異世界でもプログラム

北きつね

文字の大きさ
上 下
123 / 179
第五章 共和国

第二十二話 ボス戦

しおりを挟む

 最下層に降りてきて感じたのは、ウーレンフートの最下層と違うということだけだ。

 本当に最下層なのか疑問はあるが、それは自分の感覚を信じる。

 そして・・・。

「エイダ!」

『最下層です』

 エイダが断言したのだから、最下層なのだろう。
 ここで、今まで作っていたプログラム魔法を試してみる。

 W-ZERO3を起動して、準備していたプログラムを起動する。

 探索を行うプログラムだが、確かにこの階層から下に降りる階段は見つけられない。扉で塞がれた場所も、空気(魔素?)が入り込めれば探索ができる。やっと完成した魔法だ。まだ、魔石にはセットアップしていないが、W-ZERO3からなら起動が可能だ。使いどころが難しい・・・。言葉を選ばなければ、殆ど意味がない魔法プログラムだから、ランチャーから起動が出来れば十分だと考えた。表示領域もいじっていないから、標準出力に結果が表示される。
 表示もこだわっていないから、ローグ風の出力になっている。ASCII文字だけで表示される地図は、解る人にしか解らないだろう。地図の移動は、カーソルにした。さすがに、”h j k l y u b n”はキーボードをブラインドタッチしている時でないと使いにくい。

 魔法陣なんかの転移トラップがあれば、表示するようにしてあるので、扉の中には階段も罠もないようだ。モンスターは、データベースには入れていない物のようだ。魔力パターンを記憶させているから、データベースに乗っている魔物はA-Yで表示される。タップすれば、戦闘履歴などが表示される。未見の魔物はZで表示される。

 この階層には、上の階に戻る階段しか存在しない。

『マスター?』

「あぁ調べていただけだ」

 W-ZERO3でマップを確認した。
 解りやすい隠し部屋はなさそうだ。俺とアルバンとエイダ以外も、魔力を纏っているのは扉の奥に居る”主”だけだ。眷属を召喚されたりしたら増える可能性もあるが、現状では1体だけだ。大きさは解らないが、今までの強さからいきなり10倍の強さになったとしても対応は可能だろう。
 それに、ウィルスではないが扉には罠の類が設定されていない。
 閉まる仕組み位は組み込まれている可能性はあるが、ボスを倒さなければ、扉が開かないような”罠”は仕掛けられていない。この”罠”はウーレンフートで判明している。罠の解除を行えば、戦闘中でもボスの前から逃げられる。だから、罠が扉に仕掛けられていないことを考えると、途中退場ができる設定になっているのだろう。

 この魔法プログラムは気合を入れて作ったけど、使いどころが難しい。
 多分、ダンジョンのように閉鎖された場所なら使えるけど、外ではプログラムとして制限を掛けなければ動かないだろう。異常系をどこまで考えられるかが、システム構築では必須なスキルだ。特にエラー内容を読まないで、安易にキャッチしてスルーしているようなシステムでは、イレギュラーな状況に対処が出来なくなってしまう。
 ランチャーでの起動で十分な魔法で、俺だけが使うことを想定しているプログラムだから、異常系もあまり深く考えていない。

「アル。次がボスの部屋だ」

「うん!攻略する?」

「そうだな。ウーレンフートのような罠はないようだし、攻略してしまっても問題はないだろう」

「わかった!兄ちゃん。おいらに戦わせて」

「そうだな。まずは、ボスを見てからにしよう」

「うん!」

 扉を開けると、中央に居るのは、ベヒーモスのような姿だが、ベヒーモスならデータベースに登録されている。上位種には見えない。大きさも知っているベヒーモスよりも格段に小さい。

「エイダ!」

『レッサーベヒーモスだと推測します。ベヒーモスよりもランクが低い魔物です』

 ベヒーモスなら、アルバンだけだと倒せないだろうけど、ランクが低い魔物ならなんとかなる可能性が高い。

「アル。やってみるか?」

「うん!」

 俺とアルとエイダは、開いた扉からボスが居る部屋に入る。

 アルが、双剣になるように構えて飛び出す。
 レッサーベヒーモスも迎撃態勢になっているが、最初の攻防はアルの方が若干だけ守勢に回っていたが、エイダの支援魔法プログラムで反応速度が上げられてからは、徐々にアルバンが優勢になる。

”ヘイヤ!”とか”アヒュゥ”とか気が抜ける声を発しているが、アルバンはしっかりとレッサーベヒーモスを追い詰めていく。

「問題はなさそうだな」

『はい』

 俺とエイダが確信したのは、アルの左手に持つ剣が、レッサーベヒーモスの右目にダメージを与えたからだ。
 時間にして、30分。長いのか、短いのか、判断は難しいが、アルバンが(エイダの援護があったとはいえ)単独で討伐できそうだ。

 気合が入らない掛け声と、レッサーベヒーモスの咆哮だけが、ボス部屋に響いている。

 俺たちが勝ちを確信してから、さらに30分の時間が経過した。
 アルバンは、60分に渡って動き回っている。そこまで長期戦になるとは思っていなかったけど、アルバンの戦い方では、時間が必要になるのも想定の範囲内だ。近づいて、ダメージを与えて逃げる。この繰り返しだ。
 ダメージも最初は軽い物で、レッサーベヒーモスに弾かれていたが、レッサーベヒーモスが攻撃に魔力を使い始めてから、ダメージが通るようになった。

 そこからは、ダメージだけではなく動きも悪くなり、アルバンが優勢になっていく。

 しかし、巨体というのは、それだけで脅威だ。
 ベヒーモスよりも2-3割小さいと言っても、アルバンの数十倍の大きさだ。

 動きが鈍くなってきても、攻撃のパターンもアルバンに突進を繰り返すだけになっている。

「エイダ。レッサーベヒーモスは攻撃に回すだけの魔力が無くなって来たのか?」

『はい。マスターの推測通りです』

「そうか・・・」

 それから、10分が経過した。
 突進の速度も目に見えて遅くなってきている。

 最初は、突進を躱してもダメージを与えるのが難しかったが、今では突進の最中にダメージを与えることに成功している。
 こうなると、負けるのが難しい状況だ。

「アル!」

「うん!」

 アルバンが、余裕を見せ始めたから、注意の意味で声をかける。

 俺からの声掛けは、”終わらせろ”と受け取ったようだ。
 レッサーベヒーモスの突進を躱してから、ダメージを与えるのではなく、距離を開ける。

 両手に持った剣を合わせて、短剣のような形にする。
 そして、魔法プログラムを発動する。

 アルバンが持っている剣は、俺が改造した物だ。
 バラバラの時には、一般的な剣と同じだが、二本を合わせて持つと、回路が繋がって、お互いの剣にはめ込まれている魔石にインストールしているプログラム魔法の起動ができるようになっている。
 アルバンが、魔法プログラムの詠唱を始める。短い、単語だけを繋いだ簡素な物だ。インストールしているプログラムに渡すパラメータを詠唱すればいいだけにしてある。

 魔法プログラムが発動する。詠唱が成功した証左だ。

 アルバンが構えた剣に、氷属性の刃が現れる。
 本人が持つ属性以外でも、プログラムで与える事で、実現が可能になっている。しかし、放出系の魔法には使えない。魔石への設置が絶対条件なので、以外と使いどころが難しい。
 しかし、剣を魔剣化するにはいい技術だ。

 アルバンが、氷の刃をレッサーベヒーモスの足に当てる。

”ぬおぉぉぉぉぉ”

