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第五章 共和国
第三十五話 ボス戦
しおりを挟む最下層を目指すのは、初めから決まっていた。
全速ではないが、魔物が出てきた場合でも、対処が可能な状況を維持しつつ、最速で最下層を目指す。
エイダには、全力で索敵を行ってもらっている。
アルバンも、カルラも、問題はなさそうだ。
最下層の直前(だと思える場所)に、ボス部屋が設置されている。
アルバンが、躊躇なく扉を開ける。俺とカルラを見たことだけは褒めてあげるが、開ける前に一言くらいは欲しかった。
ボスは、黒い靄を纏っていない。
「相手は、キングエイプ。エイプ種の手下を5体」
カルラがボス部屋を観察して報告を上げる。
目視できる場所には、キングエイプしか見えない。カルラが、言っているのなら、キングエイプの後ろにでも控えているのだろう。
「兄ちゃん!おいらに、キングエイプをやらせて!」
「カルラ。サポートを頼む。アル。一人ではダメだ。カルラのサポートを受けるのなら、許可する」
「わかった。姉ちゃん。お願い」
「かしこまりました」
「エイダ。俺とエイプ種をキングエイプから引き剥がすぞ」
『了』
アルバンが飛び出していくが、カルラがしっかりと後ろからついていく、キングエイプの攻撃動作をしっかりとキャンセルしている。
俺とエイダは、後ろに控えていたエイプ種5体のヘイトを管理する。
難しくはない。5体にスキルを浴びせる。キングエイプに当たらないように調整するだけで十分だ。俺たちに意識が向いた所で、アルバンとカルラが居る方向とは逆に走り出す。
エイプ種は、しっかりと釣れた。
「エイダ。やれるか?」
『了』
エイプ種を見ると、上位種は居ない。変異種が1体だけだ。
これが最下層のボスなのか?弱すぎる?
エイダがスキルを発動する。
一撃では、倒せない。
エイダのスキルは、それなりの威力がある。エイプ種が耐えられる威力ではない。半数は、倒せると思っていたが、一体も倒せないのは、計算外だ。
『マスター。エイプ種は、変異種です』
「変異種?通常のエイプと同じだぞ?」
変異種や上位種は、色や顔つきが違っている。
目の前の、エイプ種は一体を除いては、通常のエイプと同じだ。
『マスター!』
エイダの声で、思考が戻ってきた。
そうだ、考えるのは後だ。
「エイダ。エイプ種を引き離すぞ!もしかしたら、変異種に見えるエイプが本当のボスかもしれない」
『是』
アルバンとカルラを見ると、問題はなさそうだ。
キングエイプとは何度かダンジョン内で戦っている。多少は、強くはなっているようだが、想定の範囲内だ。
後ろに居たのは、従えていたわけではなく、本当のボスが変異種に見えるエイプなのだろうか?
「俺が、変異種に当たる。他の4体を頼む。倒す必要はない。アルバンとカルラが駆けつけるまで持たせろ」
『了』
大廻で、変異種に見えるエイプに肉薄する。
見た目は、変異種だが確かに違う。これは、エイプなのか?
今、俺を見た。
ダンジョンの中に居る魔物との戦闘は、それほど難しくない。ヘイト管理が、外に居る魔物や人よりも格段に楽だからだ。
でも、変異種は俺が攻撃を仕掛ける前に、俺を見た。ダンジョンの中では発生しない事象だ。ウーレンフートのダンジョンの様に、パターンデータを改変してあったり、パターン学習をさせてあったり、戦闘データから学習させているような状況で無ければ、外から魔物を連れてきて、育てる必要がある。
理由は解らないが、こいつが最強だ。
戦闘が開始したら、入口が閉まった。それに、俺たちが攻撃を開始するまで、動かなかった。いくつかの状況から、この6体がボスだと言っている。しかし、違和感しかない。イレギュラーな状況だ。
変異種は、通常のエイプの変異種では考えられない位に強い。
速度は、同じ程度だが、力が数倍は強い。動きは、エイプ種と変わらない。力だけが強くなっている?
「アルバン!カルラ!キングエイプが終わったら、エイプ種を頼む」
「うん」「はい」
え?
エイプが、放出系のスキルを使った?
動きに翻弄されなければ対処は可能だ。
じっくりと削っていく!
