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第五章 共和国
第三十八話 最難関
しおりを挟む黒い石の正体は、待機型のスクリプトだ。”I Love You”ウィルスだ。乗っ取り方ではない。破壊タイプだ。
接触して、魔力の供給を受けると、スクリプトが実行される。バイナリでの配布ではないので、スクリプトを実行するためのバイナリが、ダンジョンに依存している。
ワクチンでの対処が可能だが、単純な仕組みだけど、侵入されてしまった魔物を元に戻すのは不可能だ。侵された部分をパージすればよいかと思ったが、スクリプトを見ると、上書きしてしまっている。同種の魔物からデータを複写する対処も考えられるが、討伐対象なので、討伐してしまったほうが楽だ。
「エイダ!」
『はい。マスター』
「ダンジョンの設定を頼む。ウーレンフートに繋げてくれ」
『了』
「ウーレンフートから、ヒューマノイドタイプを移動させて、設定と監視を頼む」
『了』
「設定は、階層を50階層まで増やして、低階層は、変更はなし。魔物のポップ率を増やす。ドロップ率は低下。素材や採取は、リポップなしだ」
『了』
「中層以降は、ひとまず保留。アルトワのダンジョンを参考に変更で、大丈夫か?」
『是。ダンジョン構成を参考に、変更を行います』
「頼む」
『了』
エイダが、制御室に移動する。
あとは、エイダに任せれば大丈夫だろう。
慣れた作業だ。ウーレンフートには、ヒューマノイドのストックは用意されている。当初よりも、高機能になっているのは、コアを格段に良質な物に変更したこともあるが、ソフトウェア面でも進歩したからだ。当初は、簡単なAIを搭載していたが、データ蓄積型にした事で、判断は難しいが、処理の精度が上がっている。ダンジョンに潜っている者たちのデータを分析できるようにしたのが大きな進歩に繋がった。
「兄ちゃん?」
「ん?」
「次はどうするの?もう、共和国のダンジョンで、資源として使われている場所は、踏破したよね?」
「カルラ。残されている期間は?」
「半年ほどです」
半年か?
カルラから情報が渡っているだろうけど・・・。
ダンジョンを攻略して、力は付けた。
でも、まだ届かない。何度戦っても、俺が倒される未来になってしまう。まだ足りない。
対魔物の戦闘は行っている。しかし・・・。対人。それも、1対多の戦闘経験が圧倒的に少ない。奴らは、対人に特化していると考えるのがいいだろう。それも、多対多ではなく、1対多の戦闘に慣れている。それでなければ、ラウラが負けるはずがない。致命傷は、正面からの刺し傷だ。ラウラが、無防備に正面を晒すとは思えない。後ろから死角をついて、奇襲したのなら考えられる。でも、確実に、ラウラに反撃させないだけの技量の差があった。
対人戦の経験を積むために、ヒューマノイドタイプを量産する必要がある。
1対1なら、カルラやアルバンとの訓練でも大丈夫だが、訓練でしかない。ヒューマノイドタイプなら、データを基盤に構築ができる。人の動きや速さの限界を外せる。人では不可能な、動きを行わせる事ができる。
しかし、現状のウーレンフートでは、ヒューマノイドタイプを作ることはできるが、大量にそれこそ、戦争でも行うのかと思うほどには作成ができない。
運営を行うだけのリソースは十分だと言えるが、ヒューマノイドを大量に作って、それらの制御を行うのには、リソースが不足している。そのために、共和国のダンジョンをウーレンフートの配下にできると解った時に、できるだけ多くのダンジョンを配下にしておく必要があると考えた。
半年では、あと1箇所か、2箇所が、限界だ。
『マスター』
「どうした?」
『設定が終了しました。あとは、自動設定で行います』
「わかった。モニタリングを頼む。アラームは俺に通知」
『了』
「異常値は、階層の半分をクリアされたらアラームで頼む」
『了』
「黒い石への備えと、ワクチンを頼む」
『設定済みです』
「戻ってきてくれ」
『了』
さて、エイダが戻ってきたら、地上に戻ろう。
エイダが、制御室から戻ってきた。
『マスター。リスプから連絡が入っています』
リスプ?
