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第六章 縁由
第五話 買物
しおりを挟む晴海と夕花は、出来た時間を利用して、夕花は資格に関する資料を読み込み必要な情報を習得していた。晴海は、能見から渡された夕花の家族に関する資料を読み込んでいた。
晴海は、能見の報告書に違和感を覚えていた。
何がと言われると困るのだが、歯に何かが挟まった気持ち悪さを感じていたのだ。
「晴海さん?何かありましたか?」
「うーん。よくわからないけど、夕花を騙しながら、事業を続けていたにしては、お粗末だし、組織の人間が・・・!そうか!」
「え?」
「違和感の正体がわかった!夕花!お義母さんの墓が荒らされたと話したよな?」
「はい」
「違和感の正体は、墓が荒らされたという事実だ」
「え?違和感?」
「そうだ。一つ一つは問題ではない。時系列に発生した物事を並べてみると・・・」
「あっ!」
晴海が並べた情報の箇条書きを見て、夕花は晴海が言っている違和感の正体に気がついた。
「夕花。お義母さんのお墓は、夕花が設置したのだよね?」
「はい。行政に頼みました」
「僕は、行政に務めている人間が高い意識を持って、全員が同じ様に仕事をしているなんて思わないけど・・・。組織の人間は、どうやって墓の場所を知って、いつ墓を荒らしたのだろう?」
「そうですよね・・・」
晴海が解っている日付を記入していくと、夕花が母親の墓を作ってから、3日後には夕花は組織に捕まって、奴隷市場への商品となっている。それから、晴海に会うまでは記憶が定かではないが、墓を建ててから日付から考えれば、10日だ。夕花の情報を、能見が握ってから、墓にたどり着くまで2日必要だったと考えても、半月の間に荒らされたのが解る。
能見の報告書には、母親の墓を荒らした連中が書かれていない。正確には、書かれているが、調査中となっている。
墓荒らしのタイミングが、絶妙なのだ。
奴隷市場が開催されている最中に墓荒らしが行われたと考えるべきなのだ。奴隷市場の開催は、オープンな情報だ。ただし、夕花が出品される奴隷市場が今回の奴隷市場なのか判断は出来ない。商品登録されるが、出品は奴隷市場側が決定するのだ。
墓を荒らした組織と、夕花の兄を追っている組織と、父親を追っている組織。
当初は、墓を荒らした組織と父親を追っている組織が同じだと考えていたが、全部が同じである可能性さえも出てきたのだ。
晴海が感じていた違和感は、全部が中途半端な状況になっているのに、全部が綺麗なタイミングで行われているのだ。違う組織が行っているにしては、綺麗に揃いすぎている。
しかし、”だからどうした”と言われてしまうと終わってしまう。
違和感を覚えながら、新しい情報が追加されるのを待つしか無いのだ。
『晴海様。もう大丈夫です』
最高のタイミングで礼登から連絡が入った。
正義のフリールポライターの浅見こと、佐藤太一が餌に食らいついた。能見の部下が用意した封筒を持って、嬉々として車に戻ったそうだ。しばらく見守っていたが、封筒の中身を確認して、狭山パーキングエリアから出ていったそうだ。
「なぁ礼登。一つだけ教えて欲しい。封筒は、何も書かなかったのか?」
『いえ、封筒の表には、”最重要”と”重要書類”のマークを入れて、”東京都。薬物搬送計画”としました』
「・・・。礼登。本気か?明らかに怪しいぞ?」
『はい。そう思いましたが、彼は喜んで持っていきました。その時の映像も残しておきましたが見ますか?』
「いや、いい。笑えそうにない。それよりも、他に監視者がいないようなら、小腹がすいたから何か食べようと思う。お前も一緒に食べるか?」
『晴海様。魅力的なお誘いですが、もうしわけございません。トラクターの交換を行います』
「わかった。夕花とフードコートで何か食べてから、適当にぶらついている」
『わかりました。奥様。晴海様をよろしくお願いいたします』
「はい。心得ております」
礼登からの通話を切って、二人はお互いの身だしなみを確認する。
トレーラーから抜け出して、フードコートに向かった。
