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28,魔力病
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顔面に迫る大槍の穂先をシアは柏手を打つように両手で挟む。その状態でブルースはシアごと穂先を持ち上げて投げ飛ばした。シアが宙で態勢を整えた瞬間、大槍の穂先がぶれて二つに分裂しシアを襲う。シアが軽く躱して、着地しようと重心を左足に乗せた瞬間、その左足を狙うように器用に大槍を回して下から石突が払いにくる。シアは右足で石突を蹴ると少し飛び躱した。するとさらに、大槍の穂先が三つに分裂してシアの顔面を襲う。穂先を手ではたいて躱すと、その勢いを利用してまたしても石突がシアを襲う。次の瞬間、ブルースのもつ大槍の穂先が五つに分裂しシアを串刺しにしようとする。だが、その全てにシアは掌底を当てて受け止め、大槍の穂先を握り込む。
「お返しですよ」
そう言うと、シアは穂先を空中に跳ね上げ、ブルースを宙へ投げ飛ばした。
投げ飛ばされたブルースは大柄な体に似合わない軽やかな身のこなしでくるっと宙返りをして着地すると、高笑いをしながらシアに大きな手を差し出した。
「…さすがだなシア。俺はエマの兄のブルースだ。S級冒険者をしている」
「シアです。ブルースさんもS級冒険者なのですね。よろしくお願いします」
「おう。よろしくな」
ブルースはそう言うと、シアの友人たち一同を見て、
「今のを見ただろう。いくら魔法が得意でもそれだけじゃダメだ。基礎体力をしっかりとつけないとダメだな。みっちりと仕込んでやるよ」
友人たちはぶるぶると震えはじめた……だが、ブルースが
「返事はっ!」
「イエッサー」
「声が揃ってないっっ!」
「「「「イエッサーっ!」」」」
「よし、では庭を50周……と、言いたいところだが、折角の再会だ。今日はここまでにしよう。シアとルーナも中でゆっくり休んでくれ」
そのブルースの掛け声で全員がバーデン男爵の屋敷に入ったのであった。
バーデン男爵の屋敷の中は無骨な外観に似合わず可愛らしいものであった。花柄のカーテンに、可愛く描かれたひよこのクッション。同じく、くまさんの絵柄のテーブルクロス。パステルカラーで彩られた壁紙、屋敷の外と中では全く違う世界が広がっていたのだ。
「いい趣味だろ。うちの妻の趣味なのだ」
「バーデン男爵の奥様……エマのお母さんですよね」
「おう。ちょっと病弱でな……。ん。下りてきたな」
そこには、フリル付きのパジャマ姿で使用人に手を引かれて階段を降りてくる小柄な女性の姿があった。すかさずルーナが駆け寄り回復魔法をかける。すると、
「ルーナちゃん、いつもありがとうね」
「いいえおば様。これくらいしかできませんから」
「あなたがシア君ね。ルーナは私にとっても娘みたいなものなの。幸せにしてあげてね」
「はい。かなり魔力が多いみたいですね。体調不良はそれが原因ですか?」
「……私の魔力が多い?」
「……シアよ。俺にはよくわからんがそうなのか? 妻は生まれつき病弱でいつもこんな感じなのだ。ルーナやセイン、ヨハネスが来たら回復魔法をかけてくれて少し元気になるのだが……」
「エマたちはお母さんの魔力を見なかったの?」
「……ブルース兄さんが、顔を見るなり特訓だって言って、私も今久しぶりにお母さんにあったのよ」
「他のみんなもそうなの?」
「うん。一日中訓練して、飯食って寝るだけだった……」
シアがブルースを見ると、ばつが悪そうに、
「いや、強くなりたいっていうから、ちょっとな……やり過ぎたかもな……」
と俯いた。
「えーと、エマのお母さん……」
「エリナよ、シア君」
「では、エリナさん。少しずつ魔力を抜いていきます」
そう言うと、シアはエリナの背に手を当ててゆっくりと魔力を抜いていった。すると、
「噓でしょ、凄い、全く体がだるくない。軽いのよ体が……」
エリナは一気に血色が良くなり回復してしまったのだ。
「お、お母さんが元気になった」
「母ちゃん……」
「エリナ……良かったな」
そう言うと、バーデン男爵一家は互いに抱き合い喜びを爆発させたのであった。
少し落ち着いてから、バーデン男爵はシアに礼を言うと、
「ところで、シア、魔力が多いと体調が悪くなるのか?」
そう質問した。
「魔力の通り道のような場所が体にあるのですが、それが狭いのだと思います。それで出口のない魔力が澱んでいるように見えました」
「でも、私は魔法なんて使えないの。生まれつきこうだったから親が心配して勉強ばかりしていたのよ」
