異世界でもプログラム

北きつね

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第五章 共和国

第六十二話 DoS攻撃?

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 黒ドラゴンの正体が、人を核にしたキメラだった。

 煙が天に上がる。
 森の木々を越えたあたりで、煙が霧散する。

 それぞれ・・・。待つ人の所に向かっているようにも思える。

「兄ちゃん?」

「アル。お疲れ。カルラは?」

「姉ちゃんは、防具をまとめている」

 さっそく動き出している。
 アルバンの視線を追うと、カルラが防具をまとめている姿が目に飛び込んできた。

 俺とアルバンは、攻撃をかわすために、全力だった。スキルを使わない戦いは辛かった。
 途中からスキルを全開で使わなければならなかった。

 本当に、嫌らしい敵だ。

「旦那様」

 止まっていた。クォートとシャープが背後から声をかけてきた。

「お!」

 スキルの恩恵で動いているクォートとシャープは、黒ドラゴンの周りでは、スキルの発動が阻害されていた。クラーラが何かを仕掛けたことも考えられるが、俺たちが居るとは知らなかったはずだ。

 動きが停止していた状況で、スキルが漏れ出さなかったら、黒ドラゴンから狙われなかったのか?

 動かなくなったのが、クラーラが仕掛けたことで無ければ・・・。過剰電流ではないけど、過剰にスキルの発動が確認された時用のセーフティーネットが動いたのか?俺が組み込んだセーフティーネットとは違う動きだが、動かなくなるのは想定していたパターンの中に含まれている。

 あとで、調査だな。
 検証は難しいが、調べて対策を考えなければ、次にクラーラと遭遇した時に・・・。木龍たちと同じように、対応が取られる可能性が高い。クラーラには初見殺しを用意しなければ・・・。それも、複数の系統だ。クラーラたちの上をいかなければ、狩られるとは俺になってしまう。

「旦那様。自己検査を行いました」

「何か、異常の発見がされたのか?」

「はい。一万六千九百一回の介入が発見されました」

「は?」

「いちまん」「数字は、いい。介入は?ハッキングという意味でいいのか?」

「はい。コアへの介入です」

「大丈夫なのか?」

「はい。介入前に、表層部分のスキルが負荷に耐えられずにフリーズしました」

 DoS攻撃を受けて、システムがシャッドダウンしたのか?
 対策を考える必要はあるけど、クォートとシャープは対策を行っている。それを突破されているのも問題だけど、負荷をかけることができるスキルが解らない。

 ん?

 表層部分のスキル?
 あれは、内部を守る為のファイアウォールの役割を持っている。攻撃を防ぐ目的もあるのだが、内部から外部にスキルが漏れ出さない様にする役割もある。

「クォート。表層部分の負荷で、内部へのスキル干渉ではないのだな?」

「はい。表層部分への負荷です。攻撃ではありません」

「鑑定やスキャンに近い物か?」

 ポートスキャンか?
 スキルで同じようなことができるのか?
 そもそも、外部インターフェースが違うから、意味があるとは思えない。

 クォートとシャープはスキルで構成されているが、根本部分は・・・。

 クラーラは、”傀儡子”と表現した。クォートとシャープがスキルで動いている事を認識して、対応をおこなった。
 俺の知らないスキルを使ったのか?
 それとも、何か方法があるのか?

「詳細は不明です」

 飽和攻撃か?

「わかった。何か、問題はあるのか?」

「自己診断を行いましたが、問題は発見されませんでした」

「そうか・・・。カルラを手伝ってくれ、カルラが集めた防具を、アルトワ・ダンジョンに向っているエイダに届けてくれ、そのままウーレンフートに送るように伝えて欲しい」

「わかりました」

 クォートとシャープの動きを阻害するだけのスキャン?

