異世界でもプログラム

北きつね

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第四章 ダンジョン・プログラム

第七話 ダンジョンが変わった?

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 ホームのマスターになり、ホームの改革を行い。ホームの旗頭になっていた、シンイチ・アル・マナベがダンジョンに潜ってから1ヶ月以上が経過している。
 マスターであるシンイチ・アル・マナベの秘書のカルラがダンジョンから戻ってきて状況を伝えている。

 ホームのメンバーたちは、カルラの報告を信じるしか無いが、シンイチ・アル・マナベからの直筆の指示やサインが書かれた書類が手渡されているために、それほど心配はしていない。

 ダンジョンの攻略を行い始めたことは、アンチェやヤンチェだけではなく、ダーリオも自らがシンイチ・アル・マナベの救済に向かうと宣言してダンジョンの攻略を始めた。しかし、カルラやアルバンからの報告で、シンイチ・アル・マナベが生存していることや、攻略を続けているとことが共通認識となっている。

 セバスとダーリオは、ホームの運営に関しての会議を終えて、二人で訓練場を見下ろせる場所にできたオープンテラスに来ている。
 以前とは違って、活気に満ちた声が聞こえてくる。子どもたちの笑い声に続いて、大人たちの怒鳴り声が聞こえるが、以前のような陰気臭さは感じられない。訓練を真剣にしない者たちを叱っていたり、いたずらをする子どもたちを叱っていたり、ホームのために未来がある子どもたちのために怒鳴っている。

 スラム街でくすぶっていた孤児の1人が持ってきた紅茶を飲みながら、二人は眼下で訓練をする者たちを眺める。
 セバスは、この光景が好きなのだ。子どもたちが自分の意思で、自分で考えて、自分のために訓練をしている。ダンジョンに潜らない者も、ホームで働くために計算や商品の勉強をしている。全て、シンイチ・アル・マナベが与えたものだ。

 セバスは、出された紅茶を口に含んでから、ダーリオに質問した。ダーリオが、カルラから今後の方針を聞いているからだ。

「ダーリオ。マスターは?」

 ホームの中では、マスターであるシンイチ・アル・マナベの方針で、”殿”や”様”は付けないようにと言われている。対外的な場所では、付けなければならない場面もあるが、マスターにさえも必要ないと言われている。
 最初は、戸惑っていたが、ダンジョンの中で背中を預ける者たちだ。今までのように、後ろでふんぞり返って命令してくる奴はいない。

「あぁカルラ嬢からの報告では、ウーレンフートを出られるようだ。共和国のダンジョンに興味をしめされている」

「そうか。マスターには残って欲しかったが・・・」

 セバスも、当初は皆に遠慮をしていたが、それではマスターの代わりが務まらないと諭されて、口調や態度を改めた。シンイチ・アル・マナベが居ないときには、セバスが代行を務めることが皆によって決められた。当初は、ダーリオに白羽の矢が立ったのだが、ダーリオはダンジョンの攻略は控えるようになったが、訓練や街の周りの駆除には率先して出かける。魔物相手に、絶対は無い。ダーリオが居ないときには、セバスが代表代行の代理として外部との交渉を行っていた。それなら、セバスが代表マスターの代理で問題はないだろうと決まってしまったのだ。

「ダメでしょう。マスターには、成し遂げたい”事情”があるのです。それに、本来は・・・」

 セバスの言葉を聞いて、ダーリオは頷く。事情は、ダーリオも認識している。
 シンイチ・アル・マナベは、セバスやダーリオたち、ホームを運営する上で必須な人員には、最終目的敵討ちを告げている。最終目的の対象も定かではない状況で、情報があれば飛びつくつもりで居るとも伝えてある。最終目的を告げる関係で、シンイチ・アル・マナベは、ライムバッハ家との関係も伝えてある。

 セバスが最後に言ったセリフは、シンイチ・アル・マナベは、ホームのマスターを統括する立場になろうと思えば、すぐに就任できる権限を持っている。それこそ、ライムバッハ辺境伯領では、現状ではウーレンフートに限って言えば、”何でもできる”くらいの権限を持つ。

 二人は、ダンジョンの入り口がある方向を見て、自分たちを解放し、導いてくれたマスターを想った。

「そうだ。ダーリオ。何か、報告があると言っていたが?皆で共有しなくていいのか?」

「それを、セバスに相談したかった」

「どういうことだ?」

「皆に共有したほうがいいと思うのだが、情報がまだ”感覚”でしかない。それに、この情報の取り扱いを相談したい」

「・・・。だれからの情報だ?」

「俺は報告を受けた。基はティネケだ。他は、気がついている者もいるかも知れないが、不明だ」

「わかった。話を聞こう」

 セバスは、残っていた紅茶を飲み干して、立ち上がった。ダーリオの表情から、オープンな場所では話をしないほうがよいと考えた。自分の執務室なら、防音にできる。ダーリオも、セバスのあとに続いた。
 共通認識として、執務室なら他に話が漏れないと認識しているためだ。

