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第三章 ダンジョン
第五十七話 受け渡し?
しおりを挟む翌日と言われていたのだが、すぐにグスタフから泣きが入った。
翌日までにまとめられそうにないという事だ。そのために、3日後の今日に会談が設定された。
奴隷の引き渡しは終わっているのだが、物品や賭けの回収ができていないからだ。
「マナベ様!」
受付が俺を見つけると声をかけてきた。
周りに居た冒険者が何か言っているが気にしてもしょうがないだろう。
「グスタフ殿は?」
「ギルドマスターの部屋でお待ちです」
「ありがとう」
「ご案内いたします」
俺が何か言う前に、受付嬢は立ち上がって案内を開始した。
別に知っているから行けるのだが、勝手にギルド内を歩くのはダメという事か?
「グスタフ様。マナベ様がお越しです」
「わかった」
ドアが開けられた。
受付嬢はここまでのようだ。
部屋の中には、グスタフと男が一人居る。護衛なのだろう。昨日は見なかったから、影から守っていたのか、何かの任務を行っていたのかもしれない。
後、グスタフの隣に見たことがない女性が居るのだが、挨拶をしてこない事から秘書なのかもしれない。スルーしておく事にする。
「マナベ様。どうぞ」
「あぁ」
進められて、グスタフの正面に座る。
男は、やはり護衛なのだろう。グスタフの左後ろに立っている。俺が右利きだと思っての対処なのだろう。
少しだけ苦笑してしまったが、腰にぶら下げていた刀に手をかけて、腰から外してソファーの左側に置いた。
グスタフが少しだけ苦笑したのが見て取れた。対処は間違っていなかったと考える事にした。
男が机に移動して、羊皮紙の束を持ってきた。
確かに、この量だとしたら一日じゃまとまらないだろう。
「この程度の事をまとめるのに時間が必要だったのか?」
少しだけ嫌味を込めての発言だが、グスタフはそれをしっかりと認識した上で説明をしてくれた。
「テオフィラの不正に連座する形でかなりの職員を処分しなければならなくなってしまって、申し訳なかった」
「それじゃ今は綺麗になったのだな?」
「現状は、その認識で間違いありません」
「わかった。それならしょうがない。商業ギルドは?」
「あちらさんも同じようです。ただし、冒険者ギルドよりは被害は少ないようです」
「そうか・・・。で、他に何か隠しているようだが?」
グスタフだけじゃなくて、後ろの男の動きから、そんな気がしたので、鎌をかけてみた。
「ふぅ・・・。まぁマナベ様が当事者ですし、これから彼らの主人になられます。彼らが実行していた計画を知ってもらっておいた方がいいでしょう」
「なんだよ。ヤケに勿体つけるな」
「マナベ様。奴らの計画は、ウーレンフートのダンジョン攻略ではなく、ウーレンフートの乗っ取りだったようです」
「はぁ?どういう事だ?」
「マナベ様。この街は、ライムバッハ家の直領な事はご存知ですか?」
「あぁ」
「この街の税は?」
税?
考えたことがなかった。そう言えば、税金に関しては聞いた事がなかった。
「知らない」
「そうですか、この街は、ダンジョン産の物を買ったり持ち出したりした時に税が取られる仕組みです」
税率は一律で3割。それでもかなりの金額になったのだろう。
日々消費される食材の一部もダンジョンに依存してしまっている状態なのだ。
「ほぉ・・・。確かに人の出入りが多いから人頭税は無理なのだろうな」
「おっしゃるとおりです。その上で、”買い”と”持ち出し”というのが絶妙な不正を誘発していたのです」
「どういう事だ?」
グスタフに聞いた話は確かに絶妙だ。不正と言うよりも、ライムバッハ家の失態だ。
抜け道が用意されてしまっている。
チームやパーティー内でのやり取りでは、税は発生しない。加工品には税が課せられない事も利用されていた。街からの持ち出しも、加工品になっているために、商人が持ち出しても、税の対象から外れてしまう。
奴らは、冒険者ギルド/商業ギルド/鍛冶ギルド/宿屋ギルドの一部の者が結託して、ランドルのパーティーが持ってきた素材をパーティーメンバーになっている鍛冶職人や商人が受け取る。そこで加工して、街から持ち出して他の街で売って居たのだ。
特に、武器や防具に加工した物は、一部の貴族家に流れていた事までは判明したようだ。その貴族が、ヘーゲルヒ家。領内に巨大な森を持つ有力貴族で、ライムバッハ家とはあまり親交がない貴族のようだ。
巨大な森を有しているから、武器や防具が必要なのか?森から得られる素材からは作る事ができないのか?
