もふもふの国の聖女様

護茶丸夫

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顔合わせと加護 8

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 のんびりと会話を続けてたら、いつの間にかジェニファーが両手にいくつかタオルを手にして立っていた。
 今日は私付きじゃなかったのに、すまないねぇ。

「さぁ、これでスッキリしましょう!(ブラシも持ってきておいて良かった~)」
「眉と口紅だけ差しますね。(聖獣様方、ちょっとやり過ぎだと思うわ)」

 ソフィアも一緒になり、濡れタオルと乾いたタオルで交互に丁寧に拭いて仕上げてもらった。
 すっかりなくなっていただろうお化粧も直して貰って、満足ですよ。
 その侍女のお仕着せの中には、いくつポケットがあるんですかね?

「聖獣様方、凄く楽しそうでしたね……。(『スノウィワールド』様が盾になって下さらなかったら、私はどうなっていたんだろう……。)」

 ベロニカは、服についた葉っぱを取るのに気を取られて会話に入っていけない。
 周囲が心配そうに見守る中、マーガレットは小さく身震いをしてぎゅっと身を縮こませた。

『ベロニカが喜んで奇声を上げるから、面白がったのじゃ。隣にいたマーガレットは、巻き添えにならなくて良かったのぉ。』

 葉っぱの妖精もどきの後ろに座っていたハイジが、その時を思い出したのかパッチリ開いていた目を再び細め、尻尾の先だけをぴょこぴょこと動かす。
 思い出しただけでも面白かった様子。

「はい、あの時『スノウィワールド』様が横に来て下さらなかったら、ちょっと怖い思いをしていたかもしれません(ううん、きっと泣いてたわ……。)」
『いや、ひっくり返らない様に壁代わりになろうかと、思ったのだ。……そうだな、急に横に来たら驚くだろうな。マーガレット、すまなかったな。』
「いいえ、いいえ! 見ず知らずの人間を助ける判断をされた、『スノウィワールド』様は素晴らしいです! それに、少し驚きはしましたがとても心強かったです。(あんな風に全身で守って貰えるなんて、初めて……嬉しい。でも、私なんかが……。)」

 しょぼくれる姿に、デカい白イノシシが鼻先をそろりと押し付けた。
 その大きな瞳を見上げほんのりと赤らみながらも、はかなげに微笑むマーガレット。

 とっさに私の横に来て、近寄る聖獣達を止めてくれたあの時の声は一生忘れない。
 小さい時に絵本で読んだ、物語の騎士様のようだった。
 姿は確かに大きくて怖かったけど、私を守ってくれる心はもっと大きかった。
 そう思うと、もう大きいのは怖くない。
 怖がってごめんなさい。助けてくれて、本当にありがとう。

 思考が駄々洩れなのをすっかり忘れている独白で、少しだけ立ち直った様子がわかり、ほっとした空気が流れる。

「マーガレット様は自分に厳しい。(これだけ可愛くて素直なのに、なんで自己評価低いんだろう? 私だったら、もっとウハウハ言わせるのに。)」
「ルーナ。(ウハウハちやうで、ブイブイや)そうよ、マーガレット様はもっと自信もって?(私の可愛い精霊さん。)」

 ルーナの言い間違いを、すぐさま突っ込むベロニカ。
 服に付いた葉っぱを外す事に集中していたが、ひと段落付いたのか諦めたのか。
 やっと空気を読めたようで、一緒になって励まそうとしはじめた。

「せ、精霊って。///」
『むっ。マーガレットは我の聖女だ。精霊ではない。』

 恥ずかしさで混乱している所に、少しだけ鼻息が強くなった白イノシシ。
 カップが飛ばない様に、侍女たちがそれぞれに配置をずらしていく。

「あらあら。精霊の様に可憐だと、褒めていらっしゃるんですよ。(独占欲が出てしまっていますよ。)」
「そうですよ、マーガレット様の可憐さを例えるならば、人型妖精や精霊と言っても間違いではないですね。(でも、もっと食事はとるべきです。)」
「マーガレット様、ゆっくり自信をつければ宜しいのです。(きっと原因が何かあるのでしょう、慌てずにいきましょう。)」
「マーガレット様はそのままでいい。」

 収まらない鼻息で、葉っぱや花びらが周囲に舞う。
 一番先に動き始めたのは、ソフィアとジェニファー。
 慣れているのか、話しながらてきぱきとテーブルの上の茶器類を移動させる。
 マーガレットのカップにお代わりを入れつつ取り替えたトリーは、『スノウィワールド』の顎の下をポンポンと柔らかく叩く。
 ルーナは飲み物のワゴンを動かしながらも、視線は動かさない。
 胸の事ばかりだと、そろそろ叱られると思う。

 ベロニカは再び飛んできた葉っぱに、色々諦めた。
 うん。ルーナの目の向いている場所については、考えないでおこう。
 違和感さんが仕事をしてしまう。
 さて、服がこのままで移動するのは不本意だけど、聖女様方の集まってる所に移動しますか!

「落ち着いたら先輩方に挨拶に行きましょうか。(あと一杯だけ、飲んでいいかな?)」
「は、はい! そうですね! お待たせしては申し訳ないです。」

 どうやら独占欲に自覚が無い『スノウィワールド』をハイジがからかっている。
 その様子を、微笑ましく観察しながら新しいお茶をゆっくりと飲む。
 ふと、疑問が浮かぶ。

 移動する時、スノウィワールド様が動いたら地響き凄そう。
 あれ? でも、さっきは何もなかったような?

 その疑問にソフィアが種明かしをする。

「聖獣様は大きいですが、重さは魔法で消してらっしゃいます。必要があれば大きさも変えて下さいます。」
「ふわっ! すごいね聖獣様の魔法!(ウルトラマンかな?)」
「主に食事の時に小さくなられる方が多いですね。おいしい物がすぐに無くなるのが惜しいからと、仰って。(うると?)」
「大きさが変わる魔法、使いたい。(身長はともかく、胸を大きくしたい! お願いしても、聖獣様はかけてくれない……。)」
「お、おう。」
「ルーナ、聖女様方に先触れお願いね。」

 にっこりと怖い笑顔のソフィアさん。
 一瞬だけ口を尖らせかけたルーナが、その笑顔を見て返事もそこそこに速足で立ち去った。
 ……これは、いま、何も考えてはいけない。
 今見たものは、なんてことはない現象だ。
 顔を見てるだけなんだ、そうこれはただ笑顔を浮かべてる人の。

 無だ、無になるんだ。

「あの、ベロニカ様、別の何かを見れば良いのでは?」
(この子、天才か!)

『本当にベロニカは面白いねぇ。』
『皆の食事が終われば、また集まるだろうな。』

 聖獣達を観察していたつもりが、観察されている事には気が付かなかった。
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