異世界でもプログラム

北きつね

文字の大きさ
上 下
114 / 179
第五章 共和国

第十三話 休養

しおりを挟む

 ウーレンフートからの補給物資が届くまで、休養にあてる事にした。

「旦那様」

 カルラが部屋に入ってきて、頭を下げる。
 何か用事ができたのか?

 休養にあてるようには伝えてあるはずだ。

「どうした?」

 カルラは、書類を手に持っている。
 報告書なのだろうか?
 昨日の段階で、前回までの報告書と、クリスからの返答を貰った。問題になるような記述は無かった。近況報告のようになっていただけだ。皇太孫だけが、わがままを言っているようだが、そこはクリスに頑張ってもらおう。共和国に、皇太孫が身分を隠してでも来られるわけがない。”楽しそうだ”の一言で、来ようとしないで欲しい。それに、ダンジョンなら、ウーレンフートに潜ればいい。わざわざ、整備されていない、できたばかりのダンジョンを目指さないで欲しい。

「いくつかご質問と、ご許可を頂きたく思っております」

 カルラの話は、今後の話か?

「質問?許可?」

「はい。4-5日の間。お側を離れる許可を頂きたい」

 クリスへの新しい報告だろう。
 アルトワ町を補給基地化する考えをカルラに伝えてある。何か、問題になりそうな事案なら、クリスからストップが掛かるだろう。
 俺としても、方法は置いておくとして、補給基地は欲しい。アルトワ町が最高ではないが、最良の選択だと考えている。

「あぁいいよ。クリスへの報告?」

「はい。そこで、報告にあたって、いくつかご質問があります」

 報告に付随する質問なのだろう。
 確かに、報告を書いていたら、いろいろと疑問が湧いて出るだろう。後から、突っ込まれないように、カルラの質問にはしっかりと答えよう。カルラとクリスト俺の為に、しっかりと理解してもらったほうがいい。

「いいよ?何?」

「はい。まずは・・・」

 カルラの質問は、今後の活動について聞きたいことがあるようだ。
 目標は無いけど、いくつかのダンジョンの攻略を目標とした。わかりやすい方が、報告を読むクリスも納得するだろう。頻発している。小規模ダンジョンの攻略を視野に入れている。頻発している理由が解れば、最高だろうけど、そこまで行かなくても、行路の近くにあるダンジョンだけでも潰しておけば、物流が楽になるだろう。次いでに、山賊や盗賊たちの根城を潰しておきたい。”賊”たちは、俺たちが潰さなくても良いとは思うが、俺たちへの補給物資を運ぶ時に、安全に運べるようにしておきたい。

 カルラの質問に、簡単に答えた。

「旦那様。最後に、一つだけ・・・」

「ん?どうした?気にしなくていいよ」

 質問は、報告書を作成するために必要なのだから、遠慮しないで欲しい。
 報告書が中途半端になって、クリスから再質問が来る方が面倒だ。もう一人は、再質問ではなく、これ幸いと共和国に来る可能性すらある。だから、カルラには悪いけど、疑問点はすべて潰してほしい。主に、俺の平穏のために・・・。

「はい。ありがとうございます」

「旦那様は、この村・・・。あっアルトワ町を補給基地にする。お考えのようですが、方法はあるのでしょうか?」

 村って・・・。
 まぁ俺も注意していないと、”村”と呼んでしまう。人口だけなら、町には違いないけど、生活様式や雰囲気が”村”だ。

「ん?ウーレンフートからその為の物資を運んできているよね?」

「はい。しかし、一時的には、物資の蓄積はできるとは思いますが、この村の生産能力では、持ってきた補給物資が救援物資に変わって、村に吸収されてしまいます。特に、あの村長では・・・」

 カルラ。もう少しだけ繕うことをした方が・・・。村と呼んでいるし、村長と言っている。
 区分では、”町”で町長だ。

「解っている。物資を食い潰して終わりの可能性があるな」

 実際に、補給物資を持ってきたとしても、町長に懇願されたら提供するしかない。金銭での受け渡しになってしまう。補給物資が救援物資に変わるだけだが、補給基地にしようとしたら意味がない。
 それに、補給基地にしようとしたら、この町で補給物資を生産しなければ意味がない。
 ウーレンフートやライムバッハ領から輸送し続けるのでは、負担が大きすぎる。

 カルラも解っているのだろう。
 今の町長や町民では、自分たちが食べていくだけで精一杯だ。考えることを放棄している。効率化したり、作物を変えたり、他の町や都市と交渉したり、できることはまだあるはずなのに、緩やかな滅びを受け入れようとしている。

「それなら!」

 カルラが言いたいことは解る。解っているつもりだ。この町を占拠してしまうか、自分たちで拠点を作ってしまったほうが早いと言いたいのだろう。俺も、そう思っている。思っているけど、今回はもっと緩やかにやろうと思っている。

 最初は、村長。いや、町長に協力を求める。町長が形の上だけでも従ってくれるのなら、利益を分配してもいいと思っている。そのうえで、町長たちが協力してくれないのなら、無理矢理にでも協力してもらおうと考えている。

