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49,基礎
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49、基礎
アラガンはかなり悩んでいた。アーサーの大剣、エマの槍、アラガンの大楯、その全てに銘が入っていなかったのである。
「何か名前を付けたいなあ……」
「本人たちに名前つけてもらえばいいんじゃないかな」
「そうだね。全く休みなしだったから名前まで考える余裕がなかったんだよ」
「学園は休みなのに、鍛冶で休めなかったのか。ちょっとはゆっくりしろよ」
「せっかくアラガンが作ってくれたんだ。自分たちで名前つけるよ」
「すまないな。頼むよ」
学園が始まってまだ初日だというのにアラガンは疲れ切っていたのだった。
疲れ切っているアラガンを見て、シア達は何かしてやれないかなと思った。その話を聞いていたイルマは旅行も兼ねて南部の街メタリンにいくことを勧めてきた。
「でも、イルマ先生、学園始まったばかりですよ?」
「そうですよ。すぐに遊びになんかいけません」
「遊びではなかったらいいのよ」
「遊びではない?」
「そう、特にノイマン君と、エマさん、アーサー君に意味があると思う」
「ノイマンと、エマとアーサーに?」
「クレインと一緒にいってらっしゃい。行けばわかるわよ」
そうイルマに言われたシア達はクレインと日程を調整し、同じ馬車で南部の街メタリンに行くことになった。
「そういえばクレインさん、ノイマンとエマ、アーサーに意味があるってイルマ先生が言っていましたがどういうことでしょうか?」
「それは本人の俺たちが一番知りたいです」
「なるほど、あのお婆何も言ってないのか。そうだな……ノイマン、エマ、アーサー以外は温泉につかって、美味いものを食って、海で泳げばいいと思うぜ」
「俺たちだけ何があるの?」
「ヒントをやろうか。今から行くメタリンは俺の生まれ故郷だ」
「……わかりません」
「フライブルク王国一の秀才がわからんか。まぁ行けばわかるよ」
南部の街メタリンに入った瞬間、凄まじいまでの熱量を感じた。
「でかいな……」
「ああ、平均身長どれくらいだろう?」
「ここはオーガの街なのか?」
「このオーガの街で俺達は何をするのだろうか……」
「この街は俺の甥っ子が宿屋をやっていてな、そこに泊まるぞ」
クレインの甥っ子もかなり身長が高かった。そして、不思議だったのはあちらこちらから聞こえてくる規則正しい掛け声であった。
「おお、夕方の稽古だ。見に行ってみるか」
クレインに誘われて、砂浜に出ると大男たちが武道着を着て中腰になり正拳突きを繰り出していた。
クレインの姿を見つけた中年男性が駆け寄ってきた。
「押忍、クレイン名誉館長。本日はどうなされたのでしょうか?」
「おお、リーか。丁度いい。今度俺の直弟子になったノイマンだ」
「……直弟子。……俺はいつからクレインさんの直弟子に?」
「おお、ノイマン君。随分と見どころがあるようだ。一緒に型の練習からやってみよう」
「型の練習?」
「ああ、我々はクレイン名誉館長を総師範と仰ぐ極限空手を修練しているのだ。さぁ始めよう」
そう言うと、リーさんはノイマンを連れていってしまった。
「ひょっとしてノイマンがやることって……」
「おう、ここで極限空手を学んでもらおうと思ってな」
「……極限空手ですか」
「ノイマンの戦闘スタイルは徒手空拳だと聞いた。それは俺と一緒だ。だがこの間王宮でやらせたら酷かったんだよ」
「ノイマンがですか?」
「ああ、魔力でかさ上げした身体能力と持ち前の反射神経だけに頼っている。あれではすぐに伸びなくなるからな」
「それで修業をさせようということですね」
「そうだ。突きひとつ、蹴りひとつ、間合いの取り方、呼吸の仕方。すべてに意味がある。素人が身体能力だけに頼るよりも、達人が身体能力を上げた方が遥かに強くなる。だからそのうち修行させようと思っていたんだよ」
「なあ、あのノイマン見てよ……」
「なるほど。確かにノイマンは酷いね」
「酷いな……」
「カッコ悪いよね」
「……基礎はやはり大事ということですね」
「そうだ。この中で武器の基礎練習を達人から教わったのはシアだけだろう。このメタリンは武道が盛んな街だ。剣聖もいれば、神槍と言われる奴もいる。アーサーとエマも明日紹介してやるよ」
