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第五章 共和国
第二十六話 作戦?
しおりを挟む馬車は、速度を落しながら進んでいる。ユニコーンとバイコーンは、速度の調整が難しいが、クォートとアルバンがうまく調整をしている。本来の速度の1/3~1/5程度だ。
探索のスキルを付与した端末には、馬車の前方と後方を遮断するようにしている者たちが居るのを示している。
速度を上げると、慌てて走り出す程度の技能だ。多分、後ろからついてきているのは、村長に唆された者たちだろう。手加減の必要はあるだろうが、温情をかける必要性は感じない。俺たちを襲うのは自由だ。だから、俺たちは襲われたら、その者たちを自由にする。
新しく発見されたダンジョンの栄養が必要だと思っていた。
「クォート。シャープ。ユニコーンにバイコーン。できるだけ殺すな。使い道がある」
了承が伝わってくる。
馬車の中には、カルラが居るが、頷いているので、解っているのだろう。
アルバンは、聞こえていたので大丈夫だと思いたい。
「アル!」
「解っている。兄ちゃん。動けなくすればいいよね?」
「あぁでも確実に意識の刈り取りができないのなら、殺せ」
「うん」
アルバンに命令を出す。できるのなら、アルバンに命のやり取りは魔物だけにさせたいが、今後を思えば、無駄にはならないだろう。
俺自身も、手が綺麗だとは言わない。
殺そうと思って殺した。殺せると思って殺した。殺したいと思って殺した。心は、復讐で染まっていた。
モニターに表示されるマークが増えている。
『マスター』
前方で俺たちを待ち構えている連中が、エイダの索敵範囲に入った。
「数は?」
『想定よりも多く、38』
「カルラ!アル!聞いたな」
「はい」「うん」
「カルラとクォートは後ろの奴らを頼む」
「はい」
クォートとカルラから了承の意思が伝えられる。
「俺とシャープで、前の奴らを殲滅する。ユニコーンとバイコーンを使う」
「かしこまりました」
「兄ちゃん。おいらは?」
「アルは、エイダと一緒に馬車の護衛。俺たちが仕留めそこなった者が居たら、倒してくれ」
「え?」
「アル。頼む。面倒な作業になると思う。もしかしたら、エイダでは敵わない者もいるかもしれない。エイダや馬車を守りながら戦ってくれ、難しいのは解っている。でも、アルにしか頼めない」
「わかった。おいら。馬車を守る」
カルラは、俺の意図が理解できたのか、少しだけ顔を歪める。この作戦案は、カルラに告げていた。カルラは、前方の戦いは、アルバンとカルラが担当して、後方をクォートとシャープが担当すればいいと提案してきた。俺は、俺の実力を試す意味もあり、カルラの提案を却下した。もっともらしい理由で説明したが、本当の意味は”俺が人を殺そうとして殺せるのか?”憎くもなく、余裕で無力化できる者たちを殺せるのか?奴らと対峙する時に、奴ら以外を殺すことに躊躇したら、俺の仲間が殺される。カルラの考えは解るが、今回は俺のわがままを通させてもらった。
「マナベ様」
「カルラ?意見は変えないぞ?」
「はい。それは、納得しています。ただ、前方に、そん・・・。町長が居るようです」
「後方じゃないのか?」
「はい。盗賊と違う集団と一緒に居るようです」
カルラの索敵は、特化している関係で、範囲が誰よりも広い。
「エイダ!」
『マスター。前方の集団は、野盗。その後方に、別の集団が居ます』
そうか、出発前に、クォートに渡した地図が随分と遠回りに思えたのは、自分が他の集団と合流するための時間稼ぎの意味があったのだな。
「エイダ。その集団の数は?」
『12』
「意外と多い。クォート。アル。馬車の速度を落せ」
「うん!」「かしこまりました」
人が歩く速度と同じくらいまで馬車の速度が落ちる。
「エイダ。前方を注視」
『はい』
後方は、襲ってこられても怖くはない。相手側の犠牲が増えるだけだ。攻撃を受けてから対処しても撃退は可能だろう。問題は、町長が合流した者たちだ。嫌な予感というわけではないが、俺たちのある程度の・・・。実力を見せた。そのうえで、襲ってくるのだから、腕に自信がある者を用意した可能性がある。”どうやって?”という疑問はあるが、ある程度の・・・。町長が考えている、俺たちの実力を上回る程度には使えるのだろう。
「カルラ。どう考える?」
「町長の動きですか?」
数も12と多い。
町長が入っているとして、11人の集団だ。それなりに連携ができるとしたら厄介だ。
ユニコーンとバイコーンが脅威と考えて、3人ずつであたらせて、それ以外には、一人で対峙するには丁度いい人数だ。一人は、全体を見るための指揮官だと考えれば、どこかの正規軍の可能性もあるのか?
