異世界でもプログラム

北きつね

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第五章 共和国

第九話 事情と情報

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 アルが戻ってくるのを待っていると、アルではなくカルラが戻ってきた。

「旦那様」

「宿は見つかった?」

「はい。私たち以外は、町を訪れる者が居ないようです」

「そうか・・・。それで?」

「はい。宿の店主・・・。町長が言うには・・・」

 カルラの話は、シャープが聞いてきた話と同じだ。

「よく宿屋が営業していたな」

「町長を兼ねているらしく、宿屋を閉じると、泊まる場所がなくなるので、営業をしていると言っていました」

「わかった。それで、アルは?」

「エイダと、馬車を見ています」

「ん?あぁそうか、人手が足りないのだな」

「はい。宿も、泊まれるだけで、食事などは最低限になってしまうようです」

「それで十分だ。アルが待っているだろう。移動するか?」

「はい」

 カルラを先頭にして、宿に向かう。
 シャープには、後で合流するように伝えてある。

 宿は、町の中心部分に存在していたようだが、町が無計画に広がってしまって、今では街道から離れた場所になってしまっている。宿?町長宅の前には広場のようになっている場所があり、櫓も存在している。

「ようこそ」

 町長夫婦は、朴訥とした印象を受ける。疲れ切った印象を受ける。何か対応をしているのか?それとも諦めきっているのか?

 差し出された手をにぎる。苦労を重ねてきた手だ。
 苦労をしてきているのだろう。しっかりと、町長を見つめると、俺を見返してくる。諦めた者たちの”目”ではない。

「マナベ商会のシンイチ・アル・マナベです。3日ほどお世話になります」

「何も無い町だが、ゆっくりしてください」

「ありがとうございます。盗賊の噂を聞きましたが?」

「はい。残念ながら・・・。しかし・・・」

 町長は、婦人に目を向けてから、握っていた手を離した。

「?」

「どうぞ、こちらに、お部屋に案内いたします」

「ありがとうございます」

 不思議な対応だと思ったが、事情が少しだけわかった。
 町長が婦人に目配せしたのは、俺たちを案内するためだけだと思っていたが、櫓の辺りから俺たちを見ている者が居る。完全に素人だ。隠密系のスキルは持っていない。カルラなら、俺たちに、悟られないで監視ができる。クォートやシャープでも町長や婦人にわからなく監視はできるだろう。

 部屋までは、婦人が案内をしてくれた。
 町長宅の裏にある離れのような建物だ。アルが、建物の近くで馬車の御者台に座っていた。ユニコーンとバイコーンも、”馬”のように飼い葉を食べている。美味しそうにしている。飼い葉で良いのなら、これから飼い葉を与えたほうがいいのか?

「婦人?」

「なんでしょうか?」

「飼い葉は、どこから?」

 何も無い町だと思っていた。俺たちも、飼い葉を持ってきていない。アルやカルラが、時間的に採取できる量ではない。

「お部屋に案内いたします」

 町長婦人の表示から、何かしらの事情があるのだろう。
 そして、餌のことを含めて、何か表に出せない事情があると考えられる。

『旦那様』

 クォートか?
 後ろから付いてきているのに、わざわざ念話をしてきた理由は、町長婦人に聞かせたくない話なのだろう。

『何か気がついたか?』

『はい。婦人も、町長も、食事を摂っているようです。衣服にも、草臥れてはいますが、清潔な状態です』

『そうだな』

 確かに、これだけ町が廃れていれば、食べ物も困るだろう。清潔にするのも一苦労だろう。宿を運営しているから、清潔にしているだけかもしれないが、それだけで説明ができる状況ではない。

『クォートは、部屋に入ったら、シャープと合流してくれ』

『かしこまりました』

『カルラは、俺と一緒に、婦人の話を聞くぞ』

『はい』

 婦人が、離れの扉を開ける。

「こちらの離れをお使い下さい」

「ありがとうございます。それで?」

「はい。設備のご説明をいたします」

「お願いします」

 ”離れ”は平屋になっている。部屋は、4つある。キッチンと呼べるかわからないが、井戸まで備え付けられている。水に毒を仕込まれる心配が減る。水源を汚染されない限りは大丈夫だろう。