「それはわかった。それで、どうやったらそれで乗っ取りに繋がる?」
「調べた部下たちの推測で、確たる証拠はありませんがよろしいですか?」
「構わない。教えてくれ」
「・・・。はい」
グスタフが語った話が本当なら、確かに乗っ取りと思われても当然だ。
彼らがやろうとしたのは、実質的な支配に繋がる行為だ。そして完全にライムバッハ家の失策だ。
彼らは、税を免除される事を利用する事を思いついた。彼らのホームが想像以上に大きかったのは、あの中で全てを生産して消費するためだったのだ。
そして、有力な冒険者を抱え込む事で、ダンジョン産の素材をホームで独占する。俺を誘ったのは、素材を大量に持ち運べる方法の秘密を知りたかったようだ。
生産職を奴隷にする事で、ホームで加工品を作成して、他の街に売る。
商人や職人や宿屋も、それに乗った。一部のギルド職員が、ランドルたちから出される条件に有った人材を紹介していたのだ。
「ふぅ・・・。わかった。それで、そのパーティーメンバーだった奴らの処分は?」
「今から、マナベ様にご相談しようと考えております」
「わかった。まずは、物品の受け渡しを頼む。それから、パーティーメンバーの話をしよう」
「かしこまりました」
物品の引き渡しは思った以上に時間が必要だった。
奴らが溜め込んでいた物のリストだ。全部を引き継ぐにしても、一人では正直無理だ。
ホームもダンジョンの近くにある物だけかと思ったのだが、どうやら、ランドルや幹部たちの居住場所は違っていたようだ。本来なら建築できない場所だ。冒険者ギルドが所有していた場所に屋敷を建築して使っていた。
グスタフからは、この屋敷に関しては冒険者ギルドで接収したいと言われて了承した。
もともとは、ギルド職員の寮を作る予定の場所だったのを、ランドルに格安・・・。タダ同然のワトで売り渡していたようだ。
それを冒険者ギルドとしては接収して計画通りにギルド職員や遠方から来る客が泊まる場所に改良したいようだ。
現在冒険者ギルドの資金は底を打っている。テオフィラたちが太いストローを刺して吸い込んでいたようだ。帳簿上に残されているはずの資金の1/5も回収できなかったようだ。財産を没収しても、それは俺への賭け金に順当されてしまって、残っていないとの事だ。
ランドルたちは本当に好き勝手やっていたようで、奴らが持っているホームは街の壁まで広がっている。そこは森とは言わないが、木々が生える場所まで存在している。そして、問題だったのが、やつらのホームから壁の下を潜って街から出られるルートが作られていた事だ。
一部のものしか知らされていなかったようだが、ここでも奴隷を大量に使って、街から物品の持ち出しを行っていたようだ。運び出された場所は、奴隷街のようになっているとの話だ。100名ほどが生活している小さな村になっているようなのだ。
奴らは一体何人の奴隷を使っていたのだ?
契約だけでも面倒な事になりそうだな。そのリストが目の前にある羊皮紙という事になるのだろう。
軽い目眩を覚えた。
俺は、これから100名を越す人間の面接をしなければならないのか?
