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真面目な眼鏡A
胸ポケットから片眼鏡
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門番詰所から出て、馬車に乗り込む。
ありがたいことに隊長さんが馬車を呼んでくれた。
馬車の御者に大雑把眼鏡Dの実家、アブチュース伯爵家のタウンハウスに寄るように頼む。
伯爵家の門番に名乗り、大雑把眼鏡Dからの手紙を渡すと、とても丁寧にお礼を言われる。
格上の家の門番に丁寧に扱われ、こそばゆい気持ちになりながら家へと急ぐ。
「ただいまー。みんないるかな?」
「お帰りなさいませ、今日はずいぶんとお早いお帰りですね。ご当主とお嬢様方はお揃いです。」
執事のアルフレッドが、慌てて玄関へ迎えに来る。
軽く息切れしてる、どこから走ったの。
年のせいじゃないよね。
表情で考えた事がバレたのか、片眉あげて冷静にこちらを見てきた。
「うん、ちょっと急ぎの話があるんだけど、皆を集めてくれるかな。」
「皆様に急ぎのお話ですね。居間で宜しいでしょうか?」
「うん。隊長と料理長と侍女はハリエットさん代表で、アルフレッドも一緒が良いな。」
「おや、わたくし共もですか、大事ですね。」
「うん。結構ね。」
アルフレッドは胸ポケットから片眼鏡を取り出して、そっと装着したあと鞄を持ってくれた。
部屋に戻りながら、家族を集める様に頼む。
館で働く他のみんなにも話したいけど、それは兄さんからにしてもらおう。
「次男様はまだお戻りになられていませんが、お呼びになりますか?」
「いいや。ただ次男兄さんが戻り次第、一緒に話し合いはお願いしたいかな。」
「かしこまりました。では後ほど。失礼いたします。」
ドアを開け、従僕に鞄を渡すとあっという間に姿を消す。
あれはまた、後で息切れするヤツだね。
着替えを手伝って貰いながら、装飾の無いシャツとパンツを選ぶ。
いつも僕に派手な服を着せたがる従僕が、不満そうにしているのを知らない顔で流し居間へと急ぐ。
「お兄さま! お帰りなさい!」
ドアを開けて飛びついて来たのは、八歳の異母兄弟のエミリーだ。
三年前にウチに引き取られてくるまで、ずいぶんと肩身の狭い暮らしをしていたエミリー。
同じ顔をした兄弟を見たとたん、あっという間にみんなに懐いた。
うん、全てくそ親父が悪い。
「ただいま、エミリー。今日の予定に割り込んじゃってごめんね。」
「本当よ、予定にダンスの練習があったら、怒ってたところだわ。」
可愛らしく口をとがらせながら、これまた異母兄弟のアネッサが声をかけてきた。
居間には若くして当主の席を親父から取り上げた、長男と長男の嫁も一緒にいた。
「みんな、ただいま。ごめんよ急に呼び出して。聞いてほしい事が出来たんだ。」
「どうした、また兄弟が見つかったのか?」
「まぁ! さっそく用意しないといけないわね。」
兄夫婦はすっかり慣れてしまった緊急事態に、すぐさま反応する。
慌てて、否定しておく。
「いや、今回はね、兄弟じゃないんだ。」
エミリーを抱っこしたまま、グイっとメガネをなおしてアネッサの隣へと座る。
すぐさま侍女が茶を用意してくれる。
お礼を伝え、熱いお茶を飲みながら、アルフレッド達を少しだけ待つ。
「三男様、お待たせしました。皆揃いました。」
ノックの後に、ぞろぞろと呼び出した四人が入ってくる。
椅子を持ってきてもらい、凄い眉をしかめているハリエットさんにも無理に座って貰う。
せっかくの鼻眼鏡がずれちゃってる。
長年、家でカヴァネスも兼ねて働いてくれてるハリエットさんは、王都での母親代わりだ。
誰も彼女に頭は上がらない。
「さん」付けしても怒られるけど、言わずにはいられないっ。
「今日ね、謁見の間で王族のバカ芝居があってね。」
「不敬すぎるぞ。」
すぐさま長男兄の突っ込みが入る。
うん、でも本心じゃないのは知ってる。
この家で心から、今の王族を敬ってる人間はいない。
お亡くなりになった、先王陛下と先王妃殿下だけが、僕たちにとって敬うべき王族だった。
あ、ずっと外交で忙しい王弟殿下も入るか。
「まぁ、聞いてよ。そこでね、聖女様が、地位はく奪と婚約破棄と国外追放を言い渡された。」
一気に話始める。
もう話したいことがありすぎて、ドンドン口に出さないと溢れちゃうね。
案の定、ポカーンとした顔でみんながこっちを見てる。
はははっ。アルフレッドとハリエットさんの、貴重な表情見ちゃったよ。
エミリーには難しい言葉だったかな?