 クリスから来た連絡の中に面白い話が書かれていた。

「なぁカルラ。俺も知らなかったけど、共和国には興味深い”法”があるのを知っているか?」

 共和国は、簡単に言えば”多数決”で物事を決めてきた。

「え?興味深い?」

「あぁ形骸化されてしまっているけど、共和国の都市や街が村の長を決めるのは、”選挙”という方法を取る」

「??選挙?」

「そうだ。俺がこの町の長になることもできる。いろいろ条件は、あるが半年以上の居住実績と一回以上の納税を行えば、立候補できる」

 俺には馴染みがあるが、カルラには馴染みが無い。
 ウーレンフートのホームでは、合議制を取っているが、”選挙”で代表を決めるような方法ではない。貴族社会では、もっとも遠い所にある。合議制でも革新的だと思われているのに、選挙を理解しろと言われても無理だろう。

「しかし、それでは・・・。旦那様が長になるのは難しいのでは?町民は、現在の町長の味方ですよね?」

「そうだな。この方法は、比較的、民のことを考えているように見えるけど、落とし穴がある」

「落とし穴?」

「そうだ。数の暴力に対抗できない」

「え?」

「カルラ。この町の人口は?」

「おおよそ、80名です」

「子供を除けば、60名って所か?その中で、納税しているのは、50名って所かな?」

「しっかりと調べないと・・・」

「あぁいい。50名とする。全員が、町長の仲間だとして、俺が立候補したとしよう。50対1だ」

「はい」

「しかし、51名の仲間を連れて、この町に移住してきたらどうなる?」

「・・・」

「カルラ。51名を連れて来るのは無理だと思ったのだろう?」

「はい」

「忘れていないか?俺には、クォートとシャープがいる。納税さえすれば、それ以上は突っ込んでこない」

「あっ」

 この方法は、日本に居た時に、合法的に”村”を乗っ取る方法を考えた時に、悪友たちと考えた。動員できる人間が200名を越えていた悪友がいた。行政区分で、丁度いい場所が見つからなかったから、実行には至らなかった。しかし、状況が許せば実行していた可能性があった。

 カルラは、俺から聞いた内容をまとめて、報告書にするようだ。
 報告は、好きにしていいと伝えている。クリスに伝われば、何かを考える可能性があるが、俺が気にしてもしょうがない。

 カルラと入れ替わりに、アルバンが部屋に入ってきた。

「兄ちゃん。休みだよね?」

「あぁ」

「兄ちゃん。探索に行こう!」

「探索?」

「うん!待っているだけだから、訓練をしたい。でも、村の中では、カルラ姉ちゃんがダメだっていうから・・・」

 お前もか・・・。
 アルバンが”村”と言っているのは、しょうがないだろう。いい直しもしないし、悪いとも考えていないだろう。

「わかった。わかった」

「いいの!」

「俺も、見られても平気な魔法を作りたい。アルとの模擬戦もやろう。魔法の作成を手伝ってくれるか?」

「うん!もちろん!やったぁ!行こう!」
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

異端の紅赤マギ

みどりのたぬき
ファンタジー
【なろう83000PV超え】 --------------------------------------------- その日、瀧田暖はいつもの様にコンビニへ夕食の調達に出掛けた。 いつもの街並みは、何故か真上から視線を感じて見上げた天上で暖を見る巨大な『眼』と視線を交わした瞬間激変した。 それまで見ていたいた街並みは巨大な『眼』を見た瞬間、全くの別物へと変貌を遂げていた。 「ここは異世界だ!!」 退屈な日常から解き放たれ、悠々自適の冒険者生活を期待した暖に襲いかかる絶望。 「冒険者なんて職業は存在しない!?」 「俺には魔力が無い!?」 これは自身の『能力』を使えばイージーモードなのに何故か超絶ヘルモードへと突き進む一人の人ならざる者の物語・・・ --------------------------------------------------------------------------- 「初投稿作品」で色々と至らない点、文章も稚拙だったりするかもしれませんが、一生懸命書いていきます。 また、時間があれば表現等見直しを行っていきたいと思っています。※特に1章辺りは大幅に表現等変更予定です、時間があれば・・・ ★次章執筆大幅に遅れています。 ★なんやかんやありまして...

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

『転生したら「村」だった件 〜最強の移動要塞で世界を救います〜』

ソコニ
ファンタジー
29歳の過労死サラリーマン・御影要が目覚めたのは、なんと「村」として転生した姿だった。 誰もいない村の守護者となった要は、偶然迷い込んできた少年リオを最初の住民として迎え入れ、徐々に「村」としての力を開花させていく。【村レベル:1】【住民数:0】【スキル:基本生活機能】から始まった異世界生活。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

素材採取家の異世界旅行記

木乃子増緒
ファンタジー
28歳会社員、ある日突然死にました。謎の青年にとある惑星へと転生させられ、溢れんばかりの能力を便利に使って地味に旅をするお話です。主人公最強だけど最強だと気づいていない。 可愛い女子がやたら出てくるお話ではありません。ハーレムしません。恋愛要素一切ありません。 個性的な仲間と共に素材採取をしながら旅を続ける青年の異世界暮らし。たまーに戦っています。 このお話はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。 裏話やネタバレはついったーにて。たまにぼやいております。 この度アルファポリスより書籍化致しました。 書籍化部分はレンタルしております。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

処理中です...