異世界でもプログラム

北きつね

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第三章 ダンジョン

第七十七話 地上へ

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「アイ。最下層に流れ着いた魔道具はどこにある?」

”こっちです”

 AIアイに連れられて入った部屋は、機材が雑多に置かれている場所だ。ハーフラックらしき物が見える。

「アイ。この部屋に出現するのか?」

”違います。この奥の部屋で、魔道具が出たら、この部屋に置いていきます”

「移動は、アイが?」

”いえ・・・。ほら、出てきました”

 そうだよな。
 ここはダンジョンで、魔物に指示を出すことも可能なのだろう。

「ゴブリン。いや、ホブゴブリンか?」

”違います。ヒューマノイド・ゴブリンです。博士がお作りになられた種で、人を襲いません”

「(倉橋さん)なんでも、ありだな。アイが指示を出しているのか?」

”はい。指揮系統を、委託されています”

「ダンジョン内の”魔物”とは違うのだな?」

”違います。ヒューマノイド種は、人を襲いません”

「他にも居るような言い方だけど?」

”はい。排泄や汚物処理を行う、ヒューマノイド・スライム。農作業を行う、ヒューマノイド・オーク。主に護衛を行う、ヒューマノイド・オーガが、居ます。ヒューマノイド・ゴブリンは、そのた雑用が仕事です。博士は、出来損ないと言っていました”

 AIの搭載に失敗したのだろう。

「ヒューマノイド種の作成方法は、博士は残していないのか?」

”あります。文章はロックがかかっています。マスターなら解除できると思います”

「後で見せてくれ」

”はい”

 倉橋さんは、どこを目指していたのだろう。ヒューマノイドという名前から、AIを作ろうとしていたのかもしれない。魔法でどうにかなるようなものではないと思う。
 まずは、機材の確認だな。宝の山だな。どうやって産まれているのかわからないが、HDDの弾だけでも100や200はありそうだ。容量もいろいろだ。
 AS400なんて物まである。ゲーム機が一切ない。倉橋さんも、俺並にゲームはしていた。元々花札を作っていた会社のゲームのカセットを貸した記憶もある。最初は、真空管電圧計を作っていた会社のゲーム機は全てを持っていたはずだ。ジュークボックスの納入とメンテナンス会社から始まって、分社や統合を繰り返した会社のゲーム機もたしか持っていた。”夢を広く伝える”がコンセプトのゲーム機は発売時に買っていた。BASICのインタプリタの開発を行った会社のゲーム機はゲームの開発までやっていたはずだ。
 なのに、ゲーム機が一台も無いのは不自然だ。
 家電もいろいろ流れ着いているのに、不思議だ。倉橋さんの手紙から読み取れる内容では、流れ着いた物なら”使えるようになっている”のに、AS400やハーフラックのサーバたちを使っていない理由はなんだ?

 ネットワーク機器が無いのか?

 そうか・・・。倉橋さんは、ネットワークは極端に弱かった。だから、ネットワークで繋がっているにしても、スタンドアロン形式での運用を行っていたのだろう。

 深く考えても”わからない”ものは、”わからない”目の前に、事象があるのだから、出来ているのだろう。

 そう言えば、倉橋さん汎用機とワークステーションがメインだったな。パソコンの開発言語は苦手だと笑っていたな。

 機材を整理しながら徐々に思い出してきている。ゲームやプログラムの話をしながら、飲みたかったな。

”マスター!”

「ん?」

”お食事はどうしますか?すでに、5時間以上、この部屋で過ごされております”

「そんなに?」

”はい。マスターも博士と同じタイプのようです”

 うーん。否定できない。AIアイが話しかけてくれなかったら、何時間でも・・・。いや、数日でもここで過ごせる自信がある。

「そうだな。食事を頼む。量は、そんなに必要ない。”軽め”の食事を頼む。食べたら、少しだけ横になる」」

”はい”

