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理事長の長話(教育)

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「さっ!  何かな話って」

 生徒達と先生方が見学に行った後、神崎かんざきさんと平元ひらもと、そして理事長だけが残り、理事長は2人に話しかける。

 これだ、理事長といえば。
 軽い感じで話しかけてくるのに空気感は全然温かくないんだよ。むしろ怖い。

「まあ少し悲しい話になるんですが...」

 そう神崎さんは言い、遅刻した理由をありのまま話した。もちろんるなちゃんの事情も。

 神崎さんが話を進めていくに連れ、理事長の顔が曇っていった。

「ふぅー...おっけーです。ちょっと待ってね」
「了解です」


 理事長状況整理中・・・1分後


 状況の整理のついた様子の理事長がゆっくりと話し出す。

「とりあえず......反省はしてるんだな?」
「はい、もちろんっす」

「どうせ雪希子ゆきこくんにしっかり怒られたんだろ」
「...その通りっす」

「分かった、それじゃあ平元の処分を言い渡す。
 1週間の謹慎処分きんしんしょぶんだ」

「了解っす...」

 平元がそう言ったあと少しの沈黙が訪れた。


「...よしそれじゃあ平元も見学に──」

 神崎さんが見学に行くよう促そうとすると、理事長が遮って来た。

「ちょっと待て、平元。今から言うことを謹慎期間中考えてそれを反省文に書け」
「はい」

 そこから理事長先生は平元に向けて叱るように話した。

「今更どうこう言うつもりは無いし、起こってしまったことは仕方がない。ただ!  今のお前に価値を感じない」

「...はい」

 理事長の一言で冷たい空気が教室全体に流れる。

「私が言うのはアレだけど平元、お前は平凡だ」
「はい...」

雪希子ゆきこくんみたいにその場その場に合わせて最良の対応をする適応能力の高さも無ければ、静華しずかくんの様にコミュニケーション能力の高さや、場を明るくして患者さんの精神面を安心させる事も出来ない」
「はい」

「もちろんそれだけでは無いけどな」
「...もちろんっす」

「本音を言ってしまえばお前のような凡人山ほどいる。そして今凡人のお前は過ちを犯してしまった。じゃあどうする、諦めるか?」

「諦めません」
「そうだよな、夢に向かって歩かないといけないよな。じゃあ平元の夢はなんだ」

「医者っす」

「お前の夢はあと少しで手の届く所にあるんだ。そしてこの大学に通っている人達は人との交流や医療の基本は既に皆出来ている。じゃあどこで差をつけて少しでも良い所に就職するか...だ」
「はい」

「医者って職業は意外と重労働だ。毎日8時間~10時間労働に休日診療、管理的業務に責任とストレスも付いてくる。時には論文を書くこともある。だからせめて良い所で働きたいだろ?」

「そりゃあそうっすね」

「だろ?  だから少しでも差をつけて、俺はコイツよりこんなところが優れていて価値のある人間だぞー!  っていうのを面接官とかお偉いさんに見せるんだ」

「でも差をつけるってどうやるんすか?」

「なに、簡単だ。雪希子くんや静華くんみたいに完璧じゃなくていい。例えば少し口調を優しくしてみるとか、患者さんの容態が急変した時に少しでも冷静さを保って迅速に対応できるかとか、特殊な場合だとコードブルーが起こった時、手が空いていたら少しでも素早く集合するとか色々あるぞ」

「な、なるほどっす」

 話長って平元絶対思ってるよこれ。

 理事長の話いつも長いからねー、懐かしいなーこの感じ。



 ──コードブルーとは、病院内で心肺停止それに類する事例が発生したときに病院職員に対して全館放送で発する緊急コールのことです。
 手の空いている看護師や救急科医師などが現場へ集まります。
 コードは暗号、ブルーは青、青は医療現場では循環不良チアノーゼを意味します。──


「だから少しでも差をつけて価値を感じさせるために何をするか、これからどのように努力していくかを謹慎中に反省文を書きなさい」
「了解っす」

「よし!  それじゃあ見学に行ってこい」
「はい!」

 返事をした平元は直ぐに教室から出ていった。

「理事長ー、話長くないですか?」
「そんなに長かったか?」
「はい、それとこの病院にいる看護師はあんまり生徒の事知らないので心のケアは理事長に任せますよ」

「...じゃあ生徒達について少し話を──」
「いいです見回り行ってきます」

 神崎さんは理事長の言葉を遮りそそくさと見回りに行ってしまった。

「......いいじゃないか少しぐらい」

 こうして問題は解決し、神崎さんと静華さんに
学校の先生方、そして理事長先生は見回りへ行き、生徒達は静かに見学。

そして奏汰とるなちゃんは病室で本を一緒に読みながら感想を言い合い、11時になるのを楽しみに待っていた。
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