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第三章 ダンジョン
第七十九話 地下へ
しおりを挟む最下層の話を除いて、説明を終えた所で、カルラは資料をまとめたいと言い出した。
「わかった。どのくらいの時間が必要だ?」
「一日・・・。いや、10時間ほどでまとめます」
「ホームへの資料と、どっかの辺境伯の娘に出す資料だろう?しっかりとまとめてくれ」
「・・・」
「明日一日を資料の作成に使ってくれ、俺はこの部屋で休んでいる。質問があれば訪ねてきてくれ」
カルラはびっくりした表情をするが、慌てて表情を戻して、頭を下げる。
アルも、慌てて頭を下げてから部屋を出ていった。
残されたメイドに、寝られる場所の確保を頼んだ。隣の部屋にベッドがあり、既に整えてあると言われた。
ひとまず、UMPCを立ち上げてみる。
Windows10が入っている。動作がもたつきを感じるが許容範囲だ。
サービスを見ると、必要がないサービスが大量に起動している。
使いみちがないアプリケーションも沢山入っている。ネットワークが必須な物は、全部削除・・・。する前に、確認するが、やはりネットワークは認識しているが、サービスが提供されているサーバに接続は出来ない。
グレートファイアウォールの内側で日本国内のサービスを利用しようとしたときのような感じがする。
開発系のサーバを立ち上げるにしても、情報にアクセス出来ないのは痛い。MSDNにアクセス・・・。できない・・・。よな。インテリセンスとかが働くようだし、最低限のマニュアルが入っていると考えればいいのか?セットアップで、全部のヘルプをインストールした時と同じだな。
どこかに、セットアップ用のDVDでも転がっていればいいのだけど、整理すれば出てくるかな?
次に地下に入った時に確認だな。
ケーブルの必要がない状態だし、電源も繋いでいないのに、通電しているアイコンが表示されている。通電状態になっている。
しまった・・・。スマートウォッチを持ってくればよかった。カルラとかアルバンでも使えるか確認すればよかった。
”トントン”
「ん?」
「にいちゃん」
「アルか?入っていいぞ」
扉を開けて、アルが入ってくる。
「どうした?」
「カルラは、資料をまとめると言って、部屋に入ってしまって、おいら・・・」
「暇なのか?」
「うん。それで、にいちゃん。おいらに戦い方を教えて欲しい。ダメ?」
「いいけど、お前、訓練を受けているよな?」
「うーん。受けているけど、暗殺とか・・・。だから、これから、にいちゃんとカルラと冒険をするのには、向かないだろう?」
「あぁ考えていなかった。こんなことなら、俺がダンジョンに入っている最中に、ダーリオたちに頼んでおけばよかった」
「あっ!カルラに言われて、斥候の方法や、罠の見つけ方や見分け方は覚えた」
「そうなのか?」
「うん。気配探知を使えるようになった」
「それなら十分だ。カルラが前線で戦って、アルが遊撃として前後のバランスを取る。俺が後方から援護すればパーティーとしては”普通”に見えるぞ」
「本当?」
「安心しろ。俺は、一人でダンジョンを踏破出来たのだぞ?安心しろ。だけど、アルが戦い方を覚えるのは、対人戦闘の対処を覚える意味でも必要になる。時間もあるから、模擬戦でもするか?」
「うん!カルラに言ってくる」
「村の外でやるぞ、カルラにもそう伝えてくれ」
「わかった!」
村の近くは、魔物や獣が出現するが、定期的に駆除を行っているので、大物は出没しない。
アルと二人で、村から離れた草原に移動した。
アルが、どんな武器が使いやすいのか知らないので、適当に作って渡すことにした。
持ってきていたのは、短剣を二本使うスタイルのようだ。変則的な双剣使いのような動きだ。
軽く剣をあわせるが悪くない。
10階層程度なら単独で踏破できそうな強さだ。
「少し、速度を上げるぞ」
「うん!」
俺は武器を木刀に持ち替えて、速度を一段あげてアルに襲いかかる。
今の速度は、25階層程度の相手だ。
アルは対処に追われて、攻撃が出来ていない。体力が続いている間は問題にはならないが、体力がなくなれば一気に崩されてしまう。
