7 / 56
第三章 秘密
閑話 夕花
しおりを挟む私の名前は・・・。あんな奴の名字なんて名乗りたくもない。
考えただけで・・・気分が・・・。悪くなる。
父は、愚者だった。
お金が欲しいくせにに汚い癖に他人に悪く言われるのがイヤで他人には文句を言わない。母にだけは強く出られる小心者だった。
働き者ではなく、小心者と怠け者で自分で考えることができない愚者だった。
父は、知人から持ちかけられた共同経営の話に乗った。
最初は会社がうまく回ってかなりの売上が出ていた。歯車が狂いだした。最初は些細なミスだったのかも知れない。父は、他人から責められる事に我慢できなかった。小心者と怠け者。父と知人の会社は、坂道を転がるように業績が悪化した。
知人は、父に全部をかぶせて会社からだけじゃなく社会からも脱げた。
業績が悪化した会社には借金だけが残った。
借金は、会社を整理する事で殆ど返済する事ができた。足りなかった分は母が貯えから出した。
父は、酒と薬に逃げた。
母と私に暴力を振るう頻度が増えた。
兄は、父以上に愚か者だった。
兄は、父の会社に勤めたが、経営者の息子だと言って、特別待遇を求めていた。
父は兄を叱る事なくポストを与えた。会社には重要ではないが、給与だけは高いポストだ。
兄は、会社の金で遊び歩いた。
反社会的な組織にも繋がりを持った。兄は、父の知人と一緒に会社の資金の一部と重要な情報を持ち出して逃げた。
その後、兄がどうなったのかわからない。
定期的に、父に薬が送られてくる。非合法な薬だ。兄が送ってきているのだろう。
どうでも良くなった。
父が、酒を買いに出かけて、道端で死んだ状態で見つかった。
悲しみなんて湧いてこなかった。
葬儀に兄は姿を見せなかった。葬儀で悲しみのあまり、母の心が死んだ。
それから4日後に母が殺された。
この時には、母も”死んでいない”だけの状態だった。心が死んでしまっていた。身体も死んでしまっただけの事で、哀しいという思いは有ったが、それ以上でもそれ以下でもなかった。
弁護士を名乗る者がやってきた。父の会社の整理を行ってくれた人だ。
母は、私名義の財産を残してくれていた。微々たるものだが、兄に渡る事なく、父と母の遺産は私が引き継ぐことになった。
私は、裏組織の男たちに拉致された。
どうでもよかった。殺すのなら殺してくれと思っていた。犯すのなら好きにすればいい。
「おい」
「はい」
「お前の兄貴から連絡はあるのか?」
「ありません」
「本当か?」
「嘘だと思っているのなら、勝手に調べてください」
男たちは、私から情報端末を取り上げた。
通常は認証しないと内容の確認ができないが、私は認証を解除した。
2時間くらい放置されてから、男たちは戻ってきた。
「本当のようだな。父は最低な人間で、お前の兄貴は裏切り者だ」
父は組織の人間を使って、知人を追い落とそうとして返り討ちに有ったと言うのが、この男たちの話だ。
別にどうでもいい話だが、男たちは饒舌に話してくれた。
話はよくわからなかった。
わかったのは、父が愚か者で、兄がそれ以上に愚か者だという事だ。
兄は、私を売ろうとした。反対した母を殺した。母は、心が死んでいなかった。死んだフリをしていたのだ。なぜ?私を守るため?よくわからない。母は、私を守ってくれていたのだろうか?
