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第三章 ダンジョン
第七十一話 階層主。そして・・・
しおりを挟む「アル。もういいのか?」
「大丈夫だ。ユリウスは怖かったら帰っていいからな。ギルが素材を持って帰れば、俺が討伐した証明になるだろう?」
「おま」「ユリウス様。アルノルト様のおっしゃっている内容は、一考する価値があります。ユリウス様が自ら確認なさらずとも・・・」
「クリス。俺が決めたことだ。アルと俺の”差”を確認する」
「わかりました。アルノルト様。もうしわけありませんが、よろしくお願いいたします」
「わかった」
階層主の部屋の前に来ている。
30階層の階層主は少しだけ特殊だと聞いている。強さは同じなのだが、扉を開ける度に種別が変わってランダムになっているということだ。したがって、ハズレを引くと”上位種”や”変異種”が現れる。
種別が違えば、持っているスキルや熟練度が違ってくる。
相性によっては苦戦してしまうだろう。
扉を開ける。
中に入ると、中央に魔法陣が現れた。
「ハズレのようだ」
オーガの変異種が一体とオークの上位種が三体と、ゴブリンの上位種が左右に展開している数は、ざっと見た感じでは2-30は居る。
「アル!俺たちも!」
「大丈夫だ。防御に徹していてくれ、ヘイト管理もやるから、流れ魔法に注意してくれ」
「アル!」
「ユリウス様!アルノルト様の邪魔になってしまいます。私たちは、足手まといです!」
「アル!死ぬなよ!」
「楽勝だよ」
邪魔なゴブリンたちを、一気に殲滅する。
”風龍。我の敵を刻みつくせ”
”炎龍。我の敵を焼き尽くせ”
龍を象った魔法が、左右に分かれていた、ゴブリン共を駆逐する。
龍たちが、ゴブリンに襲いかかる寸前に、オークの上位種三体を狙う。刀を抜いてオークが武器を持っている腕を跳ね飛ばす。足の腱を切れば、これで脅威度は下がるだろう。殺すのは、後だ。
オークがうるさく喚いているが無視する。
ゴブリンたちを駆逐した龍たちが消滅したのが解る。活動限界のようだ。
もう一度、龍を・・・。
オーガが襲ってきた。
さすがは変異種。動きがオークの上位種とは違う。
オーガが手に持っているのは、大剣に分類されるような剣だ。
「ギル!オーガの剣は、売れるのか?」
「見た感じでは、ミスリルが使われているように見える。剣というよりも、素材としての価値が高い」
「わかった!」
打ち合った感じだと、刀に魔法を纏えば、剣を壊せそうだが、素材になるのなら止めて、腕か手を切り落とす方法を考えよう。
ホームでの対人戦闘の訓練で、嫌というほど行った。殺さないで、戦闘力を奪う方法の訓練を行った。
オーガの攻撃を交わしながら、チャンスをうかがう。
オークが邪魔をしてきたので、蹴飛ばしておいた。後できっちり殺せばいいだろう。切り落としたオークの腕は、ギルの方に蹴り飛ばしておいた。
10分もすれば、オーガの攻撃が単調だというのが解る。
プログラムされているように、俺の反応に併せて攻撃してくるだけだ。検証を重ねるが、ほぼ間違いはないようだ。特殊なパターンがある可能性もあるから、気は抜かないが攻撃のモーションもパターンになっている。
「アル!駄目なら俺たちも!」
「ユリウス!見ていろ。次は、剣を横にないでから、左斜め上から叩きつけるように攻撃してくるぞ!」
俺が、オーガの右側に回ろうとステップをするとこの攻撃をしてくる。刀で横にないだ剣を受け止めて、飛ばされると、左斜め上から叩きつけるような攻撃が来る。これを、交わして、手首を狙う。
スパッと、手首を切り落とす。両腕の手首を切断出来なかったが、剣の重さで腕が下がっている。近づいて、残っている手首を切り落とす。
絶叫をあげるオーガが突進してくる。
残された攻撃手段が少ないのだろう。横に避けて、首をはねる。これで終わりだ。
残っているオークたちの首をはねて、戦闘が終了した。
金目の物がわからないから、ギルに聞きながら回収する。ゴブリンの上位種が持っていた杖も業物ではないが、駆け出しの冒険者には丁度いい物だと言っている。ギルの袋だけでは回収が難しくなってきたので、一旦クリスの袋にいれる。クリスの袋に入っていた食料は俺の袋に移動する。俺の袋に入っていた要らない物は、ユリウスとギルの袋にいれる。
30階層の階層主を倒して、次の部屋に進むとセーフエリアになっている。
この場所に転移門が現れるので、ここに戻ってこられるようになる。
「ユリウス。クリス。ギル。条件は満たしたと思うぞ?」
「あぁ」
「アルノルト様。本当に行かれるのですか?」
「もう決めている」
「クリス!後は、俺が話す」
「はい。ユリウス様」
ユリウスが、俺の前に出てくる。
クリスが、袋から何かを取り出して、ユリウスに渡す。
「アル。エヴァが作った物だ。お前に渡してほしいと言われている」
「え?」
「エヴァは、お前が一人で行動すると思っていたようだ。もし、俺が説得できたら渡さなくていいと言われていた」
ユリウスから渡されたのは、薔薇の花がモチーフになっているブレスレットなのか?