「そうだ」
「今までの情報から、町民が盗賊の後ろに控えて・・・。とは、考えにくいために、隣町や近隣の町からやってきた者たちではないでしょうか?」
「合流したやつらは、そうだな。何の意図が・・・。そうか、アルトワ町を放棄するつもりか?」
町長は、
”野盗に俺たちを襲わせて、その流れで、野盗たちをアルトワ町まで襲わせる。そのうえで、自分の安全の為に、護衛を雇っている”
と、考えられる。
後詰を用意していることから、どちらに転んでも大丈夫なようにしているのか?
「放棄までは考えているとは思いません」
「それは?」
「いくつかあるのですが・・・」
カルラの説明を聞いて納得した。
ようするに、権力の維持の為には、小さな町でも必要だということだ。そのうえで、反対派を押さえつけるために、他の町と連動する方法を選択した。今までは、自分たちだけで何とかしてきたが、限界に達していた。そこに、俺たちが来た。俺たちを排除できれば、資金を得られる。それだけではない。カルラやシャープは、見た目にも綺麗な女性だ。野盗に差し出すことも可能だ。そうでなくても、闇に流せば・・・。ユニコーンやバイコーンさえ押さえてしまえば、あとは、女と子供の集団に見えるだろう。
「考えても無駄か・・・。町長を捕縛して詰問すればいいか?」
「はい。それが、良いと思います」
『マスター。後ろの集団が動き出しました』
エイダからの報告で、索敵範囲を広げたパソコンのモニターに3つの集団が映し出される。
向こうは、こちらを索敵しているのは、魔法感知で判明している。あえて、ジャミングをしないで、気が付かないふりをしている。
「兄ちゃん?」
「どうした?」
「3つも相手にするのは、面倒だよね?」
「そうだな。アルならどうする?」
「うーん。面倒だから、一か所に集める?丁度、ここを目指しているから、動かなければまとまるよね?」
「そうだな。でも、その場合は、3つの集団を相手にしなければならない。それは、それで面倒だぞ?」
「・・・。うん。それなら、兄ちゃん。どうするの?」
「あぁカルラ!」
「はい」
「アルと二人で、後ろから来ている集団の捕縛は可能か?」
「容易く・・・」「!!」
アルバンは、自分も戦闘に参加できると思って喜んでいる。
町民は、殺したくない。出来れば、”町長に唆された”という証言を得て、町長を断罪する証言者にしたい。俺たちに協力的な奴がトップに収まったほうが都合がいい。
ウーレンフートからの物資が届いて、ダンジョンを開設したら、ダンジョンに送り込む者が必要だ。最初に、アタックしてもらおう。全員が、ダンジョンの中で死んだことになれば、町民の感情もダンジョンに向かうだろう。俺たちに殺されたと思うよりは、ダンジョンに”自主的”にアタックして帰ってこなかったほうが、統治するときに有効に働く。
「クォート。シャープは、前方から来る野盗の集団だ」
「はい」「はい。殲滅ですか?」
「殲滅しろ、数名は生かして捕えろ、カルラとアルは、できる限り殺すな」
「かしこまりました。マスターは?」
クォートが俺の動きをきにする。
当然だろう。馬車には、俺とエイダが残るだけだ。ユニコーンとバイコーンがいるが、護衛として考えれば、評価が一段下がる。
「俺か?町長たちを待つことにするよ」
「・・・。真意をお聞かせください」
「カルラとアルが、町民を捕縛する。クォートとシャープが野盗を殲滅する。そのタイミングで、町長が俺の前に現れる。皆は、町長たちの後ろに回って、逃げないようにしてから、襲い掛かる」
簡単な作戦だが、タイミングが重要な作戦でもある。
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