 今は、調べられない。
 設備もなければ、手持ちの道具もない。

 そして、黒ドラゴンの本体と戦う時に、スキルを全開で使ったために、これ以上はスキルが使えない。俺だけではなく、カルラもアルバンもスキルを使い果たしている。半日くらいは使えない感じだ。

 継続戦闘には自信があったが、俺たちはまだまだ弱い。
 ダンジョンを攻略して、強者になったつもりになっていただけの弱者だ。

 もっと、力を・・・。
 クラーラを殺せるだけの力を・・・。

---

 クォートとシャープがカルラを手伝って、防具を馬車に詰め込んでいる。

 ユニコーンとバイコーンは、離れた場所で止まっていたようだが、起動して戻ってきた。

 二体には、クォートとシャープにない情報があった。

 行動ログが生成されている。
 正確には、クォートとシャープにも行動ログは生成されているのだが、コアに連動した形になっていて、機能を停止してメンテナンスモードにしなければ、見られない。簡単に言えば、ウーレンフートやコア・ルームでメンテナンスを行う時にしか見る事ができない。

 ユニコーンとバイコーンのログをW-ZERO3で受け取った。

 ユニコーンとパイコーンは、クォートとシャープと一緒にアルトワ・ダンジョンからウーレンフートに戻る事が決定している。
 防具を積み込んだ馬車を曳いていくのには、ユニコーンとバイコーンが必要だ。クォートとシャープのログは、後日に確認するとして、まずは同等の機能を持っているユニコーンとバイコーンを調べる事にする。

 ログは、大きかったが、いくつかの情報を下にフィルターをかけたら、かなり情報を絞る事ができた。

 本格的に調べるのには、端末が必要だけど、辺りをつける位なら、この場所でもできる。

 ”この場所”で行う必要はないことは解っている。気になってしまっているのも事実だ。
 そして大きな理由は、俺もアルバンもカルラも黒ドラゴンとの戦いで疲れてしまっていて、身体が休憩を求めているからだ。

 何か食べたいとは思うけど、何も食べたくない。
 黒ドラゴンの核を思い出すと・・・。

 すぐに気持ちが落ち着くとは思うが、今は座っているだけの時間が欲しい。

 座っているだけでも、ログを見るくらいはできる。
 大きな理由として・・・。頭を動かしていないと、心が悲鳴を上げてしまう。

 クラーラの姿を思い出しては、心を奮い立たせるが、黒ドラゴンにされてしまった人たちの表情を思い出すと・・・。

 ログからは、推測が成り立った。

 大きくは外れていないとは思う。
 黒い靄が、纏わりつくと、スキルを吸収していた様に思える。

 スキルの吸収が、黒い石が持っている権能だと仮定する事もできる。

 黒い石を取り除いた、黒ドラゴンの本体はスキルの吸収ができていなかった。

 靄がコンバーターの役割を果たしていたのだろう。
 ログには、いろいろな攻撃が加えられたような痕跡が残されている。

 別の推測になるが、靄はスキルを吸収していたのではなく、スキルを相殺していた可能性がある。

 ”相殺”と考えても、全ての現象の説明は不可能だ。
 だけど、仮説として考えの始まりとしては、いいのかもしれない。

 ログからだと、ユニコーンとバイコーンは、弱いスキル攻撃を受け続けて、スキルが停止した。DoS攻撃を受けたサーバの様な動きだ。
 再起動時に、何かを仕込まれる可能性があるのかは解らない。内部に侵入された形跡はない。何かを持っていかれた可能性の否定はできないが、重要な情報は存在しない。直近の命令を持っていかれた可能性があるが、盗まれても困らない情報だ。

 今後の事を考えると、DMZを作るのは当然だとして、ハニーポットを置いておく必要があるかもしれない。
 コアをダブルにして、フォレンジック用のスキルを起動させた方がいいかもしれない。コストが倍になるが、クラーラたちを相手にするのなら必要な投資だろう。クラッキング対策の抜本的な見直しをしよう。

 クラーラが言っていた、帝国にも行かなければならないようだ。

『アルノルト様。私は帝国に帰ります。皇都に来られる時には、妖精の涙ティアドロップを訪ねてください。盟主と共に歓迎いたします』

 皇都?帝都ではないのか?
 妖精の涙ティアドロップは、奴が属している組織の名前だろう。
 盟主の存在。

 俺が目指すべき物が朧気ながら見えてきた。

---

 俺とアルバンとカルラは、休憩を選んだ。

 そして、俺は休憩を選んだことを・・・。
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