 管制室と勝手に名前を付けた部屋から出て、廊下に並ぶ部屋を見る。同じ作りではないと言っていたので、部屋を確認していく。観察していると、管制室を背にして、左側と右側で扉の数が違う。右側の方が、扉の間隔が狭い。部屋数が多いのだろう。
 左側の扉を開けて中を確認する。確かに広いが、所謂”タコ部屋”だ。

 うーん。使い方を考えればいいかな。住むわけじゃないから、暫く滞在ができればいいな。

 後ろから、ヒューマノイド・ゴブリンが付いてきている。部屋を決めたら、掃除をしてくれるようだ。
 右側の部屋を見ると、管制室に近い場所は、仮眠室のようだ。ベッドと机が置かれている。トイレやシャワーは別にあるようだ。俺一人だけだから、問題にはならない。ヒューマノイド・ゴブリンに、部屋を指示すると、掃除道具を持った、ヒューマノイド・ゴブリンがやってきて、部屋の掃除を始めていた。

 俺に付いてきたヒューマノイド・ゴブリンが手招きしている。
 その部屋に入ると、食事の用意がされていた。そこに並んだ料理を見た時に確信した。博士は、俺が知っている倉橋さんだ。

 テーブルには、”軽め”の食事として用意されているのは、”焼きそば”が大盛りで置かれていた。そう言えば、徹夜明けで、よく食べに行ったな。

 ヒューマノイドたちの思考ルーチンを調整すれば、もっといろいろなことが出来るようになるのかもしれない。
 性格付けは出来ないが、機械学習は出来るだろう。ここには、機材が沢山ある。電力を気にしなくても良い。

 焼きそばの半分を食べた辺りでお腹が溜まってきた。魔法で保護できるので、起きたら食べると伝えて、横になれる場所に行く。

 一度、地上に戻って、戻ってきたほうがいいだろうな。
 遅いと、ギルは大丈夫だろうけど、ユリウスがしびれを切らすと、捜索隊とか手配しかねない。

 もう一度、倉橋さんのメモを読んでから、横になった。

 疲れていたのだろう、目を閉じたら・・・。

---

 目が覚める。
 知らない天井・・・ではない。

「アイは?」

 近くにいた、ヒューマノイド・ゴブリンに問いかけると、部屋から出ていった。
 10分くらいしてから、アイが部屋にやってきた。来られないかもと思ったが、管制室から出ても問題はないようだ。

”お呼びですか?”

「俺は、外に戻ろうと思う」

 AIアイがどことなく寂しそうな雰囲気を出す。博士が出ていって、帰ってこないのを思い出したのだろう。俺が、置いていかれた人間なので、勝手に考えてしまったのだろう。

”はい”

「1週間程度で戻ってくる。その時に、二人の従者を連れてくる。この並びに部屋が有っただろう?使えるようにしておいてくれ、それから、正面の”タコ部屋”を、倉庫にする。ベッドを運び出して、水回りを取り除いてから、流れ着いた物で使っていない物を運び入れろ、足りなくなったら隣の部屋を使ってもいい」

”わかりました”

 俺が戻ってくると伝えると、嬉しそうにしている。

 せっかくだから、地上でも使えるのか、確認してみたくなった。昨日の残りの焼きそばを食べてから、シャワーを浴びる。
 流れ着いた物を見ていて、気になった”魔道具パソコン”を持ってみる。

 一つは、ポケコンだ。FX-870Pだ。学校向けでは、VX-4とか呼ばれていたが、流れてきているやつは、RAMが32Kあるやつだ。違う。拡張されている64Kという膨大なメモリを持っている。使える奴だ。

 もうひとつは、PDAで日本初のスマホである。W-ZERO3だ。早すぎた名機だ。母艦も必要になるだろうが、通信が目的なので、今回は単体で持っていって使ってみる。バッテリーの持ちが気になるので、実験には丁度いいだろう。

 そして、モバイルパソコンを一台持っていく。9インチの持ち運びをメインに考えている物だ。ダンジョン内で、ダンジョンにアクセス出来る状態になっているのを確認してから、外で使ったらどうなるのかを確認する。

 AIアイに戻ってくる場所の確認をしてから、地上に戻る。
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