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72,バロムボール
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シアは脳筋組がゴーレムとサイクロプスを殲滅させるのを見届けると小太郎に見張りをさせていた穴に脳筋組とイルマ、アルマを案内した。
「こんなところに穴が開いているなんて気が付きませんでしたね」
「ここなら世界樹からも近いし、魔物を集結させやすいわね」
「それにしても大きな穴だな……」
「うん。かなり大きいな」
「でも、隠し方は原始的だぜ」
「アラガン、何か見つけたのか?」
「ああ、これ見てみろよ。ただの大きな布切れだぜ」
「本当だな。これをかぶせて上から葉っぱでも被せていたのか……」
「おそらくな、それでさっきのちび兵衛は慌てて逃げたから隠せなかったわけだ」
「この先はどうなっているのかだな……」
「ちょっと見てくるね~」
そう言うと、小太郎がさっさと飛び込んで、すぐに帰ってきた。
「あのね、ダンジョンみたいだね~」
「ダンジョン?」
「入ったら、扉があって水晶があって、階段があったよ~」
「ここがダンジョンなら、龍が創ったわけだな」
「奴らに協力する龍が下にいるということになるな……」
「なら、話は簡単だな。このダンジョンも完全制覇して一番下にいる龍をシチューにしてやろう」
「ああ、ルーナ頼むぜ。あれは本気で美味かった」
「ではシチューの具を求めてダンジョン制覇と洒落こみますか」
そう言いながら、イルマとアルマを連れてシア達は穴の中に飛び込んだ。
狭い。
それがこのダンジョンを進んでから全員が感じたことであった。
確かに一階層は広かった。一階層の水晶に触れると外に出されてしまったので、敵は何らかの方法で一階層にゴーレムたちを集めたのだろうとは思った。だが、二階層以降は狭くなっていたのだ。通路は人が二人並べば壁に肩が当たるほど狭く、天井はノイマンがぎりぎり通れるくらいしかない。また通路も一本道になっていて短く、魔物も出なかった。
「どれくらい来たかな?」
「65階層だと思うよ」
「全く魔物が出ないな」
「ああ、ボス部屋も空だし」
「また階段だな……」
「飽きてきたな……」
そう言いながら、さらに進んだ。
「どれくらい来たかな?」
「俺の計算が間違えてなければ次が99階層だな……」
「そろそろ何かあるはずだと思うが……」
そう言いながら、99階層に降りると、途轍もなく広い空間一面に埋め尽くすかのように魔物がいたのだ。
そこから蹂躙劇が始まった。
全員が餓狼のように魔物に襲い掛かる。イルマとアルマをアラガンが大楯で庇うとルーナがさらに結界に入れて安全を確保した。後顧の憂いがなくなったノイマンがゴーレムに突進して右に左に拳を振るう。アーサーとエマはサイクロプスを瞬殺しながら蹂躙していく。シアは空中に集まっていた魔界コウモリを魔法で一掃していく。まるでダンジョンが巨大な掃除機になったかのような錯覚を覚えるほど凄まじい勢いで敵はダンジョンに吸収されていった。敵が残り数体になったところで、魔物の後方にちび兵衛がいるのを見つけたシアはその背後に転移すると迷わず首を刈り取った。権兵衛みたいに自爆されてはたまらないからである。
最後の一体を倒すと広い空間が一気に狭くなり、シア達の目の前に階段が現れた。一体どんな龍がいるのか、何龍のシチューなのかわくわくしながら降りると、体を禍々しい鎖でがんじがらめにされた一体の黒龍と卵を持った背の高い男が立っていた。その男はシア達を忌々しそうにみると舌打ちをしながら卵を叩きつけた。割れた卵から子龍が飛び出す。その子龍はいつ生まれてもおかしくないくらい体が出来上がっていた。その光景をみた黒龍は全身を縛り付ける鎖を引きちぎろうともがくが、鎖は黒龍の体を締め上げるだけで身動きひとつ許さなかった。
男は黒龍を嘲笑うかのように余裕の表情で語りだした。
「人質ならぬ卵質だったが無駄になったな。もうお前の役目は終わりだ。そこの人間でも食って憂さ晴らししておけ。人間諸君、私はバロムという。一度魔の国に帰ってからまた来ることにする。ではさらばだ」
そこまで言うと男は帰還の水晶に触れる。
「何故だ、何故転移しない」
男は慌てて何度も帰還の水晶を触るが全く転移する様子がなかった。シアが黒龍を見ると涙を流しながら卵から出た我が子を眺めていた。
「龍がダンジョンを作るなら、帰還させないことも出来るよな……」
「ああ、バロムだったな。あいつは糞だ」
「糞バロムだな……」
「臭ってきそうですね」
「既に臭いですよ」
「汚物は……処分する」
そう言うと、アーサーが大剣ライオネスを振りかざしてバロムに斬りかかった。バロムは咄嗟に腰に差していた直剣を抜きアーサーの剣を受ける。だが、アーサーの振るうライオネスはバロムの剣を断ち切るとそのまま一気にバロムを両断した。
イルマとアルマが倒したと思い、前に出ようとしたのをアラガンが押しとどめる。
「やっぱりな……」
「ああ、何度でも倒してやるよ」
「二体になったか……」
「悪鬼たちと同じかな?」
「実験しないとな……」
復活した一体のバロムをノイマンが振りかぶって投げつける。アラガンがドライブシールドで弾き返すと、小太郎がジャンプしてスパイクを打つ。そのバロンをシャイターンでエマが打ち返すと、ノイマンが回し蹴りでバロムを吹き飛ばす。中腰で構えたアラガンの左前に駆け込んできたエマがまたしても打ち返すと、小太郎が強肩を見せつけるようにバロムを投げつける。彼らがバロムボールをしている横で、アーサーとシアは実験をしようとしていた。
「液状化するのは一緒だな」
「水に溶けるのも一緒だな」
「蒸発すれば消えるのも一緒だな」
「……実験しなくても良かったな」
「……同感だ」
ルーナは卵から出た子龍のそばに駆け寄っていた。そして、プルートからもらった黒い指輪に魔力を流す。まだ生まれていない子龍に魂が宿っているのかわからない。だが、ルーナには目の前にいる子龍が、エアパスの子供コスモスと被ってしょうがなかった。ルーナが何とか助けたいと魔力を流し続けると、子龍が少し跳ねるように動いた。慌ててルーナは回復魔法を全力で子龍にかける。すると子龍は動き出してルーナに頬擦りを始めたのだ。
早々に実験を終了したシアが神威で黒龍を縛り付ける鎖を斬り捨て、黒龍に魔力を分け与える。するとドロドロの肉団子になったバロムをアーサーが見事な投球フォームで黒龍に投げつけた。黒龍は大きく口を開けると肉団子をブレスで消滅させる。
戦いが終わった後に黒龍も交えてハイタッチを交わす教え子たちをイルマはアルマと共に遠い目をしながら眺めていたのであった。
「こんなところに穴が開いているなんて気が付きませんでしたね」
「ここなら世界樹からも近いし、魔物を集結させやすいわね」
「それにしても大きな穴だな……」
「うん。かなり大きいな」
「でも、隠し方は原始的だぜ」
「アラガン、何か見つけたのか?」
「ああ、これ見てみろよ。ただの大きな布切れだぜ」
「本当だな。これをかぶせて上から葉っぱでも被せていたのか……」
「おそらくな、それでさっきのちび兵衛は慌てて逃げたから隠せなかったわけだ」
「この先はどうなっているのかだな……」
「ちょっと見てくるね~」
そう言うと、小太郎がさっさと飛び込んで、すぐに帰ってきた。
「あのね、ダンジョンみたいだね~」
「ダンジョン?」
「入ったら、扉があって水晶があって、階段があったよ~」
「ここがダンジョンなら、龍が創ったわけだな」
「奴らに協力する龍が下にいるということになるな……」
「なら、話は簡単だな。このダンジョンも完全制覇して一番下にいる龍をシチューにしてやろう」
「ああ、ルーナ頼むぜ。あれは本気で美味かった」
「ではシチューの具を求めてダンジョン制覇と洒落こみますか」
そう言いながら、イルマとアルマを連れてシア達は穴の中に飛び込んだ。
狭い。
それがこのダンジョンを進んでから全員が感じたことであった。
確かに一階層は広かった。一階層の水晶に触れると外に出されてしまったので、敵は何らかの方法で一階層にゴーレムたちを集めたのだろうとは思った。だが、二階層以降は狭くなっていたのだ。通路は人が二人並べば壁に肩が当たるほど狭く、天井はノイマンがぎりぎり通れるくらいしかない。また通路も一本道になっていて短く、魔物も出なかった。
「どれくらい来たかな?」
「65階層だと思うよ」
「全く魔物が出ないな」
「ああ、ボス部屋も空だし」
「また階段だな……」
「飽きてきたな……」
そう言いながら、さらに進んだ。
「どれくらい来たかな?」
「俺の計算が間違えてなければ次が99階層だな……」
「そろそろ何かあるはずだと思うが……」
そう言いながら、99階層に降りると、途轍もなく広い空間一面に埋め尽くすかのように魔物がいたのだ。
そこから蹂躙劇が始まった。
全員が餓狼のように魔物に襲い掛かる。イルマとアルマをアラガンが大楯で庇うとルーナがさらに結界に入れて安全を確保した。後顧の憂いがなくなったノイマンがゴーレムに突進して右に左に拳を振るう。アーサーとエマはサイクロプスを瞬殺しながら蹂躙していく。シアは空中に集まっていた魔界コウモリを魔法で一掃していく。まるでダンジョンが巨大な掃除機になったかのような錯覚を覚えるほど凄まじい勢いで敵はダンジョンに吸収されていった。敵が残り数体になったところで、魔物の後方にちび兵衛がいるのを見つけたシアはその背後に転移すると迷わず首を刈り取った。権兵衛みたいに自爆されてはたまらないからである。
最後の一体を倒すと広い空間が一気に狭くなり、シア達の目の前に階段が現れた。一体どんな龍がいるのか、何龍のシチューなのかわくわくしながら降りると、体を禍々しい鎖でがんじがらめにされた一体の黒龍と卵を持った背の高い男が立っていた。その男はシア達を忌々しそうにみると舌打ちをしながら卵を叩きつけた。割れた卵から子龍が飛び出す。その子龍はいつ生まれてもおかしくないくらい体が出来上がっていた。その光景をみた黒龍は全身を縛り付ける鎖を引きちぎろうともがくが、鎖は黒龍の体を締め上げるだけで身動きひとつ許さなかった。
男は黒龍を嘲笑うかのように余裕の表情で語りだした。
「人質ならぬ卵質だったが無駄になったな。もうお前の役目は終わりだ。そこの人間でも食って憂さ晴らししておけ。人間諸君、私はバロムという。一度魔の国に帰ってからまた来ることにする。ではさらばだ」
そこまで言うと男は帰還の水晶に触れる。
「何故だ、何故転移しない」
男は慌てて何度も帰還の水晶を触るが全く転移する様子がなかった。シアが黒龍を見ると涙を流しながら卵から出た我が子を眺めていた。
「龍がダンジョンを作るなら、帰還させないことも出来るよな……」
「ああ、バロムだったな。あいつは糞だ」
「糞バロムだな……」
「臭ってきそうですね」
「既に臭いですよ」
「汚物は……処分する」
そう言うと、アーサーが大剣ライオネスを振りかざしてバロムに斬りかかった。バロムは咄嗟に腰に差していた直剣を抜きアーサーの剣を受ける。だが、アーサーの振るうライオネスはバロムの剣を断ち切るとそのまま一気にバロムを両断した。
イルマとアルマが倒したと思い、前に出ようとしたのをアラガンが押しとどめる。
「やっぱりな……」
「ああ、何度でも倒してやるよ」
「二体になったか……」
「悪鬼たちと同じかな?」
「実験しないとな……」
復活した一体のバロムをノイマンが振りかぶって投げつける。アラガンがドライブシールドで弾き返すと、小太郎がジャンプしてスパイクを打つ。そのバロンをシャイターンでエマが打ち返すと、ノイマンが回し蹴りでバロムを吹き飛ばす。中腰で構えたアラガンの左前に駆け込んできたエマがまたしても打ち返すと、小太郎が強肩を見せつけるようにバロムを投げつける。彼らがバロムボールをしている横で、アーサーとシアは実験をしようとしていた。
「液状化するのは一緒だな」
「水に溶けるのも一緒だな」
「蒸発すれば消えるのも一緒だな」
「……実験しなくても良かったな」
「……同感だ」
ルーナは卵から出た子龍のそばに駆け寄っていた。そして、プルートからもらった黒い指輪に魔力を流す。まだ生まれていない子龍に魂が宿っているのかわからない。だが、ルーナには目の前にいる子龍が、エアパスの子供コスモスと被ってしょうがなかった。ルーナが何とか助けたいと魔力を流し続けると、子龍が少し跳ねるように動いた。慌ててルーナは回復魔法を全力で子龍にかける。すると子龍は動き出してルーナに頬擦りを始めたのだ。
早々に実験を終了したシアが神威で黒龍を縛り付ける鎖を斬り捨て、黒龍に魔力を分け与える。するとドロドロの肉団子になったバロムをアーサーが見事な投球フォームで黒龍に投げつけた。黒龍は大きく口を開けると肉団子をブレスで消滅させる。
戦いが終わった後に黒龍も交えてハイタッチを交わす教え子たちをイルマはアルマと共に遠い目をしながら眺めていたのであった。
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