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第一章 悪魔を喰らうもの
episode5 デモンズイーター②
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──堕天の書
--------------------------
カテゴリーα ダゴン。
ヴェラ・シヴィル大陸全土に分布。
鱗状の硬質な外皮を纏い、強靭な爪を主な武器とする。
--------------------------
(……いた)
頭と足首を掴んで強引に戦士の体を引きちぎるダゴンを視界に捉えたデモンズイーターは、さらにスピードを加速させると、醜悪な顔目掛けて飛び蹴りを放つ。
「先制攻撃……だ」
完全な不意打ちに成功し、ダゴンは後方に吹き飛んでいく。後ろの家屋が派手な音を立てて崩れ落ちるのを横目に、ポカンと口を開ける戦士たちに向かってデモンズイーターは言った。
「あなたたちは邪魔」
「え? い、いやでも……」
「死にたくなかったらどっかに行っ……て。早く行っ……て。しっし」
デモンズイーターがハエを追い払うように手を振ると、戦士たちは互いに見合わせ、次に頷き合うと、最後は我先へと逃げ出していく。
(邪魔者はいなくなった。これで思う存分殺れ……る)
崩れた家屋に目を向けながら、デモンズイーターは鞘から仄かに青白い光を帯びる退魔の剣を引き抜いた。
「早く起き上がってきなよ。これくらいの攻撃で死なないのは知ってるか……ら」
デモンズイーターが声をかけるのとほぼ同時に、瓦礫を派手に吹き飛ばしたダゴンが、青い血を流しながらこちらを凝視している。
間を置かずに聞こえてくるカラカラカラという鳴き声が警戒音であることは既に承知済み。
「リアムが待っているから早くし……て」
ダゴンは爪を大地に突き立て体を深く沈めていく。対してデモンズイーターは退魔の剣を構えることはせず、地面に向けてだらりと下げた。
ゴウと風が吹き、砂煙と共に立ち込める血臭を遥か彼方へと連れ去っていく。
地面に密着するほど身を沈めたダゴンが、デモンズイーターに向かって突進を開始した。
デモンズイーターとダゴンの間を妨げるものは一切なく、瞬く間に距離を詰めたダゴンは咆哮を上げながらデモンズイーターに飛びかかる。
上半身を切り裂くように薙ぎ払われる一撃を、しかし、デモンズイーターの瞳はしっかりと捉えていた。体を右に流すことで巨大な爪を回避しつつ、伸び切った右腕の付け根に向けて退魔の剣を一閃する。
「ギィィィィャャアアア!」
ダゴンが不快な悲鳴を轟かせる中、デモンズイーターは左足を軸にして舞うように体を半回転、隙だらけの背中に向けて右上段の足刀蹴りを放った。
(うーん。少し蹴りが浅かっ……た)
前のめりになりながらも膝をつくことを拒否したダゴンではあるが、デモンズイーターを見る表情は驚きと恐怖が入り混じったものへと変化していた。
デモンズイーターは陸の上の魚のように跳ねているダゴンの右腕に退魔の剣を突き刺し、ことさらに掲げて見せた。
「この剣はとってもとってもよく切れ……る」
退魔の剣に突き刺したばかりの右腕を早々に打ち捨てて、デモンズイーターはダゴンに向けてゆっくりと歩む。
片やダゴンはデモンズイーターから逃げるように後ずさる。それは時間にして十秒ほどか。
「ギィガ」
耳まで裂けたダゴンの口が不意に醜悪な曲線を描いた。それと同時に突き出された左腕から三本の爪が波打つように伸ばされ、デモンズイーターに向けて猛然と襲い掛かってくる。
デモンズイーターは迫りくる爪を悠然と眺めながら、
「ビックリさせたかったみたいだけどその攻撃も知ってる。残念だった……ね」
デモンズイーターから放たれた縦の一閃は、ダゴンの爪を弾き地面に深くに食い込また。
直後、膝を大きく曲げて空へと疾駆したデモンズイーターは、剣を持つ左腕に力を集中させながら投擲の構えに移行。
地面から必死に爪を抜こうともがくダゴンに向けて勢いよく剣を投げ放った。
剣は豪速でダゴンの頭蓋を穿ち、デモンズイーターは軽やかに地面に着地する。
ダゴンの巨体は地響きを立てながら大地に沈んだ。
「殲滅、完了。あとは……」
腰裏のホルダーから退魔の剣と同じ素材で作られたナイフを取り出したデモンズイーターは、ダゴンの左脇腹を丁寧に切り割いていく。
割いた箇所に手を突っ込み慎重に中をまさぐっていると、程なくして指先に固いものが触れたのを感じた。
「あったあった」
デモンズイーターは慎重に目当てのものを摘まんでそっと腕を引き抜く。小指の爪ほどの球体を手拭いで丁寧に拭き、太陽に向けてかざしてみる。
光に照らされた球体は、琥珀色の光を放っていた。
「不純物が少ない綺麗な霊核。これは当たりだ。きっとリアムもよろこ……ぶ」
懐から取り出した回収小瓶に霊核を落としたデモンズイーターは、足取りも軽く惨劇の場を後にした。
デモンズイーターの名はアリア・レイズナー
