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第三章 ダンジョン
第六十五話 アンダーカバー
しおりを挟むクリスからの謝罪はケジメという意味以上の意味があるとは思えなかった。
今更言われても誰も幸せになれない。それなら、話を受け入れたほうがいい。少なくても、クリスの心に残った痼は取り除けるだろう。
ギルも、あの事件を引きずっている一人だ。ギルは・・・。違うな。俺以外、誰も悪くない。でも、だからといって”気にするな”の一言で済ます事ができるようなことではない事もわかっている。
ギルは、ウーレンフートのホームと街中に商会主体の商店を立ち上げてくれた。
俺が言ったとおりに、街の中に作った商店は元クリスの部下だった者たちが主体になっている。王都から派遣された従業員は裏方に徹してくれるようだ。これで、この商会はシュロート商会の皮を被っているが、フォイルゲン辺境伯の出先機関に見られるのだろう。もちろん、諜報機関に属していた者たちから見ればという但し書きが付く。
堂々と商店を開いた事で、シュロート商会とライムバッハ辺境伯(後見人のユリウス皇太孫)とフォイルゲン辺境伯が手を結んだと思われるだろう。
そして、数々の商品を出している謎の”マナベ商会(笑)”は、シュロート商会とライムバッハ辺境伯とフォイルゲン辺境伯が管理する商会だと捉えられている。
マナベ商会がウーレンフートのホーム内に初めての商会を立ち上げた。
そして、ホームの持ち主が、シンイチ・アル・マナベなのだ。
いろいろ繋がってしまったのだが、問題は無い。
これで、アルノルト・フォン・ライムバッハの存在を消す事ができそうだ。
ギルがもたらした情報では、アルノルト・フォン・ライムバッハは心が壊れて、辺境伯の屋敷に閉じこもっている事になっているようだ。屋敷に居た使用人に暴力を振るうようになったので、ユリウスが奥屋敷に幽閉する事に決めて、そこで生を終えるのではないかと言われている。アルノルトを助けた事になっている、冒険者のイーヴォ達の証言からも裏付けされていると言われている。
王族や貴族が出席した、前ライムバッハ辺境伯の葬列にも参加しなかったのがその証拠だと言われて貴族社会を中心にアルノルトはすでに死んだと同じ扱いになっている。
ユリウスからウーレンフートの外にできてしまった開拓村の許可も貰ったので大手を振って開発を行う事にした。開拓村と呼んで入るのだが、実際には職人が集まったり、夜の店が集まったり、冒険者たちの寝床になる宿があったりする場所になっている。以前はホームから移動する以外では行く事が難しかったが、壁を作って堀を作って門を作って、ウーレンフートの門から繋がる街道を作った。
俺が居なくても大丈夫なように、マナベ商会が商業ギルドにあずけているワトを全部ホームに振り替えた。
管理は合議制で行う事にした。
孤児院の為に、簡単にできる屋台料理もいくつか伝授した。
ポップコーンは偶然奴隷たちが食べていたコーンが爆裂種の様に粒の皮が硬かったので乾燥させて、火の魔法で炙った所ポップコーンができた。屋台でも問題にならないように深いフライパンを作って電熱器(魔道具)で温めるようにした。
街の中でも真似をする奴らが出ているが、質のいいコーンを使えばできると思ってやってみるが失敗しているようだ。
家畜の餌にするようなコーンでないと”ポップコーンができない”とまでは考えないだろう。後発が出る頃には、ポップコーンは俺たちのホームが発祥と印象付けられるようになっているだろう。
フライドポテトも似たような料理は有ったのだが、屋台で売っている者が居なかったのでやってみた。手軽にできる事から、真似する者は出てきたのだが、じゃがいも畑をホーム内に持っている俺たちとでは値段が違って勝負にならないようだ。じゃがいもも奴隷の食事として作られていたのを大々的に行う事にしたので、よそから買わなくても大丈夫な状態なので、値段で勝負ができる。
甘味は、ホーム内に店舗を作って提供する事になった。
作り方を隠す意図があるのだが、屋台で気軽に食べるような値段で出すのは駄目だと言われた。コストで考えれば、それほど高くしなくても大丈夫だけど、他の店を潰すつもりなのかと言われて辞める事にした。
ダーリオは、ホーム内に居住しているのだが、ホーム所属の冒険者の殆どが開拓村の方に居住するようになってしまった。