アルバンとカルラが、キングエイプを倒した。
これで、エイダの負担が減る。
「エイダ!解析!」
『了』
エイダも解ったのだろう。
カルラとアルバンが、エイプ種に接近して、攻撃を開始した瞬間に離脱して、変異種の解析を行う。
『マスター!変異種は、キングエイプの3倍の体力。力は、5倍。スキルは解析失敗。複数の所持を確認』
「わかった」
想像以上だ。
勝てない相手ではない。カルラとアルバンも、エイプ種の相手をしている。向こうも余裕はないが、問題はなさそうだ。
俺も、ゆっくりはしていられない。
武器を取り出す。
エイプの変異種。
これからは、今までとは少しだけ違うぞ!
武器を持った俺に、変異種は構えを変える。
やはり、通常のダンジョンで発生するボスの動きではない。ウーレンフートで設定したから解る。これは、戦闘訓練やデータを組み込まれた個体だ。
刀を構えながら、スキルを発動する。
意表を付くような攻撃には対応が(まだ)できないようだ。
高位のスキルが来ないと判断したのか、スキルを無視して突っ込んでくる。
いい判断だが、もう少しだけ賢くなって戻ってこい。これは、悪手だ。
肉薄する。変異種の足にスキルを集中する。風属性のスキルだ。無視して突っ込んでくる。スキルは、変異種の皮膚で弾かれる。その後に、同じ風属性のスキルを腕に放つ。今度は、雷属性を付与した物だ。
無視して、俺の首を掴もうとしたエイプの腕にスキルがヒットする。
風属性のスキルは、皮膚に弾かれる。しかし、雷属性のスキルがエイプの身体を痺れさせる。ほんの少しの時間だが、動きが止まる。俺には、十分な時間だ。
エイプが俺を掴もうとした腕を、切り落とす。
絶叫がボス部屋に響き渡る。
え?
「兄ちゃん?」
「あぁ・・・」
通常なら、腕の一本を切り落としても、ボス戦が終わることはない。
アルバンとカルラも、不思議な状況に混乱している。
「エイダ!」
『解析失敗』
エイダでもダメ?
俺が腕を切り落とした変異種もどきが絶叫を上げた。
ここまでは、想定していた。
問題は、カルラとアルバンが相手していたエイプたちが、黒い靄になって消えてしまった。
変異種も、腕だけを残して黒い靄になった。
カルラとアルバンが倒したキングエイプに黒い靄が集まっていく。
復活するのかと構えたが、復活する様子はない。
数秒後に、魔法陣が現れた。
これは、ボスが討伐された証拠だ。この時点で、腕が有った場所にドロップが現れる。腕は通常のボス戦の様に消えている。
キングエイプは、魔法陣が現れた瞬間に黒い石を残して消えてしまった。
ボス撃破の報酬はしっかりと出ている。
最下層に繋がる魔法陣が表示されている。上に戻る為の魔法陣もある。
「エイダ。魔法陣を調べてくれ」
『了』
エイダが解析を始める。
アルバンとカルラは、ボス部屋の様子を調べるが、黒い石が残された以外は、通常のボス部屋だ。
『マスター。通常の魔法陣です。赤が下層への魔法陣で、青が1階層への移動です』
「わかった。下層に移動するぞ」
「兄ちゃん。黒い石はどうする?」
『マスター。確保をお願いします』
「どうした?」
『マスター。スキルの痕跡があります。今までの物とは違います』
「触っても大丈夫か?」
『大丈夫です。結界で覆いました。スキルが漏れないようにしました』
「わかった」
「旦那様。私が持ちます」
カルラの申し出は嬉しい。
しかし・・・。
カルラを見ると、アルバンに持たせるのは、何かあった時に対応が難しい。俺は、論外だといいたいようだ。エイダでは、スキルがウイルスなら被害が大きくなりすぎる。カルラなら、異常状態の耐性が強いだけではなく、対応も慣れている。
「わかった。カルラ。頼む」
「はい」
カルラが、黒い石を持ち上げる。
エイダが結界を張っているので、手から少しだけ浮いているのが不思議な状況だが、異常はなさそうだ。スキル発動にトリガーが必要なのかもしれない。
俺が持っている容量が小さいマジックバッグをカルラに渡して、使うように指示する。中身には、何も入っていない。大丈夫だとは思うが、トリガーが解らないだけに、用心は必要だ。
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