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張り切って食べますよ 5

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 お腹いっぱいであとは眠るだけな、おちびさん達。

 ハリエットは、家族一人一人におやすみなさいのキスとハグをして回り、使用人の皆さんにはバイバイと手を振りヨタヨタとドアに向かう。
 マシューはあっという間に夜の神様に包まれたのか、いつの間にか祖父の膝の上で眠っている。
 ハリエットが挨拶を終えたら、部屋に連れて行くのだろう。
 もう少し、もうちょっとだけ孫を満喫したい、そんなおじいちゃんのかわいい我儘ではないと思いたい。

 フラフラなお姫様が退出したあと、エリザベートはアイザックに学校に慣れた頃に、改めて「異世界の前世持ち」だった曾祖母のローザリリエットの話をする事を伝え、お友達の作り方のコツを伝授する。
 祖母と母は似たような方法を伝授してくれたが、如何せん女の子向けの方法であり、それをアイザックがするのは、どうしようもなくぼっちで切羽詰まったらという事に、自身の中で折り合いをつけた。

 祖父は残念なことにコブシで語り合う派で、父は片っ端から声をかける派。出来ればどちらも遠慮したい。執事達はまとめていたらしく、アイザックの好きな本を学校に持ち込んで、興味を引いた子が居たら頑張って声をかける、と言ったとても現実的で具体的な物だった。
 ちなみに侍女達は「可愛い子がいたら、そっちが優先だ」と、祖母と母を巻き込んで白熱し始めたので寝室に逃げることにした。

 今日は一日長くて、そしてあっという間だった。

 妹の詳しい話は聞けなかったが、自分の時のように悩まずに済んでよかった。
 正直、あの妹ならばそんなに悩まなかったのでは?とは思うが、大泣きした事を思い出し、穏やかに納得して貰えた事に満足することにした。
 これからは時間を作って、妹や両親のケアと、祖父母の言っていた詳しい話をキチンとしていこう。友達はそのうち出来るだろう、まずは明日お気に入りの本を持って学園に行くため準備しなければ。侍女のメイジーは戻って来てないが、たまには一人の時間も悪くない。

 久しぶりの、のんびりした時間が戻ってきた。笑顔で本を選び始めるアイザック。そのうちメイジーが戻って来て、本選びから脱線し読み込んでいるのを見られ早く寝る様にどやされてしまうが、それも日常の出来事。

 サロンでは盛り上がる女性陣を避け、アルバートが孫をベッドに寝かせに執事のアンソニーを連れて出る。
 
 サイモンは執事のサミュエルとブリジットの執事ブルーノを誘い、執務室で一杯やる事にした。
 そのうちアルバートもこちらに来るだろう。なにせ彼付きの一番年長の執事のアンソニーは、恐ろしいほど鼻が利く。こっそりと行動なんてほとんど出来ない。子供達が迷子になった時は、匂いをたどって見つけ出した事もある。酒を飲むたび、いつの間にかするりと姿を見せる。おとぎ話の獣人かと思うほどだ。

 サミュエルとブルーノは仕事内容は重なってしまう事が多いが、子供達に夢中になりがちな自分たちの代わりに、何かと息の合った連携で対応してくれている。
 そのうちアイザックにも見習いを付けさせる予定だ。その時も二人を頼りにするであろう自分にほんのりと苦笑し、とっておきから三番目の酒を開ける。
 いつの間にかつまみを持ってきたブルーノ、後から来るであろう二人の分のグラスも磨き始めているサミュエル、なんとなく座る気にならず立ったまま三人で飲み始める。
 主従ではあるが、気の合う友人としての気分が強い三人は、見た目より心配性で信心深く、仲の良い司祭と張り合って度々ひどい筋肉痛になる、脳筋気味な先代領主をのんびり待つ。
 
 色々あったが、まぁこれからもあるだろうが、義父アルバートが持っているという謎の加護で何とかなるだろう。実際何とかなってきた。もちろん努力は欠かせないが、決定的な痛手は今の所は無い。マシューあたりが、義父の謎の加護を受け継ぎそうな気はするが、なるようになると目の前の二人の友人の話を聞く事に集中した。


 食堂からの戻りの途中で、眠気に負けて転びかけたハリエットは、結局、メアリーに抱っこされ部屋に戻ってきた。
 やっとのことで、寝る前の支度が終わり、ほとんどメアリーに持ち上げられている状態でベッドに入る。ハリエットは眠る前にこれだけは聞かないとと、勇気を出してメアリーに話しかける。

「めありー」
「はい?なんですか、ハリエット様」

 やれやれと肩を軽く回すメアリーは、小さな声をきちんと聞き取れる様にと、ベッドに横たわるハリエットの隣に腰掛け、耳をそばだてる。

「めありーは、わたしのこと、きらいに、なった?めありー、あしたも、おこして、くれる?」

 もごもごと眠くてうまく話せない状態のハリエットが、一生懸命閉じかける目を開けてメアリーを見上げる。

「わたしめ、ありーが、すき。めあ、りー、すき。きらわ、ないで、おね、が、い。めあ、りー」

 声を出したところで、もはや目も開けられず、眠っているのではないかと思うほどのたどたどしさで、眠らないために話を続ける、メアリーの小さなぷくぷくお姫様。

「大好きですよ。ハリエットお嬢様。大好きですよ。私の可愛いお嬢様」

 そっと、ハリエットの柔らかくてくるくるとした紫色の髪を撫でつけながら、両手で包むように撫で続ける。

「お休みなさいませ、大好きなハリエットお嬢様。メアリーは、明日もハリエット様を起こして、朝ごはんの準備を致しますよ。」

 あっという間に眠りの神に包まれてしまった、幼子の柔らかな髪に頬ずりした後、頭の上にそっと口づけ、ゆっくりと手を離した。

 明かりを消し、そっとドアを閉める。いつもの、これからも続く日々に満足して。
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