「わかりました。明日から頑張ります」
「じゃあ、ノイマンはリーに任せてメシ食おうぜ」
哀れなノイマンはこの日、極限空手の師範リーに
「考えるな、感じろ、月を蹴りぬけ」
と、夕食抜きで一晩中蹴りの型を教えられていたらしい。
次の日は朝から剣聖ボクデの運営するカシマ流剣術の道場にやってきた。クレインがアーサーをボクデに紹介する。だがシアを見たボクデは、
「失礼ですが、カール様のご身内ですかな?」
「はい。息子になります」
「カール様は私の師匠になります……ご壮健でしょうか?」
「いえ、亡くなりました……」
「そうですか……残念です。ただ剣術の奥義は息子さんに引き継がれたようですね」
「……どうしてそれを?」
「見ればわかります。シア殿は私などより余程上の実力をお持ちです。ただ、教えるのには不向きかもしれませんな」
「教えるのには不向きですか?」
「おそらくシア殿は天才だと思われます。ですが、凡人には天才を教えることができますが、天才に教えられた凡人は基礎が台無しになることが多いのですよ。アーサー王子はまずは剣術の基礎から仕込ませて頂きます」
こうしてアーサーは剣聖ボクデの道場に弟子入りし、基礎からみっちりと叩き込まれたのであった。
次に向かったのは天槍流槍術総師範で神槍と呼ばれるディーンのところであった。道場に入るといくつもの似顔絵が書いてあり、その一つがエマの兄ブルースであった。
「あれはブルースお兄ちゃんだ」
「ほほう。その赤い髪の女の子はブルースの妹さんか?」
「はい、ブルース・ランドリーの妹のエマ・ランドリーです」
「ほほう。兄妹で槍に適正があるのか。エマ君は槍の基礎は習得しておるかな?」
「学園で少しかじった程度です」
「ほほう。正直でよろしい。今日から早速稽古してみるかな?」
「はい。お願いします」
「ほほう。なかなか礼儀正しい女の子だ。さぞかしモテるだろうな」
「いえ、私は舞台と結婚しております」
「ほほう。舞台と結婚とはどういう意味ですかな?」
「劇作家として歴史を語る使命があるのです。そのためには神槍ディーン様のお力添えが必要なのです」
「ほほう。わかった。感心じゃ。よろしく頼む」
アーサーとエマも無事に師匠を見つけて基礎訓練を始めたのであった。
アラガンはかなり悩んでいた。アーサーの大剣、エマの槍、アラガンの大楯、その全てに銘が入っていなかったのである。
「何か名前を付けたいなあ……」
「本人たちに名前つけてもらえばいいんじゃないかな」
「そうだね。全く休みなしだったから名前まで考える余裕がなかったんだよ」
「学園は休みなのに、鍛冶で休めなかったのか。ちょっとはゆっくりしろよ」
「せっかくアラガンが作ってくれたんだ。自分たちで名前つけるよ」
「すまないな。頼むよ」
学園が始まってまだ初日だというのにアラガンは疲れ切っていたのだった。
疲れ切っているアラガンを見て、シア達は何かしてやれないかなと思った。その話を聞いていたイルマは旅行も兼ねて南部の街メタリンにいくことを勧めてきた。
「でも、イルマ先生、学園始まったばかりですよ?」
「そうですよ。すぐに遊びになんかいけません」
「遊びではなかったらいいのよ」
「遊びではない?」
「そう、特にノイマン君と、エマさん、アーサー君に意味があると思う」
「ノイマンと、エマとアーサーに?」
「クレインと一緒にいってらっしゃい。行けばわかるわよ」
そうイルマに言われたシア達はクレインと日程を調整し、同じ馬車で南部の街メタリンに行くことになった。
「そういえばクレインさん、ノイマンとエマ、アーサーに意味があるってイルマ先生が言っていましたがどういうことでしょうか?」
「それは本人の俺たちが一番知りたいです」
「なるほど、あのお婆何も言ってないのか。そうだな……ノイマン、エマ、アーサー以外は温泉につかって、美味いものを食って、海で泳げばいいと思うぜ」
「俺たちだけ何があるの?」
「ヒントをやろうか。今から行くメタリンは俺の生まれ故郷だ」
「……わかりません」
「フライブルク王国一の秀才がわからんか。まぁ行けばわかるよ」
南部の街メタリンに入った瞬間、凄まじいまでの熱量を感じた。
「でかいな……」
「ああ、平均身長どれくらいだろう?」
「ここはオーガの街なのか?」
「このオーガの街で俺達は何をするのだろうか……」