俺が嫌われているのかと思ったのだが・・・。どうやら、ホームがあまりにも変わってしまったので、居心地が悪いのだと言われた。女性陣は、ホーム内に共同で住んで居るのだが、男性陣は開拓村に作られた宿屋や新しく作った拠点で生活をしているようだ。開拓村には娼館もあるのでちょうどいいのだろう。
娼館には、試しに作ったゴムを使うように指示を出した。本当は、日本の法律と同じ様にしようかと思ったのだが、それは無理だと言う事でそれなら避妊や病気のリスクを抑えるためにゴムを必須にした。破った場合には、最悪はホームからの追放もあり得ると宣言した。娼館を取りまとめている人物からは、感謝の言葉が送られた。娼館では女性だけが使うことができる浴場も設置して衛生面には徹底的に注意するように申し付けた。
ユリウスたちが帰ってからここまで作るのに、2ヶ月がかかってしまった。
「旦那様」
「セバスか?」
「はい。今週の収支です」
「ありがとう。後で目を通しておく」
「はい。お願いします」
「なにか問題はあるか?」
「そうですね。ホームへの入会申請が多くて困っております」
「前に言った通りにしろ」
「はい。その様にしておりますが・・・」
「なんだ?」
「貴族の紹介状を持ってくるような人まで出てきています」
「バカなのか?ホームは、冒険者が主体だぞ?ダンジョンに入る為の拠点の意味合いが強いのだぞ?」
「旦那様。それを、旦那様がおっしゃられても説得力にかけます」
「どういう・・・。あぁそうだよな。でも、却下だ。商人も同じ様に却下だ。冒険者も高位ランクは必要ないと伝えろ」
「ダンジョンを独占していると訴える者も出てきています。何かしらの不正があると喚いております」
「セバス。ダーホスにも確認して、誰も不正をしていないと、俺に報告できるのなら、ホームの全部を公開しろ。それでも文句を言ってくるような奴らは無視しろ」
「はい。私もダーホス殿もブルーノ殿もやましい部分は一つもありません」
「わかっている。それなら、貴族連中やギルドで喚いている奴らを集めて説明会を開くか?」
「そこまでは必要ありません。ギルドの査察をいつでも受け入れると宣言するだけで十分です」
「そうなのか?」
「はい。貴族も他のホーム連中も、旦那様が裏でなにかしていると確信しています」
「それで?」
「自分たちが行っているのだから、旦那様はそれ以上にうまくやっていると思っているのです」
「そういう事か・・・。やっと流れがわかってきた。要するに、そいつらは、”分け前をよこせ”と、言っているだけなのだな」
「そうです。もっと言えば、美味しい話に関わらせろと言っているのです」
「バカなの?」
「そうですね。旦那様のようなやり方は今まで誰もやってきていませんので、信じられないのでしょう」
「へぇ・・・。それで、なんでギルドの査察を受け入れると宣言するだけでいいのだ?」
「それは、もしどこかの貴族やホームが旦那様に査察するように提訴したら、提訴した方にもギルドからの査察が入るからです」
「あぁ・・・それで、ランドルはテオフィラやアレミルを懐柔・・・。逆かもしれないけど、していたのだな」
「そうでございます。ギルドの査察は公平に行われるという建前があります。そのために、旦那様が査察を受け入れると宣言するだけで、貴族やホーム連中は・・・」
「俺がすでにギルドを手中におさめたと考えるわけだ」
「はい。実際に、旦那様は査察を受け入れても痛くも痒くもありません」
「わかった。セバスに任せる」
「かしこまりました」
「そうだ。セバス。来週くらいからリハビリを兼ねてダンジョンに潜るからな。俺が居ない間は、セバスとダーリオとブルーノで話し合って決めてくれ」
「・・・。はい。かしこまりました」
セバスが頭を下げてから部屋から出ていく。
なにか思うことがあるのだろう。
俺は力を求めている。権力ではなく純粋な力だ。
ダンジョンに潜る事で得られる物も多いだろう。攻略できるかわからないが、できる限りの事はやっておこうと思っている。
問題は、ソロで潜るか・・・。誰かを連れて行くかだけど・・・。最初はソロで潜って、難しそうならパーティーを組む事を考えるか・・・。
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