異世界でもプログラム

北きつね

文字の大きさ
上 下
77 / 179
第三章 ダンジョン

第七十一話 階層主。そして・・・

しおりを挟む

「アル。もういいのか?」

「大丈夫だ。ユリウスは怖かったら帰っていいからな。ギルが素材を持って帰れば、俺が討伐した証明になるだろう?」

「おま」「ユリウス様。アルノルト様のおっしゃっている内容は、一考する価値があります。ユリウス様が自ら確認なさらずとも・・・」

「クリス。俺が決めたことだ。アルと俺の”差”を確認する」

「わかりました。アルノルト様。もうしわけありませんが、よろしくお願いいたします」

「わかった」

 階層主の部屋の前に来ている。
 30階層の階層主は少しだけ特殊だと聞いている。強さは同じなのだが、扉を開ける度に種別が変わってランダムになっているということだ。したがって、ハズレを引くと”上位種”や”変異種”が現れる。
 種別が違えば、持っているスキルや熟練度が違ってくる。
 相性によっては苦戦してしまうだろう。

 扉を開ける。
 中に入ると、中央に魔法陣が現れた。

「ハズレのようだ」

 オーガの変異種が一体とオークの上位種が三体と、ゴブリンの上位種が左右に展開している数は、ざっと見た感じでは2-30は居る。

「アル!俺たちも!」

「大丈夫だ。防御に徹していてくれ、ヘイト管理もやるから、流れ魔法に注意してくれ」

「アル!」

「ユリウス様!アルノルト様の邪魔になってしまいます。私たちは、足手まといです!」

「アル!死ぬなよ!」

「楽勝だよ」

 邪魔なゴブリンたちを、一気に殲滅する。

”風龍。我の敵を刻みつくせ”
”炎龍。我の敵を焼き尽くせ”

 龍を象った魔法が、左右に分かれていた、ゴブリン共を駆逐する。

 龍たちが、ゴブリンに襲いかかる寸前に、オークの上位種三体を狙う。刀を抜いてオークが武器を持っている腕を跳ね飛ばす。足の腱を切れば、これで脅威度は下がるだろう。殺すのは、後だ。

 オークがうるさく喚いているが無視する。
 ゴブリンたちを駆逐した龍たちが消滅したのが解る。活動限界のようだ。

 もう一度、龍を・・・。

 オーガが襲ってきた。
 さすがは変異種。動きがオークの上位種とは違う。

 オーガが手に持っているのは、大剣に分類されるような剣だ。

「ギル!オーガの剣は、売れるのか?」

「見た感じでは、ミスリルが使われているように見える。剣というよりも、素材としての価値が高い」

「わかった!」

 打ち合った感じだと、刀に魔法を纏えば、剣を壊せそうだが、素材になるのなら止めて、腕か手を切り落とす方法を考えよう。

 ホームでの対人戦闘の訓練で、嫌というほど行った。殺さないで、戦闘力を奪う方法の訓練を行った。

 オーガの攻撃を交わしながら、チャンスをうかがう。
 オークが邪魔をしてきたので、蹴飛ばしておいた。後できっちり殺せばいいだろう。切り落としたオークの腕は、ギルの方に蹴り飛ばしておいた。

 10分もすれば、オーガの攻撃が単調だというのが解る。
 プログラムされているように、俺の反応に併せて攻撃してくるだけだ。検証を重ねるが、ほぼ間違いはないようだ。特殊なパターンがある可能性もあるから、気は抜かないが攻撃のモーションもパターンになっている。

「アル!駄目なら俺たちも!」

「ユリウス!見ていろ。次は、剣を横にないでから、左斜め上から叩きつけるように攻撃してくるぞ!」

 俺が、オーガの右側に回ろうとステップをするとこの攻撃をしてくる。刀で横にないだ剣を受け止めて、飛ばされると、左斜め上から叩きつけるような攻撃が来る。これを、交わして、手首を狙う。

 スパッと、手首を切り落とす。両腕の手首を切断出来なかったが、剣の重さで腕が下がっている。近づいて、残っている手首を切り落とす。

 絶叫をあげるオーガが突進してくる。
 残された攻撃手段が少ないのだろう。横に避けて、首をはねる。これで終わりだ。

 残っているオークたちの首をはねて、戦闘が終了した。
 金目の物がわからないから、ギルに聞きながら回収する。ゴブリンの上位種が持っていた杖も業物ではないが、駆け出しの冒険者には丁度いい物だと言っている。ギルの袋だけでは回収が難しくなってきたので、一旦クリスの袋にいれる。クリスの袋に入っていた食料は俺の袋に移動する。俺の袋に入っていた要らない物は、ユリウスとギルの袋にいれる。

 30階層の階層主を倒して、次の部屋に進むとセーフエリアになっている。
 この場所に転移門が現れるので、ここに戻ってこられるようになる。

「ユリウス。クリス。ギル。条件は満たしたと思うぞ?」

「あぁ」

「アルノルト様。本当に行かれるのですか?」

「もう決めている」

「クリス!後は、俺が話す」

「はい。ユリウス様」

 ユリウスが、俺の前に出てくる。
 クリスが、袋から何かを取り出して、ユリウスに渡す。

「アル。エヴァが作った物だ。お前に渡してほしいと言われている」

「え?」

「エヴァは、お前が一人で行動すると思っていたようだ。もし、俺が説得できたら渡さなくていいと言われていた」

 ユリウスから渡されたのは、薔薇の花がモチーフになっているブレスレットなのか?

「アルノルト様。それは、足首につける物です。鎖は、ヤドリギがモチーフになっています」

 クリスが説明をしてくれる。
 薔薇は、愛のシンボルであり災いを寄せ付けない魔除けの意味があり、ヤドリギは生命力の象徴なのだと言われた。

「ギル。渡した、素材の中に、ミスリルとエメラルドが有っただろう?」

「あったぞ?出すか?」

「すまん。エメラルドは小さくていい」

「アルノルト様。エメラルドだけではなく、サファイアも入れましょう」

 俺の片目の色も入れろということだな。
 エヴァの緑色の目と俺の青。両方を使った、アンクレットを作る。

「ふぅ・・・。ユリウス。クリス。ギル。これを、エヴァに渡してくれ」

 クリスが手を出してきたので、クリスにわたす。
 ハンカチで包み込んで袋に入れている。

 モチーフは、同じ薔薇とヤドリギだ。ただ、薔薇の中央に二つの宝石を並べて配置した。ミスリルなので、魔法の媒体にもなる。二つの宝石には、俺の魔力を注ぎ込んでおく。杖が無くなっても魔法の発動を助けてくれる役割ができるだろう。

「わかりました。必ず届けます」

「頼む」

 沈黙が辛い。

「ユリウス。クリス。ギル。俺は、先に進む」

「わかった。ライムバッハの領都で待っている。必ず帰ってこい!いいか、必ず・・・。だ!」

「あぁもちろんだ」

 ユリウスが差し出した手を握る。
 今度は、だまし討ではなく別れの言葉が言える。次に会う時までの暫しの別れだ。

「カール様はお任せください。従者の二人の手配もお任せください」

「頼む。ユリウスが暴走しないように見張っておいてくれ」

「心得ました」「おい!」

 クリスが差し出した手を握った。
 本当なら、剣など握らなくても済むはずの手が、豆が出来て・・・。硬くなっている。それだけ、剣を振っているのだろう。血が滲むような努力をしているのだろう。

「アル。アル。俺は・・・」

「ギル。ウーレンフートを頼むな。途中で投げ出す形になってしまうが、お前が居れば安心できる」

「アル。俺に、お前のようなことは出来ない」

「当然だ。お前なら、俺よりもいい方法を見つけてくれる。ギル。頼むな。俺が帰ってくる場所を守ってくれ」

 涙が溢れ出そうな目で、俺を見ている。悔やんでいる。ギルが一番、後悔をしているのだろう。悔やんで、悔しかったのだろ。
 ギルは、俺に抱きついてきた。

「アル。任せろ。ホームだけじゃなくて、ウーレンフートも俺が守る」

「頼む」

 ギルが離れて、握手を求めてきた。力強い握手だ。ギルも、剣を振っているのだろう。魔物と戦闘する必要がない人間のはずだ。だが、腕を見れば傷が沢山ある。訓練でつくような傷ではない。もう後悔をしたくないのだろう。戦士のような手をしている。