「夕花。焼きそばとか、パーキングエリアとかでしか食べない物を注文しておいて、トイレに行ってくる」
「お飲み物は?」
「炭酸がいいかな。支払いは、情報端末で頼むね」
「はい」
夕花は、晴海がトイレに向かったのを見送ってからフードコートのボックス席に座って端末から注文を行った。
自分で取りに行けば、無料だが座席まで持ってきてもらうと、チップとは別に手数料が必要になる。夕花は迷ったが、晴海なら座席まで持ってきてもらうだろうと判断して、有料のオプションを選んだ。
(駄目だったら謝ろう)
その頃、晴海は礼登に連絡をしていた。
『礼登』
『はい。晴海様』
『礼登。お前、俺に何か隠していないか?』
晴海は、自分を”俺”と呼称した。当主として話をするときに意識して使うようにしている。
『晴海様。もうしわけありません。しかし、もう少しだけ時間をください。その後でしたら、私を殺してくださっても構いません』
『わかった。そうだな。駿河の学校に行くまで時間をやる。それまでに、決定的な証拠を見つけろ』
『ありがとうございます。代表に伝えます』
正義のフリールポライターの浅見の排除に時間が必要になった事実や、素性を調べるのに晴海が考えているよりも時間が必要だった。これらの事実から、晴海は能見や礼登が別口で”何か”を調べているのだろうと考えた。
そして、違和感の正体が”綺麗すぎるイベント”だとしたら、能見たちが調べているのは、夕花の母親の実家または、本人の素性だろう。
晴海は、礼登との通信を切ってトイレをすませて、夕花が待っているフードコートに急いだ。
夕花はすぐに見つけられた。
「夕花」
「晴海さん。注文しました。それから」
「持ってくるようにしてくれた?」
「はい。よろしかったのですか?」
「うん。そのつもりだったからね。あ・・・。ごめん。夕花に伝えておけばよかったね」
「いえ、晴海さんならそうなさると思っていました」
「うん。座席で待っていよう」
「はい」
10分後に料理が運ばれてきた。
晴海はチップを多めに払った。片付けも一緒に頼んだ。運んできたウェイターは臨時収入の多さにびっくりしながら喜んで引き受けていた。
食事を終えて、晴海と夕花は隣接しているショップエリアを見て回っている。
一世紀前からショップの品揃えは大きく変わっていない。晴海は、このショップを見て回るのが好きなのだ。買うのではなく見て回るだけだ。
「晴海さん。牛乳を買ってもよろしいでしょうか?」
「ん?いいけど?」
「ありがとうございます。車内にコーヒーがありましたが、ミルクがなかったので、牛乳で代用しようと思いました。駄目ですか?」
「そうだね。しばらくは、走り続けるから、コーヒーがあると嬉しいよ」
「わかりました。あと、何か簡単に食べられる物を買っていきますか?レンジもありましたので、温めるだけになってしまいますが・・・」
「そうだね。夕花に任せるよ」
「わかりました」
夕花が、カゴを持って商品を見ながら買い物を始めた。
嬉しそうにしているのを、横で晴海は見ているだけだ。カゴを持つと言ったのだが、夕花が渡してくれなかったのだ。カゴを持つのを含めて買い物の楽しみなのだと晴海を説得したのだ。
買い物を終えて、トレーラーに戻ると、トラクターの交換が終了していた。狭山パーキングエリアまでトレーラーを運んできたトラクターにも新しいトレーラーが接続されて、中央高速から名古屋州国まで移動するのだ。尾行がいなかったら、晴海と夕花を降ろした礼登が運転を行う予定だったが、尾行がいたために、伊豆まで礼登がついていく。当初の計画通り、足柄サービスエリアで晴海と夕花はトレーラーを使った移動から、車での移動に切り替わる。
『礼登。準備は出来たぞ?予定はどうなっている?』
『はい。問題がなければ、出発します。次は、海老名サービスエリアに停まる予定です。海老名で長めに休憩します』
『わかった。頼む』
それから、2分後にトレーラーが動き出した。
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