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第三章 ダンジョン
第五十九話 奴隷たち
しおりを挟む孤児院は大丈夫そうだ。
3つの孤児院ともに感触は悪くない。
奴隷になった者たちとの面談を行う事になるのだが、これが意外と時間がかかりそうだ。
冒険者ギルドと商業ギルドと鍛冶ギルドと宿屋ギルドが、ヘルプを出してくれた。
「それで、なんで現ギルドマスターのエフライン殿が居るのですか?」
「私が、マナベ様のヘルプで来たからですが?」
「それは、先程聞きました。ギルドは大丈夫なのですか?」
「大丈夫ですよ。グスタフ殿が仕切ってくれています」
エフラインは少しだけ遠い所を見て寂しそうにした。
少しだけ可哀想になったので、それ以上は聞かない事にした。
グスタフが仕切っているという事は、王都からの通達が来たのだろう。
「わかりました。よろしくお願いします。他の人もお願いします」
書類や奴隷紋から犯罪奴隷なのかを判断していく、それぞれのギルド職員が犯罪奴隷と面談して、不法に犯罪奴隷に落とされたのか最終判断をしていく事になる。
これは、各ギルドが持っている情報網や犯罪歴として保存されている情報を突合する事によって判断している。俺では、その情報にアクセス出来ないので、ギルド職員にヘルプを依頼したのだ。
各ギルドもランドルの件では、問題職員を野放しにした負い目もあるので、渋々だが了承してくれたのだ。
正直に言おう、ランドルの豚は何を考えていた?
主要メンバー5名とダーリオ以外は、全員が奴隷だった。
人数がものすごかった、中でも生産系の者が多かった。その次に多かったのはホームの維持管理をする者たちだった。
どうやら、ランドルたちはホームで生産した物を売りさばくことで、ホームを維持していたようだ。そのためにも、奴隷が大量に必要になってしまっていた。
100名前後だと言われていたのだが、蓋を開けてみれば3倍以上の人数が居た。ランドルの奴隷だけで80名。その他の者たちもそれぞれが奴隷を持っていた事が判明したのだ。
ランドルの奴隷に関しては、移譲は終了しているのだが、その他の者はまだ行われていない。
そして、ランドルたちの厄介な事は、使い潰すつもりの奴隷だけではなく生産をやらせている奴隷を、自分たちの奴隷の奴隷にしているのだ。話を聞いた限りでは、問題を起こしたときには、その奴隷のグループをダンジョンで潰すのだ。
最初この契約変更に難儀した。奴隷の奴隷になっていた為に、契約関係がわかりにくくなっていたのだ。
しかし、一組の老夫婦によってそれが劇的に改善した。
「セバス殿。それでは、奴隷の奴隷が誰の奴隷で、犯罪奴隷なのか?不法に奴隷になったのか?無理やり買われた奴隷なのかわかるのか?」
「旦那様。私の事は、セバスとお呼びください。私の主人は、貴方様でお話を聞く限り、私とツアレが忠誠を尽くすのに十分な方だと判断しました」
「わかった。セバス。それで可能なのか?」
「私ではなく、ツアレが記憶しております」
最初、セバスは俺の事をご主人様と呼んでいたのだが、止めてほしいという事を伝えると、旦那様と呼び始めた。
エヴァの存在を知ったので、余計に旦那様で問題ありません。といい出してしまったのだ。
セバスとツアレの夫婦は、ランドルの奴隷だった。商家の主人に仕えていた。その商家を、ランドルが乗っ取る形になった時に、死ぬ覚悟で主人の救出に向かった。しかし、主人からは商家に居た者たちを頼むと言われて、主人の救出は断念した。しかし、ランドルと交渉して商家の者たちはそのままセバスとツアレの奴隷になる事で一人として傷つけさせない条件をつけて守った。その条件としてランドル達ができない書類やホームの維持管理、奴隷の管理を全て行う事になった。当然奴隷として。
二人は、ランドルがだまし取る前の商家がやっていた孤児院の院長だったのだ。俺が孤児院にした事を聞いて、俺を信頼してくれたのだ。
ひとまず、セバスとツアレを除く商家の従業員たちは奴隷から解放した。
それからは早かった。
ツアレの記憶とセバスの的確な指示と、各ギルドから来ているギルド職員の手際で、犯罪奴隷だけど犯罪者じゃない者と、犯罪奴隷が分けられた。
本当の犯罪奴隷は、ガチガチに縛ってホームと外に作られた村への物資の搬送を行っていたようだ。
怪我をした場合には、セバスの証言ではダンジョンに連れて行かれて、罠の発見や解除で潰されたようだ。