アルトワダンジョン?
「アルトワダンジョンから?」
『是』
「内容は?」
俺が持っている情報端末W-ZERO3にメッセージが転送されてきた。
そろそろ、スマートウォッチ系が流れてこないかな?データを見るのに楽なのだけど・・・。
W-ZERO3には、リスプからの業務連絡が入っている。
ウーレンフートから来た者たちのおかげで、リスプからの報告を見ると、リソースが黒字に転じている。微々たるものだが・・・。これから、リスプは、拠点としての利用が目的だから、黒字になるだけで良かったと思う事にしておこう。
「コアに名を付けると、業務報告が可能になるのか?」
『業務報告が不明』
「ログの提出が可能になるのか?」
『是』
「今までのダンジョンにも、名を与えればいいのか?」
『是』
「現状で、俺に送る事はできるのか?」
『否』
そうなると、ダンジョン事に名前が必要になって、わかりにくくなるな。
地名が解る場所なら地名を付ければ・・・。そういえば、リスプの時にアルトワは受け付けなかった。
「プルでの提出は可能か?」
『是』
そうか、それなら、ログ整理だけを行うヒューマノイドを配置して、ログを提出させる方が・・・。違うな、ウーレンフートに集めて、ウーレンフートから提出させる方がいいだろう。
「リスプのログ連絡を、俺ではなくウーレンフートのヒューマノイドが受ける事はできるか?」
『是』
「それなら、ウーレンフートに新しくヒューマノイドタイプを配置して、そのヒューマノイドがリスプからのログ連絡を受け取ったら、ウーレンフートを含めて、まとめた情報を俺に提出。アラームも、ウーレンフートで打刻して俺に通知」
『了。設定を通知しました。順次、設定が行われます』
「エイダ。地上で活動しているヒューマノイドたちの攻略状況は?」
『マスターに問い合わせた問の数だけ攻略が終了しております』
「何か所だ?」
『17箇所』
「全て、このダンジョンと同じ処理を通達。設定が不可能な場合は、アラーム」
『了』
俺が攻略した所を含めると、全部で23箇所。最初は、階層を増やしたり、ボスを設置したり、罠を設置することでリソースが必要になるが、それが終わればリソースは黒字に転じるだろう。人が少ないダンジョンもあるが、収支を見て、閉鎖を考えればいいのか?
「アル!カルラ!地上に戻って、デュ・コロワ国にあると言われている。共和国の最難関ダンジョンに向かう」
「!!」「旦那様?」
「解っている。目立つ行動はしないつもりだ」
「わかりました。期間を設定して、アタックするのなら・・・」
「わかった。カルラ。今日にでも、このダンジョンを離れるとして、最難関のダンジョンには、どのくらいで到着する?」
「旦那様の馬車ならば、余裕を見て5日です」
「計画を頼む。あと、今日は、地上に戻って、近い街で休んでから、ダンジョンに向かう」
「わかりました」
「兄ちゃん。そのダンジョンは、攻略は?」
「目標にはするが・・・」
カルラを見れば、カルラがダンジョンについての情報を教えてくれた。
「コロワダンジョンは、現在53階層が最高到達階層です。”100階層まであるのでは・・・”と、言われています」
「カルラ。なぜ、100階層だと思われている?」
「はい。当初は、50階層がボスだと思われていました。しかし、下層への階段が発見され、さらにボスの強さから、50階層で半分だと判断されました」
うーん。
なんとなく、違うように思うけど、まぁ俺には関係がないか?
問題は、攻略がされていない事と、50階層というのは、魅力的な事だ。もしかしたら、デュ・コロワ王国の首都がまるまるリソースとして使える規模なのかもしれない。ウーレンフートの様に俺たちのホームだけが猟奇になっているダンジョンではなくて、広がっているダンジョンだと嬉しい。
そうしたら、コロワダンジョンをウーレンフートの補助ダンジョンとして動作させる事も可能かもしれない。
リスプのダンジョンを、制御センターにして・・・。
夢のデータセンター構築ができる。かも、しれない。
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