 セバスの執務室には、セバスの妻が居るだけだ。
 妻も、二人の表情から、飲み物を二人に出してから、隣室に移動した。セバスは、妻が移動したのを確認してから、防音の魔道具を発動した。もともとが、防音性に優れた部屋の作りになっている。その上で、防音の魔道具を発動したので、二人の話が漏れる心配は皆無になる。

「それで?」

 魔道具を発動して、セバスはダーリオに問いかけた。

「ダンジョンの様子が変わった」

「ん?それは、新しい階層が見つかったのか?」

「いや、違う。階層ではなく、ダンジョンの・・・。そう・・・。ルールが変わった感じがする」

「ルール?」

「あぁすまん。説明が下手で、うまく伝わらない可能性が高いが・・・」

「かまわない」

「ダンジョンは、魔物が襲ってくる」

「あぁ」

「前と違って、倒せない魔物が出現しない。それに、その場に居る人数以上にはならない」

「え?」

「簡単に言えば、倒せない魔物が襲ってこなくなった」

「・・・」「・・・」

 二人は、黙ってしまった。
 セバスは、一つの考えにたどり着いたのだが、それを口にするのは、荒唐無稽だと感じている。ダーリオは、感じている状況を”発生させられる”唯一の人物に心当たりがあるが、セバスの表情から頭に浮かんでいる名前を口に出せないでいる。

「セバス」

「ダーリオ。参考までに聞きたいのだが、10階層で出現する。階層主には、変化が有ったのか?」

「階層主は、変わらない。俺は、確認できていないが、ある程度の時間を戦えば逃げ出せるように変わっているようだ。あと、これも確実ではないが、怪我をしていたり、体力が低下していたり、通常なら”死”を認識するような場面では、魔物の出現率が減っている」

「え?」

「ティネケが、ポーターとして帯同しているときに感じたことだ。俺に報告してきた。すぐに口止めしたが、感がいいやつなら気がつくと思う」

「そうだな」

「だが、俺たちが主戦場にしている階層では、前と変わらない。いや、正確には変わったか・・・」

「どう変わった?」

「俺は、頻繁に潜っていないが、普段から深い階層で戦っている奴らから、ギリギリの戦いが多くなっていると報告を受けている」

「・・・。ダーリオ。それは、いつ頃からだ?」

「・・・。約、1ヶ月前だ。正確には、カルラ嬢がマスターからの報告書を持ってき始めてからだ・・・」

「そうか・・・。ダーリオ。この情報をどう扱う?」

「”どう”とは?」

「公表するのか?」

「深い階層が、強くなっているのは伝えようと思う。しかし、低階層で戦いやすくなったのは伏せようと思う」

「そうだな。それがいいだろうな」

 妻が持ってきた飲み物を飲みきって、セバスはダーリオをまっすぐに見る。
 ふたりとも、解っていながら、避けている話題がある。

「セバス」「ダーリオ」

 セバスがカップをテーブルに置いたタイミングで、お互いの名前を呼ぶ。
 わかっているのだ、マスターであるシンイチ・アル・マナベが”なに”かをしているのだろう・・・と、ただ、それを言い出すと、二人の本音が続いてしまう。
 ダンジョンを攻略して、ダンジョンの制御を奪ったのなら、ウーレンフートに残ってほしいという思いが強まってしまう。犠牲を少なくするのが限界なのだろうということも理解できる。理解できるからこそ、マスターから何ができるのかを聞きたいのだ。
 しかし、二人は、ダンジョンの制御が可能だと解ったときに発生する雑音が想像できる。マスターが真に望んでいるのは、ダンジョンの攻略ではなく、”復讐敵討ち”である事を・・・。そして、そのために、1人で強くなろうとしているのを・・・。だから、防音がしっかりされていて、二人だけしか居ない部屋でさえも、決定的な内容を口に出すことができないでいる。

 二人は、お互いの顔を見て、同じ考えに至ったことが解った。二人は、お互いの胸に今日の話をしまうことにした。そして、ダンジョンが変わったのではなく、自分たちがマスターの教えを忠実に待っているから、低階層での狩りがより安全に感じるようになってきたと発表した。深い階層での危険性が上がったことも同時に発表された。
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