異世界でもプログラム

北きつね

文字の大きさ
上 下
103 / 179
第五章 共和国

第二話 賊

しおりを挟む

 俺の合図で、シャープが賊に向かう。カルラは、距離を考えて、一拍の空白を入れてから、指揮官らしき者に向かう。
 ユニコーンとバイコーンは、柵を乗り越えて、賊を挟むような位置に移動していた。

 戦闘が始まると思ったが・・・。

 確かに、戦闘が始まったが、すぐに終わった。

 シャープは、4人を瞬殺している。命令通りに、殺してはいない。ユニコーンとパイコーンも、左右からスキルを発動して無力化に成功している。
 カルラは、正面から近づいていきなり加速して、背後に回って、首筋を痛打して終わりだ。

 戦力的に、過剰だったようだ。シャープだけでも大丈夫だったかもしれないが、逃げられたり、誰かが傷ついたり、賊たちを殺してしまうよりはいいだろう。3箇所を同時に攻略しなければならなかったのだが、しょうがないと考えておこう。

「カルラ!」

「旦那様。尋問をされますか?」

 俺が尋問をしても、情報をうまく抜き出せる気がしない。

「カルラに任せる」

「かしこまりました」

 カルラは、少しだけ口の端を上げて、頭を下げる。
 諜報活動の部隊に属していて、情報の扱いには慣れているだろう。

「旦那様」

「クォートか?どうした?」

 執事のクォートが俺の前に出てきて頭を下げる。

「私に、カルラ様の尋問を見学する機会をください」

 クォートからの提案は、学習の機会を得るだけではなく、ダンジョンに残っている者たちが”尋問”の内容を把握できる。学習よりも、情報が共有される状況にメリットを感じる。ダンジョンの管理をしているパスカルが、尋問の内容を把握して、類似した情報を検索できる可能性が出てくる。ビッグデータの処理は、ダンジョンデータセンターが最も得意とする分野だ。

「カルラ。クォートと一緒に尋問して問題はないか?」

「ありません」

「そうか、カルラ。クォート。捕虜の尋問を頼む。もし・・・。いや、いい」

 尋問で、”あの方”に関する情報が出てきたら?俺は、我慢できるのか不安になる。エヴァとの約束がある・・・。

「マナベ様?」

「すまん。カルラ。解ったことを、報告してくれ、取捨選択も任せる」

「よろしいのですか?」

「あぁ」

 俺が情報に直接触れるのは避けよう。まだ、その時ではない。俺が、戦って”勝てる”ようにならなければ、奴らと・・・。あいつと対峙してはダメだ。俺だけなら、天秤の反対側に乗っても問題はない・・・。俺の命だけなら・・・。今、俺がやられると、奴らは・・・。エヴァを、ユリウスを、カールを狙う可能性がある。あいつの目的がわからないが、奴らは俺の敵だ。俺が確実に仕留められるまで・・・。それまでは・・・。

「旦那様」

「・・・。なんだ?」

「情報は、パスカルと共有してよろしいのでしょうか?」

「尋問した内容や、尋問の方法は、パスカルたちと共有してくれ、エイダやシャープとの共有も許可する」

「はっ」

 カウラが先に歩きだして、クォートが後に続いた。
 襲撃者は、ユニコーンとパイコーンが見張っている。

「兄ちゃん!」「マスター」

 アルバンとエイダが、戦闘が終わったと判断して、馬車から降りてきた。

「どうした?」

「今度は、オイラも!」

「うーん」

 多分、捕らえた連中なら、アルバンでも相手にできた可能性がある。殺さずに捕らえられたのかは微妙なラインだが、十分に対応はできただろう。次も、同じだとは・・・。

「兄ちゃん!おいらも戦える!」

「そうだな。俺の指示に従う。そして、ユニコーンかバイコーンに乗って戦闘に参加するのなら・・・」

「うん!うん!」

 アルバンが納得しているけど、いいのか?
 ダメなら、カルラが止めるか?

 カルラたちが向かった場所から、剣呑な声が聞こえるが、気にしないことにする。

「旦那様。お食事の準備をいたしましょうか?」

「そうだな。カルラたちは、少しだけ時間が必要だろうから、軽く食べられる物を頼む。アル!」

「何?」

「エイダと協力して、湯浴みができる場所の確保を頼む。川の水を使ってもいいし、魔道具を使ってもいいぞ」

「わかった!」

 アルバンが、エイダを連れて、河原に向かった。

「良かったのですか?」

 シャープが俺の意図を把握してなのか、疑問を呈した。

「そうだな。大丈夫だろう。このまま、この場所に留まるよりはいいだろう。エイダは、クォートと繋がって情報共有をしているだろうから、解っているのだろうけど、アルに聞かせる必要はない」