「今なら小さな魔法を出せるはずですよ。手を前に出してください」
そう言いながらシアが差し出されたエリナの手を支える。
「光った……」
「この感覚分かりますか。体の中にある魔力が光になって出ている感覚です」
「ええ、分かります」
「少し体がだるいと思ったら。こうして魔法を使って魔力を出してください。それと、エマとルーナから魔力操作を習って一緒に訓練してください」
「エマとルーナに?」
「はい。夜寝る前にリラックスしてやってください。女性同士の方がリラックスできると思います」
「わかったわ。シア君、ありがとう。エマとルーナもよろしくね」
「エリナさんの魔力はハイエルフのイルマ先生と同じくらいあるのですよ。それがエマに遺伝したのかもしれない……」
そこで、シアは何かに気が付いたように、
「ちょうどいいかもしれないね。エマに魔力循環を教えるよ」
「私に魔力循環を?」
「ああ、俺が母さんとやっていたやつだよ。同じくらいの魔力量で魔力の質が近くないと上手くいかないんだ。でも、エリナさんとエマは親子で魔力の質も近いし、魔力量も同じくらいだからね、丁度いいんだよ」
「それをするとどうなるの、能力が向上するんだっけ?」
「まずはエリナさんの体に一気に魔力が流れるようになる。体の中で魔力が綺麗に流れるから魔力が原因の病気にはならない。それからエマとエリナさんは二人とも一気に魔力量が増えるんだ。おそらく今の五倍から十倍にはなるよ」
「……ハイエルフの五倍から十倍」
「そうだね。うまくいけばイルマ先生を越えるね」
イルマは現在世界で二人しかいないSSS級冒険者である。この間の強化合宿で魔力量が飛躍的に増加し、現在では小型の龍並みの魔力量があった。そのイルマを越えるということは、もはや人類の限界を超えることと同じである。その事実に気が付いたエマは、
「シア、早く教えなさい。教えてくれたら寸劇の上演を三日に一回に減らしてあげるから。早くしなさい」
と、興奮して食いついたのであった。だが、
「エマ、まずはエリナさんがしっかりと魔力操作ができないとダメだよ。そうだね……一か月くらいは魔力操作をやってからだね」
シアのその言葉にガックリとうなだれてしまった。さらに、
「さっきブルースさんが言っていたけど、魔法が得意でもそれだけじゃダメなんだ。魔法で身体強化もできるけど、基礎体力が無いのにそれをすると体が痛むからね。だからイルマ先生は、合宿では皆に身体強化は教えずに、魔力量の増加と魔力操作だけをやったんだよ、しっかりとブルースさんに鍛えてもらおうね」
その言葉に、エマだけではなく、アーサー、ノイマン、アラガンが絶望したのは言うまでもない。
「お返しですよ」
そう言うと、シアは穂先を空中に跳ね上げ、ブルースを宙へ投げ飛ばした。
投げ飛ばされたブルースは大柄な体に似合わない軽やかな身のこなしでくるっと宙返りをして着地すると、高笑いをしながらシアに大きな手を差し出した。
「…さすがだなシア。俺はエマの兄のブルースだ。S級冒険者をしている」
「シアです。ブルースさんもS級冒険者なのですね。よろしくお願いします」
「おう。よろしくな」
ブルースはそう言うと、シアの友人たち一同を見て、
「今のを見ただろう。いくら魔法が得意でもそれだけじゃダメだ。基礎体力をしっかりとつけないとダメだな。みっちりと仕込んでやるよ」
友人たちはぶるぶると震えはじめた……だが、ブルースが
「返事はっ!」
「イエッサー」
「声が揃ってないっっ!」
「「「「イエッサーっ!」」」」
「よし、では庭を50周……と、言いたいところだが、折角の再会だ。今日はここまでにしよう。シアとルーナも中でゆっくり休んでくれ」
そのブルースの掛け声で全員がバーデン男爵の屋敷に入ったのであった。
バーデン男爵の屋敷の中は無骨な外観に似合わず可愛らしいものであった。花柄のカーテンに、可愛く描かれたひよこのクッション。同じく、くまさんの絵柄のテーブルクロス。パステルカラーで彩られた壁紙、屋敷の外と中では全く違う世界が広がっていたのだ。
「いい趣味だろ。うちの妻の趣味なのだ」
「バーデン男爵の奥様……エマのお母さんですよね」
「おう。ちょっと病弱でな……。ん。下りてきたな」
そこには、フリル付きのパジャマ姿で使用人に手を引かれて階段を降りてくる小柄な女性の姿があった。すかさずルーナが駆け寄り回復魔法をかける。すると、
「ルーナちゃん、いつもありがとうね」
「いいえおば様。これくらいしかできませんから」