 気合が入った、気合が感じられない声をアルバンが発しながら、レッサーベヒーモスに食い込んだ氷の刃に力を入れる。

 レッサーベヒーモスも、足に最後の魔力を集めているように、氷の刃を押し返そうとするが、アルバンの力と氷の刃が強い。徐々に、喰い込んでいき、足の切断に成功した。

 一本の足を無くしたレッサーベヒーモスは、大きな音を立てながら倒れ込む。

 アルバンは、足を切断したのを確認してから、レッサーベヒーモスから距離を取る。
 倒れ込んだだけで、まだ絶命はしていない。

「アル。仕上げだ」

「うん!」

 氷の刃のまま、大きく振りかぶって、レッサーベヒーモスの首に刃を当てる。
 そのまま、同じように気合が入った。気が抜ける掛け声と共に、力を入れる。

 すでに、魔力が尽きているレッサーベヒーモスは対抗できる手段は残されていない。
 アルバンの刃が、レッサーベヒーモスの首を切断する。

「おいらの勝ち!」
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

チート能力を持った高校生の生き残りをかけた長く短い七日間

北きつね
ファンタジー
 バスの事故で異世界に転生する事になってしまった高校生21名。  神を名乗る者から告げられたのは「異世界で一番有名になった人が死ぬ人を決めていいよ」と・・・・。  徐々に明らかになっていく神々の思惑、そして明かされる悲しい現実。  それらに巻き込まれながら、必死(??)に贖い、仲間たちと手を取り合って、勇敢(??)に立ち向かっていく物語だったはず。  転生先でチート能力を授かった高校生達が地球時間7日間を過ごす。  異世界バトルロイヤル。のはずが、チート能力を武器に、好き放題やり始める。  全部は、安心して過ごせる場所を作る。もう何も奪われない。殺させはしない。  日本で紡がれた因果の終着点は、復讐なのかそれとも・・・  異世界で過ごす(地球時間)7日間。生き残るのは誰なのか? 注)作者が楽しむ為に書いています。   誤字脱字が多いです。誤字脱字は、見つけ次第直していきますが、更新はまとめてになります。

勇者召喚に巻き込まれたおっさんはウォッシュの魔法(必須:ウィッシュのポーズ)しか使えません。~大川大地と女子高校生と行く気ままな放浪生活~

北きつね
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれた”おっさん”は、すぐにステータスを偽装した。  ろくでもない目的で、勇者召喚をしたのだと考えたからだ。  一緒に召喚された、女子高校生と城を抜け出して、王都を脱出する方法を考える。  ダメだ大人と、理不尽ないじめを受けていた女子高校生は、巻き込まれた勇者召喚で知り合った。二人と名字と名前を持つ猫(聖獣)とのスローライフは、いろいろな人を巻き込んでにぎやかになっていく。  おっさんは、日本に居た時と同じ仕事を行い始める。  女子高校生は、隠したスキルを使って、おっさんの仕事を手伝う(手伝っているつもり)。 注)作者が楽しむ為に書いています。   誤字脱字が多いです。誤字脱字は、見つけ次第直していきますが、更新はまとめて行います。

毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。

克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

戦乱の世は終結せり〜天下人の弟は楽隠居希望!?〜

くろこん
ファンタジー
他力本願×最弱無双!戦国時代を旅しよう! ノベルアップにて歴史累計1位の作品です、感想やコメント頂くと震えて喜びながら蒸発します。 『どうしてこうなった!?』 戦国時代 日本で起きた修羅の時代、私が知っている戦国時代では織田信長、豊臣秀吉、徳川家康が世を終結させた。 だが、今私が生きている世の天下人は今川義元。 え、それ兄貴なんですけどぉぉぉぉぉ!? それに、なんだか私の知ってる歴史とは色々と違いすぎて... もう勘弁だ!なんだこの世界は! 権力争い?反乱のチャンス? 知るか!私は旅に出るぞぉぉ! イラスト:ぴくる様 原作:くろこん

私のお父様とパパ様

ファンタジー
非常に過保護で愛情深い二人の父親から愛される娘メアリー。 婚約者の皇太子と毎月あるお茶会で顔を合わせるも、彼の隣には幼馴染の女性がいて。 大好きなお父様とパパ様がいれば、皇太子との婚約は白紙になっても何も問題はない。 ※箱入り娘な主人公と娘溺愛過保護な父親コンビのとある日のお話。 追記(2021/10/7) お茶会の後を追加します。 更に追記(2022/3/9) 連載として再開します。

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

【書籍化確定、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

処理中です...