5分ほどで動きが鈍くなってくる。
”カーン”
俺の振り下ろした木刀を、アルが短剣で弾こうとして、力負けした。
そのまま木刀を首筋で止めた。
「はぁはぁはぁ。まいりました」
アルは、そのまま後ろに倒れてしまった。
「どうだ?」
「・・・。にいちゃん」
「まずは、体力だな。その上で、無駄を減らさないと、体力だけが減っていくぞ。攻撃が出来ている間は、なんとか戦えるけど、防御が必要になり始めると、双剣では対処できなくなっていくぞ」
「うん。でも、乱戦とかだと、二本の短剣の方がいい」
「そうだな。だから、体力を付けてから、武器を考えよう。二つの短剣も使い方を変えてみてもいい。それに合わせて違う短剣を持ってもいいと思うぞ?」
「?」
「片方は、攻撃用で、もう片方は防御用にして、防御用は、握り手を覆うようにすれば攻撃を滑らせることが出来るだろう?」
アルの体力が戻ってきてから、木の加護を使って、木材を利用していろいろな形の木刀を作って試した。
バランスを考えていないので、木刀同士で合わせるくらいの軽い模擬戦をなんどか繰り返した。
そして、数本の木刀をアルが気に入って、実際に鍛冶に作ってもらうことになった。バランスを考える意味合いが強いので、安い材質で作ってもらうつもりのようだ。それなら、有るが試した武器の全てを作ってもらうように、資金と素材を渡した。最高の物は無理でも、30階層程度の魔物には通用する武器を目指してもらう。
村には鍛冶屋が多いので、注文を出すのには都合が良かった。
ついでに、カルラにも武器を聞いて、注文をだすことになった。
製作には二週間程度必要になると言われたが、承諾する。最下層での作業があるので、そのくらいの時間が大丈夫だ。ついでに、下層で取れる素材を使った、見た目は高級には見えない最高品質の武器を防具も注文する。俺は、軽装を注文する。アルも動きを阻害しない軽装だ。カルラも猫獣人の特徴を殺さない革鎧を注文した。素材がいいので、防御力は高くなる。武器は、既に自分のバランスが解っている、カルラの物だけだ。カルラは、短弓と短剣とバックラーを注文した。剣は、予備を含めて3本だ。
持ち込み素材と、素材の売却で、新しい防具と武器を揃えてお釣りが来てしまった。
カルラからの質問に何度か、答えた。
報告書が書き上がって、送付したと連絡を受けたのは、夕方に差し掛かる時間だった。
これから、クリスに連絡するというので、ダンジョンに戻るのは、翌日の朝にした。
アルに、食料の調達を頼んだ。物資の調達は、カルラよりもアルの方がうまいし早い。買ったものは、店にお願いして届けてもらっている。全部の荷物が揃ったのも夕方だった。地下には、キッチンがあったので、素材を多く持っていく。
---
「マナベ様?」
「ん?説明したよな?」
「え?はい。今から、最下層まで行くのですよね?」
「あぁ・・・。ん?あっ忘れていた!」
「?」「??」
「ダンジョンで攻略した階層まで移動出来るのは知っているよな?」
「はい。攻略した本人は移動できます。私も、アルバンも、最下層なんて行っていません」
「これを渡すのを忘れていた」
アイから渡された腕輪を渡す。転移の腕輪の話をすっかり忘れていた。
「これは?」
「これを身につけていれば、最下層まで移動出来る」
「え?」「おぉ!!」
カルラは驚いているが、アルは何かに興奮している。
「マナベ様?」
「ん?」
「今、言い出したのは、クリスティーネ様に内緒にしておくためですか?」
「違う。違う。単純に忘れていただけ、後で報告していいよ。実際に、行ってみればわかるけど、最下層の一部にしか入られないからね。攻略してきていないと上の階層にも戻れないから、地上と最下層の一部にしか行けないよ」
「は・・・。なんだか、クリスティーネ様が言っておられたことが解った気がします」
「・・・。まぁまぁ。細かいことは、最下層で説明するよ」
「わかりました。アルバン。行きますよ」「うん!」
村から出て、ダンジョンに向かった。
ダンジョンでは、転移場所で、転移を行った。
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