「出過ぎた真似を、お許しください」

 シャープは、俺がアルバンに尋問を探らせないようにしたと理解したのだ。アルバンの情報は共有されて知っているのだろう。アルバンは、カルラと同じだから、尋問の心得があるかもしれない。でも、無理にやる必要は無いだろう。

 シャープは、俺に向って頭をさげるが、謝罪されるようなことではない。

「いいよ。それよりも、食事の準備を頼む」

「かしこまりました。ホットサンドでよろしいでしょうか?」

「あぁそうか、情報が共有されているのだな」

「はい。旦那様がよく食べていらっしゃったものです」

「本格的な食事は、後になりそうだからな。ホットサンドを、2つ作ってくれ、一つはアルに持っていってくれ」

「かしこまりました」

 シャープが馬車に向かった。

 俺は、一人になって、腰を降ろした。
 空には、星空が・・・。そうか、夜目が効くから気にしなかったけど、これほど暗くなっていたのか・・・。空を見上げても、知っている星座はない。もう、何度も、何度も、探してきた。星空は、よく見ていた。しかし、よく見ていた星空ではない。

「旦那様」

 シャープが、近くに来て居た。
 ホットサンドを持ってきてくれたようだ。

「アルには?」

「エイダが取りに来ましたので、持たせました」

「ありがとう」

 立ち上がると、シャープが俺に魔法を発動した。汚れを落としてくれるようだ。自分でやろうかと思ったが、シャープに任せるほうがいいだろう。経験を積ませないと、これからのメイドとしての役割に支障が出てしまう。時期が来たら、エヴァだけではなく、他の者にも、ヒューマノイド・メイドを紹介して連れて行ってもらおう。情報共有が楽にできるようになる。そのためには、いろいろと説明しなければならないこともあるが、ユリウスたちから説明してもらえばいいだろう。問題になりそうな者クリスには、すでに情報は渡している。

 シャープが持ってきたホットサンドをかじると、チーズが出てくる。
 チーズをもっと簡単に食べられるようにしたい。そのためには、畜産は必須だ。ユリウスが治世を担うまでに、もっともっと楽ができるようにしたい。面白い施設が手に入ったからには、あの施設に籠もって・・・。いろいろと作っていたい。魔法のプログラムも面白い。新しい魔法を開発できて、魔道具に落とし込めれば、もっと豊かになる。
 そのためにも、あいつらを・・・。

「マスター」

 エイダが、俺の足元に来てきた。

「どうした?アルに何かあったのか?」

 辺りを見ると、シャープも居ない。

「いえ、湯浴みの場所ですが、お湯が湧いている場所が見つかりまして・・・」

「温泉か?」

「はい。シャープが、泉質を確認しております」

「そうか・・・。温泉か・・・」

「どうされますか?」

「問題がなければ、入るぞ」

「そう言われると思いまして、”湯浴み”ではなく、湯につかれる場所を作成しました」

「それは重畳」

「はっ。目隠しなどは、ありませんが・・・」

「カルラが入るのなら、馬車で目隠しをすればいいだろう?」

「はい」

 エイダが、ちょこんと頭を下げて、馬車の方に向かっていく、尋問を行っていた場所から帰ってきた、ユニコーンとバイコーンになにやら指示を出している。エイダに全権を与えているから、ヒューマノイドタイプの制御は任せて大丈夫だろう。

 気配を探ってみると、尋問はまだ続いている。
 死んでいる者はいないようだ。俺たちを狙っていたのは間違いないが、どこから俺たちの情報が流れて、どういった情報だったのか気になる。
 うまく、情報を抜き出してくれるだろう。パスカルたちからの情報も俺が見られるようにしておいたほうが良いかも知れない。膨大なログを見る気はないが、検索ができる状態にはしておこう・・・。

 泉質の調査が終わったシャープが俺を迎えに来ている。

 いろいろ考えなければならないが・・・。今は、アルとエイダが見つけてくれた、温泉を堪能しよう。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

勇者召喚に巻き込まれたおっさんはウォッシュの魔法(必須:ウィッシュのポーズ)しか使えません。~大川大地と女子高校生と行く気ままな放浪生活~

北きつね
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれた”おっさん”は、すぐにステータスを偽装した。  ろくでもない目的で、勇者召喚をしたのだと考えたからだ。  一緒に召喚された、女子高校生と城を抜け出して、王都を脱出する方法を考える。  ダメだ大人と、理不尽ないじめを受けていた女子高校生は、巻き込まれた勇者召喚で知り合った。二人と名字と名前を持つ猫(聖獣)とのスローライフは、いろいろな人を巻き込んでにぎやかになっていく。  おっさんは、日本に居た時と同じ仕事を行い始める。  女子高校生は、隠したスキルを使って、おっさんの仕事を手伝う(手伝っているつもり)。 注)作者が楽しむ為に書いています。   誤字脱字が多いです。誤字脱字は、見つけ次第直していきますが、更新はまとめて行います。