いや、実際にはしなくてもいいのだが、自分の配下に自分が知らない人間が居るのはどうも落ち着かない。それに、犯罪奴隷でも無い限りできるだけ奴隷から開放してあげたい。面倒だけど、やるしか無いのだろう。
ホームの受け渡しは問題なく終わったのだが、問題になったのは地下通路だ。
俺としては塞いでしまってもいいのだが、外に出来ている村をどうするのかでまた問題になってしまう。
「マナベ様。村は・・・」
「ギルド所有にでもするか?俺は必要ない」
「それでは・・・。しかし・・・」
「わかった。壁を作って、本格的な村にしよう」
「え?」
「どうせ、村として機能は無いのだろう?」
「えぇありません」
「それなら、街の中でやりにくい、そうだな・・・。鍛冶職人に無料で開放するのはどうだ?」
「どうだと・・・。言われましても、冒険者ギルドの範疇を超えています」
そりゃぁそうだ。
ユリウスたちと話しているような感じで話してしまった。
「マナベ様」
「ん?」
「もし、問題がなければ、数日後に、ライムバッハ家から来られる査察官とお話をしていただけませんか?」
「査察官?」
「はい。ご存知かわかりませんが、ライムバッハ家は、ご当主が倒れられまして、次男様が跡をお継ぎになられましたが、成人前だった為に王家から後見人が来られています」
「噂だけど聞いた事がある」
「その後見人である皇太孫のユリウス殿下と婚約者のクリスティーネ様が査察官として来られる事になっています」
「え?」
「シュロート家の嫡男も一緒に来られることになっています」
「は?」
「どうでしょうか?先程の話しは、冒険者ギルドが主体になって行う事はできませんが、ライムバッハ家の後見人であるユリウス殿下なら問題は無いと思います」
「そうだが・・・。俺なんか・・・一介の冒険者風情が皇太孫様にお会いするのはダメでしょう?グスタフ殿が話をしてください」
「いえ、私は立場がありまして、そのような提案をする事はできません。それに、ホームを含めて、あの場所は正式にはマナベ様の物ですので、マナベ様がお話するのが筋だと思います」
正論で反論ができない。確かに言われたらそのとおりだ。
でも、ユリウスは・・・。小言を言われるだろうが問題はない。ギルは喜んで協力してくれるだろう。
問題は、もうひとりだ。クリスが来る?問題はないと思うが、問題がない状態なのが問題なのかもしれない。何も悪い事はしていない。していないと思いたい。エヴァを裏切る行為もしていない。だがなぜか、クリスと対峙したくないと思ってしまう。
でも、逃げるのは不可能なようだ。
先に解ってよかったと思う事にしよう。
「わかった。いつくらいになりそうだ?」
「早ければ、3日後。遅れると、5日後だという事です」
「わかった。先触れが来るだろうから教えてくれ。ダンジョンには入らないで、ホームの改修作業をして待っている事にする」
「わかりました」
グスタフとの話はこれで終わったわけではない。
これかが本番なのだ。
奴隷の引き渡しに関しては俺が面談する事が条件だが問題なく引き渡される。
ランドルたちは、犯罪奴隷も持っていたのだが、それはダンジョン内の弾除けやトラップ探しに消耗されていた。犯罪奴隷は、そのまま冒険者ギルドが引き受けてくれる事になった。四肢欠損も(多分)治せるのだが、腕や足の四肢欠損を治せる加護を持つ者と、四肢欠損を行える力を持つものでは圧倒的に前者の方が面倒事に巻き込まれるだろう。今はそんな面倒事に巻き込まれるのは避けたい。それこそ、エヴァと合流してからならエヴァを守る為に俺が加護を持っている事をばらしてもいいかもしれない。
武具や防具は、それほど必要な物はなかった。
「グスタフ殿。武器や防具は、冒険者ギルドで・・・は、無理ですね。商業ギルドや他の街に買い取ってもらう事はできますか?」
「・・・。正直に言えば、冒険者ギルドで買い取りたい所ですが・・・」
「わかりました。それでは委託販売としましょう」
「え?」
「持ち主は私のままにしておいてください。冒険者ギルドに全ての武器と防具と必要のない魔道具を預けます。適正な買い取り価格にギルドの儲けを乗せた金額で売りに出してください」
「・・・」
「売れた場合には冒険者ギルドが私から買い取る金額を私の口座に入れてください。それで十分です」
「よろしいのですか?」
「えぇ今の状態で持っていても、必要ない物ですからね。必要な人に買ってもらった方がいいでしょう。あっ奴隷に落とされた者や奴らに不正に取り上げられた証拠がある物は、持ち主にかえしてください。冒険者ギルドに頼んでいいですよね?」