クズでも、そのくらいの常識は有るのかと思ったのだが・・・。
孤児院から無理やり連れてこられた子供はそのまま冒険者に登録させられて、ダンジョンで使い潰されていったようだ。
クズはクズだった。
「セバス。その使い潰された子供は解っているのか?」
「勿論です」
「出身の孤児院も判明しているよな?」
「・・・」
「セバス!」
「解っております」
「着いてきてくれ」
「どちらに?」
「謝りに行く」
「え?でも、マナベ様には」
「違う。俺は、子供を助け出せると思っていた。それができなかったのだから、事情を説明して謝罪するのは当然の事だ。何人か、孤児院の子供とも約束をした!それができないのなら、わかった時点で謝罪に行くのは当然の事だ」
「お、お待ち下さい!」
「なぜだ!」
「お願いです。お待ち下さい。私の話を聞いてください」
セバスに前に出られて、深々と頭を下げられてしまった。
「・・・。ふぅ・・・。わかった、それで?」
「ありがとうございます。マナベ様。そのお役目、私と妻に譲ってはいただけないでしょうか?」
「どうしてだ?」
「はい。全ては、私と妻がランドルの奴隷となってしまった事から始まっています」
セバスは、ここで一息入れるかのように、背筋を伸ばして俺を見る。
「私も妻も、従業員を守るための選択でしたが、今考えれば、孤児院の事を少しも考えておりませんでした。ですので、この件はマナベ様ではなく、私と妻が適任だと判断いたします」
なんか、うまく言いくるめられているような気がするのだが・・・。セバスとツナレの様子を見るとどうやら本気で、自分たちに責任があると思っているようだ。
「わかった。孤児院への説明と謝罪は、セバスとツアレに任せる。二人は、今ではこのホームに必要な人材だから、無理はしないように!絶対に帰ってきてくれよ」
二人は、少しだけ驚いてから、深々と頭を下げた。
俺に聞こえるかどうかの声で”ありがとうございます”と言ってくれたのが、嬉しかった。
それから、死んでしまった孤児の人数を聞いて、セバスから相場を聞いて、相場感にあったワトを渡した。
ワトを受け取ると、二人は急いで支度をして出かけていった。
「マスター」
「ん?ダーリオ。だから、マスターは止めてくれと言っているでしょ?」
「マスターはマスターです。それに、俺の武器も取り返してくれました。だったら、マスターなのです」
何か、理屈にならない理屈を述べられている。
冒険者だった、ダーリオは奴隷上がりだという事だ。もともと奴隷だったのを、ランドルに買われてタンクとなっていたようだ。本当のスタイルは、両手で支えるくらいの大盾を持って、魔物の突進を止める。その間に味方が攻撃をする、本当のタンクで自分からは攻撃しないスタイルのようだ。ランドルたちは自分たちが攻撃する時にダメージを受けるのを嫌ってダーリオの盾を取り上げた。その後に半分程度の大きさの盾を渡して武器を持つように強制して、戦わせるスタイルにしたようだ。
奴隷になったのは、娘の病気を治すためだったようだが、治療がうまくいかなくて死んでしまって、薬代や治療費が嵩んで奴隷落ちしたという事だ。妻は娘が死んだ事で心を壊してしまい。自ら命を絶ってしまったということだ。ダーリオも何もかもがイヤになって奴隷になる道を選んだという事だ。
「そうだよ。マスターはマスターなのだから!」
ハンフダとハンネスとアンチェとヤンチェの兄弟姉妹だ。4つ子かと思ったが、年子の双子の兄妹だという事だ。
生き残っている数少ない孤児院上がりの者たちだ。4人には、ティネケという弟が居て、ランドルが無理やり孤児院から連れ出したのだ。上の双子の兄妹は加護持ちだったために、兄妹を手駒に加えるための行為だった。
その弟は、街の外に作られていた奴隷村に監禁状態になっていた。兄妹はホームの中を探したりしていたのだが見つける事ができなくて、ランドルに従っていた。
ティネケを奴隷から解放して、4人も奴隷から解放したのだが、自分たちで冒険者をすればいいと言ったのだが、俺に従うと言ってホームに残る事を宣言した。
そして、全員が俺の事をマスターと呼ぶ。
ティネケは、加護はなかったのだが、頭の回転が早くて、商家には向いているようだ。ホームに残ると言っているので、セバスに預けようと思っている。
「だから、俺は、お前たちの主人では無いだろう?だから、マスターはおかしい!だろ?」
「それでは、ご主人様の方がいいですか?」
「くっ・・・わかった。マスターでいいから、ご主人様は止めてくれ」
「「「「かしこまりました。マイマスター!」」」」
なんか、女性には勝てない。
こんな感じで奴隷たちを次々に解放したり、継続して奴隷となる者が出たりと選別していった。
犯罪奴隷を除いて、総勢349名。高校のときの1学年に匹敵する人数の奴隷が居た。それを、セバスとツアレがさばいていたのだ。少ない金銭で養っていたのかと思えば、かなり優秀な人材という事になる。
ダーリオやハンフダ--双子の兄妹とティネケには、ディアスという名字を与える事にした--ディアス兄妹はダンジョンの攻略を続けると言ってくれた。
これからが本番になる。
残った者ための住まい作りは、ホームに残ってくれたドワーフたちが行ってくれる事になった。
個室を望む者や複数での共有を望む者が居て少し面倒だったので、ドワーフにお願いして、個室の寮と二人部屋の寮と三人部屋の寮と四人部屋の寮を作る事にした。
そんな話をしている時に、今日の本命が来た。
「兄ちゃん!」
「アル!ちょうどよかった」
「お客人。いや、マナベ様。本日からお世話になる」
親父さんがうやうやしく頭を下げる。
それと同時に、後ろに居た従業員も全員頭を下げる。
「親父さん、頭を上げてください」
「そういうわけにはいかない。マナベ様は、オーナーなのだからな」
頭を上げながらニヤリと笑ってくれた。
親父さんがやっていた宿屋の元オーナーはランドルに関わっていたようだ。店の没収までには至らなかったが、世間に情報が回ってしまって、首が回らなくなってしまったのだ。親父さんに渡していた宿屋を売却する事にしたようで、親父さんは、これ幸いと俺の話に乗ることにしたのだ、従業員も全員ホームで働いてくれる事になった。
寮ができるまでは、ホームの中で従業員とセバスの部下たちでホームの清掃と改修を行ってくれる事になった。そして、残る事になった奴隷や元奴隷たちの世話をしてくれる事になった。宿に関しては、少し意見をいいたいので、待ってもらって、まずは食堂の機能を充実させる事になった。
セバスから言われている給金に関しては、全面的にOKを出してある。
それぞれの職制で上下するようにはなるが、生活できるだけの給金を出すようにだけはしてもらった。セバスから提示された給金の合計は、親父さんから払われていたレシピの利用料で半分位まかなえる計算になってしまった。
孤児院が全員来て、噂を聞いて集まりだす孤児たち、外に居る奴隷たちを・・・。
最大で考えると、少し足りない可能性があるな。何か、考える必要があると思うのだが、ホームを改造して宿屋・食堂・鍛冶屋・商店が揃えば、その売上でまかなえると考えている。
「オーナー。それでな」
「ん?あぁすまん」
考え事をしてしまっていた。
「職人や商人はどうする?」
「ホームの中で店をやってもらおうかと思っていますけど邪魔ですか?」
「邪魔じゃないが?いいのか?」
「何が?」
「オーナーのホームだろう?宿やったり、商店を開いたりして問題じゃないのか?」
「ダメなの?」
「そういうわけじゃないのだが」
セバスとツアレが丁度帰ってきたようだ。
「旦那様。孤児院の院長から、マナベ商会に合流する旨の返事をもらってきました」
「え?脅したりしていないよな?」
「もちろんです。私たちの行いを謝罪して、子供への見舞金を出すという話をしました所、”必要ない。ランドルがしたことで、マナベ様には責任はない”とおっしゃられて拒否されまして、旦那様が置いていかれた契約書の説明と旦那様の事を聞かれまして、私と妻が感じた事を素直にお話しただけです」
「そうか・・・。合流してくれるのだな」
「オーナー。マナベ様。孤児院も中に入れるのか?」
「あぁそのつもりだ。そうだ!今更だけど、親父さん。名前教えてくれよ。いつまでも親父さんじゃ困ってしまう」
「ハハハ。そうだな。俺は、ブルーノ・ヘルマンだ。よろしく、マナベ様!」
「ヘルマン殿。よろしく」
「止めてくれ、オーナーに殿と呼ばれたら、他の者から睨まれてしまう。ブルーノと呼んでほしい」
「わかった、ブルーノ。よろしく頼む」
ホームの改造を行ってから、孤児院が合流してくる事にしてもらった、改造には人手が必要になるので、孤児院からも手伝いを出してもらう事になったら、満額ではないが手伝ってくれた子供には給金を出す事を書いたメモをアルに届けてもらう事にした。
「そうだ。セバス。このホームを宿屋に改築して、1階部分に宿の受付と食事処と鍛冶屋の受付と商店をいくつか作りたいけど問題か?」