帰還した召喚勇者の憂鬱 ~ 復讐を嗜むには、俺は幼すぎるのか? ~

北きつね
ファンタジー
 世界各国から、孤児ばかり300名が消えた。異世界に召喚されたのだ。  異世界召喚。  無事、魔物の王を討伐したのは、29名の召喚された勇者たちだった。  そして、召喚された勇者たちは、それぞれの思い、目的を持って地球に帰還した。  帰還した勇者たちを待っていたのは、29名の勇者たちが想像していたよりもひどい現実だった。  そんな現実を受け止めて、7年の月日を戦い抜いた召喚勇者たちは、自分たちの目的を果たすために動き出すのだった。  異世界で得た仲間たちと、異世界で学んだ戦い方と、異世界で会得したスキルを使って、召喚勇者たちは、復讐を開始する。

天才女薬学者 聖徳晴子の異世界転生

西洋司
ファンタジー
妙齢の薬学者 聖徳晴子(せいとく・はるこ)は、絶世の美貌の持ち主だ。 彼女は思考の並列化作業を得意とする、いわゆる天才。 精力的にフィールドワークをこなし、ついにエリクサーの開発間際というところで、放火で殺されてしまった。 晴子は、権力者達から、その地位を脅かす存在、「敵」と見做されてしまったのだ。 死後、晴子は天界で女神様からこう提案された。 「あなたは生前7人分の活躍をしましたので、異世界行きのチケットが7枚もあるんですよ。もしよろしければ、一度に使い切ってみては如何ですか?」 晴子はその提案を受け容れ、異世界へと旅立った。

【書籍化確定、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

愛人がいらっしゃるようですし、私は故郷へ帰ります。

hana
恋愛
結婚三年目。 庭の木の下では、旦那と愛人が逢瀬を繰り広げていた。 私は二階の窓からそれを眺め、愛が冷めていくのを感じていた……

呪われて

豆狸
恋愛
……王太子ジェーコブ殿下の好きなところが、どんなに考えても浮かんできません。私は首を傾げながら、早足で館へと向かう侍女の背中を追いかけました。

異世界の物流は俺に任せろ

北きつね
ファンタジー
 俺は、大木靖(おおきやすし)。  趣味は、”ドライブ!”だと、言っている。  隠れた趣味として、ラノベを読むが好きだ。それも、アニメやコミカライズされるような有名な物ではなく、書籍化未満の作品を読むのが好きだ。  職業は、トラックの運転手をしてる。この業界では珍しい”フリー”でやっている。電話一本で全国を飛び回っている。愛車のトラクタと、道路さえ繋がっていれば、どんな所にも出向いた。魔改造したトラクタで、トレーラを引っ張って、いろんな物を運んだ。ラッピングトレーラで、都内を走った事もある。  道?と思われる場所も走った事がある。  今後ろに積んでいる荷物は、よく見かける”グリフォン”だ。今日は生きたまま運んで欲しいと言われている。  え?”グリフォン”なんて、どこに居るのかって?  そんな事、俺が知るわけがない。俺は依頼された荷物を、依頼された場所に、依頼された日時までに運ぶのが仕事だ。  日本に居た時には、つまらない法令なんて物があったが、今では、なんでも運べる。  え?”日本”じゃないのかって?  拠点にしているのは、バッケスホーフ王国にある。ユーラットという港町だ。そこから、10kmくらい山に向かえば、俺の拠点がある。拠点に行けば、トラックの整備ができるからな。整備だけじゃなくて、改造もできる。  え?バッケスホーフ王国なんて知らない?  そう言われてもな。俺も、そういう物だと受け入れているだけだからな。  え?地球じゃないのかって?  言っていなかったか?俺が今居るのは、異世界だぞ。  俺は、異世界のトラック運転手だ!  なぜか俺が知っているトレーラを製造できる。万能工房。ガソリンが無くならない謎の状況。なぜか使えるナビシステム。そして、なぜか読める異世界の文字。何故か通じる日本語!  故障したりしても、止めて休ませれば、新品同然に直ってくる親切設計。  俺が望んだ装備が実装され続ける不思議なトラクタ。必要な備品が補充される謎設定。  ご都合主義てんこ盛りの世界だ。  そんな相棒とともに、制限速度がなく、俺以外トラックなんて持っていない。  俺は、異世界=レールテを気ままに爆走する。  レールテの物流は俺に任せろ! 注)作者が楽しむ為に書いています。   作者はトラック運転手ではありません。描写・名称などおかしな所があると思います。ご容赦下さい。   誤字脱字が多いです。誤字脱字は、見つけ次第、直していきますが、更新はまとめてになると思います。   誤字脱字、表現がおかしいなどのご指摘はすごく嬉しいです。   アルファポリスで先行(数話)で公開していきます。

処理中です...