滅びの道を歩んでいたラ・ピエスタは、悪魔を喰らうデモンズイーターの活躍によって辛くも危機を脱したのであった。
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カテゴリーα ダゴン。
ヴェラ・シヴィル大陸全土に分布。
鱗状の硬質な外皮を纏い、強靭な爪を主な武器とする。
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(……いた)
頭と足首を掴んで強引に戦士の体を引きちぎるダゴンを視界に捉えたデモンズイーターは、さらにスピードを加速させると、醜悪な顔目掛けて飛び蹴りを放つ。
「先制攻撃……だ」
完全な不意打ちに成功し、ダゴンは後方に吹き飛んでいく。後ろの家屋が派手な音を立てて崩れ落ちるのを横目に、ポカンと口を開ける戦士たちに向かってデモンズイーターは言った。
「あなたたちは邪魔」
「え? い、いやでも……」
「死にたくなかったらどっかに行っ……て。早く行っ……て。しっし」
デモンズイーターがハエを追い払うように手を振ると、戦士たちは互いに見合わせ、次に頷き合うと、最後は我先へと逃げ出していく。
(邪魔者はいなくなった。これで思う存分殺れ……る)
崩れた家屋に目を向けながら、デモンズイーターは鞘から仄かに青白い光を帯びる退魔の剣を引き抜いた。
「早く起き上がってきなよ。これくらいの攻撃で死なないのは知ってるか……ら」
デモンズイーターが声をかけるのとほぼ同時に、瓦礫を派手に吹き飛ばしたダゴンが、青い血を流しながらこちらを凝視している。
間を置かずに聞こえてくるカラカラカラという鳴き声が警戒音であることは既に承知済み。
「リアムが待っているから早くし……て」
ダゴンは爪を大地に突き立て体を深く沈めていく。対してデモンズイーターは退魔の剣を構えることはせず、地面に向けてだらりと下げた。
ゴウと風が吹き、砂煙と共に立ち込める血臭を遥か彼方へと連れ去っていく。
地面に密着するほど身を沈めたダゴンが、デモンズイーターに向かって突進を開始した。
デモンズイーターとダゴンの間を妨げるものは一切なく、瞬く間に距離を詰めたダゴンは咆哮を上げながらデモンズイーターに飛びかかる。
上半身を切り裂くように薙ぎ払われる一撃を、しかし、デモンズイーターの瞳はしっかりと捉えていた。体を右に流すことで巨大な爪を回避しつつ、伸び切った右腕の付け根に向けて退魔の剣を一閃する。
「ギィィィィャャアアア!」
ダゴンが不快な悲鳴を轟かせる中、デモンズイーターは左足を軸にして舞うように体を半回転、隙だらけの背中に向けて右上段の足刀蹴りを放った。
(うーん。少し蹴りが浅かっ……た)
前のめりになりながらも膝をつくことを拒否したダゴンではあるが、デモンズイーターを見る表情は驚きと恐怖が入り混じったものへと変化していた。
デモンズイーターは陸の上の魚のように跳ねているダゴンの右腕に退魔の剣を突き刺し、ことさらに掲げて見せた。
「この剣はとってもとってもよく切れ……る」
退魔の剣に突き刺したばかりの右腕を早々に打ち捨てて、デモンズイーターはダゴンに向けてゆっくりと歩む。
片やダゴンはデモンズイーターから逃げるように後ずさる。それは時間にして十秒ほどか。
「ギィガ」
耳まで裂けたダゴンの口が不意に醜悪な曲線を描いた。それと同時に突き出された左腕から三本の爪が波打つように伸ばされ、デモンズイーターに向けて猛然と襲い掛かってくる。
デモンズイーターは迫りくる爪を悠然と眺めながら、
「ビックリさせたかったみたいだけどその攻撃も知ってる。残念だった……ね」
デモンズイーターから放たれた縦の一閃は、ダゴンの爪を弾き地面に深くに食い込また。
直後、膝を大きく曲げて空へと疾駆したデモンズイーターは、剣を持つ左腕に力を集中させながら投擲の構えに移行。
地面から必死に爪を抜こうともがくダゴンに向けて勢いよく剣を投げ放った。
剣は豪速でダゴンの頭蓋を穿ち、デモンズイーターは軽やかに地面に着地する。
ダゴンの巨体は地響きを立てながら大地に沈んだ。
「殲滅、完了。あとは……」
腰裏のホルダーから退魔の剣と同じ素材で作られたナイフを取り出したデモンズイーターは、ダゴンの左脇腹を丁寧に切り割いていく。
割いた箇所に手を突っ込み慎重に中をまさぐっていると、程なくして指先に固いものが触れたのを感じた。
「あったあった」
デモンズイーターは慎重に目当てのものを摘まんでそっと腕を引き抜く。小指の爪ほどの球体を手拭いで丁寧に拭き、太陽に向けてかざしてみる。
光に照らされた球体は、琥珀色の光を放っていた。
「不純物が少ない綺麗な霊核。これは当たりだ。きっとリアムもよろこ……ぶ」
懐から取り出した回収小瓶に霊核を落としたデモンズイーターは、足取りも軽く惨劇の場を後にした。
デモンズイーターの名はアリア・レイズナー
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