兄は、金が欲しかっただけのようだ。
父は、金が欲しかった。簡単な方法を兄が吹き込んだ。
知人を騙して、会社を独り占めする。
知人にその情報を売ったのは兄だ。兄は、父を追い落とそうとした。しかし、その前に会社が傾いた。兄と知人は、重要な情報を盗んで組織に保護を求めた。組織は、父を薬漬けにした。そして、父を殺した。
兄は、その後で組織に私を売ろうとした。
反対した母に薬を盛った。でも、組織は私を買わなかった。非合法な方法で買っても売る事ができないからだ。
組織は、裏社会に根を張っているが、合法的な組織としての顔を持っている。そのために、見かけ上は法律を守っているのだ。
兄は、逆上して母を殺した。
母を殺した事で、組織にも居られなくなった。当然だ。殺人行為を行うような者を組織として庇えるわけではない。
兄は、組織の裏仕事を行う部隊に所属していた。
そして組織が裏で動かしている部隊だ。いつ切っても惜しくない面子が、組織の情報収集能力を使って、非合法な事を行う部隊だ。母を殺した事で、この部隊にも居られなくなった。
兄は、愚かにも組織を裏切った。
組織の裏仕事の資料を持ち出して逃げた。
自分の安全をはかろうとしたのだろう。それがどれほど愚かな事なのか考えもしなかったのだろう。
組織は、私に全部の事情を話した。
「お前には、奴隷になってもらう」
「奴隷?」
「そうだ。奴隷法に則って、お前は自ら奴隷となる申請をしろ。そして、組織の人間が落札する。そうしたら、お前を売ることができるからな」
「・・・。私を殺さないの?」
「殺してどうする?お前の兄貴からの連絡が来るかも知れないのにか?」
「え?」
「大丈夫だ。お前は、兄貴を釣る為の餌だ。お前の兄貴さえ捕まえたら、お前はどこかの金持ちの爺にでも売ればいいからな」
「え?」
「わかったな。次の奴隷市場でお前を組織が落札する」
なんでそんな面倒な事をするのかと思ったら、国の調査が入るからだと教えられた。
奴隷は自ら申告することで、正規の手続きとなる。奴隷市場で入札が行われて、落札された場合に落札金の一部が身内に与えられる。
組織は、自分たちで兄を探すのを諦めた。この国は狭いようで案外広いのだ。国が管理している情報にアクセス出来ないと、人を探すのが面倒なのだ。落札された金が兄に渡される。
私の身内は残念な事に兄しか残っていない。
一時金を得た兄がする事は決まっている。薬を求めるに違いない。それも、非合法な薬だ。組織は、それで兄を手繰り寄せるつもりのようだ。それまで、私は組織で丁重に管理されるようだ。
組織が私を殺してしまうと、兄に更にまとまった金が移動する事になる。
少ないとはいえ、父と母の遺産を私が持っているからだ。
兄は、組織を壊滅に追い込むだけの爆弾を持っているのだろう。それで身の安全を確保しようとして、余計に危険な状態になっている。
そんな事はどうでもいい。
愚か者の父と兄に私の人生は狂わされた。死にたい。死にたい。死にたい。
母は殺された・・・。兄に・・・。だから、母のいる所に行こうとしたら、私は自殺してはダメだ。誰かに殺されなければならない。
私は、男たちに言われるがまま奴隷になる事を承諾した。
男たちは私を殺してくれない。兄が母にしたように、私を殺してくれない。父にしたように、私を殺してくれない。
母が待っている。心が壊れてしまった母を1人にしておけない。
最後まで、私を守ってくれた母。今度は、私が母を守りに行く。そのためにも、私は殺されなければならない。
今日開かれる奴隷市場。私は、18番と呼ばれた。
名前は、私が買った者が付けると教えられた。でも、私は”あの”男たちの誰かが買うのだろう。そして同じ名前で呼ぶだろう。
父と同じ名字なんていらない。愚か者な兄と同じ名字なんて名乗りたくない。
母が付けた名前さえあればいい。
母が私につけてくれた名前”優花”誰にでも優しく接して花のようになりなさいと付けてくれた。
男たちは殺してはくれない。私を父と兄と同じ名字で呼ぶ。名前で呼んでくれない。私を殺して欲しい。
入札に来た男も同じだ。3人が入札した。どうせ自分たちが落札する事になるから、最低額の3本でいいかと言っている。
彼が現れるまで私は300万で買われる女となっていた。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
【R18】もう一度セックスに溺れて
ちゅー
恋愛
--------------------------------------
「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」
過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。
--------------------------------------
結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました
ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら……
という、とんでもないお話を書きました。
ぜひ読んでください。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる