上 下
19 / 19

記憶喪失の魔王

しおりを挟む
「崖の下で倒れてたんです」

僧院に男が運ばれてきた。

「やや!こいつは…」

僧侶たちの噂によると東の魔王らしい。
東の魔王はあくどい行いをしてきたことで有名だった。

「ここはどこだ…。俺は誰だ…」

「院長、記憶喪失のようです」
「ふむ、そうか」

僧侶たちはまだ修行の身のため、唯一記憶喪失を治せるのは僧侶の長、院長だけだった。


院長は治療魔法を使わず、何事もなかったかのように魔王に接した。

「俺は誰なんだ…?何をしていた…?」
「さあ…私もあなたを見かけたことすらないのでなんとも」
「なぜ俺の頭には大きな角が付いてる…?」
「さあ…生まれつきじゃないですかね」



僧侶は院長室にいる院長に尋ねた。
「先生、あの人記憶喪失ですよね?治療魔法を施さなくて良いのですか?」

院長は後ろ手を組み、古びた眼鏡を反射させながら窓の外を眺めた。

「…ああいう悪い輩はね、記憶が戻ったところでなんの役にも立たないのだよ。悪党に戻さないのが世のため。人のためだ」
「それもそうですけど…」

僧侶と院長で話し込んでいるところに、別の僧侶が院長室に駆け込んできた。

「院長、大変です!西の魔王が手下を引き連れて我らの街に攻め込んできたようです!もう教会のすぐそこまで来ています!どうしましょう…!」
「なにっ!!」

院長は目にも止まらぬ速さで廊下を駆けて行き、部屋で寝ている魔王の肩を両手で揺さぶった。


「さあさあ、東の魔王さん!あなたは魔王なんですよ!起きてください!思い出してください!西の魔王がすぐそこまでやってきました!奴を倒せるのはあなたしかいません!さあ今こそ本来の自分を呼び覚ますのです!!」






ー完ー
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(3件)

スィグトーネ 18日にプロフ画像を変更

東洋西洋問わずに、こういう恋愛や片思いの話はよく聞きます。

貴族の「私」の最後の行動が、想像力を掻き立てられて好きです。

解除
スィグトーネ 18日にプロフ画像を変更

おもしろかったです。
こういうショートショートものは、新しい話を作るのがとても大変だと思いますが、ぜひ頑張ってください!

新都 蘭々
2023.06.13 新都 蘭々

初めて感想をいただけて飛び上がる程嬉しいです。モチベーションも自信もなかったのでとても励みになりました。読んでいただきありがとうございます!

解除
スィグトーネ 18日にプロフ画像を変更

最後の一言が強烈過ぎて好きです。

わざわざ救いに来た「俺」……どんな表情をしているのか、想像するとよりおもしろいです。

解除
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

【完結】魅惑の踊り子と一途な少年【全5話】

恋愛 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:5

俺の賢者モードが終わらない

キャラ文芸 / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

将棋で遊ぼう

キャラ文芸 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

私の街の商店街

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

非日常な日常を送る保護猫カフェ

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:2

寝落ち通話

現代文学 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:2

信じていたのに、またあなたに裏切られた

恋愛 / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:4

夏の夜の恐怖な物語 ~九割ほど実話な件~

ホラー / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:1

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。