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第五章 共和国
第二十三話 帰還
しおりを挟むアルバンの宣言通りに、首を切り落とされたレッサーベヒーモスは、崩れ落ちる。
「兄ちゃん!」
アルが俺に向かって駆け寄ってくる。褒めて欲しいのだろう。
「よくやった」
「うん!」
「アル。使った剣を見せてみろ」
「え?剣?」
「あぁ無理していないか?」
アルバンは、素直に剣を俺に見せる。
俺も、剣の良し悪しはある程度は認識できる。簡単なメンテナンスはできる。アルバンの剣は、砥ぎが必要な状態に見える。本格的なチェックが必要な状況には見えないが、芯が歪んで居ると砥いだ時に解るらしい。
「アル。剣を砥ぐぞ。地上に戻ったら、剣のチェックをした方がいいかもしれないな」
「うん!」
簡単な砥ぎができるプログラムは作成してある。まずは、地上までなら魔物も出てこないだろう。
倒れたレッサーベヒーモスが消えた場所に、報酬なのだろうドロップ品が置かれている。魔法的な罠ではない魔法陣が表示されている。多分、地上へ繋がる道なのだろう。
探索プログラムでは、最初から仕掛けられているトラップは見抜けるけど、ボスを倒した後に出現する罠の探索は不可能だ。何か、方法があるかもしれないけど、検証をしながらプログラムを作る必要があるのは面倒だ。それに、必要になる場面が少なすぎる。
ダンジョンの攻略には、威力を発揮するけど、それだけのプログラムにどこまで注力するのか・・・。
要・検討だな。
「兄ちゃん?」
「おっ悪い。アルは、ドロップ品を集めてくれ」
「わかった」
俺が持っている袋に入れれば、持ち帰ることもできる。何があるのか解らないが・・・。
一つだけ、気になる物が存在していた。
流れ着いた物だろう。FX-870P。工業高校生には、VX-4と言った方がいいかもしれない。それも新品に近い物だ。中古なら、美品と書かれても不思議ではない。高校の時に触ったポケコンだ。
「アル!その、そう、それは、持ってきてくれ」
「わかった!」
検証は後だけど、動作の確認だけは行っておく、火が入るのは前提だけど、メモリが壊れていないか確認しておく。
CASLが使えるバージョンかぁ?C言語でも良かったけど、まぁ標準のBASICが動くから十分だろう。関数電卓としての機能も実装されている。おっ!後期型だ。関数電卓の機能追加が可能な奴だ。
アルバンの剣を砥いで置こう。
歪みは、大きくはない。レッサーベヒーモスは硬かったからな。本格的な修繕を行うには、道具も知識も技能も足りない。
ダンジョンの最下層であまりゆっくりしていると、ボスが復帰してしまう。
2-3時間なら大丈夫だろうけど、半日も過ぎたら復帰の可能性がある。
「兄ちゃん。集めたよ」
アルバンが、両手だけでは足りなかったのだろう。部屋の周りにも、宝箱が出現していた。罠が無いのは解っていたので、全部の宝箱の回収も命じた。影響は、他にもありそうだが、アルバンは往復をしてアイテムを集めた。
そうだよな。普通は、パーティーで挑戦するような場所を二人で”ふらっ”と来て攻略したのだから、荷物がいっぱいになってしまうのはしょうがない。アルバンに袋を投げる。内緒で作った物だ。利用設定を複数設定できるようにした物だ。
アルバンが、集めた物で、アルバンが欲しい物を先に選ばせる。残った物は、土産だ。必要ない物も多いが、どうせ、ウーレンフートから人が来るのなら、そいつらに渡して資金にしてしまえばいい。
2台あったVX-4は俺が貰う。
アルバンの剣の砥ぎも終わった。
「さて、帰るか!」
「うん!」
『マスター。少しだけお待ちください』
「ん?どうした?」
エイダが魔法陣に乗ろうとする俺とアルバンに声をかける。
『はい。コアが存在します』
「そりゃぁ存在するだろう?でも、破壊すると、このダンジョンは無くなってしまうよな?」
『はい。なので、ウーレンフートのダンジョンに統合しませんか?』
「統合?」
『任せてもらえますか?』
「解った。エイダに任せる」
『ありがとうございます』
どこにコアがあるのかと思えば、天井だったとは・・・。