「「「「は?」」」」
「?」
だが、気にしないで話し続けるぞっと。
「しかもそのあと叩かれて蹴られて、ボロボロになったのを引きずられながら、近衛に城外に連れて行かれた。」
「それでね、僕ね、聖女様を国外にお送りして、今後は安全に暮らしていただきたいんだ。」
「すまない弟よ、詳しく話してもらえないか? ちょっと、いやかなり、意味がわからない。」
慌てて止めに入る長男兄、まずは話させてほしいなー。
「坊ちゃま、また話を略しすぎてます。」
「三男様、悪い癖が出てますよ。慌てず順序だてて、きちんとお話しくださいませ。」
あ、怖い二人からの注意が来た。
仕方ないから、初めっから話すかぁ。
膝の上のエミリーは横向きに座り直して、顔を見上げてくる。
偉いなー。ちゃんと大人しくお話聞けるいい子だなー。
お菓子モグモグさせちゃうぞ。
ありがたいことに隊長さんが馬車を呼んでくれた。
馬車の御者に大雑把眼鏡Dの実家、アブチュース伯爵家のタウンハウスに寄るように頼む。
伯爵家の門番に名乗り、大雑把眼鏡Dからの手紙を渡すと、とても丁寧にお礼を言われる。
格上の家の門番に丁寧に扱われ、こそばゆい気持ちになりながら家へと急ぐ。
「ただいまー。みんないるかな?」
「お帰りなさいませ、今日はずいぶんとお早いお帰りですね。ご当主とお嬢様方はお揃いです。」
執事のアルフレッドが、慌てて玄関へ迎えに来る。
軽く息切れしてる、どこから走ったの。
年のせいじゃないよね。
表情で考えた事がバレたのか、片眉あげて冷静にこちらを見てきた。
「うん、ちょっと急ぎの話があるんだけど、皆を集めてくれるかな。」
「皆様に急ぎのお話ですね。居間で宜しいでしょうか?」
「うん。隊長と料理長と侍女はハリエットさん代表で、アルフレッドも一緒が良いな。」
「おや、わたくし共もですか、大事ですね。」
「うん。結構ね。」
アルフレッドは胸ポケットから片眼鏡を取り出して、そっと装着したあと鞄を持ってくれた。
部屋に戻りながら、家族を集める様に頼む。
館で働く他のみんなにも話したいけど、それは兄さんからにしてもらおう。
「次男様はまだお戻りになられていませんが、お呼びになりますか?」
「いいや。ただ次男兄さんが戻り次第、一緒に話し合いはお願いしたいかな。」
「かしこまりました。では後ほど。失礼いたします。」
ドアを開け、従僕に鞄を渡すとあっという間に姿を消す。
あれはまた、後で息切れするヤツだね。
着替えを手伝って貰いながら、装飾の無いシャツとパンツを選ぶ。
いつも僕に派手な服を着せたがる従僕が、不満そうにしているのを知らない顔で流し居間へと急ぐ。
「お兄さま! お帰りなさい!」
ドアを開けて飛びついて来たのは、八歳の異母兄弟のエミリーだ。
三年前にウチに引き取られてくるまで、ずいぶんと肩身の狭い暮らしをしていたエミリー。
同じ顔をした兄弟を見たとたん、あっという間にみんなに懐いた。
うん、全てくそ親父が悪い。
「ただいま、エミリー。今日の予定に割り込んじゃってごめんね。」
「本当よ、予定にダンスの練習があったら、怒ってたところだわ。」
可愛らしく口をとがらせながら、これまた異母兄弟のアネッサが声をかけてきた。
居間には若くして当主の席を親父から取り上げた、長男と長男の嫁も一緒にいた。
「みんな、ただいま。ごめんよ急に呼び出して。聞いてほしい事が出来たんだ。」
「どうした、また兄弟が見つかったのか?」
「まぁ! さっそく用意しないといけないわね。」
兄夫婦はすっかり慣れてしまった緊急事態に、すぐさま反応する。
慌てて、否定しておく。
「いや、今回はね、兄弟じゃないんだ。」
エミリーを抱っこしたまま、グイっとメガネをなおしてアネッサの隣へと座る。
すぐさま侍女が茶を用意してくれる。
お礼を伝え、熱いお茶を飲みながら、アルフレッド達を少しだけ待つ。
「三男様、お待たせしました。皆揃いました。」
ノックの後に、ぞろぞろと呼び出した四人が入ってくる。
椅子を持ってきてもらい、凄い眉をしかめているハリエットさんにも無理に座って貰う。
せっかくの鼻眼鏡がずれちゃってる。
長年、家でカヴァネスも兼ねて働いてくれてるハリエットさんは、王都での母親代わりだ。
誰も彼女に頭は上がらない。
「さん」付けしても怒られるけど、言わずにはいられないっ。
「今日ね、謁見の間で王族のバカ芝居があってね。」
「不敬すぎるぞ。」
すぐさま長男兄の突っ込みが入る。
うん、でも本心じゃないのは知ってる。
この家で心から、今の王族を敬ってる人間はいない。
お亡くなりになった、先王陛下と先王妃殿下だけが、僕たちにとって敬うべき王族だった。
あ、ずっと外交で忙しい王弟殿下も入るか。
「まぁ、聞いてよ。そこでね、聖女様が、地位はく奪と婚約破棄と国外追放を言い渡された。」
一気に話始める。
もう話したいことがありすぎて、ドンドン口に出さないと溢れちゃうね。
案の定、ポカーンとした顔でみんながこっちを見てる。
はははっ。アルフレッドとハリエットさんの、貴重な表情見ちゃったよ。
エミリーには難しい言葉だったかな?
「「「「は?」」」」
「?」
だが、気にしないで話し続けるぞっと。
「しかもそのあと叩かれて蹴られて、ボロボロになったのを引きずられながら、近衛に城外に連れて行かれた。」
「それでね、僕ね、聖女様を国外にお送りして、今後は安全に暮らしていただきたいんだ。」
「すまない弟よ、詳しく話してもらえないか? ちょっと、いやかなり、意味がわからない。」
慌てて止めに入る長男兄、まずは話させてほしいなー。
「坊ちゃま、また話を略しすぎてます。」
「三男様、悪い癖が出てますよ。慌てず順序だてて、きちんとお話しくださいませ。」
あ、怖い二人からの注意が来た。
仕方ないから、初めっから話すかぁ。
膝の上のエミリーは横向きに座り直して、顔を見上げてくる。
偉いなー。ちゃんと大人しくお話聞けるいい子だなー。
お菓子モグモグさせちゃうぞ。
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