 皆が、どれだけ訓練していたのかわかる。
 だが、俺は止まるわけにいかない。

「・・・」「・・・」「・・・」

「行ける所まで行ったら戻る」

「わかった」「えぇ」「アル。約束だぞ!」

 ユリウスは面倒だが、一番暖かい。あの男が国王になり、クリスが補佐すれば・・・。

 三人の視線を受けながら、31階層に向かう階段がある扉を開く。同時、三人の足元に魔法陣が現れる。地上に戻るのだろう。

「さて、どこまでいけるかわからないが、行ける所まで行ってみるか・・・」

 扉の先には、階段がある。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

乙女ゲームのお邪魔お局に転生してしまった私。

よもぎ
ファンタジー
「よりにもよって卑眼蚊(ヒメカ)かよ~ッ!?」私が転生したのは、乙女ゲーム「どきどきオフィスラブ」で主人公の恋路を邪魔する、仕事はできるけど見た目と性格が最悪なお局【城之内姫華】だった!ちなみに、【卑眼蚊】というのはファンから付けられたあだ名で、イケメンが大好きでいやらしい目付きで蚊のようにしつこく付き纏い、イケメンに近付く(特に若くて可愛い)女を目の敵にして排除するからそう呼ばれ、ついには公式も卑眼蚊呼びをするのだった。でも、卑眼蚊にはとんでもない秘密があって・・・?とにかく、主人公が誰と結ばれても卑眼蚊は退職!こんないい会社辞めてたまるか!私の奮闘が始まる!

幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない… そんな中、夢の中の本を読むと、、、

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

帰還した召喚勇者の憂鬱 ~ 復讐を嗜むには、俺は幼すぎるのか? ~

北きつね
ファンタジー
 世界各国から、孤児ばかり300名が消えた。異世界に召喚されたのだ。  異世界召喚。  無事、魔物の王を討伐したのは、29名の召喚された勇者たちだった。  そして、召喚された勇者たちは、それぞれの思い、目的を持って地球に帰還した。  帰還した勇者たちを待っていたのは、29名の勇者たちが想像していたよりもひどい現実だった。  そんな現実を受け止めて、7年の月日を戦い抜いた召喚勇者たちは、自分たちの目的を果たすために動き出すのだった。  異世界で得た仲間たちと、異世界で学んだ戦い方と、異世界で会得したスキルを使って、召喚勇者たちは、復讐を開始する。

ボッチの少女は、精霊の加護をもらいました

星名 七緒
ファンタジー
身寄りのない少女が、異世界に飛ばされてしまいます。異世界でいろいろな人と出会い、料理を通して交流していくお話です。異世界で幸せを探して、がんばって生きていきます。

転生貴族のスローライフ

マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である *基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします

勇者召喚に巻き込まれたおっさんはウォッシュの魔法(必須:ウィッシュのポーズ)しか使えません。~大川大地と女子高校生と行く気ままな放浪生活~

北きつね
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれた”おっさん”は、すぐにステータスを偽装した。  ろくでもない目的で、勇者召喚をしたのだと考えたからだ。  一緒に召喚された、女子高校生と城を抜け出して、王都を脱出する方法を考える。  ダメだ大人と、理不尽ないじめを受けていた女子高校生は、巻き込まれた勇者召喚で知り合った。二人と名字と名前を持つ猫(聖獣)とのスローライフは、いろいろな人を巻き込んでにぎやかになっていく。  おっさんは、日本に居た時と同じ仕事を行い始める。  女子高校生は、隠したスキルを使って、おっさんの仕事を手伝う(手伝っているつもり)。 注)作者が楽しむ為に書いています。   誤字脱字が多いです。誤字脱字は、見つけ次第直していきますが、更新はまとめて行います。

またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。

朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。 婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。 だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。 リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。 「なろう」「カクヨム」に投稿しています。

処理中です...