帰る。俺ができる最大の行いだ。絶対に、連れて帰る。

「クォートは、奴らの回収が終わったら、ナイフの探索と回収を頼む」

 クォートには、散らばっている奴らの回収を頼む。
 奴らは、捨てておきたい気持ちがあるが、”黒い石”に浸食されている場合に、放置したらどんな影響があるか解らない。共和国がどうなろうと構わないが、アルトワ・ダンジョンに居る連中に被害がでる可能性を考えれば、放置はできない。

「かしこまりました」

 クォートには、俺たちを襲撃した奴らの回収をシャープと行ってもらっている。
 散らばっている奴らも居る。魔物に襲われた奴らも居る。アルバンが無力化した奴らは、精神は壊れているけど、身体は大丈夫だ。動けなくはなっているが、生きては居る。人としては、死んでいるかもしれないが、生命活動は続いている。

 どうやら、俺には天罰が下ったようだ。

 笑い声を上げている人物が、俺に天罰を与えたと騒いでいる。
 気持ち悪いうえに、気分も悪い。

「煩い。黙れ!」

 顔を蹴り上げる。
 歯が数本折れる音がするが気にしない。簡単には死なせない。殺さない。なんとか、精神を戻す方法を探す。戻したうえで、罪と罰を与える。それこそ、死んだ方が”まし”だと思えるような苦しみを与える。与え続ける。カルラもアルバンも望んでいないことは解っている。俺は、俺のために、こいつらを許せない。

 そして、こいつらは道具だ。
 ナイフで人を殺して、ナイフが訴えられて、罰せられることは考えられない。だから、道具を使った奴らを探して殺す。

 壊れたレコードの様に、同じことを繰り返す。

「エイダ。こいつら、精神支配とか、精神系のスキルは見られないのだよな?」

『是』

 やはり、秘密はナイフか?

「なぁこいつら、生きているよな?」

『生命活動の確認は出来ています』

「そうだよな・・・」

 何か、違和感がある。
 生きているのは、生きているのだろう。精神が壊れただけなのか?

 ナイフに付与されていたスキルが原因なのか?
 俺が、ヒューマノイドタイプに行っているように、人格のインストールができるのか?
 そんな事ができるとは思えないが・・・。精神を壊したうえで、上書きを行う。同調する。スキルか?

 ナイフの解析を進めないと解らないことだらけだ。

 そして・・・。

 大きな問題も存在している。

 カルラとアルバンの死を伝えなければならない。
 ヒルデガルドに何と言って詫びればいいのか・・・。詫びて済むような話ではない。ユリウスにも、報告をしなければ・・・。

 クォートと一緒にナイフを集めていたシャープが戻ってきた。

「マスター。ナイフは、全部で31本です」

「そういえば、捕えた奴らは?」

「死者を含めて、31名です。私とシャープの後ろに居た者は、30名です」

「一人増えているのか?」

「はい」

「シャープ!こいつらの服装で、一人だけ違った奴は居ないか?」

「調べます」

「居たら、そいつだけは、別枠で頼む。もし居なかったら、手を調べてくれ」

「”手”ですか?」

「あぁ手が綺麗な奴が居たら、そいつが主犯格の一人だ」

「わかりました」

 シャープに任せておけばいいだろう?
 服や手を調べて行けば、わかるはずだ。

 クラーラが言っていたことがヒントになるとは・・・。

 俺の予想が当たっていたら、俺はまた奴に乗せられたことになるのか?