 一通り、部屋を案内してくれた婦人は、最後にダイニングになっている部屋に入った。
 部屋は、上級貴族は無理だとは思うが、下級貴族が使ってもいい位の装飾品があり、綺麗に整えられている。魔道具も備え付けられていて、お湯が使える状態になっている。
 俺たちをソファーに座らせて、婦人は飲み物の準備をしてくれる。長い話になりそうだ。
 クォートが気を聞かせて、準備を手伝う。飲み物が、俺とカルラの前に置かれたのを見て、クォートは席を外す許可を、俺と婦人にもとめてきた。馬車に荷物を置いてきていることと、もうひとりの従者を迎えに行くという理由だ。

 これで、クォートが町長宅を見張っていた者を捕縛できれば、情報が入手できる。

「マナベ様」

 婦人はいきなり頭を下げてきた。

「説明をお願いします」

「はい。まず、この町の状況ですが・・・」

 盗賊に内通している者が居る状況では、表では話せないだろう。誰が、内通者なのかもわからない状況だ。

 食料は、倉庫に備蓄があり、飼い葉類もそこから持ってきている。
 薬類が不足しているので、病人の治療が出来ない。シャープが事情を聞いた少女の母親が、治療を受けられないと言っていた。そちらの情報は、シャープが聞いてくるだろう。

「盗賊だけが問題なのですか?」

「それは、どういう意味ですか?」

「この町は、共和国からの玄関口です。通常なら、もっと栄えていても不思議ではない。それが、失礼ながら・・・」

「そうですね。それには、別の理由があります」

「別の理由?」

 婦人が語る別の理由は、俺の想像以上だ。

「それでは、見つかったダンジョンは、国に届け出たのですね?」

「もちろんです。義務です。しかし・・・」

 婦人は言いにくそうにしながら、盗賊は隣町と近隣の村に住んでいた者たちだと、説明に加えた。
 町人がなぜ?と思ったが、そこにダンジョンが関係してくる。アルトワ町の町長夫妻は、ダンジョンを国に報告して、封鎖処理を行った。現在は、管理されたダンジョンになっている。町長の許可があれば探索ができるようだ。
 しかし、隣町と周りの村々は、自分たちの近くに出来たダンジョンを、欲求を満たすために秘匿した。できたばかりのダンジョンなら、自分たちだけでも攻略が可能だと考えた。そこで、出来つつあったスラムに住む者たちに攻略を行わせた。

 そして、武器を持ったスラムの住人たちは、ダンジョンの攻略を行わずに、楽に稼げる”村”を襲い始めた。

 町には、柵や壁はないが、守備隊が居たために、賊も襲わない。村々を襲うほうが楽だからだ。
 徐々に規模を大きくして、アルトワ町を襲い始めた。最初は、ダンジョンを求めた者たちが対処を行っていたが、収支の天秤が町を見捨てる方向に傾くのに時間は必要なかった。

「そうですか、ダンジョンが存在するのに、ダンジョンで稼げないのなら、アルトワ町はスルーされますね」

「はい。”買い取り所を設置する”という話もなくなってしまって・・・」

 食料や物資は、ダンジョンを封鎖している者たちが居るから、確保されている。飼い葉が存在したのも、早馬で情報を伝える必要があるためだ。

「それで、隣町のダンジョンは?」

「そのまま・・・。だと、思います」

 これが頭の痛い話だ。
 アルトワ町は、デュ・コロワ国の直轄になっている。しかし、隣町や周辺は、貴族の領地になっている。貴族が、封鎖をしていると言っている以上は、アルトワ町から強くも言えない。

 共和国から流れてくるのは商人だ。管理されているダンジョンには魅力を感じても、国が確保してしまっているダンジョンには魅力はない。しかし、貴族が管理している(ことになっている)ダンジョンなら、交渉次第で商売になる可能性もある。そのために、アルトワ町をスルーして次の町に行ってしまう。盗賊も出るために、アルトワ町には長期滞在は難しい。短期なら、国が管理しているダンジョンに居る兵が救援に来てくれる可能性もあるが、絶対ではない。

 いろいろな条件が絡み合って、アルトワには十分な食料が存在するが、物資が少なく、人手も少ない状況になってしまった。
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