「アルノルト様。それは、足首につける物です。鎖は、ヤドリギがモチーフになっています」
クリスが説明をしてくれる。
薔薇は、愛のシンボルであり災いを寄せ付けない魔除けの意味があり、ヤドリギは生命力の象徴なのだと言われた。
「ギル。渡した、素材の中に、ミスリルとエメラルドが有っただろう?」
「あったぞ?出すか?」
「すまん。エメラルドは小さくていい」
「アルノルト様。エメラルドだけではなく、サファイアも入れましょう」
俺の片目の色も入れろということだな。
エヴァの緑色の目と俺の青。両方を使った、アンクレットを作る。
「ふぅ・・・。ユリウス。クリス。ギル。これを、エヴァに渡してくれ」
クリスが手を出してきたので、クリスにわたす。
ハンカチで包み込んで袋に入れている。
モチーフは、同じ薔薇とヤドリギだ。ただ、薔薇の中央に二つの宝石を並べて配置した。ミスリルなので、魔法の媒体にもなる。二つの宝石には、俺の魔力を注ぎ込んでおく。杖が無くなっても魔法の発動を助けてくれる役割ができるだろう。
「わかりました。必ず届けます」
「頼む」
沈黙が辛い。
「ユリウス。クリス。ギル。俺は、先に進む」
「わかった。ライムバッハの領都で待っている。必ず帰ってこい!いいか、必ず・・・。だ!」
「あぁもちろんだ」
ユリウスが差し出した手を握る。
今度は、だまし討ではなく別れの言葉が言える。次に会う時までの暫しの別れだ。
「カール様はお任せください。従者の二人の手配もお任せください」
「頼む。ユリウスが暴走しないように見張っておいてくれ」
「心得ました」「おい!」
クリスが差し出した手を握った。
本当なら、剣など握らなくても済むはずの手が、豆が出来て・・・。硬くなっている。それだけ、剣を振っているのだろう。血が滲むような努力をしているのだろう。
「アル。アル。俺は・・・」
「ギル。ウーレンフートを頼むな。途中で投げ出す形になってしまうが、お前が居れば安心できる」
「アル。俺に、お前のようなことは出来ない」
「当然だ。お前なら、俺よりもいい方法を見つけてくれる。ギル。頼むな。俺が帰ってくる場所を守ってくれ」
涙が溢れ出そうな目で、俺を見ている。悔やんでいる。ギルが一番、後悔をしているのだろう。悔やんで、悔しかったのだろ。
ギルは、俺に抱きついてきた。
「アル。任せろ。ホームだけじゃなくて、ウーレンフートも俺が守る」
「頼む」
ギルが離れて、握手を求めてきた。力強い握手だ。ギルも、剣を振っているのだろう。魔物と戦闘する必要がない人間のはずだ。だが、腕を見れば傷が沢山ある。訓練でつくような傷ではない。もう後悔をしたくないのだろう。戦士のような手をしている。
皆が、どれだけ訓練していたのかわかる。
だが、俺は止まるわけにいかない。
「・・・」「・・・」「・・・」
「行ける所まで行ったら戻る」
「わかった」「えぇ」「アル。約束だぞ!」
ユリウスは面倒だが、一番暖かい。あの男が国王になり、クリスが補佐すれば・・・。
三人の視線を受けながら、31階層に向かう階段がある扉を開く。同時、三人の足元に魔法陣が現れる。地上に戻るのだろう。
「さて、どこまでいけるかわからないが、行ける所まで行ってみるか・・・」
扉の先には、階段がある。
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