「あなたがシア君ね。ルーナは私にとっても娘みたいなものなの。幸せにしてあげてね」
「はい。かなり魔力が多いみたいですね。体調不良はそれが原因ですか?」
「……私の魔力が多い?」
「……シアよ。俺にはよくわからんがそうなのか? 妻は生まれつき病弱でいつもこんな感じなのだ。ルーナやセイン、ヨハネスが来たら回復魔法をかけてくれて少し元気になるのだが……」
「エマたちはお母さんの魔力を見なかったの?」
「……ブルース兄さんが、顔を見るなり特訓だって言って、私も今久しぶりにお母さんにあったのよ」
「他のみんなもそうなの?」
「うん。一日中訓練して、飯食って寝るだけだった……」
シアがブルースを見ると、ばつが悪そうに、
「いや、強くなりたいっていうから、ちょっとな……やり過ぎたかもな……」
と俯いた。
「えーと、エマのお母さん……」
「エリナよ、シア君」
「では、エリナさん。少しずつ魔力を抜いていきます」
そう言うと、シアはエリナの背に手を当ててゆっくりと魔力を抜いていった。すると、
「噓でしょ、凄い、全く体がだるくない。軽いのよ体が……」
エリナは一気に血色が良くなり回復してしまったのだ。
「お、お母さんが元気になった」
「母ちゃん……」
「エリナ……良かったな」
そう言うと、バーデン男爵一家は互いに抱き合い喜びを爆発させたのであった。
少し落ち着いてから、バーデン男爵はシアに礼を言うと、
「ところで、シア、魔力が多いと体調が悪くなるのか?」
そう質問した。
「魔力の通り道のような場所が体にあるのですが、それが狭いのだと思います。それで出口のない魔力が澱んでいるように見えました」
「でも、私は魔法なんて使えないの。生まれつきこうだったから親が心配して勉強ばかりしていたのよ」
「今なら小さな魔法を出せるはずですよ。手を前に出してください」
そう言いながらシアが差し出されたエリナの手を支える。
「光った……」
「この感覚分かりますか。体の中にある魔力が光になって出ている感覚です」
「ええ、分かります」
「少し体がだるいと思ったら。こうして魔法を使って魔力を出してください。それと、エマとルーナから魔力操作を習って一緒に訓練してください」
「エマとルーナに?」
「はい。夜寝る前にリラックスしてやってください。女性同士の方がリラックスできると思います」
「わかったわ。シア君、ありがとう。エマとルーナもよろしくね」
「エリナさんの魔力はハイエルフのイルマ先生と同じくらいあるのですよ。それがエマに遺伝したのかもしれない……」
そこで、シアは何かに気が付いたように、
「ちょうどいいかもしれないね。エマに魔力循環を教えるよ」
「私に魔力循環を?」
「ああ、俺が母さんとやっていたやつだよ。同じくらいの魔力量で魔力の質が近くないと上手くいかないんだ。でも、エリナさんとエマは親子で魔力の質も近いし、魔力量も同じくらいだからね、丁度いいんだよ」
「それをするとどうなるの、能力が向上するんだっけ?」
「まずはエリナさんの体に一気に魔力が流れるようになる。体の中で魔力が綺麗に流れるから魔力が原因の病気にはならない。それからエマとエリナさんは二人とも一気に魔力量が増えるんだ。おそらく今の五倍から十倍にはなるよ」
「……ハイエルフの五倍から十倍」
「そうだね。うまくいけばイルマ先生を越えるね」
イルマは現在世界で二人しかいないSSS級冒険者である。この間の強化合宿で魔力量が飛躍的に増加し、現在では小型の龍並みの魔力量があった。そのイルマを越えるということは、もはや人類の限界を超えることと同じである。その事実に気が付いたエマは、
「シア、早く教えなさい。教えてくれたら寸劇の上演を三日に一回に減らしてあげるから。早くしなさい」
と、興奮して食いついたのであった。だが、
「エマ、まずはエリナさんがしっかりと魔力操作ができないとダメだよ。そうだね……一か月くらいは魔力操作をやってからだね」
シアのその言葉にガックリとうなだれてしまった。さらに、
「さっきブルースさんが言っていたけど、魔法が得意でもそれだけじゃダメなんだ。魔法で身体強化もできるけど、基礎体力が無いのにそれをすると体が痛むからね。だからイルマ先生は、合宿では皆に身体強化は教えずに、魔力量の増加と魔力操作だけをやったんだよ、しっかりとブルースさんに鍛えてもらおうね」
その言葉に、エマだけではなく、アーサー、ノイマン、アラガンが絶望したのは言うまでもない。
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