「この街は俺の甥っ子が宿屋をやっていてな、そこに泊まるぞ」
クレインの甥っ子もかなり身長が高かった。そして、不思議だったのはあちらこちらから聞こえてくる規則正しい掛け声であった。
「おお、夕方の稽古だ。見に行ってみるか」
クレインに誘われて、砂浜に出ると大男たちが武道着を着て中腰になり正拳突きを繰り出していた。
クレインの姿を見つけた中年男性が駆け寄ってきた。
「押忍、クレイン名誉館長。本日はどうなされたのでしょうか?」
「おお、リーか。丁度いい。今度俺の直弟子になったノイマンだ」
「……直弟子。……俺はいつからクレインさんの直弟子に?」
「おお、ノイマン君。随分と見どころがあるようだ。一緒に型の練習からやってみよう」
「型の練習?」
「ああ、我々はクレイン名誉館長を総師範と仰ぐ極限空手を修練しているのだ。さぁ始めよう」
そう言うと、リーさんはノイマンを連れていってしまった。
「ひょっとしてノイマンがやることって……」
「おう、ここで極限空手を学んでもらおうと思ってな」
「……極限空手ですか」
「ノイマンの戦闘スタイルは徒手空拳だと聞いた。それは俺と一緒だ。だがこの間王宮でやらせたら酷かったんだよ」
「ノイマンがですか?」
「ああ、魔力でかさ上げした身体能力と持ち前の反射神経だけに頼っている。あれではすぐに伸びなくなるからな」
「それで修業をさせようということですね」
「そうだ。突きひとつ、蹴りひとつ、間合いの取り方、呼吸の仕方。すべてに意味がある。素人が身体能力だけに頼るよりも、達人が身体能力を上げた方が遥かに強くなる。だからそのうち修行させようと思っていたんだよ」
「なあ、あのノイマン見てよ……」
「なるほど。確かにノイマンは酷いね」
「酷いな……」
「カッコ悪いよね」
「……基礎はやはり大事ということですね」
「そうだ。この中で武器の基礎練習を達人から教わったのはシアだけだろう。このメタリンは武道が盛んな街だ。剣聖もいれば、神槍と言われる奴もいる。アーサーとエマも明日紹介してやるよ」
「わかりました。明日から頑張ります」
「じゃあ、ノイマンはリーに任せてメシ食おうぜ」
哀れなノイマンはこの日、極限空手の師範リーに
「考えるな、感じろ、月を蹴りぬけ」
と、夕食抜きで一晩中蹴りの型を教えられていたらしい。
次の日は朝から剣聖ボクデの運営するカシマ流剣術の道場にやってきた。クレインがアーサーをボクデに紹介する。だがシアを見たボクデは、
「失礼ですが、カール様のご身内ですかな?」
「はい。息子になります」
「カール様は私の師匠になります……ご壮健でしょうか?」
「いえ、亡くなりました……」
「そうですか……残念です。ただ剣術の奥義は息子さんに引き継がれたようですね」
「……どうしてそれを?」
「見ればわかります。シア殿は私などより余程上の実力をお持ちです。ただ、教えるのには不向きかもしれませんな」
「教えるのには不向きですか?」
「おそらくシア殿は天才だと思われます。ですが、凡人には天才を教えることができますが、天才に教えられた凡人は基礎が台無しになることが多いのですよ。アーサー王子はまずは剣術の基礎から仕込ませて頂きます」
こうしてアーサーは剣聖ボクデの道場に弟子入りし、基礎からみっちりと叩き込まれたのであった。
次に向かったのは天槍流槍術総師範で神槍と呼ばれるディーンのところであった。道場に入るといくつもの似顔絵が書いてあり、その一つがエマの兄ブルースであった。
「あれはブルースお兄ちゃんだ」
「ほほう。その赤い髪の女の子はブルースの妹さんか?」
「はい、ブルース・ランドリーの妹のエマ・ランドリーです」
「ほほう。兄妹で槍に適正があるのか。エマ君は槍の基礎は習得しておるかな?」
「学園で少しかじった程度です」
「ほほう。正直でよろしい。今日から早速稽古してみるかな?」
「はい。お願いします」
「ほほう。なかなか礼儀正しい女の子だ。さぞかしモテるだろうな」
「いえ、私は舞台と結婚しております」
「ほほう。舞台と結婚とはどういう意味ですかな?」
「劇作家として歴史を語る使命があるのです。そのためには神槍ディーン様のお力添えが必要なのです」
「ほほう。わかった。感心じゃ。よろしく頼む」
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