「それは、ホームに属する者以外にも解放するのですか?」
「あぁそうだ。できれば、ギルドの支部とかもほしいけど、少しまとまってからだろうな。宿屋も大人数で泊まれる場所から、貴族向けの場所まで用意したい。食事処も同じだな。商店は、商会をいくつか誘致する一つはシュロート商会になると思う」
「よろしいのですか?」
「ブルーノにも言われたけど、問題があるのか?禁止されたりしているのか?」
「いえ、そういうわけではありません、ホームに属している者以外に開放してもよろしいのですか?」
「そうだな。ホームに属するメリットがないとか言われたら考えるけど、問題ないぞ?開放したら、冒険者が使ってくれるだろうし、ダンジョンに入るにもちょうどいい場所だろう?」
「はい。旦那様が問題ないとおっしゃるのなら問題はありません」
「それなら、任せていいよな?」
「はい。お任せください」
「商店は商家に任せるにして、宿や食事処は、周りに合わせてくれ。中に働いている者が困らない程度で考えてくれ」
「はい。かしこまりました」
人材が揃った?あとは、ホームを改造したり、ホームを魔改造したり、ホームを好き勝手にいじったり、建物が立ってくれば、独立した場所となれるはずだ。
立地の面では抜群だし広さも確保出来ている。
金は大量にある。
ランドルたちから巻き上げた物だけじゃなくて、使い切れないほどの使用料が毎月入ってきている。それを使って、一気にすすめてしまおう。どうせ持っていても使わないし、経済を回すにも丁度いいだろう。
「ダーリオ!居るのだろう?」
「ハハハ。ごまかせませんか・・。それで、マスター。何か御用ですか?」
「ダンジョンに入られるのは何人だ?」
「4パーティー20名です」
「少し休んでおけ、数日のうちに新しい指示を出す。それから、ポーター何人居る?」
「荷物運びですか?」
「あぁ専任は4人です」
「そうか・・・。パーティーは6人である必要でもあるのか?」
「階層主の部屋に入る事ができる最大人数です」
「階層主・・。あぁそうか、転移が出来たよな?転移のできる人数は?」
「6人じゃないのですか?」
「俺は、今までソロでやっていたから知らないぞ?」
「旦那様。ダーリオ殿。転移は、10名までいけます」
「セバス!本当か?」
「はい。間違いありません。私も何度か連れられてダンジョンに入っています」
「わかった。ありがとう」
「いえ」
「ダーリオ!」
「はい。編成を組み直します」
「頼む。それから、ポーターの安全には配慮して、一人のポーターに護衛を一人位のつもりで居てくれ」
「わかりました」
「あと、ダンジョンに潜る時には、アタックする階層をセバスかブルーノに申告するようにしてくれ」
「なんですか?」
「救援に行く時に必要だろう?何日で戻るなどの情報もわかるようにしてくれ、それでパーティーが増えてくたら、一つのパーティーは休養。一つのパーティーはホームで待機。一つのパーティーは準待機として連絡がつく所に居るようにしろ」
「はい。それで?」
「ホームのパーティーが予定どおりに帰ってこなかったりしたら救援に向かう。それと、ホーム以外のパーティーへの救援要請にはギルドからの依頼として受ける事にする」
「ハハハ。わかりました。それだと、形だけホームに属する連中が増えるかもしれませんよ」
「構わない。そうなったら、お前がホームのやり方を叩き込んでくれればいい。従わなければ、止めてもらえばいいだけだ」
「承ります」
「うん。それから、お前以上に訓練がうまいやつが居なければ、お前がダンジョンに潜る事は禁止にする。新人の引率はOKだが攻略はNGにする」
「え?」
「後進を育てろ。これから、誰一人として、ホームから死者を出すな」
「え?」
「できるよな?出来なくてもやってもらう。いいな」
「奴隷を使うのは」
「認めない。犯罪奴隷でもだ!お前の指示を守れずに勝手に突っ込んで死ぬのはしょうがないが、それ以外の死者を出すな!これは、俺からの命令だ!」
うやうやしく頭を下げた。
ダーリオだけではなく、その場に居る者が全員頭を下げた。
「マイマスター。承りました。私、ダーリオは、マスターのご意思に従い。一人の死者を出さない攻略方法を考えます」
「頼む。セバスもツアレもブルーノも、他の皆も協力してくれ」
『はっ!』
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