「マスター。一人だけ、手が綺麗な者が居ました」

 ダメだ。
 感情が抑えられない。

 爆発しそうだ。

「エイダ。シャープが見つけた奴は・・・」

『死んでいます』

「だろうな。そいつが、ナイフを作って、黒い石をばらまいた奴だ。名前は解らない。クラーラが”殺した”と言っていた奴だ。そいつだけは、最初から死んでいたのだろう」

『わかりません』

「大丈夫だ。俺が、”そう”と考えているだけだ。正しくても、正しくなくても、どちらでも構わない」

 エイダとクォートとシャープには答えられない。
 当たり前だ。感情が芽生えていると言っても、元はAIだ。答えが無いのは解っている。必要もない。納得が出来れば、十分だ。

 死んだ奴は、帝国の人間なのだろう。
 クラーラの言葉からは、妖精の涙ティアドロップとかいう組織の人間なのだろう。席次があるようなことを言っていた。何番目なのか解らないが、クラーラに簡単に殺される程度だとしたら、実力は俺と同じくらいなのだろう。

「エイダ。クォート。シャープ。奴らはスキルで運ぶ。国境を目指すぞ」

「はい」

 クォートが代表して答えている。
 カルラなら・・・。
 違う。考えても仕方がない。

---

 国境までは、行商も居なかった。

 国境の壁が見え始めた。
 カルラとアルバンは、何としても一緒に帰るとしても、問題は死にかけている奴らだ。国境を越えられるとは思えない。

 いくら、共和国の国境が緩くても、通過は無理だろう。
 俺たちだけなら、俺の身分を明かして、強行突破が可能だとは思う。

「なぁカルラ・・・」

 そうだな。
 これからは、俺が考えて、俺が動かなければ、エイダもクォートもシャープも動かない。

 わかったよ。カルラ。

 明日になれば、何かが変わるとは思えないが、今日は休もう。

 国境の検問が見える丘で、休息を取ろう。

 疲れた。

 俺は、ここで何をしているのか?
 何日が経った?
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

異端の紅赤マギ

みどりのたぬき
ファンタジー
【なろう83000PV超え】 --------------------------------------------- その日、瀧田暖はいつもの様にコンビニへ夕食の調達に出掛けた。 いつもの街並みは、何故か真上から視線を感じて見上げた天上で暖を見る巨大な『眼』と視線を交わした瞬間激変した。 それまで見ていたいた街並みは巨大な『眼』を見た瞬間、全くの別物へと変貌を遂げていた。 「ここは異世界だ!!」 退屈な日常から解き放たれ、悠々自適の冒険者生活を期待した暖に襲いかかる絶望。 「冒険者なんて職業は存在しない!?」 「俺には魔力が無い!?」 これは自身の『能力』を使えばイージーモードなのに何故か超絶ヘルモードへと突き進む一人の人ならざる者の物語・・・ --------------------------------------------------------------------------- 「初投稿作品」で色々と至らない点、文章も稚拙だったりするかもしれませんが、一生懸命書いていきます。 また、時間があれば表現等見直しを行っていきたいと思っています。※特に1章辺りは大幅に表現等変更予定です、時間があれば・・・ ★次章執筆大幅に遅れています。 ★なんやかんやありまして...

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

『転生したら「村」だった件 〜最強の移動要塞で世界を救います〜』

ソコニ
ファンタジー
29歳の過労死サラリーマン・御影要が目覚めたのは、なんと「村」として転生した姿だった。 誰もいない村の守護者となった要は、偶然迷い込んできた少年リオを最初の住民として迎え入れ、徐々に「村」としての力を開花させていく。【村レベル:1】【住民数:0】【スキル:基本生活機能】から始まった異世界生活。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

素材採取家の異世界旅行記

木乃子増緒
ファンタジー
28歳会社員、ある日突然死にました。謎の青年にとある惑星へと転生させられ、溢れんばかりの能力を便利に使って地味に旅をするお話です。主人公最強だけど最強だと気づいていない。 可愛い女子がやたら出てくるお話ではありません。ハーレムしません。恋愛要素一切ありません。 個性的な仲間と共に素材採取をしながら旅を続ける青年の異世界暮らし。たまーに戦っています。 このお話はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。 裏話やネタバレはついったーにて。たまにぼやいております。 この度アルファポリスより書籍化致しました。 書籍化部分はレンタルしております。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

処理中です...