それから、エイダはアルバンに指示を出した。アルバンが俺を見たので、エイダの指示に従うように頼む。
統合と言っていたから、エイダが吸収するのかと思ったら、アルバンにコアが着いた台座?を持たせて、天井から外させた。
そして、俺の前に置いた。
『マスター。コアに触ってください』
「触るだけでいいのか?」
『魔力を流し込んでください。あとは、処理します』
「わかった」
コアに触って、魔力を流す。
そうか、これで、コアと俺が繋がるのか?コアの情報が流れ込んでくる。情報が多い。本来なら、ウーレンフートの最下層を”こうやって”攻略しなければならなかったのだな。すべてが一つに繋がった。
これで、俺が持つ知識とコアが持つ力が融合した。
新しい力ではないが、ダンジョンの意味が解った。
俺が魔力を流し始めると、エイダがコアを触った。
エイダが何を始めたのかはっきりと解る。
ウーレンフートがホストになり、接続を行うのだ。
『マスター。暫定処置ですが、ウーレンフートに接続できました』
「わかった。端末は持ってきていない」
『大丈夫です。ウーレンフートの最下層なら移動ができます』
「ん?移動?転移か?」
『近いですが、違います。空間を繋ぎます。まずは、マスター、このダンジョンに階層を追加して、部屋を作ってください』
「わかった」
エイダの指示通りに階層を追加して、部屋を作る。ウーレンフートでも似たような事を行ったことがある。W-ZERO3がある。コアを経由して、ウーレンフートに接続して、リソースを振り分ける事で、足りないリソースを使いした。リソースを追加したら、今度はツールだけど、残念だけど、ツールは使えない。フルコマンドラインでの作業になる。それでなくても、素早い入力が難しいW-ZERO3での作業だが、なんとか増えたリソースを使って、階層に部屋を作った。
最下層に出ている、魔法陣の行く先を変更する。ここのボスも考えなければならないな。コアを持って部屋に移動する。ウーレンフートと同じような日本語を使ったクイズを設置しておく、これで大丈夫だとは思わないけど、緊急対応としては十分だろう。
部屋に移動してから、エイダの指示するように部屋を改修する。W-ZERO3でウーレンフートに再接続を行って、向こうの端末にログインする。6畳くらいの部屋を作る。作った部屋に扉を作る。扉同士を繋げば、いいだけだ。転移ではなく、空間を繋ぐと言った意味がよくわかる。
ゲートと呼べばいいのか?
なんとも楽な方法だ。しかし、これは問題がある。空間の接続を維持した状態では、リソースを喰いすぎる。また、接続時にはクライアント側からの接続が必要になる。
エイダと話をして、認証も組み込むことにした。
ウーレンフートが俺たちの本拠地だ。だから、このダンジョンの扉をホストにして、認証を組み込む。認証サーバは、ウーレンフートではなく、エイダが認証を行う機能を有する。これで、誰かが繋ごうとしても、エイダが認識して認証を止めることができる。地球に居た時なら、さしずめAI機能搭載の認証サーバだろう。こちらは本当に思考を行う認証サーバだ。完全ではないが、安全性が上がった。
扉を通って、ウーレンフートに移動して、端末をヒューマノイドたちに運ばせる。
維持に必要なリソースだけに絞る。このダンジョンにも、ヒューマノイドを常駐させよう。あとは、ボスの配置だけど、しばらくは空白にしておいて、リソースが溜まったら凶悪なボスを配置しよう。
あと、ボス部屋の前の湖の階層にも少しだけ手を入れて、湖に凶悪な”みじんこ”を配置しよう。身体の中に入って、身体を内部から溶かすような”みじんこ”だ。アメーバーでもいいけど・・・。まぁ後で考えよう。
新しい力を得た。
直接の力ではないが、俺たちの力には違いない。ダンジョン同士を繋げる方法も解ったから、他のダンジョンを積極的に攻略していこう。
「アル。お待たせ。本当に帰るぞ」
「うん!」
ウーレンフートから、攻略したダンジョンに戻って、設定を確認して、ヒューマノイドに指示を出してから、地上に戻った。
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