「わかりました。何件か、そのような問い合わせが届いていますので、調査して解決に当たります」
「わるいな」
グスタフの隣に座っていた女性が、何か別の羊皮紙を俺に差し出した。
「マナベ様。これを」
渡された羊皮紙は二枚・・・。いや、3枚あった。
最初の一枚は、簡単な事だ。
ランドルを含めた7名に関する事だ。ランドルは、手を切り落とされて歩く事もできない奴隷としての価値は殆ど無い。報告書では精神も壊れてしまっているようだ。国の研究機関に犯罪奴隷として売られる事が決定したらしい。薬草や魔法の効能試験に使われるようだ。簡単に言えば、人体実験のような物だ。
他の6名も多少の違いはあるが人体実験に使われる事になるようだ。
その売却した金額が書かれていた。
二枚目は、ランドルを除いたアレミルとテオフィラの個人資産が書かれている。これは、全部俺の物になる事が決定している。
不正に得たかどうかの線引きが難しいと理由だと説明された。
テオフィラもアレミルも当然のように屋敷を持っていた。
「グスタフ殿」
「なんでしょうか?」
「俺、屋敷をそんなに持っても困るのだけど?」
「そうでしょうか?」
「あぁ」
「別々の女性を住まわせて・・・。失礼しました」
殺気が漏れてしまったようだ。
「くだらない事を言うな・・・。あぁそれでな。屋敷を見ていないから判断できないが、テオフィラの屋敷は冒険者ギルド・・・は、ワトが無いのだよな?」
「えぇ恥ずかしながら」
「商業ギルドは?」
そこで女性が話に割って入った。
「その事で、商業ギルドからお願いがあります。3枚目も見てください」
どうやら女性は冒険者ギルドの関係者ではなく、商業ギルドの関係者だったようだ。
「あぁ」
3枚目は陳情という形になるのか?
アレミルが所有している建物のいくつかを商業ギルドに売って欲しいという事だ。問題ないので了承する事にする。
それでも建物がいくつか余ってしまっている。
その中からいくつかは、商業ギルドに委託して賃貸で貸し出す事にした。
グスタフが、商業ギルドの職員を呼んできてくれて、話をつけてくれている。
「マナベ様」
商業ギルドの職員を名乗った女性が声をかけてきた。
「なんでしょうか?」
「賃貸に関しては、商業ギルドで請け負います。マナベ様へのお支払いはどういたしましょうか?」
「あぁそうですね」
商業ギルドの会員証を見せる。
「え?」
「ご存じではなかったのですか?私は、商業ギルドのメンバーでもあるのです」
「えぇぇ・・・。あっあの!マナベ商会!!」
「え?今、そこをびっくりする所なのですか?」
「だって、マナベ商会と言えば、リバーシーやチェスの販売。それだけではなく、燻製器の発明者ですよ。他にもいろいろ発明して、この街でもハンバーグやソーセージの発明者ですよ・・・。本当に?今日、聞いてきたのは、トップ冒険者パーティーを一人で倒した・・・えぇぇぇぇぇ!!!」
絶叫がギルドマスターの部屋にこだました。
女性は少しだけ落ち着いたようだったので、話を続ける事にした。
「それでは、マナベ商会の持ち物にしても問題ないのですね」
「はい。商業ギルドとしては、マナベ商会の物とした方がありがたいです」
「あっそうだ。もし、建物を修復する必要が有るようでしたら、マナベ商会の口座から支払ってください」
「よろしいのですか?」
「はい。先に、何をするのかは教えてもらいますが、商業ギルドとしてはその方がいいでしょう?」
「はい!よろしくお願いします」
これで、大方の建物は片付いた。
アイツラどこまで腐っていたのか・・・。
「マナベ様。残った建物はどうしましょうか?」
「まだ残っているのですか?」
「えぇ・・」
指摘された建物は3軒。
全部が、孤児院になっている。
奴らが孤児院を運営していたわけではなく、孤児院を運営していた人を騙して奴隷にして殺した上で、建物を接収したようだ。やり方がえげつない。そのうえで、孤児院に立ち退きを迫っていたようだ。
「わかりました。グスタフ殿。今から孤児院に行きます」
「え?」
「潰したりしませんよ。孤児院の現状を知りたいだけです」
「わかりました。ご案内いたします」
「いえ、それには及びません。街の事は、街の事を知っている者に聞きます」
アルに案内させよう。
そして、その気があるのなら、いろいろ教えてやるのもいいかもしれない。
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